題「人魚の嫁入り」14 | |
月がやせ細っていく。夜の闇が濃くなっていく。 そんな夜の川を上って行く白い影があった。海より来たその影は自身が傷つくのも厭わず川上を目指していく。 「くそっ!これ以上泳げねえ! ザバッと水から出てきたのは白い、一護の片割れの人魚・白だった。 月の光を受け、薄らと虹色に光る鱗と破れた尾鰭は乾くにつれヒトの足と同じになっていく。 まだ一度も土を踏んだ事の無い、白いその足で歩く。激痛に見舞われようと一護を求め、歩みを止めなかった。 「一護、一護・・・、どこに居る?お前は今どこに居るんだ・・・」 愛しい半身を求め、彷徨い歩く白。 双子ゆえか、知らず知らずに護廷へと近づいていく白。 白い着物を一枚着ただけの白。ふと足を見ると血だらけだった。 石を踏み、木の枝を踏みぬき、傷だらけになって、爪も剥がれていた。赤く血に染まり、熱を持った爪先。 「くっそ!まだ一護を見つけてもいねえのに・・・!」 足の傷から菌が入ったのか、身体中が熱い。 「ああ、くそ・・・水に入りてぇなぁ・・・」 浅い呼吸を繰り返し、目を閉じていると何かが近づいてくる気配を感じ取った白。 ガサガサ 目の前の茂みが揺れ動き、ひょっこりと顔を出したのは黒い着物を着た男のようだった。 「え〜と、地図じゃぁこの辺なんだけどなぁ」 と手元の紙を見ながら歩き白の存在には気付いていない。 「ん?わぁっ!」 漸く気付いたかと思うと叫び声を上げて勝手にこけた。 (なんだ、こいつ・・・) 訝しげに見ていると白の足先の怪我に気付いた。 「わあ!酷い怪我!大丈夫ですか!?」 「コレが無事に見えんならとっとと消えな」 「ああ、すいません!痛いですよね。あの、僕少しなら薬を持ってますから・・・」 男は背中に背負っている荷物入れから、薬と包帯を取り出した。 「・・・・・・・」 「ジッとしてくださいね」 と傷の消毒と薬を塗布し、丁寧に包帯を巻いていった。 正直、人間になど触られたくなかったが、傷が痛いのも事実。 「僕、山田花太郎って言います。薬草を探しに来たんですけど道に迷っちゃって・・・」 聞いても居ないのに話し始める。 「お水飲みますか?」 と竹の水筒を差し出された。それを勢い良く奪い、喉を鳴らせて全て飲み干した。 「わあ、喉が渇いてたんですねぇ」 ふっ、と懐かしい匂いが白の鼻を掠めた。 (一護の匂いだ!) 「おい、お前どこから来た?」 「え?瀞霊廷って言う所ですよ。僕一応死神なんです、弱いけど・・・」 「・・・最近、海から誰か来なかったか・・・」 「最近・・・?ああ!一護さんの事ですか?」 一護の名前が出た途端、包帯を切った鋏を奪い取り、花太郎の首に押し付ける。 「わぁああ!な、何するんですかぁ!」 「お前の住んでる所に案内しろ、まだ死にたくねえだろ?大人しく言う事聞きな」 白く長い髪を掻きあげ、不敵に笑う。 泣きそうになりながら瀞霊廷に案内する花太郎。 瀞霊廷の門前まで来ると、 「でもあそこは侵入者に厳しいですよ?」 と言う花太郎に、 「入る前に気配殺せば済む話だろうが。良いか、この事誰にも言うんじゃねえぞ。俺の為でもあるし、お前の為でもある。分かるよなぁ?」 首筋に冷たい物が当たる。 「俺は見つかれば消される。お前は侵入者を引き入れたって消される。お互いの安全の為だ。分かったな!」 睨みつけて脅すと縮こまって怯える花太郎。 「ひいっ!」 門番を何とかやり過ごし、瀞霊廷の中に入ると、 「ありがとよ」 と言い残し消えた白。 「何だったんだろ、怖かったぁ・・・」 律儀に約束を守り誰にも白の事を話さなかった花太郎だった。 包帯の巻かれた足を引きずり、護廷の中を隠れながら一護を探す白。 夜になり、まだ完治していない足の傷が開き、包帯を赤く染めていく。 「くそ・・・!水に入りゃ大分回復するってのに!・・・ん?」 水の匂いだ。あたりを見回すと大きな池があり、そこには何やら建物もあった。 「水だ!ああ、助かった!」 帯を解き、着物を脱いで池の水の中へと飛び込んだ。爪先に巻かれていた包帯は人魚の姿になった際、破れて散り散りになった。 『ああ、綺麗な水だ・・・。これならすぐに治る・・・』 久し振りの水の中を堪能した。 「ん?」 その時雨乾堂に居たのは浮竹と京楽だった。 「どうしたんだい、浮竹」 「いや、今池から何か聞こえたと思ったんだが・・・?」 「鯉でも跳ねたんじゃないの?それよりさ最近一護君見ないねぇ」 「ああ、そう言えば。剣八が外に出さないんじゃないか?まだ暑いしな」 「随分大事にしてるねぇ」 「あの更木がなぁ」 と話をしながら酒を飲んでいた。 パシャン!といつもより大きな水音がしたので池の様子を見ると、見慣れない魚影が目の端を掠めた。 「ん?また何か増えたのかな?」 と良く見ようと池の中を覗き込むと、バシャン!と水を掛けられた。 「わっぷ!」 驚いて見てみるとしかめっ面をした少年がこちらを睨んでいた。 「えーと・・・お饅頭、食べるかい?」 といつもの癖でお菓子を差し出す浮竹。 「!?」 「大丈夫だよ、何もしないから・・・。もしかして君も人魚なのかい?」 「君も、だと?」 「うん、今ねぇ にこにこと話す浮竹に、白は思わず腕を伸ばし着物を端を引っ張った。 「名前は!?そいつの名前はなんて言う!?」 「うわ!一護君、一護君て言うんだけど、知り合いかい?」 「一護・・・!無事か!あいつは!」 「うん、元気だよ。更木と一緒に良く歩いてるのを見るよ」 「更木?誰だ、そいつは!」 「うん?一護君の旦那様だよ」 「なん、だと・・・!」 「浮竹〜、誰と話してるんだい?」 そこへのっそりと奥から京楽が顔を出した。 「!!」 「おお、京楽か。どうやら一護君の・・・あれ?」 京楽が白を凝視しているのに気付いた浮竹。 「おい?京楽、お前どうしたんだ?」 水面の微かな月光を反射する白く美しい肌。濡れた肌に張りつく絹の様な髪。そして何よりその目に惹かれた。 「あ!ああ、いや、なんでも・・・」 あまりにもジロジロと見られるものだから白は水の中に潜ってしまった。 「あっ!」 異口同音に声を上げると名残惜しそうに水面を見ている浮竹に、 「今のは?」 と訊く京楽。 「恐らく一護君の兄弟じゃないかな?そっくりだったからね」 饅頭の乗った皿を縁側に置いたままにし、部屋に入る様に京楽を促す。 「そう言えば、3人だけ残ったって言ってたね、一護君」 「そうだな、きっと会いに来たんだろうな。一護君も喜ぶだろうね」 兄弟の多い浮竹がのんびりそんな事を言う。 「じゃあ、教えてあげれば良いんじゃない?」 「居場所をか?」 「そうさ」 と縁側に出ると饅頭の乗った皿が空になっていた。 「おやま」 「ああ、気に入ってくれたのかな?あのお饅頭一護君も好きなんだ」 浮竹がそう言っていた。 「へえ・・・、ねえ、君!一護君の身内だろう?出ておいでよ」 バシャンッ!と水を掛けられた京楽。 「はは!お前も掛けられたか」 「笑う事ないじゃないさ。獲って喰おうって訳じゃないよ?一護君の居場所教えてあげるからさ、出ておいでよ」 池を覗きこみながら白に向かって語り続ける京楽。 「嘘じゃねえだろうな・・・」 ちゃぷん、と姿を現した白に嬉しそうに笑う京楽。 「やあ!やっと出て来てくれたね。・・・ん?」 白の尾鰭が傷付いているのに気付いた京楽が白の腕を掴んで引きあげる。 「なっ!何しやがる!」 「ひどい怪我をしてるじゃないか!」 「うっせぇ!触んじゃねえ!人間!尻子玉引っこ抜くぞ!」 バタバタと暴れる白を胡坐に納める京楽。 「じっとしてなさい!今治してあげるから・・・」 と武骨な手を傷に翳すと鬼道で治療していく。 ふわり、と温かくなったと思ったら傷が塞がっていた。 「治った・・・」 ひろひろと尾びれを動かして確かめる白。 「もう痛くないでしょ?僕は京楽春水。君は?」 「・・・白」 「白君か!白君は一護君の兄弟なのかい?」 白を胡坐に納めたまま話をしている。 「一護は俺の双子の兄だ。北の海の藍染の所に輿入れしたはずなのに、何でココに居るんだ?」 「ああ、一護君が言うには捨てられたそうだよ。恋人が居たからって」 「恋人だぁ?!誰だ!そいつ!」 「だから、今の旦那様でしょ。海からココまで会いに来たって言ってたからねぇ」 話している内に白の身体が乾いて来て、下半身が人間のそれと同じになった。 「おや・・・」 それに気付いた京楽が羽織っていた着物を掛けてやった。 「今日はもう遅いから、明日になったら一護君に合わせてあげる。僕の家でお休みよ」 「京楽?」 白を抱き上げると、 「じゃあね、また明日、浮竹」 と雨乾堂を後にした。 「やられた!あいつ白君に惚れたな!」 全く惚れっぽい奴だと笑いながら、明日、一護は喜ぶだろうなぁと思うと少し嬉しかった浮竹。 京楽邸に着くと寝室に白を抱いていく。 「離せよ!いい加減下ろせ!」 「はいはい。すぐに蒲団敷くからね」 蒲団を敷くとその上に白を乗せた。 「今夜はここで寝ると良いよ。明日の朝、一護君に会わせてあげるからね」 「・・・嘘じゃねえだろうな」 警戒心丸出しで睨んでくる白に苦笑しながら、 「これでも一護君とは結構仲良いんだよ?」 「騙したら尻子玉引っこ抜いてやるからな・・・」 「幾らでも。それより君も疲れてるでしょ?ゆっくりおやすみ」 目の前に手を翳すと白はぱたりと倒れた。鬼道の応用で気絶させたのだ。 「おやすみ、また明日」 そう呟くと京楽は部屋から出ていった。 第15話へ続く 12/03/03作 漸く白ちゃんが護廷に着きました!そして京楽さんの一目惚れ。 |
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