題「天女の足音」3 | |
広間には大きな囲炉裏があり、上から自在鉤で大きな鍋が吊るされていた。 「にぃに!もうすぐご飯だって!呼びに行こうかと思ってたんだ」 「おう、待たせちまったか?」 「ううん!俺達も今来たトコだよ!」 「そうか、なんか色々あるな」 「美味しそうだねぇ」 囲炉裏では火が焚かれており、時折大きくパチッ!と爆ぜている。 「うおッ!なんだ!」 驚いている白に隣の京楽が、 「薪が燃えて音を立てただけだよ。火花が散るからあんまり近くで見ちゃ駄目だよ?」 と説明した。 「ふう〜ん」 先に運ばれてきたのは鮑やサザエがそのまま焼かれる地獄焼き。 ウネウネ動くアワビに興味津々でじーっと見てるうちに顔が近付く白。 「白!あぶないから!白ってば!」 「ん〜・・・」 「かか様、その癖治さないと卯ノ花さんに怒られるわよ?」 と形の良い眉を顰める朝月。 「う!ちぇ〜」 と言いつつ離れる白。 「ちぇ〜、じゃないの!綺麗な顔にやけどの跡が残ったらどうするの!もう!」 「男なんだから別に良いだろ」 「良くないよ!」 「・・・お前ら夫婦漫才なら部屋でやれよ」 剣八に突っ込まれていた。 「にぃに、コレの後はお鍋だって!楽しみだね!」 「おう!」 アツアツの鮑を切ってもらい食べる。 「はふ!はふ!柔らけぇ、美味い、美味い!」 「白、蟹もあるよ。甘エビも美味しいよ」 「食う!食う!食う!」 子供達もみんな無言で蟹の身をほじほじほじほじ・・・・。 「うま〜い!俺こんなん食った事ねぇぞ!」 「俺も!」 はしゃいでいるグリとノイ。十六夜も朔も無言でほじっている。幾望は一護がほじってやりそれを食べている。 「はい、白。次は甘エビだよ」 とカラを剥いてやる。 「あ〜、ん!甘い!」 「良かったねぇ」 と笑いながらエビの殻を剥いては白に食べさせている。ウルも夕月をあやしながら自分の分を食べていく。 「子持ちの甘エビも美味しいんだよ、はい」 「ん!美味い、美味い!」 「良かったねぇ、はい」 「春水・・・」 剥かれた甘エビを掴んで京楽に差し出す白。 「あ〜ん」 「あ〜ん!美味しいよ、とっても!」 二人でにこにこ笑い合っている。子供たちはそんな二人をスルーして自分達の分を食べている。 「お前らこれからまだ料理出てくんだぞ」 「まだ入る〜!」 どんどん出されてくる料理。刺身の盛り合わせや、天ぷらに舌鼓を打つ。 ふと、白が鮑の刺身が乗せられていた器に目を止めた。それは鮑の貝殻の器だった。 「綺麗だな、これ」 「うん?気に入ったの?貰って帰る?」 「え?いいのかよ?」 「貝殻だからね、きっとゴミにされるんじゃないかな?貰っていっても良いと思うよ?」 「そっか・・・・」 一護に頼んで一護たちの分も貰う白。 「それどうするの?」 と一護に聞かれ、 「ちょっとな。土産」 と答えた白。 そしてメインである蟹鍋を皆でつつき合う。 はふはふと皆美味しそうに食べている。 〆に蟹雑炊出されて子供達もお腹がまんまるになっていた。 「ふぃ〜!」 「もう入らねえ〜、動けねぇ〜!」 「寝るなら部屋で寝ろ!」 「後で〜」 ごろごろと寝っ転がるグリとノイ。結局そのまま眠ってしまい剣八が部屋に持って帰っていった。 「ったく、世話の掛かるガキどもだな」 脇に抱えられたまま部屋の蒲団に寝かされた二人は朝までぐっすり眠っていた。 「お腹落ち着いたら温泉に行こうね!」 「うん!あたし温泉なんて初めて〜!朝月も一緒に入ろうね!」 「うん!かか様と夕月はどうするの?」 「ん?あ〜、後で良いわ。まだコイツ小っせえし・・・」 「うきゃあ!」 夕月の髪を撫でれば喜んで笑った。 「そう。じゃ後でとと様と入れば良いわね。十六夜一緒に入ろ!」 「うん!かか様も入ろ〜」 「そうだねぇ、久し振りだもんね」 と娘と一緒になってきゃっきゃっとはしゃいでいる。 お腹も落ち着いて来た頃に3人で混浴風呂に入る。宿を借りる時に貸し切りにしてもらっているので他の客は来ない。 「ねえねえ、とと様達は後で来るの〜?」 と十六夜が聞けば、 「俺達が上がったら交代で入るって言ってたよ」 「じゃあ幾望はとと様がお風呂に入れるのね」 「そうだよ」 温泉に入ると外は真っ暗だったが、沖の方で何か灯りが見えた。 「あれ〜?海になんか見えるよ?」 「ホントだ。何かしら?」 「あれは漁火だって剣八が言ってたよ。ほらほら、先に身体洗ってお湯に入ろうよ。風邪引いちゃうよ」 「「は〜い!」」 3人は先に髪と身体を洗い、湯に浸かった。 「温泉って色が付いてるのと思ってたわ」 と透明なお湯を掬ってぱちゃぱちゃと零している十六夜。 「匂いも無いわよね」 「あ、ここに効能が書いてるよ」 と看板を見つけた一護。 「単純泉。効能は・・・、冷え症、美肌、産後の養生、ひび、あかぎれ、しもやけ・・・。色々だねぇ」 「本当、かか様、美肌ってなぁに?」 「お肌に良いって事じゃないかな?つやつやのピカピカになるんだよ、きっと!」 「わ!顔にもいいのかしら?」 ぱしゃぱしゃと顔に着ける十六夜。 「今からそんな事しなくても十分綺麗じゃない」 「だめ!今からやっておくの!大人になってから狛むー落とすのに、時間無いもん!」 「十六夜って本当に狛村さんが好きなのね」 「大好きよ。とっても好き!他の男なんか要らないわ」 「ふう〜ん。私はまだ分かんないわ」 「朝月はまだ好きな人居ないの?」 「ん〜。良く分かんないの。一緒に居ると楽しいけど、そう言う好きなのか、友達として好きなのか」 「ふ〜ん」 「あせらなくて良いよ。分かる時はすぐ分かるし、他に好きな人が出来るかも知れないしね」 と一護が言う。 「かか様はいつからとと様の事が好きだったの?」 「え?ん〜・・・。初めて会ってからお礼言いに行って、それから・・・」 と記憶を辿っていく一護。 「あ・・・」 と呟いて頬を染めた。 「かか様、顔が赤いわ」 「え〜と、会いに行って、俺の髪を褒めてくれて撫でてくれた時、かな」 きっとその時、恋に落ちたんだと言った。 「へえ〜、素敵。とと様ってカッコいいわね」 「俺の旦那様だもん」 「十六夜のとこも仲が良いのね〜」 「まっね〜。万年新婚だわよ」 「あらウチと一緒だわ」 「十六夜!朝月!」 「良いじゃない。あたしもかか様やとと様みたいな夫婦になりたいわ。ず〜っと仲良く暮らすの。朝月は?」 「そうね・・・。私も普通に一緒に居られるなら、それで良いわ」 それは一時離れ離れになった両親の事を言っているのだろうか。 「子供もたくさん欲しい方?十六夜」 「ん〜。まだ分かんないわ。だってまだ狛むーを一人占め出来てないんだもの」 「そうよね〜。一人占めしたいわよね」 うんうん、と話す娘達。 「狛村さん、真面目だからなぁ。でも優しいから両想いになったらきっと大事にしてくれるよ」 「そうなのよね〜。なるまでが大変なのよね・・・。狛むー堅物だし、歳離れてるって気にするわ、きっと」 ふう・・・、と溜息を吐く十六夜。 「気にしないのにねぇ」 と十六夜の頭を撫でる一護。 「早く大人になりたいわ・・・」 「そのうち嫌でも歳は取るよ、まだ俺達の子供で居てよ」 「もちろんよ!」 と一護に抱き付く十六夜。 「狛むーのお土産なんにしよ〜」 と悩みは楽しい悩みに代わっていた。 のぼせる前にと風呂から上がった3人。自分で選んだ浴衣に着替える。 「あ〜、良いお湯だった!剣八、出たよ〜」 「おう、女は長湯が好きだな。寝ちまうとこだったぜ」 「ごめんごめん。幾望の事お願いね」 「ああ、湯冷めすんなよ?ちゃんと乾かせよ」 「うん」 と交代で男湯の温泉に行く剣八、朔、幾望とウル。同時に混浴に行く白と京楽と夕月。 混浴風呂。 「おお〜。昼間とは全然違うな!春水、あれなんだ?海になんか灯りがあるぞ」 「うん?ああ、あれはきっと漁火だね」 「いさりび?」 「うん、夜の漁ではああやって松明の光で魚を集めて獲るんだって」 「へえ〜。面白ぇな」 「さ、身体洗ってお湯に入ろ?夕月の体が冷えちゃうよ」 「おお」 先に白が洗い、夕月を京楽が洗ってやった。白に夕月を渡すと自分も洗いだす。 「先に入ってるぞ?」 「うん、いいよ」 ぱちゃぱちゃと掛け湯をしてから夕月と入る。 「熱くないか?」 「うきゃあ!キャッ!きゃっ!」 丁度良い温度なのか喜んでいる。 「お待たせ」 「ん」 冬の空気で頭は冷え、のぼせる事はない。 「来て良かったな〜」 「そう、狛村君にお礼、言わなきゃね」 「そうだな、あのアワビの皿で良いか。刺身とか入れるのに丁度良さそうだしな」 それに本命のお土産はあげる奴が決まっている。 「無理にとは言わないから、少しずつ慣れると良いね。彼は優しいからね」 「ああ、分かってんだけどな・・・」 と海を見る。 「一護君の事を我が事の様に心配して剣八さんを焚き付けたんだよ」 「なんだそれ?知らねえぞ」 「あ、聞いてなかったの。うん。一護君もね、一度剣八さんの元を離れたことがあるんだよ」 「それは・・・、俺のせいでか・・・?」 「ううん、その前に一回ね。最初は狐だって言ってなくて、正体がバレた時に身を引いたんだ。剣八さんの為にね」 「破滅、か」 「うん・・・。剣八さんも荒れに荒れてねぇ。怖かったよ。護廷も火が消えたように寂しくなったよ」 「・・・・・・」 「でも、一護君は剣八さんしか愛してないし、剣八さんも一護君しか愛してなかったからね。探しに行く後押しをしたのが狛村君と卯ノ花さんだったよ」 「卯ノ花さんも・・・?」 「そう、別れる前に一護君はお世話になった皆にお花を贈っていったんだけど、剣八さんにはヒガンバナを贈ったんだ」 「ひがんばな・・・」 「花言葉は『悲しい思い出』が有名だけどね、もう一つの花言葉を卯ノ花さんが教えてくれて動けたんだって」 「もう一つの花言葉って?」 聞いてくる白の目を見つめながら、 「思うは貴方一人」 と告げた。 「思うは、貴方一人・・・」 繰り返す白。 「そう。それでふっ切れた剣八さんが満月までに一護君を見つけ出して無事祝言を挙げたのさ」 「へえ〜・・・知らなかったな・・・」 「あの出来事は二人にとっても辛い事件だったからね。でもより一層の絆は深まったよ。その時に授かったのが朔君と十六夜ちゃんだからね」 「そうなのか・・・」 「まあ〜!」 「あっと!もう出るか?夕月」 「あ〜う!」 「長湯しちゃったかな?」 「ううん、聞けて良かった。ありがとうな」 「いえいえ」 狛村への態度を改めようと決めた白だった。 第4話へ続く 11/03/08作 御馳走編と入浴編。ちょっと昔話も入りましたね。これで仲良くなれたらいいのにね。 |
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