題「結晶」11 | |
翌朝目が覚めると一護は少し違和感を感じた。 「・・・?」 いつもの様な空腹が感じられない。 もそりと起き上がると、釣られて剣八が起きた。 「起きたのか」 「ん、おはよ・・・」 「どうした、腹減ったのか?」 「ん、いや・・・?減ってる、のかな?」 首を傾げながら起きて顔を洗いに行った。弓親が、 「おはよう、ご飯出来てるよ」 と声を掛け、一緒に食堂へ行った。 席に座ると出されたご飯の匂いを嗅いだ途端気分が悪くなった一護。 「う!うぇ・・・!」 「おい、一護?」 「き、気持ちワル・・・!ごめん、食えない・・・!」 「あ、もしかして悪阻かい?」 「そ、そうなのか?うう・・・、部屋に帰る・・・!」 こんな自分が居ては他の隊士の食事の邪魔になるだろうと早々に部屋へ帰る一護。 「う〜、どうしよ・・・」 暫くすると食事を終えた剣八が水を持って部屋に来た。 「どうだ、一護・・・」 「ん・・・、ちょっとマシになった」 受け取った水を飲んで答えた。 「そうか。一護、甘夏食えるか?」 「分かんない・・・」 「試しに食ってみろ」 「うん」 めしょめしょと皮を剥くと爽やかな香りが漂った。 「ん、良い匂い・・・」 ホッとしたように息を吐いた。 「食えそうだな。ほれ」 「ん・・・」 薄皮を剥いた実を口に入れられる。 「んん、酸っぱい、美味し・・・」 「食えるだけ食え。食ったら卯ノ花んトコ行くぞ」 「うん」 甲斐甲斐しく甘夏を剥いては口へ入れてやった。 四番隊。 「あら、どうしました?一護君」 「なんか悪阻になったみたいで・・・」 「気持ち悪いですか?」 「ん、ご飯の匂い嗅いだら、気持ち悪くなって・・・」 「そうですか。何か食べられましたか?」 「あ、甘夏を食べました」 「甘夏、と・・・。朝の果物は身体にも良いですからね、でも夜は控えて下さいね」 「あ、あの、何食べたら・・・?」 「そうですねぇ、こればかりは貴方の身体の事ですから。色々試してもらうしかないですわね」 「そうなんですか・・・」 「水分はたくさん摂ってくださいね。一口でも良いので何か食べて下さい。最悪ここで点滴の用意をします」 「あ、はい。ありがとうございます」 四番隊を後にした一護は、 「あ、好きな物だったら食えるかも知んねえよな」 「ああ、かもな」 「じゃあチョコ食ってみる。チョコが食えたらさ、チョコクリーム塗ったパン食えるかもだし!」 「それもありか、今から買うか?」 と店を指差す。 「ん、板チョコ一枚で良いぞ」 とチョコを一枚買って帰った。 縁側でチョコの包みを剥がすとパクッと口に入れた。 「ん!なんか、変な味がする!」 一欠片だけ食べると牛乳で口直しした一護。 「う〜、チョコも食えないのかよ・・・」 しょんぼりと呟く一護の頭を撫でながら、 「少しの間だろ。悪阻が終わったらアホほど食えるだろ」 「ん・・・」 「昼飯はそうめんにでもするか?」 「食えると良いな」 「サッパリしたもんなら食えるだろ。腹のガキの為にも食えよ」 「分かってるよ」 昼食に出されたそうめんは食べられた一護。 「良かった、食べれたね」 「うん、生姜がなんか良いみたいだ」 とスルスル食べて行った。 昼食が済むと剣八がどこかへ行ったようで姿が見えなくなった。 「なんだ、どっか行ったのか」 縁側でわかめ大使のクッションに凭れながら編み物の続きを始めた一護。 その頃の剣八。 「おう、卯ノ花。ちょっと良いか」 「こんにちは、更木隊長。一護君の事ですか?」 「ああ、あいつ、何食わせたら良いんだ?」 「そうですわねぇ、朝も言いましたがこれは個人差がありますから。一般に果物や酸っぱい物が好ましくなるそうですが・・・」 「酢の物か?」 「そうですね、後は食べやすくお粥や雑炊も良いかも知れませんわ」 「・・・なるほどな。邪魔したな」 「いえいえ、何かありましたらすぐに御連絡下さいね」 にっこりと微笑んだ卯ノ花隊長。 「ああ」 帰り道で果物をあるだけ買った剣八だった。 「お帰り。なんだ、買い物行ってたのか?」 「まぁな」 ドサッ!と荷物を置くと中を見る一護。 「果物ばっかじゃん」 「お前が食うんだよ。何でも良いから食えるヤツ食え」 果物は柑橘系が多かったが、季節の桃やブドウ、西瓜、メロンなどもあった。 「贅沢だなぁ」 「良いから食え」 「じゃ、痛むの早いから桃から」 「おう」 器用に薄い皮を剥き実を切って一護に食べさせる。 「ん、甘い、美味し・・・」 「食えるか?」 「うん、もっと」 二個ほど食べると、 「ん、も、いい。ありがと」 と礼を言って口の端を舐めた一護。 「そうか」 剣八の手は桃の汁でベタベタだった。 「剣八・・・」 「あん・・・?」 一護はその手を取ると果汁の滴る手首から指先まで舐め始めた。 「ん、甘・・・おいし・・・」 ちゅ、と指をしゃぶる一護。 「こら、やめろ」 「だって・・・」 「煽ってんのか?ここで襲うぞ」 「やだ、だめ」 「ならやめろ」 「ちぇー」 口を尖らせながら拗ねる一護。 「一護」 「ん?」 顔を上げると口付けられた。 「ん、んん、ふぁ、ん、ん、あ・・・」 ちゅ、と顔が離れると自分の唇を舐める剣八と目が合った。 「ホントに甘ぇな」 「う〜、馬鹿っぱち!」 「今日も討伐だ。早めに帰ってくっから好きに遊んでろ。食えるんなら甘味処で何か食え」 「ん、分かった」 皆を見送る為に隊舎の門の所まで、剣八の羽織を摘まみながら付いて行った一護。 「行ってらっしゃい」 と送り出した。 「早く済ませて帰りますかね」 と弓親。 「隊長が一発で終わらせるだろ?」 と一角。 「それもそうだね。すぐにお風呂に入れる様に沸かして来て正解かな」 お昼を過ぎて小腹が空いたのでやちると一緒に甘味処へ出掛けた一護。 「どこで食べるの?」 「やちるはどこが良い?」 「ん〜とん〜と、いつもの久里屋がいいな!」 「じゃぁそこに行こう」 手を繋いでゆっくり歩いて行った。 店に着くと何を食べるか選んでいると乱菊やルキアなど女性メンバーが入って来た。 「あら、一護!おやつ?」 「まぁそんなもんです」 「何食べるの?あたし達も一緒して良い?」 「良いですよ」 とみんなで食べる。 「いっちー何食べるの?」 「何が良いかな・・・、白玉あんみつが良いかな」 「じゃぁあたしもそれ〜!」 と注文し乱菊達も好きな物を注文した。 「最近どう?」 「あ〜、悪粗になりましたね・・・」 「結構キツイでしょ〜?」 「ええ、気持ち悪いし、チョコ食えないし・・・」 ぶつぶつ言いながらあんみつをかき混ぜる。 「自分の身体の中に新しい命が出来るんだもの。ちょっとの拒絶反応は仕方が無いわよ。後少しの辛抱よ」 と乱菊が頭を撫でてくれた。 「そうですね」 少しずつあんみつを食べる一護。 「何が食べれるんですか?」 「ん〜、果物とか、かな」 「あらじゃあ、あたし達で買ってあげよっか?」 「え、いや。今朝剣八が山ほど買ってきたんで良いですよ」 「あら!あらあらあら!愛されてるのねぇ〜!」 「ちょ・・・!」 「羨ましいです」 「更木隊長が・・・。意外ですね」 「剣ちゃんは優しいよ!」 一護と盛り上がっていると入り口からのっそりと誰かが入って来た。 「おう、一護。ここだったか」 「あ、剣八。おかえり、早かったんだな」 「まぁな」 剣八は私服の着流しを着て髪を下ろしていた。 「何か食えたのか?」 「ん?ん〜・・・」 器の中の減っていないあんみつを見て、 「食ってねえのか?ほれ」 匙で掬って一護の口元へ持って行くとパクッと食べる一護。 「食えるじゃねえか」 「うっせー・・・」 メンバーの前であるにも関わらず一護は目の前の剣八の腰に抱きついた。 「・・・寂しかったか・・・?」 「知らん・・・」 ぐりぐり甘える一護の頭を撫でる剣八。 「晩飯は何が食いたい?」 「ん〜、寿司?」 「握りか?食えるのかよ」 この間食べた刺身を思い出して、うぇ、と顔を顰めた一護。 「違う。散らし寿司とかそんなん。酢飯が食いてぇ」 「んじゃ、そのあんみつ食っちまえよ」 「ん!」 ひょいひょい食べて行く一護。 「なんか急に元気になったわね。あんた」 呆れたように呟く乱菊。 「ごっそさん!散らし寿司作るのか?食いに行くのか?」 「どっちがいい?食いに行くのが手間無くて良いぞ」 「ん〜、でも店で具合悪くなるとなぁ・・・」 「じゃあ出前で良いじゃねえか」 「あ、そうか。そうする!」 やちると一緒に3人で帰る一護。剣八がそこに居た全員の分の代金を払って行ったのを後で知ったメンバー。 「懐深いわね〜」 「格好良いですね〜!」 とこれまた盛り上がった。 隊舎に着くと剣八に甘える一護。 ぐいぐいと首元に顔を埋め、匂いを確かめる。 「そんなに寂しかったのかよ」 「寂しくない。ちゃんと帰ってくるって信じてるもん」 「そうかよ」 「そうだ」 まるで猫の様に身体を擦り寄せる一護の好きにさせ、夕飯まで二人きりで居た。 夕飯の散らし寿司は普通に食べられた。錦糸卵は抜いて刻み海苔を振って食べる一護。 「一護、これは食えそうか?」 剣八が春雨の酢の物を差し出す。 「ん、食える」 と喜んで食べている。 満腹になった一護は満足そうに笑って剣八と風呂に入ると早々に寝てしまった。 第12話へ続く。 11/02/16作 悪阻になった一護ちゃん。悪阻は書くの難しいですねぇ。次辺りで安定期に入ってもらおうかな・・・。 |
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