題「天女の足音」4
 温泉から上がると朝月とウルキオラが炬燵に入ってまったりしていた。
「おや、まだ寝てなかったの」
「かか様達待ってたのよ。遅かったわね、のぼせてるのかと思ったわ」
「あはは〜、ごめ〜んね。もう子供は寝る時間だものね」
と朝月とウルを隣の部屋へ連れて行った。
「さ、今日は僕らも寝ようか」
「ん、ちょっと疲れた・・・」
珍しく目をしょぼしょぼさせながら白が言った。
二人で蒲団に入り、すぐ横に夕月を寝かせた。
「もっとこっちにおいで、寒いでしょ?」
「・・・ん」
傍に寄ると胸にスリスリを擦り寄る白。
「俺、なんだか怖い・・・」
「どうしたの?白?」
「だってよ、去年まではたった独りで寒さに耐えるしかなかったんだ。それが今は、春水が居て子供たちが居て暖かい家があって・・・・これが夢なんじゃないかって・・・・目が覚めたらまた独りなんじゃないかって思うと怖いんだ・・・」

今まで孤独だった白。寒い冬も独りきりだった。温め合う家族も居なくて、たった独りで震えて眠った。
雪が降る中を狼に襲われ、巣穴から命辛々逃げ出して足が雪の冷たさで悴んで血が滲んでも逃げ続け、生き延びた日々。
狼だけでなく、貴族の追手からも逃げる日々は、神経を張り詰め、安らぎなどどこにも無かった。
それが今では愛する伴侶を得、家族が出来、安らぎを得ることが出来た。

愛しい、愛しい、と言う感情が溢れて止まらない。それを受け止めてくれる。ありったけの愛情を与えてくれる愛しい人。

目が覚めたら何も無くなってたら・・・?誰も居なかったら・・・?それが怖い。きっと奈落の底に落ちて二度と這いあがっては来れないだろう。
それほどまでに大切な存在。命と同じ・・・、それ以上に・・・。

「今まではよ・・・、木の根元に穴掘って、そこで丸くなって寝てたんだ・・・。いつだって寒くて震えてた。雨とか雪が降ってる時なんて最悪だぜ?はみ出た背中とか肩に雪が積もったり、雨水が泥と一緒に流れて来たりよ・・・」
「うん・・・」
大きな手で白の背中を撫でてやる京楽。
「でも今は違う。今は春水が居る、こんなに温かい。子供たちだって出来た。こんなに、こんなにあったかい冬があるなんて知らなかった。夢じゃないよな?お前は居るよな?俺はここに居るよな・・・?」
「夢じゃないよ?僕も白もちゃんとここに居るよ?これが夢だとしても、僕が永遠に目覚めさせないよ」
そう言って白の額に優しく口付けた。
「ん・・・、冬は嫌いだったんだ・・・。寒いし、誰も居ねえし・・・、食いもんもねぇ・・・。でも今はお前が居るんだな・・・。お前はあったけぇなぁ・・・」
「安心してお眠り・・・。明日も明後日も。来年もずーっと一緒だよ」
優しく髪を撫でられ、眠りに落ちた白。
「ん・・・いっしょ・・・しゅん、すい・・・」

すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を聞きながら京楽はずっと白の背中や髪を撫でていた。
まるで子供の様な安らかな寝顔を見ながら、
「かわいい顔・・・。夢なんかじゃないさ、白・・・。愛してるよ、永遠に君だけを・・・。君が輪廻に入っても探し出すからね・・・」
と寝ている白に囁いた。
「ん、んん、しゅんすい・・・」
きゅう、と白が抱き付いて来ては、京楽の胸に耳を押し当てた。
「本当に可愛い・・・」
このままだと寝ている白を襲ってしまいそうだったので無理矢理眠った京楽だった。

翌朝、京楽の腕の中で目が覚めた白。
ああ、夢じゃなかったと安堵した。
「おはよう、白」
顔を上げると優しい目で自分を見つめる京楽が居た。
「おはよ・・・」
「夢じゃあなかったでしょ?君が目を開けて最初に見るのが僕だよ。それまで僕はずっと君の隣りに居るよ」
と寝癖の付いた髪を撫でつけながら言えば、
「うん・・・」
と常になく大人しい白が抱き付いてきた。
「うあぁああん!うあぁああん!」
と夕月が泣き出した。
「あ、朝飯・・・」
名残惜しそうに京楽の隣りから出ると夕月に乳をやる。
そんな白を背中から包みこんで抱きしめる京楽。
「寒いでしょう?これなら暖かいよ」
「う、うん・・・」
なんだかドキドキして振り向けない。背中から春水の体温が染みてくるのを感じて、何かが溢れてくる気がした。
「白・・・、どうしたの?なんで泣いてるの・・・?」
「へ・・・?」
知らぬ間に自分の目から涙が溢れていた。
「あ、あ・・・あ・・・」
「白・・・」
後から後から流れてくる涙を唇で吸い取ってやる京楽。
「春水・・・、しゅん、すい・・・」
「ん、白・・・」
「なんで涙出るのか分かんねえけど、一個分かった・・・」
「なあに?」
「・・・俺、今しあわせなんだ・・・」
目を閉じて背を京楽に預ける白。
「僕もだよ・・・」
白を抱きしめながら穏やかに笑う京楽だった。


第5話へ続く



11/05/18作 独りきりだった冬を思い出し、今が夢なんじゃないかと怖くなった白ちゃんでした。
次は朝ご飯です。

11/05/21加筆

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