題「結晶」8 | |
昼食も済み昼休みになった頃、一護が何か思い付いた様に、 「あ」 と呟いた。 「なんだ、どうした?一護」 「ん〜・・・。ちょっと買い物行ってくる」 「一人で行けるのか?」 「ん。一応卯ノ花さんか乱菊さんの所寄るから大丈夫だよ」 「気を付けて行けよ」 「おう。じゃ、行ってくるな」 「早く帰れよ」 「なるべくそうするよ」 と出掛けて行った。 隊舎を出て隣りの隊舎に寄った。 「一護!一人なの?珍しいわね?」 「乱菊さん。頼みがあるんですけど・・・」 「なあに?」 「え〜と・・・。あの、赤ちゃんのおくるみなんですけど・・・」 「どうかしたの?」 「その、自分で編んで作りたいなって、思って・・・。作り方教えてくれませんか?」 「なるほどね。良いわよ、じゃ今から毛糸買いに行きましょ」 「すいません、助かります」 二人連れだって買い物へ行った。 手芸屋。 「うわぁ。色々あるんですね〜」 「赤ちゃん用ならあんまり刺激にならない方がいいわよね。これなんか良さそうじゃない?柔らかいわよ」 差し出された毛糸は細い糸が何本か寄り集まって手触りも良かった。 「気持ち良いですね・・・。じゃあ、これの薄い黄色が欲しいな・・・」 「ひよこ色?可愛いわね」 「その色だと男でも女でも良いでしょ?優しい色だし」 「そうね。5玉もあれば良いんじゃない?後は編み針と・・・、かぎ針でいい?」 「よく分かんないんで・・・」 「そうね、じゃ、かぎ針で」 毛糸と編み針、他に必要な小物を少し買った。 「ありがとう乱菊さん」 「何言ってんの〜。これから編み方も教えるんだから、うちの隊舎に行くわよ」 「あ、はい」 行く道すがら話をした。 「で、身体の調子はどうなのよ?」 「ん〜、まだ悪阻も無いし、食欲もあるし、順調ですよ」 「そう!よかったわね」 十番隊隊舎。 「ただいま帰りました!」 「どこ行ってた!松本ぉ!」 「おーす、冬獅朗!邪魔するぞ」 「黒崎?なんだ?何かあったのか?」 「違う違う。乱菊さんに編み物を教えてもらうんだ。仕事の邪魔してごめんな?」 「・・・いや、まあ・・・。ちゃんと教えろよ、松本」 「了解!さ、一護、ここにお座んなさい」 ぽんぽんと自分の横のソファを示す。 「じゃ、お願いします」 「はいはい、よろしくね」 本棚から一冊の本を持ってきた乱菊がペラペラとページをめくり、 「ああ!あった!あった!」 と一護に見せる。 「ここがおくるみのページね。どれが良い?」 「わあ、結構あるんですねぇ」 と目をキラキラさせて選んでいる。 「あ、これ可愛い」 「ん?ああ、これなら初心者でも出来るわ。これにする?」 「はい」 と本と乱菊に編み方を教えてもらう。 「1、2、3、・・・・・」 10目編んだら印を付けていく。 「そうそう、針の先で編むと固くなっちゃうからね・・・で今度は糸の継ぎ足しね」 「ん・・・」 一生懸命編んでいる一護。黙々と網目を数えながら編む一護に乱菊が質問をした。 「ねぇ、一護。更木隊長とはどうなの?」 「んー?別にいつもと一緒ですよ・・・8、9、10・・・」 遠くの方でお茶を噴き出した冬獅朗。 「あら、仲がいいのね。でも気をつけなさいよ〜、一護。妊娠初期に旦那が浮気するのってよくある事なんだから」 ピタッと一護の手が止まった。 「うわき・・・?」 「そ!エッチ出来ないじゃない?それでふらふら〜っとね。あ・・」 一護は呆然と乱菊を見ている。 「ああ!ごめん!そう言うつもりじゃないの!あたしが言いたかったのは本番が出来なくてもエッチは出来るわよってことで」 「ほ、ほんとに・・・?」 「そう!聞きたい?」 んふふ、と笑う乱菊。 「ん・・・、と」 恥ずかしそうに俯いてしまった一護に、 「良いのよ、好きな人と肌を合わせる事は恥ずかしい事じゃないわ。ましてや夫婦なんだもの。ね?」 「う、うん。教えて、欲しい・・・」 「いい子ね、じゃ、まずは・・・」 とひそひそと耳打ちする乱菊。 「やったことあるでしょ?それを一護からしてあげるのよ。それからね」 色々説明されていくうちに一護の顔は真っ赤に染まっていった。 「後は今言ったのをこの冊子にまとめてあるから、それとコレ!」 「?なにこれ・・・?」 「ローションよ。必要な物だからね。頑張るのよ一護。更木隊長も絶対喜ぶからね!」 「う、うん!」 毛糸や乱菊に貰ったとても人には見せられないモノを抱えて十一番隊に帰って来た一護。 部屋に戻ると乱菊に貰った『愛のテクニック!』と題されたお手製の冊子を読む一護。 「ディ、ディープスロート?いつものとどう違うんだ・・・?の、喉で?」 どんどん本の内容にのめり込んでいく一護。 「え、えと、素股?あ、これにローション使うんだ・・・」 ドキドキしながら読んでいると急に障子が開けられた。 「うわあ!!」 慌てて本を毛糸が入っている袋に隠す一護。 「なんてぇ声出しやがる。帰ってんなら帰ってるって言いやがれ」 「ご、ごめん・・・」 「何持ってんだ、それ」 「け、毛糸・・・」 「毛糸だぁ?この暑いのにか?」 「ん、赤ちゃんのおくるみ編もうかと思って・・・」 「そうか・・・」 くしゃくしゃと一護の頭を撫でる剣八が隣に座った。 「ちょ、ちょっとは編めたんだ、ほら・・・」 「ほんとにちょっとだな。いつになったら出来上がるんだ?」 「分かんねぇよ。とりあえず毛糸玉は5個あるから・・・頑張る」 「ああ、無理だけはするなよ」 「うん」 夕飯の時間まで一護は隊首室で仕事をする剣八の膝の上で編み物に勤しんだ。 「8、9、10。よっと、1、2、3・・・」 「可愛いねぇ・・・」 「健気っつーかな・・・」 そして何事も無く一週間が過ぎた。元気な一護に比べ何やら窶れて見える剣八。 「大丈夫っすか?隊長・・・」 「あ”〜、やりてぇ・・・」 と呟いた。 「ちょ!隊長!」 「んだよ。考えてもみろ、一護が横に居んのにただ寝てるだけだぞ!?熟睡出来るかよ!」 大きな溜息を吐いて項垂れる剣八。 「で、その一護君は?」 「定期健診に行ってるよ・・・」 「そうですか。ま!安定期までの辛抱ですよ!」 と励ます弓親。なにか考えている一角。 四番隊。 「はい、お疲れ様です。順調のようですね」 「良かった」 「ただ、もうすぐ悪阻になってもおかしくないですからね。食べられるうちにたくさん食べるのも良いですね」 「あ、あの、卯ノ花さん。聞きたい事が、あるんですけど・・・」 「何ですか?」 「そ、その!剣八との、その・・・!」 「夜の営みですか?」 「あの!その!乱菊さんにこう言うの教えてもらったんですけど!どこまでなら行っても良いんでしょうか!」 「あらまあ・・・!そうですわね・・・。確かに本番は危険ですからね。・・・指くらいなら大丈夫でしょう。あまり激しくならない様に気を付けてくださいね?」 「う、あ、は、はい!」 顔を真っ赤にして返事する一護。 隊舎に帰る一護。 「あ、剣八!」 「おう、帰ったか。どうだった」 「うん!順調だって!・・・どっか行くのか?」 一角や他の隊士と出掛けるのか私服の着流しを着ている。 「いや・・・」 「?あ、あのな剣八・・・、今日な・・・」 「あれ隊長、遊廓に行くんじゃなかったんですか?」 と冷ややかな声が聞こえた。 「ゲッ!弓親・・・!」 氷の様な冷たい視線をした弓親が後ろに居た。 「遊廓・・・?」 「酒飲むだけだ・・・」 「どうだか・・・!大体身重の一護君一人置いて飲みに行くって言うのも考え物ですよ!」 ぷりぷり怒っている。 「剣八?・・・遊廓行く、のか・・・?」 縋る様に剣八の着物の袖を摘まむ一護。 「一護・・・」 「・・・だ・・・」 「あん?」 「やだ!行くな!行っちゃやだ!」 グイグイ袖を引っ張って泣いて怒る一護。 「俺のせいか?!最近ヤッてないからか?!なぁ!」 「落ち着け、一護。どこにも行かねえから!」 「嘘だ!嘘だ!だって着替えてる!うう!剣八の馬鹿ぁ!」 「一護君!」 泣きながら部屋に帰ってしまった一護。部屋からは泣き声が聞こえている。 「一角、君のせいだからね!」 「な!しょうがねえだろ!男は皆溜まるんだからよ!他で出したって良いじゃねえかよ!店の女なんだからよ!」 「そういう問題じゃないよ・・・。妊娠中って精神的にも不安定なんだから・・・」 黙って部屋に帰る剣八。 「うっ、うっ、ひっく!けんぱちのばかぁ・・・」 「馬鹿で悪かったな」 「!!」 「どこにも行かねえって言っただろ」 「でも行く気はあったんだろ?」 すん!すん!と鼻水を啜りながら詰る一護。 「他は知らねえが俺は酒を飲みに行くだけのつもりだったがな・・・」 「行くなよぉ・・・。行っちゃやだぁ・・・うぁあん」 「行かねえ・・・、悪かった・・・」 啜り泣く一護をそっと抱き寄せ、胡坐に納める剣八。だんだん落ち着いて来た一護が、 「なぁ風呂入ろ・・・?」 「ああ」 「先に行っといて?準備するから」 「ああ」 促されるまま先に浴場へ向かう剣八。 着替えとアレを持って一護も後を追った。 第9話へ続く 11/02/11作 浮気未遂?ちょっとした気晴らしに飲みに行くだけのつもりだった剣ちゃんでした。 |
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