題「菩提樹〜夫婦の愛〜」5
 兄夫婦の屋敷を暇乞いして、帰り道で白が京楽に訊いた。
「あ、なぁなぁ、四番隊になんか礼した方が良いんじゃねえのか?」
「うん?どうしたの?」
「お前の事助けてくれたし、それに朝月の時も夕月の時も、その、なんて言うか、助けてくれたし・・・」
もじもじとしている白が可愛くてつい頭を撫でてしまう。
「そうだねぇ、お菓子なんか如何だい?みんな疲れてるだろうし、甘いものは疲れを取るって聞くよ?」
「お菓子?そうだなぁ・・・。うん、なんか選んどくよ」
「頑張ってね」

次の日、一護の所に来た白。
「京楽さん、早く退院できて良かったね。にぃに」
「おう!でも早くねぇか?」
「なんかね、特別な治療したらしいよ?卯ノ花さんのおかげだね」
「ああ・・・なんかお礼しなきゃな。何がいい?何が良いと思う?一護」
「卯ノ花さんに?」
「卯ノ花さんもだけど・・・四番隊のみんなにあげてぇ」
「うーん、そうだなぁ・・・クッキーなんてどう?一杯作れるし」
「いっぱい作れるのか、それ良いな。でも俺作れねぇ・・」
「生地は俺が作るから、形はにぃにが作れば良いよ」
「そうか・・?じゃあ、頼むな、一護」
「うん!」
二人で台所に行くと一護が白にエプロンを渡した。
「なんだ、これ?」
「クッキー作ってると粉で結構服が汚れるんだ、だからコレ着るの」
「ふーん、かっぽうぎみてぇなもんか?」
「そうそう」
一護が用意したエプロンを着けると、横で生地を作っている一護の手元をじーっと見ている白。
「バニラエッセンスでいい?」
「なんだそれ?」
「お菓子に甘い匂い付けるの。シナモンとかもあるよ」
と匂いを嗅がせる。
「くん・・・、ん〜こっちの甘い匂いのが良い」
「じゃ、バニラエッセンス入れるね」

生地が出来あがった。
「はい、にぃに。生地は出来あがったから後は形だよ」
「お。おう」
形・・・、何にしようかな?やっぱあれかな。
こねこねと何やら捏ねて形を作っていく白。
「・・・きつね?」
「ん・・・」
漸くひとつ。
「型抜きとかあるよ?そっちの方が簡単に出来るけど・・・」
「いい、自分で作る!」
「そう?俺も手伝おうか?」
「いい、俺が作って渡すんだ」
「じゃあ邪魔にならないように俺は洗濯してくるね〜」
「ん〜」
もう集中して捏ねている。

こねこね。こねこね。
「う〜、けっこう肩に来るなぁ・・・ん?」
視線を感じ顔を上げると窓から京楽が覗いていた。
「な!なにやってんだ!春水!お前今仕事中だろ!」
「え〜、だってこんなに可愛い白が居るんだもん!見たいじゃない」
「馬鹿!七緒に怒られんぞ!もう!」
鼻の下を伸ばしまくった京楽の背中を押して追い出す白。
「白ってばエプロン似合うね〜。割烹着も良く似合ってるけど、こっちはまた可愛いなぁ〜」
「うっせ!バーカ!バーカ!」
「やっぱりここに居ましたね、隊長。お仕事溜まってるんですから!早く戻って下さい!」
「ええ〜!」
「ええ〜じゃありません!どうしても白さんと居たいなら仕事を終わらせて下さい!」
「はぁ〜い・・・またね、白」
「ちゃんと仕事しろよ!」
「うん!」
台所に戻り、作業を続ける白。
「ったく、あの馬鹿・・・」
こねこねと作っていくが最初はあまり上手く行かなかった。
「あ、耳取れた・・・、着かねえな、しゃあねえこっちのに付けてっと」
即席剣八狐の出来上がり。
「耳なしは一角とやらでいいか」
丸い狐や四角い狐、三角の狐がたくさん出来た。
「ふわぁああ・・・、ん、最後は・・・」
最後に残った生地で何やら作りだした白。

洗濯を終わらせ、全部干した一護が台所に顔を出した。
「にぃに、出来た?にぃに?」
見ると白は作業台に突っ伏して眠っていた。
「疲れたのかな?にぃに、起きて、クッキー乾いちゃうよ」
ゆさゆさと揺さぶって起こす。その手の中には他の物より大きめのクッキーがあった。どこからかチョコペンを見つけたのだろう。
耳とヒゲが描かれていた。
「う、ん〜・・一護?」
「早く焼かないと夜になっちゃうよ」
「あ!俺寝てたか!?」
「うん、さ、焼こう。オーブンあっためるよ〜」
天板にクッキーを並べて、オーブンへ。
「たくさん作ったね、にぃに」
そのひとつひとつの狐には顔も描かれている。
「お、おう。お前らんトコのも・・あるからよ」
「ほんとに!ありがとう、にぃに!」
失敗したやつだとは言えない・・・。
並べたクッキーをオーブンへ入れると白はその前から離れなくなった。
「・・・・・・」
「・・・にぃに?」
「ん〜」
少しずつ膨らんできて、焼き色が付いていくクッキーから目が離せない白。
「やけどしちゃうよ!にぃにったら!」
「うん・・・」
もう鼻がくっ突かんばかりに見入っている。
「もう・・・あ、剣八」
「何やってんだ?さっきから。なんか甘え匂いがすんな」
ふんふんと鼻を鳴らす剣八。
「クッキー焼いてるんだけど、にぃにがオーブンから離れてくれなくて・・・」
見るとまるで子供の様にオーブンにくっ付いている白が居た。
「はぁ・・・」
剣八は溜め息を吐くと白の襟首を掴んで引きはがした。
「ぐえっ!なにしやがんでぇ!」
「鼻にやけどしてぇのか」
「むぅ・・・」
まるで猫の様な格好になっている。

チーン!
「あ、出来た」
「ほんとか!上手く出来たか?」
扉を開けると熱気と共に甘い香りが溢れてくる。
「ん〜、綺麗に焼き色も着いてるし、焦げても無いし、後は味見だね」
はい、と一つ白に渡す。
「ん・・・」
サク・・・、と食べる白。
「ん、美味いよ」
「良かった!ねぇ、この他より大きいのって京楽さんの?」
「う、うん・・・」
少し頬を染め頷く白に一護が、
「じゃあ特別だね!他のと分けて包もう」
キレイな白い大きな袋と可愛い花柄の新品のハンカチを白に渡す一護。
「これに包んであげると良いよ」
「ありがと、一護」
「うん。冷めてから袋に入れて持って行くと良いよ」
「おう」
白は比較的上手く作れたクッキーを袋に詰めていく。余ったクッキーは十一番隊と一護にあげた。
「おや、美味しそうな匂いがすると思ったら、お菓子作ってたんだね」
弓親と一角が顔を出した。
「一護じゃなく白が作ってるって意外だけどな」
「うっせぇ」
「これ、にぃにが食べって」
一護が差し出すクッキーを手に取り、
「これは・・・カバかな?」
「これは俺かよ?」
「う、うっせえな!美味かったら良いだろ!」
「そうだね、いただきます」
サク、と食べる二人。
「ん、美味しいね。形はともかくすごく美味しいよ」
「おお、美味いな」
「そ、そか・・・」
「これって剣八かな?」
「うん?みたいだな」
白はハンカチにクッキーを包むと袂に入れた。
「じゃあ、四番隊に行ってくるな。一護、ありがとうな」
「ううん、俺も楽しかった。また一緒にお菓子作ろうね」
「おう!」

四番隊。
「こんちは。卯ノ花さん居るか?」
「こんにちは、白さん!今お呼びしますね!」
「う、うん」
すぐに現れた卯ノ花隊長。
「こんにちは白君。どうかされましたか?」
「うん。あのさ、えっと。これ、食ってくれ」
白い袋に入ったクッキーを差し出す。
「これは・・・?」
「ク、クッキー。一護に手伝ってもらって作ったんだ」
「まあ、ありがとうございます。でもどうして?」
「春水助けてくれたし・・・。俺も子供産むときに、その・・・」
照れている様子ににっこりと笑うと、
「それが私たちの使命ですからね。でもとても嬉しいですわ。有り難く頂きましょう」
「よかった・・・!あ、味はいいぞ!一護が生地作ってくれたんだ!形は俺が作ったんだ!」
「まぁ・・・!ではお二人からの贈り物ですね」
「うん!」
二人でニコニコと話をして、
「あ、じゃあ俺は帰るから。またな!卯ノ花さん」
「はい、お気を付けて」
白が帰った後、四番隊隊士全員でクッキーをご相伴にあずかった。
それぞれ形も顔も違う狐のクッキーを手に、
「俺のはこんな顔〜」
「私のは丸くて可愛い〜〜」
と楽しいお茶となった。

帰り道で京楽と一緒になった。
「し〜ろ!四番隊に行ってたの?」
「春水。うん、卯ノ花さん喜んでくれた」
「良かったね。白、エプロン付けっぱなしだよ」
「あ!忘れてた!一護に返さねえと!」
「こんなに可愛い姿をみんなに見られたんだね〜、ちょっと悔しいなあ」
「ば、ばあか!あ、そうだ。春水、これやる」
袂からハンカチに包まれた何かを渡す白。
「何かな?今開けてもいい?」
「別に良いけど・・・」
ファサ・・・、と開けると中から出て来たのはチョコで顔を描かれた狐のクッキーだった。
「・・・もしかして・・・、これは僕、かな?」
「変か・・・?」
「とんでもない!とっても嬉しいよ!ああ!食べるのがもったいないなぁ〜〜!」
「あほか、腐るじゃねえか。食っちまえよ」
「うん!」
白の見ている前で幸せそうにクッキーを食べる京楽。
あんまり嬉しそうでこっちの顔まで弛んでしまいそうだ。
「美味しいねぇ・・・、白、お鼻に粉が付いてる・・・」
ちょん、と鼻を拭いてくれた。
「ん、ありがと」
その後、二人でエプロンを返しに十一番隊に向かった。

後日、白から貰ったハンカチを自慢しては白に怒られる京楽が居た。


第6話へ続く





10/11/26作 お菓子作りに挑戦!の白ちゃんでした!
次はなんのお話にしようかな・・・。




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