題「初めてのお正月」
 年の瀬も近づいた12月30日。
やれ大掃除だ、飾り付けだと周りが騒がしくしているのを不思議そうに見ている白。
「なぁ春水。年越しってなんだ?なんでみんな掃除ばっかしてんだ?玄関にある竹ってなんだ?」
「うん?」
「そういえば十六夜の所も今日は忙しいけど皆でおいでって誘われたわ。とと様今日何かあるの?」
「あぁそうか。君達は年越し初めてなんだったねぇ」
こくん、と頷く白と朝月。
「としこしってなんですか?パパ」
「えーとね。1月1日から一年が始まって12月31日に終わるんだよ。新しい年を迎える為に家を綺麗にして神様を迎える準備をするんだよ」
「神様?」
「そ!歳神様とかお正月様とか言われてるね。祖先の霊や五穀豊穣の神様がいらっしゃるんだよ」
「ふう〜ん」
「その為に家を綺麗にして、神様の為に鏡餅を飾ったり、おせち料理を作ったり、大忙しなんだよ。十一番隊で今日は餅つきがあるから一護君が誘ってくれたんだろうね」
「行っても良いのか?春水は来るのか?」
「非番だしね。一緒に行こうか、皆でね」
「おう!」

約束していた時間はお昼頃だったので11時には家を出た。
朝ご飯を食べてゆっくりした後、京楽一家5人が十一番隊に顔を出した。
「おはよう!にぃに!」
割烹着を着た一護が出迎えた。
「おはよう、一護。お前も手伝うのか?」
「うん!たくさん作るからね!いっぱい食べて行ってね、にぃに」
ふんふんと鼻を鳴らす白。
「なんか良い匂いするな。何だコレ?」
「今、もち米蒸してるんだよ」
「へえ」
大きな焚火の前に石臼と杵が二組あった。
「あれで餅作るのか?」
「うん、そうだよ。俺も一回しか見たことないけど面白いよ!」
そう言っているうちに一角と弓親と他の隊士が臼と杵の前に現れた。
「京楽隊長おはようございます。おう、ちゃんと来たな。楽しんでけよ、白!」
鉢巻を巻いてたすき掛けをした一角が杵を担いで白達に話しかける。

蒸されたもち米が持ってこられ臼に入れられた。
「・・・春水、これ餅違う。米だぞ」
ほこほこと湯気を立てるもち米を指差していう白。
「これからお餅にしていくんだよ。臼と杵で搗いてね」
「ふう〜ん」
「ヨッシャ!行くぜぇ〜!」
最初は米の粒を杵で押し潰してから搗いていく。一角と弓親の息の合った動きでどんどん搗き上がっていく餅。
一角が搗き、弓親がひっくり返す。
「あぶない!あぶないよ!白!」
「ん〜・・・」
米の原型が無くなり、柔らかい真っ白な餅に変わっていくのを興味津々で臼の中を覗き込む白を止める京楽。
「・・・邪魔だ、バカ」
ぐい!っと襟首を引っ張られ、後ろを睨むと剣八だった。
「何しやがんだ!」
首を抓まれた猫のような格好だ。
「あぶねぇってんだよ、ガキじゃねぇんだ。離れて見ろ、鼻無くなんぞ」
「ああ、ありがとう剣八さん。ほらここでも見れるよ、白」
「むう〜」
「出来たぞ!一護、粉打ったか?」
「うん!これでいい?」
「お〜、上等だ、それ!」
餅取り粉を均したまな板に出来たての餅を取りだした。
慣れた手つきで千切っては丸める弓親と一護。
「出来たよ!にぃに、はい!」
「お、おお」
出来たての餅にきな粉がまぶされた皿を渡された。
「あち!あふゅい!む、む、伸びう!伸びう!うま〜vv」
「良かったねぇ、はい、お茶」
「かか様ったら子供みたい!」
朝月が言う。嬉しそうに餅を食べる白に見惚れているウルに、
「なんだ?食べないのか?無くなっちまうぞ」
と食べる様に促す。
「あ、はい!いただきます」
慌てて皿に乗った餅を食べると、夕月に小さく千切った餅を食べさせてやるウル。
「あむ、あふ!あふ!美味しい!にぃちゃ、お餅美味しいです」
「一護も食ってるか?」
「うん!子供達も食べてるよ」
一護が剣八に、
「はい、あ〜ん」
と餅を喰わせていた。朝月も、十六夜も朔も幾望もグリもノイも夢中で食べていた。

ほかほかと湯気を立て伸びる餅を見て何かを思いついた白。
「ひゅんひゅい(春水)!ひゅんひゅい!」
「なぁに?白」
「ん〜」
と差し出されたのは伸びている餅。その先には目を細めて笑う白と口元の餅。
「ん!ん!」
伸ばした餅を京楽の口に押し付ける。
「あむ」
と口にする京楽。後ろに下がる白。伸びて行く餅。楽しそうだ。
伸びた餅が重力に負け、落ちそうになった。
「ふあ!(あっ!)」
と白が声をあげると、するすると餅を吸いこみ最後には白の唇に吸い付いた京楽。
ウル、グリ、ノイの3人がボー然とその様子を見ている。
「ん!んん!んん〜〜!」
ちゅちゅちゅ〜〜!と吸いあげ、ッポン!と口を離せば息を乱す白がばしばしと叩く。
「なに!この!ばか!」
「んふふ〜。御馳走様!とっても美味しかったよ、白」
「京楽隊長、その先はご自宅でお願いしますね」
にっこり笑って言う弓親。
「うん!」
「バカ春水!」
それを見ていた夕月がウルに、
「にぃちゃ、ん〜!」
と餅を伸ばしてくっ付けた。
「ん?」
状況に気づいて固まるウル。
「な!何やってるの〜!夕月ってば!」
「ん?パパとママのまね〜!」
無邪気に笑う夕月の手元の餅を食べる京楽。
「あう!」
「パパ達の真似はしないで良いの!さ、新しいお餅お食べ」
と二人に新しい餅を渡してやった。
「春水、俺も!」
「はいはい、次は何で食べるの?」
「え〜と、え〜と、黄粉は食ったし〜、あんこも食ったし〜。後は何が美味いんだ?」
「そうだねぇ、砂糖醤油も美味しいし、海苔を巻いて磯辺巻きも美味しいよ」
「あと、消化を良くするのに大根おろしも美味しいよ、白君」
「どれにしようかな。砂糖醤油の後に海苔巻いたヤツ食う!」
「はぁ〜い」
満腹になるまで餅を食べると一護が、
「にぃに!お節作るの手伝って!」
「おせちってなんだ?」
「お正月に食べるお料理の事だよ。一緒に作ろ!」
と白を台所へと誘った。


第2話へ続く




11/1/10作 157作目。初めての年越しを迎える白ちゃんです。次はお節です。つまみ食いはアリかな?





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