題「大好きな・・・」前篇 | |
三歳になった青陽には日課がある。それは仕事に出る剣八とやちるを一護と一緒に玄関まで見送る事だ。 「行ってらっしゃい!馬鹿みたいな怪我だけはすんなよ、お父さん!」 「分かってんよ」 一護の隣りで手を繋ぎながら元気な声で手を振っている青陽。 「いってらっしゃい、おとしゃん!」 「おう、行ってくんぞ!」 機嫌が良い日はこれで済むので良いのだが、機嫌が悪かったり、ぐずったりするとすごい事になる。 「行ってくんぞ」 と玄関で草履を履き立ちあがると、奥からドタドタ走ってくる音が聞こえて来た。 「いやぁ〜っ!おとしゃ行っちゃだめぇ〜!うやぁあああ〜っ!」 「あ〜あ、捕まった」 「青ちゃん、どうしたの?」 剣八の羽織を掴んで離さず大泣きしている青陽にさしもの剣八も困っている。 「昨日、帰りが遅くて構ってもらえなかったから機嫌ワリィんだよ」 「ふう〜ん」 「こら、青陽、お父さんお仕事行けないだろ?手ぇ離せ」 「いやあ〜っ!ああ〜!うわあ〜っ!ああ〜ん!!」 もう何を言っても聞かないだろう。 「剣八、取りあえず羽織り脱げよ。後で持って行くから」 「ああ・・・」 仕方なく羽織を脱いで瞬歩で隊舎へ行く剣八。剣八が脱いだ羽織が上に被さって一瞬訳が分からなくなった青陽だったが一護が抱き上げて羽織りから青陽の指を離すと剣八が居なくなっているのに気付いた。 「ひっく!おとしゃが居ないぃいいっ!うやぁああ〜!」 「はいはい、後でお母さんと一緒に会いに行こうなぁ」 今度は自分にしがみ付いて泣く青陽の背中をポンポン撫でながら部屋に帰る一護。 「あ〜っ!あぁ〜っ!おかしゃのばかぁ〜!おとしゃなんかきやい〜!うあぁあ〜ん!」 剣八譲りの薄緑の目から大粒の涙が滝の様に流れている。 「ったく、お父さん子になっちゃってさ・・・」 おぶい紐で青陽をおんぶしながら朝の洗いものをしていると泣き疲れて寝てしまった青陽。 「あ、寝た」 眠った青陽を部屋の蒲団に寝かせるとお気に入りのぬいぐるみを隣に寝かせ、洗濯を始めるため部屋を出た一護。 洗濯が終わるまでの時間を使って羽織を剣八に届けた。 「ん〜・・・。むにゅ・・・」 遠くの方で洗濯機が回る音が聞こえる。 ピー、ピー、ピー!と洗濯が終わったアラームで目が覚めた青陽。 「んん〜!おとしゃ?おかしゃ?」 きょろきょろ周りを見ても誰も居ないので部屋から出ると庭で洗濯物を干している一護が居た。 「おかしゃん、いた。おとしゃんは?」 ・・・居ない・・・。 「おとしゃん・・・」 昨日は青陽が起きている時間に帰って来れなかった剣八。理由は残していた書類に必要なデータが見当たらない為、全員で探しまわって全然仕事が終わらなかった。普段ならほったらかしで帰る所だがそれが出来ない書類だったのだ。 そんな訳で昨日見送ってから一度も剣八と会えず、朝に漸く会えた青陽。 お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて、愛用のサンダルを履いて家を出て行った。 一護は溜まっている洗濯物を片づけるので精一杯で気付かなかった。 キュッピ!キュッピ!と青陽が歩く度にサンダルから音がする。いつも一護と行く道を歩けばすぐに着くはずが途中、蝶を追いかけたり、猫を追いかけたりで迷子になってしまった。 ふと自分が全然知らない所に居る事に気付いた青陽。不安が大きく圧し掛かってきた。 「ふぇ・・・!おかしゃん・・・!おとしゃん、どこ?」 お気に入りのワカメ大使のぬいぐるみがひしゃげる程抱きしめながら、道を歩き続ける青陽。 「ひっく!おとしゃん!どこ〜ぉ!おかしゃん!おかしゃぁん!」 漸く十一番隊に辿りついた青陽。そこで隊首会から帰ってきた剣八を見つけた。 「おとしゃん!」 「ああ?青陽!なんでここに居る?一護はどこだ?」 と周りを見ても見当たらず、霊圧も感じない。と言う事はこいつは一人で出て来たという事か。 「うぅわあぁあああ〜んっ!おとしゃっ!おとしゃぁん!わあぁぁあ〜ん!」 キュッピ!キュッピ!キュッピ!キュッピ!キュッピ!と可愛らしい音をさせながら走ってくる青陽。 剣八の袴を掴んだと思ったら顔を擦り付けて泣き続けた。 「うっ!うぶぶっ!えっく!おとしゃ!ぶええ〜んッ!」 「やちる、一護呼んで来い」 「は〜い!」 家に居るであろう一護を呼びに行くやちる。 「おら、離せ青陽。こっち来い」 しゃがんで抱っこしてやる剣八。 「うう〜、おとしゃぁん!おとしゃぁん!」 「ああ、ああ、 大きな手で背中を撫でてやりながら隊首室へと歩いていく。 「剣八!青陽は!?」 バッターン!と勢い良く開いた隊首室の扉。ゼイゼイと肩で息をする一護は必死の形相だった。 「ここに居る」 泣き疲れた青陽は剣八の懐で 「っはあ〜!良かったぁ〜!」 安心して腰が抜けたのか、膝から崩れ落ちた一護。 「洗濯が終わって起こそうと部屋に行ったら居ないんだもん!探しに行こうとしたらやちるがここだって教えてくれて・・・」 じわりと涙が浮かんできた。 立ちあがって剣八の元へ行く一護。 「んにゅう・・・」 平和な顔で寝ている青陽を起こす剣八。 「こら、起きろ青陽!怖いおっかさんが来たぞ」 「うう〜?」 目を覚ました青陽が一護を見た途端、満面の笑みで一護に手を伸ばした。 まさに天使の笑みではあるが、勝手に外に出た事を心を鬼にして叱る一護。 「青陽!一人でお外に出ちゃダメだって言っただろ!迷子になっておうちに帰って来れなくなったらどうすんだ!」 「ふぇっ!う!うわあぁああ〜ん!おかしゃ、こわいぃ〜!」 「怒ってんだから怖い!死ぬほど心配したんだからな!もう!」 ぎゅう!と青陽を抱きしめる一護。青陽もしがみ付きながら、 「ごめんしゃい!ごめんなしゃぁい!おかしゃあん!おかあしゃぁん!」 周りの隊士も貰い泣きしている。 「ほれ、もう良いだろ。昼飯の時間じゃねえのか」 「あ、そだ。剣八、今日は・・・」 「ああ、家で喰えば良いんだろ?」 「おう!良かったなぁ青陽。お父さんとご飯だぞ〜!」 「う?ごはん?おとしゃんと!」 さっき泣いたカラスがもう笑っている。 「行ってらっしゃいませ、隊長」 と弓親に送り出され、家に帰る。 「じゃ、用意してくるから、青陽の事頼むな!」 「おう」 居間に行き、青陽の椅子を出して一護を待つ。 「お待たせ〜。焼きそばにしたけど良いよな?」 「ああ、構わねえよ」 「ほら、青陽、ちゃんと座って食べろよ」 もう3歳になった青陽は一護達と同じものを食べている。専用の椅子に座って可愛らしいプラスチックのお皿に盛られている焼きそばをフォークで食べている。 一護と剣八はそれでは足りないので味噌汁とご飯も付いている。 「あ〜もう、十年くらい寿命が縮むかと思ったぜ」 「ガキなんざ突飛もねえ事するもんだろうが」 「だけどさぁ」 食事をしていた青陽が突然立ちあがった。 「こら、ちゃんと座って食べないとダメだろ?」 「やぁ〜」 「青陽」 剣八も声を低くして怒っている事を伝えるが、青陽は、 「う、う〜!」 と言いながら自分のお皿を持ったまま、落とさないように剣八の方へ行き、胡坐の中に納まってしまった。 「おとしゃ〜!」 「しょうがねえな、剣八、食わせてやって」 昨日の埋め合わせだとでも言う様に陣取って動かない青陽の口に焼きそばを入れてやる。 「ほれ」 「あ〜、ん!おいちぃ!」 「良かったなぁ、青陽。お父さん独り占めだぞ〜?」 「んん〜!」 先に青陽のご飯を終わらせてから、自分の分を食べる剣八。 「さ、青陽、お父さんはまだお仕事あるからな。行ってらっしゃいしような〜」 「うん!」 たくさん構ってもらって満足したのか、ご機嫌にお見送りする青陽だった。 「ま、明日は非番だしな〜」 と言いながら洗い物を片付ける一護。 後編へ続く 11/06/13作 思いのほかに長くなったので分けました。3歳児の喋り方が分かんない。近くに子供居ないしな〜。 |
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