題「結晶」14 | |
日に日に大きくなる一護のお腹。安定期に入った日から毎日のように剣八と愛し合う一護。 激しい交わりではなく、優しく慈しむように抱いてくる剣八に最初の頃は焦らされている様に思った。 風呂から上がり蒲団の中、見つめる眼差しにそんな気持ちが出ていたのだろうか、 「・・・いつもみたくヤッたら腹のガキに障るだろうがよ」 と額にキスをしながら説明する剣八。 「ん、そか・・・」 隣りに横になる剣八の胸に擦り寄る一護。汗を掻き、しっとりとした肌は熱く心地良く眠気を誘う。 「眠いのか?」 一護の髪を梳いている剣八。 「ん・・・、剣八あったかい」 「そうか、もう寝ろ。ガキも眠いだろうよ」 「ん、おやすみ・・・」 すやすやと眠りに落ちた一護。 次の日。 「んじゃ検診に行ってくるなー」 と剣八と二人で四番隊へ行く。 帰りに毛糸を買いたいとか最近肉が食べたくて仕方ないなど話しながら歩いていると八番隊主従に会った。 「おはよう!剣八さん、一護君」 「おはようございます、更木隊長、黒崎さん」 「おう」 「おはようございます、京楽さん、七緒さん」 とお互い挨拶した。 「どこ行くの?」 「今から四番隊へ」 「検診ですか?」 「あ、はい」 「お腹も大きくなって来たねぇ」 など話しているとなんの気なしに京楽が一護の腰を手を置いた。 「腰も結構大きくなるんだねぇ。やっぱり・・・」 次の瞬間、 「うぎゃあ!!」 と言う一護の叫び声とともに拳が顎にヒットした。 「隊長!」 「一護!」 七緒と剣八が同時に声を上げた。 「いったぁ〜、ひどいなぁ、一護君・・・?」 顔を摩りながら起き上った京楽が見た物は自分の身体を抱きしめてガクガクと震えている一護だった。 「っあ、はっ!はっ!けん!剣八っ!」 ぶるぶると未だに震えている一護の顔色はひどく、紙の様に白かった。 「どうした!大丈夫か!一護!」 「黒崎さん!?」 「う、あ!分かんな、きょ、京楽さんの手が、触った途端に・・・!」 「京楽!てめえッ!」 「ともかく早く四番隊へ!」 七緒が一護と赤ん坊の安全を優先させる。 「おう!一護、触るぞ?」 「う、うん」 そっと抱き上げると、剣八の首にきゅ、と抱き付く一護。瞬歩で四番隊へ急ぐ剣八。 「一護君、大丈夫かな・・・?」 「卯ノ花隊長が居ますから大丈夫だと思いますが・・・。何が原因でしょうね」 「僕のせいかなぁ・・・。後でお詫びしなきゃ」 「そうですね。生きて帰ってきてくださいね、隊長」 「え、それってどういうこと!?七緒ちゃん!」 「どうって・・・、そういうことですよ」 と冷たく言うと自隊へと歩を進める七緒だった。 四番隊。 「卯ノ花!居るか!」 「朝から騒がしいですね。何かあったんですか?」 「一護の様子がおかしい!」 剣八の腕の中でまだ微かに震えている一護。先程よりは随分マシにはなっている。 「どうなさったんです?」 「さっきここに来る途中で京楽らと会ってよ・・・」 少し世間話をした後、京楽が一護の腰に触れた途端こうなったと説明した。 「そうですか、一護君、もう大丈夫ですよ。診察室へ行きましょう」 こくんと頷く一護は恐怖からか涙目だ。 診察室のベッドに横になり、腹部を卯ノ花隊長に撫でられる一護。 「なるほど・・・。原因は京楽隊長の霊圧ですわね」 「京楽の?」 「ええ、この子は更木隊長と一護君の魂の結晶な訳ですから、他人の霊圧が触れると拒絶反応が現れる事も考えられます」 「他人って、他にもこいつの腹触ってる奴いるだろ?やちるなんか毎日触ってんぞ」 「もしかして、男性では京楽隊長が初めてではないですか?」 「ん、そう言えば俺のお腹触って来たのって女の人ばっかだ・・・」 卯ノ花隊長の手当てで大分良くなってきた一護。 「そうですか。女性は大丈夫なのですね。安定期に入っていて良かったですわ」 「おい、卯ノ花・・・。何だその言い方」 それではまるで安定期以前の体では腹の子は危なかったと言うのか。 「さ!もう大丈夫ですわ!京楽隊長の霊圧は追い出しました。後は更木隊長と一緒に居て下さいな」 「剣八と・・・?」 「はい、お父さんの霊圧を肌で感じていれば赤ちゃんも落ち着くでしょう」 にっこりと聖母の微笑みで一護を安心させる卯ノ花。 「はい・・・」 起き上がろうとする一護を助ける剣八。 帰ろうとする二人の背中に掛けられた声。 「ああ更木隊長。京楽隊長も知らなかったのですから、穏便に・・・」 と釘を刺された。 「・・・っち!」 そんな事よりは一護の傍に居ろと言外に言われてしまった。 帰り道。 「歩けるか?」 「うん、大丈夫だ」 安心させる様に笑う一護。そんな一護の負担にならない様ゆっくり歩く剣八。 途中、毛糸を買いに手芸屋に寄った。 「どれが良いかなぁ」 と毛糸を選ぶ一護。 「これにしとけ」 と剣八が差し出したのはパステルカラーのオレンジ色の毛糸だった。 「あ、良いな、これ」 と一護も気に入り、数個買って隊舎へと戻った。 「今日はお前らで仕事しろ」 と言い置き、一護と寝室へ帰る剣八。既に卯ノ花隊長から地獄蝶で伝達が来ていたので書類仕事だけであった。 「大丈夫かな・・・」 「顔色はいつも通りだったけどな」 「剣ちゃんが一緒に入れば大丈夫になるよ!」 寝室では剣八の膝に座り、編み物をしている一護が居た。 だがその指の動きはいつもの様にスムーズではなく、 「あ、また・・・」 と呟いては糸を解いていた。 「一護、今日はやめとけ」 「でも・・・だって・・・」 「あんな風になったんだ・・・。こうしとけ」 と一護を抱きしめる。 「ん、うん・・・!こ、怖かった・・・!赤ちゃん、どうなっちまうのかと思った・・・!」 ぽろぽろと大粒の涙を流す一護。 「泣いちまえ、楽にならぁ」 促す様に一護の背中を優しくポンポン撫でる。 「うああぁ〜ん」 とまるで子供の様に泣く一護が剣八に縋りついた。 「怖かった・・・!怖かったよぅ!ひぃっく!赤ちゃんに会えなくなるんじゃないかって!」 「ああ・・・。もう大丈夫だ」 ひっく、ひっくとしゃくり上げだんだん泣きやんで来た一護。 「は、早く、会い、ったい!」 「ああ。なぁ一護」 「ひっく、なに?」 「ガキが生まれたらよぉ、引っ越さねえか?この部屋も手狭になるだろ?」 「どこに?」 すんすん鼻を啜りながら話を聞く一護。 「今隊舎の敷地内で工事やってんだろ?あそこに家建ててる」 「へ?」 「建ててるつっても元からあった屋敷を改装してるだけだがな」 「元から?」 「隊長が寝泊まりするのに各隊にあるんだよ。俺は隊首室の仮眠室かここで充分だったしな」 だから使ったことがないと言った。 「せっかくあるんだからよ、使うつったらじいさんが改築しろとか言ってな。今工事やってんだよ」 「・・・やちるの部屋もある?」 「ああ。ガキがでかくなった時用にガキの部屋もある」 「そっかぁ。剣八が俺達の大黒柱になるんだなぁ」 とやっと笑顔になった一護の涙の後を拭ってやり、口付けた。 この後、京楽がお菓子を持って謝罪に来た。 斬りかかると思われた剣八は一護を膝に抱いたまま菓子を受け取り、 「女に気を付けるんだな」 と一言だけ言うと一護も、 「赤ちゃんも大丈夫だったし、俺も知らなかったから、もう気にしないでください」 と言った。 この後、京楽隊長は女性陣からの攻撃を受けたとか・・・。 第15話へ続く 11/02/23作 ちょっと危なかった一護。剣八以外の男は駄目と分かっちゃったね。因みに赤ちゃんは無事ですよ。 12/04/17に加筆。 |
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