題「人魚の嫁入り」
 尸魂界にも海はある。流魂街の南の果てに存在するそこに最近虚が現れると言う。
瀞霊廷の食糧などの供給もしている関係で討伐隊が組まれたが、よほど強いのか壊滅状態であった。
そして白羽の矢が立ったのは十一番隊である。
剣八とやちる、そして一角と弓親の精英で討伐に当たった。

その頃の海では・・・。
「最近変な化物が出るな」
「迷惑してんだよな〜」
「あれには近づくなよ?一護。お前は大事な身だ」
「ハリベル・・・」
「また使いの者が来ているぞ」
「え〜、会いたくないよ。めんどくさい・・・」
「そう言うな。アレも仕事だ」
「ちぇ」

此処の海には人魚と呼ばれる者達が住んでいる。無論、人間に見つからないように暮らしている。

「人魚の肉は万病の薬になる」

などと言う馬鹿な言い伝えの為に何人もの仲間が殺されて久しい。
そんな事などあり得ないのに・・・。
一護の母も捕らわれた。自分を助ける為に・・・。だから人間には近づくなときつく言われている。
だが一護は好奇心旺盛な子供だ。気になれば何にでも近づいてしまう。
そして年頃になってきたという事で何故か男なのに、男から求婚されている。

北の海に住んでいると言う藍染と言う男らしい。一護は会った事など一度もない。
なのに、使いの者がやって来ては、貢物である宝石など与えて行く。
何度要らない、迷惑だと断っても同じことだった。
使いの者、ウルキオラと言う男に会えば手紙を渡された。
(めんど・・・)
「最近は如何お過ごしでしょうか、一護様」
「様って止めてくんない?変わりないよ、あんたの主人からの便りが無くなったらもっと良い」
「そうですか。お元気なようで何よりです。俺の仕事は終わりましたので、失礼いたします」
「あそ、あんたも御苦労さんだよな。こんな所までさ」
「お気づかい、ありがとうございます」
と帰っていく。
「何がしたいんだか・・・」
ぴらぴらと書簡を振って、読みもせずにハリベルに渡す。
「きちんと読まないか」
「キョーミないんだもん。ハリベル読んで感想聞かせてよ」
「仕方のない奴だ・・・」
それだけ言うと一護は散歩に出掛けた。

広い海を好きなように泳ぐ。気の合う仲間とお喋りしては夕暮れ時には塒へと帰るのが日課だった。
「あ、舟だ」
珍しい事もあるんだな。この辺には来なかったのに、と思って水面から少しだけ覗く。
舟には、4人ほど乗っていた。
大柄な変な頭の男に、桃色の髪をした子供。髪のない男に、男か女か分からない顔の人間。
「何やってんだろ・・・?」
「出ませんね〜。虚のヤツ」
「ああ・・・、もう今日は帰るぞ」
「了解!」
そんな会話が聞こえてくる。
「虚って何だろ。どこ行くのかな、あいつら」
と舟の後を付いていく。

砂浜に舟を置くとその近くの宿屋へ帰る一行。
「一週間で終わりますかねぇ?」
「弱きゃすぐに終わるだろ。せいぜい楽しませてくれるのを期待すんゼ」

「・・・ふ〜ん、面白そう」

夜更けにふと、目が覚めた剣八。海から歌声が聞こえて来た。綺麗なその歌声が気になり散歩に出ると岩に座って歌う人影を見つけた。
「誰だ?そこに居るなぁ?」
提灯の灯りを向けると、ビックリしたように振り向く人影。その髪はオレンジ色をしていた。
「・・・にんげん」
と呟くと身を翻し、海に帰る一護。
「・・・なんだ、ありゃ」
一瞬だけだったが灯りに照らされた下半身は魚であった。

翌日も任務で舟に乗り、沖に出る剣八一行。
「今日も出ませんかね〜?」
「日に焼けたくないなぁ」
「剣ちゃん!お魚取って!」
「うるせえなぁ」
と言っていると海から巨大な虚が現れた。
久々の大物に歓喜する剣八は、
「アレの相手は俺がする!テメエら邪魔すんじゃねえぞ!」
と戦う。
「イエ〜!行っけぇ〜!剣ちゃん!」

戦っている間に舟から離れ、岩場で戦う剣八。
「楽しそうだねぇ、隊長」
「俺も楽しみたかったぜ」
どんどん舟から離れ、虚の身体の上で戦う剣八。虚にとどめを指すと同時に海へと真っ逆さまに落ちた。
「ちッ!足場の事考えてなかったぜ・・・」
と呟きながら水の中へと沈んでいった。

「隊長〜!」
「虚は倒したんだから生きてるはずだよね」
「大丈夫だよ!」
と舟で剣八を探す3人。

海に沈んだ剣八は海面に見える太陽を見ながら、
(そういやぁ、こないだの奴は夕焼けの色だったな・・・)
と思い出していると何かが物凄いスピードで迫ってきた。
(なんだ・・・?)
目の端に捉えたのは夕焼けの色。
次の瞬間には視界を遮るほどのスピードでどこかへ運ばれた。

「・・・起きろよ、死んでねえだろ?」
ピタピタと冷たい手で頬を叩かれる感触。
「息してねぇのか?」
と聞こえた次の瞬間、冷たい物が自分の唇を覆った。
「ん、む、っぱぁ!はあ!はあ!げほ!」
「あ、起きた」
「なんだ、てめ・・!」
自分の横に居たのは上半身が裸の少年、夕焼けの色の髪・・・。そして・・・その下半身は魚だった。
「生きてるんなら早く帰れよ、人間」
良く良く見れば自分は昨日の岩場に乗せられていた。
「お前が助けたのか?」
「まあな、ヒトの庭で勝手に死ぬな。フカの餌になるぞ」
「お前、・・・なんだ?」
「人魚、見たまんまだろ」
ぴたん、ぴたんと尾ヒレで水面を叩く。その下半身を覆う鱗もまた夕焼けのように鮮やかなオレンジだった。
「へえ、初めて見たぜ」
「そらそうだ。俺だってこんな近くで人間見たの初めてだ」
マジマジと剣八を見る一護。
「お前名前あんのか?」
「あるよ。一護。お前は?」
「俺は剣八、更木剣八だ」
剣八は一護の顔から尾ヒレまでマジマジと見た。
「ん?」
腕に隠れて見えなかったが身体の中心には男性器があった。よくよく見れば鱗は太股の辺りから足を覆っており、尻や一護自身は剥きだしだった。
「なんだよ?ヒトの体じーっと見て」
剣八の目の前で手を振る一護の腕にも鱗はあった。掌には水かきもあった。腕を掴むと、
「熱い!離せ!」
「ワリィ。熱いか?」
「すげー熱い、焼けるかと思った。お前の体、火山のマグマみたいだな」
「火山なんか見たことあんのかよ。人魚だろ」
「海にも火山あるぜ。海底火山」
「ふうん」
「なぁなぁ、人間って皆そんなウニみたいな頭してんのか?とげの先に何付いてんだ?」
「ああ?ちげえよ、こりゃ戦いを楽しむためだ。先に付いてんのは鈴だ」
「すず?これ?」
触るとチリチリと音が鳴った。
「変わった音だ。可愛い」
そんな話をしていると遠くの方から、一角達の声が聞こえて来た。
「隊長〜!」
「あ、やば!また色々聞かせてくれな、剣八!」
と急いで海に帰っていった一護。
「何だ、アイツ。おかしなガキだな」
と触られた鈴に触れた。


第2話へ続く




11/02/26作 162作目。人魚一護です!求婚者は藍染氏でした。クラーケン的な何かだと思って下さい。
剣一至上主義(?)なので彼の扱いは良くないです。



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