題「人魚の嫁入り」15
 翌朝、白は空腹を刺激する匂いで目が覚めた。
「んあ・・・?」
「あ、起きたかい?おはよう白君」
白の顔を覗きこむ京楽に驚く白。
「うわっ!・・・お前昨日の!おい!早く一護に会わせろ!」
寝起きから食ってかかるが、
「まあまあ、それより先に朝ご飯食べようよ。お腹減ってるでしょう?」
といなしていく。
「う・・・」
ここ三日程、何も食べていないに等しい白。京楽の横を見ると膳が用意してあった。
そこには湯気を立てるご飯やみそ汁、玉子焼きに炙ったシシャモ、香の物があった。
「う・・・」
ごく、と生唾を飲み込むと、ぐぅ〜きゅるるる。と腹が鳴った。
「ほらね、それにご飯食べて元気にならないと一護君も心配しちゃうでしょ?」
「ち!分かったよ!」
「良かった。はい」
と膳を渡すと猛然と食べ始めた。
「まだご飯もみそ汁もあるからね〜」
「ん!」
と空になった茶碗を差し出す白。
「はいはい」
ご飯を盛ってやり渡してやる。

 白はお櫃のご飯のほとんどを平らげてしまった。
「よっぽどお腹空いてたんだねぇ・・・」
食後のお茶を飲んでいる白。
「飯食ったぞ!早く・・・!」
一護に会わせろと・・・。
「そんなに急かすもんじゃないよ。それにまだ時間じゃないしね」
「時間?」
「うん。隊首会に君を連れて行って更木君、まあ一護君の旦那さんに会ってから一護君に会うんだけど」
「何だそれ!聞いてねえぞ!」
「言ってないもの。それに君は侵入者なんだ。これが最短で一護君に会える手段なんだよ?分かるかい」
「う・・・。言う事聞いたら、一護に会わせてくれんだな?」
「うん。大丈夫、悪い様にならないさ。さ、その前に髪を整えよう。寝癖が付いちゃってる」
「あ」
京楽は白の長い髪を櫛で梳いていった。絡んでいる所は丁寧に指で解し、痛くないように細心の注意を払っていた。
(なんだか、ここで痛い思いをさせると駄目な気がする・・・)
白の神経は思ったより張り詰めており、ちょっとした事で切れてしまいそうだった。
「はい。綺麗になったよ。あと着物も着替えよう」
「・・・」
ほぼ無抵抗で言う事を聞く白。だがそれは一護に会いたいと思う心がそうさせていた。

 時間になり、出廷の準備を整えた京楽が白を抱き上げた。
「な!何すんだよ!」
「だって君歩けないでしょ?足が痛いんじゃないの」
「だけど・・・こんな!」
「はいはい、目的地に着いたら下ろしてあげるから、我慢してね」
「うう〜!」
唸りながら仕方なく大人しくする白。内心、鼻の下を伸ばしている京楽。

 道中、話す京楽。
「そう言えば一護君もこうやって抱かれながら隊首会に登場したんだよね」
「一護も?」
一護の名前に反応する白。
「そう。剣八さんに良い人が出来たって噂で聞いてさ、会わせてってしつこく言ってたら隊首会に連れてくるようにって総隊長が言ってさぁ。僕って結構しつこいんだよね〜」
「ふうん」
「色々あったみたいだね。一護君言ってたよ、売られても恨んでない。でも男に捨てられた自分が元の海に戻る事も出来ないから愛しい人の元へ来たって」
「何でだよ!なんで戻って来れねえんだ!あいつの故郷で俺も居るのに!」
激昂した白が京楽の胸ぐらに掴みかかった。
「だからだよ」
「え・・・?」
「自分の故郷だから、愛する家族が居る海だから、自分が戻ったと知った北の海の男が報復に来るかも知れないと恐れたのさ」
「・・・藍染・・・ッ!」
ギシリと歯を噛みしめる白の眉間には深い皺が寄っていた。
「陸だったら知らないだろうしね。優しい良い子だね、君のお兄さんは」
「・・・・・・」
「ああ、もう着いたね。後少しだからね」
話しているうちに一番隊に着いた。
(一護、もうすぐ会える。・・・一護・・・!)

 隊首会の行われる部屋に入ると、当然と言うか京楽と白は注目を集めた。
「京楽よ、今から何が行われるのか分かっておるのか?」
と総隊長に言われた。
「分かってるよ。でも大事な事なんだよ。すぐ終わるから先にちょっと良いかい?」
「好きにせい」
呆れて溜息を吐きながらも許した。
「ありがとね。剣八さん、一護君は元気?」
「ああ?テメェに関係ねえだろうがよ」
と凄んでくる剣八に苦笑しながら、
「僕には無いかもね。でもこの子には関係あるんだ」
自分の腕の中の白を見る京楽。
「あん?誰だ、そいつぁ」
「この子は一護君の双子の弟で名前を白と言うんだ」
「弟ぉ?・・・・似てんな・・・」
無言のまま剣八を睨み付ける白。
「・・・一護は元気だよ。ちゃんと飯も食ってるし、走り回ってらぁ」
「ホントか!あいつ、自分の足で走れるのか!?」
「ああ、どうせお前はまだ無理なんだろ?後で京楽と一緒に付いて来い」
と言うとフン!とそっぽ向いた剣八。
「よかった・・・一護、一護・・・京楽、一護に、一護のとこに・・・!」
「うん、でも会議の後になっちゃうんだけど・・・」
「待ってやる。そうしたら一護に会えるんだろ?」
「うん・・・」
そして会議の間中、白はやっと会える片割れに思いを馳せていた。


第16へ続く



12/03/05作 白ちゃんが大人しいのは精神と肉体の衰弱もありますが一護に会いたい一心だからです。





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