題「人魚の嫁入り」12
 隊首会に一護を連れて行く事になった。
隊首会の開かれる一番隊の部屋では隊長・副隊長が集まっていた。
「どんな子かな〜?」
と楽しそうなのは京楽隊長。
「早く見たいですね!隊長!」
「お前が興味あるだけだろ、松本」
等と話していると扉が開いた。

其処には剣八と姫抱きにされた一護が居た。中をきょろきょろ見ていると知った顔を見つけた。
「あ、卯ノ花さんと勇音さんだ」
小さく手を振るとにっこりと会釈をしてくれた。
「ねえ、俺なんでここに呼ばれたの?」
不躾にじろじろ見られて居心地が悪い一護は剣八の首にギュッと抱き付いた。
「ほれ一護、自己紹介しとけ」
「え、んーと。俺の名前は一護だよ。剣八のお嫁さんです。これで良い?」
「ああ、上等だ」
「ちょっと待ってよ、剣八さん。その子は・・・」
「男だよ」
それがどうしたと言わんばかりの剣八。きょとんと小首を傾げる一護。
「やぁ〜ん!かわいい〜!こんにちは!あたしの名前は松本乱菊って言うのよ。よろしくね、一護」
「うん・・・。男がお嫁さんってやっぱり変なの?」
と剣八を見上げる一護。
「いやまぁ、普通は女の子を指すからねぇ」
「でも俺剣八に処女を捧げたから・・・!黄金の真珠も剣八だから出来たんだ。俺には剣八しか居ないし・・・俺、俺・・・!」
半ば泣いてしまった一護を見て剣八が京楽隊長を睨みつけた。その間に入った乱菊。
「良い子ね、一護。変じゃないわよ。好きな者同士が一緒に居るんだもの!おかしくないわ」
「ありがとう・・・。お姉さんおっぱい大きいね。ハリベルみたい」
懐かしむ様に目を細める一護。
「あらありがと!ハリベルってだぁれ?」
「俺を藍染に売った人。でも恨んでないよ」
「どうして・・・?」
「だって藍染は北の海の支配者だもん。同じ海の支配者でも俺達南の海の住人はそんなに強くないから・・・。皆を護る為には仕方なかったんだよ・・・。ハリベルは親の居なくなった俺達を引き取って育ててくれた。感謝してるんだ」
「海の住人って一護、あんた何者なの?」
「俺?俺は人魚だよ。もう残り少なくなったけどね」
「えー!ホントに?じゃあ人魚姫なのね!」
「雄だけどね。俺を含めて3人しかいないよ」
「へえ。どうしてそんなに少ないのかしら?」
「人間に捕られて減っちゃった。俺達の母さんも・・・」
「そう・・・」
「人魚の肉は不老長寿に薬だって・・・、俺達の寿命が長いからそんな噂が伝説になっちゃった。人間だって一匹の魚を食べる度に鱗が一枚生える訳じゃないのにね」
「そうね・・・」
いつの間にか一護と剣八の周りには女性死神ばかりが集まっていた。
「どこで更木隊長と知り合ったんですか?」
と訊かれた。
「剣八が俺の住んでた海に出た怪物を退治してくれた時だよ。ね?」
「ああ」
「其処で仲良くなって色んなお話してくれたの。俺の言ったことのない山とか森のお話とか、剣八が暮らしてるここのお話とか」
「へえ〜」
「ねぇ、一護はどうして、その、売られたのかしら?」
「言葉がアレだったけど、最初藍染が俺に求婚して来たんだ。藍染も男だよ。俺は会った事が無いから嫌だって何度も言ったけど、どんどん話が進んでって・・・。結局婚姻する事になったんだ。でも俺は剣八の事が好きだったから、すごく嫌で・・・」
ギュッと剣八の羽織を握り締める一護。
「そんで、剣八に抱いてくれるように頼んだんだ。嫌じゃないならって・・・」
ポッと頬を染める一護。
「そんで初めての時に流した涙が真珠になったんだ。これはお互いが好きじゃないと出来ないから、すごく嬉しかった・・・!」
剣八が一護の頭を撫でた。
「その後、輿入れしたんだけど、藍染は別に俺が好きで求婚したんじゃなかったんだ」
「どういう事?」
「俺の真珠が欲しかったんだ。俺が初モノじゃないって分かったらアイツ、俺を石の牢に閉じ込めたんだ。それまでは甘い事言ってたくせに、贈り物だって要らないって言っても金銀、珊瑚に水晶とか持ってきたクセに、牢に閉じ込めてご飯なんか一日一個のパンと水だけだった」
「酷い・・・!」
「どうせ出してくれないし、俺に出来る事って歌う事しか残されて無かったから、ずっと歌ってたんだ。剣八に届きますようにって、ずっとずっと剣八の事想ってた・・・。でも声も嗄れて出なくなったらアイツは俺を捨てた。ゴミみたいに捨てたんだ。だから川を上ってここに来た。元の海には帰れない。俺が帰ったら皆が報復されるかも知れない」
「お前はずっとここに居りゃぁ良いんだよ」
「剣八・・・、うん、居させてね」
最後に七緒が甘い空気に押されもせず、
「どうして更木隊長に抱かれたままなのですか?」
と訊くと一護が、
「俺、歩いた事ないんだ。海じゃ足は鰭だったし、歩くとまだ痛いんだ。だからだよ」
と答え、散々質問攻めにされ、やや疲れたのか欠伸をした。
「疲れたか?」
「ん・・・、こんなに喋ったの久し振りだから・・・」
「そうか。おい、じいさん。もう帰るぜ」
と言うと返事も聞かずさっさと隊舎へと帰った剣八。
残されたメンツは、
「可愛い子ですね〜!」
「純愛じゃないですかぁ!しかも更木隊長が!意外だわ〜!」
「あんな子が待ってくれてるんじゃ、ちゃんと仕事もするよね」
「早く歩けるようにならないかしら。そしたら色な所に連れてってあげるのに!」
「新しく出来た甘味処がどうですか?」
「良いわね!良いわね!」
と女性陣中心に盛り上がっていた。

一護を皆に紹介してから数日後。十一番隊にはやたらと人が来るようになった。
目当ては一護を見る為だ。
それを嫌がって一護は部屋から出て来ないし、二人きりになる時間が減った剣八の機嫌も悪い。
たまに出て来たと思ったら隊首室に二人で籠って出て来ない。入れるのはやちるだけだ。
「ちょっとやちる〜。最近の一護はどうなのよ〜」
「いっちーは元気だけど剣ちゃんのご機嫌が悪いよ。いっつも誰かが邪魔しにくるんだもん」
「そんなに見に来るの?」
「うん、だからいっちー歩く練習もあんまり出来ないってしょんぼりしてた。早く剣ちゃんと歩きたいのにって」
「じゃあ、やちるあんた一護を秘密基地に連れて来なさいよ。あんたなら軽いもんでしょ?」
「秘密基地で練習するの?」
「そっよ!あそこなら邪魔も入らないし、勇音も居るから安全じゃないかしら?」
と言う事で一護は秘密基地で歩く練習をする事になった。(剣八は渋々承知)
努力の甲斐あって、一護は走る事はさすがにまだ出来ないが普通に歩く事なら出来る様になった。
「いっちー歩ける様になって良かったね!」
「うん!やちるや皆のおかげだよ。ありがとうね」
朽木邸の池の畔に二人で座って池の鯉を見ながら話していた。
「ねぇ、いっちーって本当に人魚なの?」
「ん?そうだよ。どうして?」
「だってあたしたち、いっちーの人魚姿って見たことないんだもん。いっちーの足はあたし達と一緒だし」
「ホントに人魚だよ。見ててね!」
と言うや否や、一護は着ていた物を全て脱ぐと池の中に飛び込んだ。
「いっちー!」
「ほら!嘘じゃないでしょう?」
パシャン!と水面を打ったのは鮮やかなオレンジ色の尾ひれだった。
「わぁ!いっちー、きれーい!」
「そう?えへへ、嬉しいな。このお池も綺麗ね。気持ちいい!」
そう言うと一護は水に潜り、泳ぎ回った。

パシャンッ!と飛び跳ねると空中で弧を描き、着水した。

キャッキャッと二人ではしゃいでいると、白哉が帰って来た。
「何をしている。草鹿」
「あ、びゃっくんだ!あのね今ね、いっちーが泳いでるの!すっごく綺麗なんだよ!」
「泳ぐ?ここでか?」
不審に思い、池の中を覗くをキラリと光る何かが居た。
「ぷはぁッ!あ、この間居た人だ」
「・・・何をしている?」
「泳いでる。気持ち良いね、この池。気に入っちゃった!」
「早く出よ・・・」
「出ても良いけど・・・」
ザバァ!と岸に上がった一護の下半身は魚で、下肢がむき出しだった。
「な・・・!良い!水に入っておれ!更木を呼ぶ!」
「自分で言ったクセに〜」
ちゃぷん、と水に戻る一護。
「ね〜」
とやちると話していると白哉に呼び出された剣八がすっ飛んで来た。
「一護!」
「あ、剣八だ、おーい!」
「なんて格好してやがる!どこで泳いでんだ!」
「だぁって、やちるが俺の事人魚なのって聞いて来たし、それに暑かったし」
「もう良いだろ。帰るぞ」
「はぁーい」
剣八は一護を羽織に包むと、
「邪魔したな」
と白哉に言って屋敷を後にした。

「良いか一護。泳ぎたくなったら俺に言え。川でもなんでも連れてってやる」
「ん〜?良いの?」
「ああ」
「分かった。ねえ剣八、俺ねちょっとは歩けるようになったんだ。足乾いたら一緒に歩こ?」
「ああ」
この日初めて二人きりで歩き、近くの甘味処でお茶をした一護。
初めて食べる白玉あんみつに感動していた。
翌日、一人で散歩している一護。
午後の一番暑い日差しの中、雨乾堂の池を見つけた一護。
「あ・・・、お水・・・暑い、水、みず・・・でも約束・・・」
しばし逡巡していたが、青く澄んだ冷たい水の誘惑には勝てなかった。

どっぽーん!

『ふわぁ!冷た〜い!気持ちいい・・・』
身体を撫でる冷たい水の感触にうっとりする一護。水底から空を見上げるとキラキラと青白い光が池の中を照らしていた。
大きな黄金色の鯉が周りに集まり一緒に泳ぐ。
『あれぇ?秘密基地のあった家の池にも居た様な・・・』
パシャパシャと一頻り遊んでいると声を掛けられた。
「そんな所で遊んでいるのは誰だい?」
「あ・・・」
「おや、君は確か剣八のお嫁さんじゃないか。確か一護君だっけ?」
「うん、おじさんだあれ?」
「おじさんかぁ。君から見たらもうおじさんなんだねぇ。俺は浮竹十四朗、ここに住んでるんだ」
「へえー」
「一護君、お腹減ってないかい?お菓子食べる?」
「お菓子・・・」
す〜い、と近づくと饅頭を差し出された。
「ありがとう」
と受け取り、あむ!と頬張った。
「甘ぁい!それに柔らかい!美味しいねぇ」
と気に入ったようだ。
「良ければまだあるからね」
「うん!」
もぐもぐ食べていると、
「一護ぉッ!」
と物凄い怒鳴り声が聞こえた。
「んぐっ!けほ!あ、剣八・・・」
見るからに怒っている。
「こっち来い、一護」
「はぁい・・・」
岸に辿り着くと剣八に引き上げられた。
「昨日言った筈だぞ、一護。泳ぎたくなったら俺に言えってよ」
「う・・・、はい・・・」
「約束破る子には、お仕置きだな」
「ふぇえ?」
「泣いても気絶しても許してやんねぇ」
羽織に包まれ、肩に担がれた一護は十一番隊隊舎までお持ち帰りされた。


第13話へ続く



11/10/08作 皆に紹介された一護。歩くお稽古と初デート。すぐ水に入っちゃうのが剣八の悩みの種の様ですね。
お仕置きは次に持ち越しです!




文章倉庫へ戻る