題「菩提樹〜夫婦の愛〜」6
 京楽が退院してから初めての隊首会が開かれた。会議が終わり各々が立ち去ろうとした時、白哉が京楽に話し掛けて来た。
「兄もなかなかにしぶといな。よくあの怪我から生き返ったものだ」
「ん〜?だってぇ〜〜。あんな白見たら、死ねないじゃない」
「そうだな。白の取り乱しようは尋常ではなかった」
「でしょ〜〜」
ニヤける京楽に、
「兄か死んだら、白は私が引き取るつもりであったが」
と呟く白哉。
「え!?ちょ・・・君、白を後妻に迎えるつもりなの!?」
「馬鹿な事を・・・。正式に烏帽子子として引き取ると言う意味だ」
「ああ・・・。でもなんでさ。白には僕の屋敷があるじゃない」
「兄は白を一人で屋敷に捨て置くつもりだったのか?子等が居ると言っても女子ばかりの屋敷なのだ、危険もあろう。朽木家であれば静かに安心して過ごせよう」
「それはそうだけどさぁ。でも、白を他の男の所には行かせられないよ」
と言いきれば、
「ならば、このような事が二度と無いようにするのだな」
と返す刀で釘を刺されてしまった京楽だった。

「まいったねぇ・・・。朽木君から釘を刺されちゃったよ」
「あの方も白君達が大切なのですよ。まるで嫁に行かせた娘と孫娘を可愛がっているようではないですか」
「卯ノ花さん。そうだね、彼がまだ赤ちゃんだった朔君や十六夜ちゃんを抱いてる時も、朝月や夕月を抱いてる時も幸せそうだものね・・・」

生まれ得なかった自分と愛する妻との子供。
代わりとは言えない、言わないけれど束の間の幸せを味あわせてくれる者達。
己の子もこの様に温かく、柔らかな存在だったのだろうかと・・・。手を握りしめる。
この幸福は壊させてはならないと思った。

そこへあの事件が起きた。信じられないくらいに取り乱した白。
もし最悪の事態になってしまった場合、身を挺して護ろうと決めた白哉。

隊首会が終わり昼休みになり、一度屋敷に帰った京楽。
屋敷では縁側で白い着物を見つめている白が居た。
「おや、何してるんだろうね?寒いだろうに・・・」
遠目でも分かるくらいに沈んでいる白、手の中の白い着物には何やら赤黒いシミの様な物が見えた。

乱菊から贈られた白と縹色の着物。綺麗な色で自分に似合うか分からなかった。
でも朝、出立の前にあの着物を着た白を見て、
「綺麗だねぇ、白にとっても似合ってるよ」
と春水が褒めてくれて、嬉しかったのにあの事件。
「血が、付いちまったな・・・。でもこれ。春水の血なんだよな・・・」
着物を握りしめて呟く白。
「白・・・」
京楽も自分の血だが、血まみれになった白を見て、衝撃を受け無かったと言えば嘘になる。
白に気付かれないうちにその場から消え、呉服屋へと瞬歩で向かった。

「し〜ろ!ただいま」
「春水、どうした?早いな。身体痛いのか?」
「違うよ。お昼休みだから寄ってみたの」
「ふうん・・・」
「白、プレゼントがあるんだけど、貰ってくれる?」
「ああ、取りあえず中に入れよ」
「うん」
白が居る縁側から中に入る。座ってからプレゼントを白に渡す。
包みを開けていくと、中から出て来た物は、純白の打掛けだった。
「春水、これ・・・」
「僕はもう大丈夫だから。ね?松本君には悪いけどそれは燃やしてしまおう?」
「ん・・・、うん」
京楽に肩を抱きしめられ、その肩口に顔を埋め甘える白。

庭で火を熾し、そこで血の付いた着物を燃やした。どんどん燃えていく。消えていく。
「火は・・・、火は穢れを浄化するって言われているんだ。これであの着物も僕の血も清められたよ」
「ん・・・、ありがと。春水」
昼休みの時間が終わり、仕事に帰る京楽。

残された白は夕月と一緒に一護の所へ行った。
「一護、ちょっと良いか」
「にぃに!うん、良いよ!」
「おう、ウルもここだったのか」
「うん、みんなで稽古してるよ。どうかしたの?にぃに」
「うん、あのな。ちょっと付き合って欲しいんだけどよ」
と先程の事を説明した。
「ふぅん。良かったねぇ、にぃに」
「ま、まあな」
「でな、春水に何かやりてぇんだけど何が良いか分かんねえんだ」
「う〜ん。お花とかどうかなぁ・・・。俺、お花貰うの好きだよ」
「花か・・・。何が良いかな?」
「卯ノ花さんに聞いてみる?お花の会やってるから詳しいよ?」
「そうなのか。じゃあ行く」
と夕月と一緒に四番隊に向かう白。

四番隊に着くと、
「こんにちは白さん!卯ノ花隊長ですか?」
「ああ、今いけるか?」
「ええ!すぐ呼んできますね!」
と忙しいだろうに嫌な顔されずに歓迎された。
「こんにちは白君。どうかしましたか?」
「こんにちは」
「うーはなさん、こんにちはです!」
「こんにちは、夕月ちゃん」
夕月を抱っこする卯ノ花隊長。
「え〜と、あのさ。聞きたい事が、あるんだ」
もじもじする白を見ながら、
「聞きたい事、ですか」
「ん、あのさ、春水に花やりてぇんだけど・・・、どんな花が良いのか分かんなくてさ。一護に卯ノ花さんは花にも詳しいって聞いたから・・」
「そうですわねぇ。白君でしたらアザレアなど如何でしょう?」
「アザレア?」
「ええ、西洋ツツジとも言いますわ。鉢植えで育てるんです、丁度今頃が花の盛りです」
「ふうん」
「花言葉も素敵なんですよ」
「花言葉・・・?なんて言うんだ?」
「アザレアの花言葉は・・・」

愛される事を知った喜び。貴方に愛される喜び。

「え・・・」
「ふふ、白君にピッタリでしょう?」
「あう・・・えと・・・」
ポンッと音がしそうな勢いで赤くなった白。
「一緒に買いに行きましょうか」
「う、うん・・・!」
花屋でアザレアを見せると、
「可愛い花なんだな」
「ええ、可愛くて華やかでしょう?」
どれが良いかなと色々見ていると、白にピンクの縁どりの物があった。
「これ、良いな・・・」
「ではそれにしますか?」
「うん!」
店の人に包んでもらい、受け取る白。
「きっと喜んでくれますよ」
「ありがとう卯ノ花さん。忙しかったのに」
「構いませんよ。久し振りに夕月ちゃんを抱っこ出来ましたし」
と夕月の頭を撫でる。
四番隊まで一緒に歩き、お礼を言って帰った白。

仕事が終わった京楽が屋敷に帰って来た。
「ただいま〜」
「おかえり〜!とと様!」
「お帰りなさい」
「お帰りなさい!パパ!」
「ただいま!白は?」
「居間に居るわ」
「パパ!早くママの所に行くです」
「はいは〜い」
居間に行くと難しい顔をした白が居た。
「ただいま。どうかしたの?白」
「あ、お帰り。いや、うん・・・」
「ママ?」
夕月に見つめられた白が、
「飯の後でな」
とあやしてやる。

食事が済み、寝室へ行くと白が、
「これ、やる」
と鉢植えのアザレアを差し出した。
「これは?」
「アザレア。今日、着物くれたし、その・・・」
「アザレア・・・。ん?」
鉢に付いていた花の名前が書かれた札の後ろに、色んな説明書きと花言葉を見つけた。
(愛される事を知った喜び・・・。あなたに愛される喜び・・・!)
「ああ、なんて愛しいんだろう!!愛してるよっ!これからも!もっともっと愛してあげるよ!僕の白!」
ギュッと抱きしめられた。
「良かった・・・」
「嬉しいよ、とっても・・・!」
「うん・・・」

翌日の隊首会でニヤけている京楽に総隊長の雷が落ちたが、速攻で惚気られ部屋中が甘い空気に満ちてしまった。

そんな事は露知らず、白哉の家に遊びに行く白と子供達。
「京楽に花を贈ったそうだな」
「・・・なんで知ってんだよ・・・」
「京楽がそなたから花を貰ったと隊首会で騒いでいたからな」
「・・・・あの馬鹿春水!」
「花言葉で想いを伝えるか、随分と風流だな」
「一護に言われたんだよ。・・花言葉は卯の花さんに教えてもらった」
「そうか」
「・・・あんたなら桑の花だろうな・・・」
「?」
「花って言えるほどのモンじゃないんだけどな」
「何故それが私なのだ?」
「 ・・・・花言葉が『共に死のう』なんだ。あんた、番いに先立たれてるだろ?貰うにしても贈るにしても、あんたに合うんじゃないか?」
「・・・私にはあり得ぬことだ・・・」
「そうかもしれないけどっ!あんた、生きてるじゃないか!番の相手だって生まれ変わるかもしれないだろっ!!」
「・・・!」
「愛してるんだろ?・・・だったら諦めんなよ!!」
「・・・そうだな(そなたは強いな)」
「・・・今度、木ごと贈ってやるよ」
「木ごと、か?」
「俺があんたに花贈るワケにいかねーだろうが!苗、贈ってやるから、それ植えて待っててやれよ」
「・・・・」
「花はめちゃくちゃ地味だけど実は食えるんだぜ?赤いうちは酸っぱいけど黒くなると甘くなるんだ。俺は結構好きだぜ、あれ・・・・、薬用効果もあるから無駄にはならねーぜ?」
「ふむ、では実がなったらそなたに贈るとするか」
「ははっ、それいいな。せいぜい枯らさねえよう気をつけるんだな」
「うむ・・・」

おやつの時間になり、子供達と白にお菓子を出す。
「びゃっくんのおうちのお菓子美味しいです。びゃっくんのお嫁さんになるです〜!」
「そうか、楽しみにしていよう」
とか言いつつお菓子差し出す。
「お前なんか変わったな」
「そうでもない。元より子供は嫌いではないからな」
「ふ〜ん」
そこへいつ間に来たのか、白哉の後ろに京楽が居た。
「く〜ち〜き〜く〜ん?ナニあっさり約束してんの!白も反対してよ!」
「アホか。でかくなったら忘れてんよ。十六夜のは特別だろ」
「でもさぁ〜」
ぐずぐずと白の膝に甘える京楽。お茶をすする白に白哉が労いを掛ける。
「お主も大変だな・・・、随分と大きな子供を抱えておる」
「まぁな、でも悪かねえもんだぜ」
「そうか」
「そうだ」
「朽木君、白を嫁に出した娘みたいに思ってない?」
「兄の様な婿などいらぬ」
「僕だって朽木君みたいな舅はいらないよ・・・」

ある意味、幸せな空気が漂っていた。


第7話へ続く




10/12/30作 白ちゃんからのプレゼントでした。暫くは惚気まくるとみた。
白と白哉は歳の離れた兄弟か親子みたいな感じですね。


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