題「菩提樹〜夫婦の愛〜」4
 翌日、京楽の実家に家族全員で訪れた。今住んでいる屋敷より各段に大きい上に立派だ。
「こんにちは〜。兄貴居るかい?」
「おお、よく来たな。上がりなさい」
「ん。さ、皆もお上がり」
京楽が促すと白に抱かれた夕月に続き朝月とウルが、
「お邪魔します」
とあがった。

大きな廊下を歩いている白がきょろきょろと周りを見渡し。
「白哉んトコと違うな」
と呟いた。
「朽木君の所と比べないでよ」
京楽が苦笑した。
「そう言う意味じゃなくてよ、なんて言うのかな?白哉んところは静かっていうか無駄なモンがねーんだよな・・・。 ここはなんかあったかい、俺たちのうちに似てる・・・」
「そう、ココはね僕が生まれ育った家なんだよ」
にっこり笑いながら白の頭を撫でる京楽。
「そうなのか・・・」
緊張気味だった白が警戒を解いた。


当主直々に客間まで案内され、中に入ると既に奥方が待っていた。
「まあ、来て下さったのね、嬉しいわ。ねぇあなた」
「うむ・・・」
そう応えると上座に座り脇息に寄りかかった。奥方はその隣りに座っている。
にこにこと柔和な笑顔で、その笑顔と雰囲気に緊張している白も安心してきた。
「じゃあ紹介するね。この人が僕の奥さんの白」
「こ、こんちは・・・」
「その隣りが長女の朝月」
「初めまして」
ちょこんと頭を下げる。
「で今、白が抱いてるのが次女の夕月」
「・・・はいめまして(はじめまして)こえでいいですか?ママ」
白を見上げる夕月。
「ああ、良く出来たな・・・」
「その向こうが、最近引きとった新しい子供でウルキオラ」
「・・・初めまして」
静かに頭を下げるウルに、
「君は・・・居候をしている子かい?」
そう聞いた瞬間、白が怒鳴った。
「居候じゃねぇ!こいつは家族だ。俺は他人と住む気はねぇんだよ!」
「これは失礼したね」
己の非を認め謝る兄に少し好感を持つ白。
「ウルも!俺の子だって何遍も言わせんな!」
「すみません」
「ウルさんとおっしゃるの?お母様に似て美丈夫ですこと。お嬢さん達も可愛らしくて将来が楽しみですわね」
「・・!ありがとうございます」
子供たちを褒められて誇らしい白と、そんな白と似ていると初めて他の人から言われたウル。
いつも通りの無表情ではあったが内心では泣きたいくらい嬉しかった。
そんな様子の二人を見て、柔らかく笑う京楽。
「お庭見てきて良いですか?」
と朝月が訊くと、
「ああ、構わないよ」
と優しい声で返事を返す兄。
「ここは自然な感じで良いよな、白哉の所は『造られた庭』って感じで雑草1本生えてねぇ」
あそこも良いけど、ここも落ち着く。座敷から庭を眺め白が言う。
白哉の庭は職人が腕によりを掛けて造った庭。ここはより自然に近い築山のようだ。
「そうだ、今ならアケビがなっているよ」
「採ってもいいんですか!?」
「いいんですよ、勝手に生えてきたんですから。時々、兎や狸なんかも来ますわよ」
「ホント!?わぁい、見たいなー」
子供達三人で庭に出て遊ぶ。
「可愛いこと・・・」
「そうだな、うちの子はもう大きくなってしまったからなぁ・・・。それに女の子が居ないからな、随分と華やかだ」
「そうですわね。白さんの弟様もお子様が居るのでしょう?ご一緒したいものですわ。お茶を飲んだり、そうだわ!貝合わせや双六で遊びましょう!和歌で遊ぶのもきっと楽しいですわ!」
ウキウキと身体中で楽しんでいる兄嫁に、
「なんだソレ?遊びなのか?」
「ええ、きっと楽しいですわよ!和歌を詠んで気持ちを伝えたり・・・」
「わか?よむ?」
?マークが飛び交う白に京楽が耳打ちする。
「あー・・・、パス!ワリィけど俺、字ぃ書けねえし、読めるのも春水の名前と俺の名前と家族の名前だけだし」
「あら、春水様の御名前は読めるのでしたらきっとすぐにでも覚える事ができますわ!それにもう私達は同じ一族なんですもの、ね?」

「・・・一族か、考えたこともなかったな」
「おや?白君にも一族はあるのだろう?」
「俺は一族とは絶縁関係にあるんだよ」
少し悲しそうな顔をした白。
「どうしてだい?」
「とと様が殺されたとき、俺は復讐するつもりだった・・・とと様は俺の目の前で、俺達の目の前で殺されたんだ、真っ黒な血を吐いて!
 それをあいつらは、それを見て笑ってたんだ!許せない!絶対俺が殺してやるって・・・!なのに、一族は『諦めろ』って俺に言ったんだ。『お前まで死なせる訳にはいかない』だから『忘れろ』ってさ・・・、だから俺は一族とは縁を切ったんだ」
ギュッと自分の体を抱きしめる白。
「・・・・・」
「俺はあいつらが仕掛けた毒饅頭であいつらを殺した。だけどお貴族様を殺したんだ、追っ手がひどくてよ・・・。俺は逃げて逃げて・・・巣穴だって何度も変えた。俺は、ずっと一人で生きてきたんだ」
「一族の方は助けては下さらなかったの?」
「復讐は俺が勝手にやったことだ、一族は関係ねぇ・・・縁も切ったしな。俺が一族を巻き込むわけにはいかねぇんだよ」

「君が殺した貴族は『病死』として届け出されていたよ。今更君が殺しただなんて誰も言わないし言えないよ。
彼らだって恥の上塗りはしたくないだろうしね」
「でも、俺が殺した」
「それは彼らだって同じだよ。それに君はもう充分に苦しんだ、これ以上罪を償うことはないんだよ」
静かに、だがきっぱりと言い切る兄。
「しかし兄貴、よく毒殺された貴族の事を知ってたね?」
優しく白の髪を梳きながら兄に聞く。
「一護君の父上が毒殺されたことは聞き及んでいたからね。お前がその兄を娶ったと聞いて調べたのだよ」
「それで?」
「それらしい時期に複数の貴族が同日に『病死』していた。しかも詳細不明でだ。おかしいと思うだろう?」
「それで探りを入れた・・?」
「わたくしが調べましたの」
「彼らはよくつるんでは悪さをしていたらしくてな。家名を守るためにひた隠しにしていたのだが、どうやら揃って毒饅頭で毒殺されたらしいと判ったのだよ」
「良くそんなことまで・・家の恥なんてそうそう調べられないしでしょう?」
「ほほほ、居るのですよ、殊更そういうことに詳しい方々が。言いますでしょう?『他人の不幸は蜜の味』・・・、
女性の井戸端会議を甘く見てはいけませんわ」
「・・・オンナは怖いねぇ・・・」
「とにかく白君は京楽家の一員だ。京楽家の名に掛けてこの事について騒ぎは起こさせないよ」
「良いのかよ・・・、俺なんかが同じ一族なんて・・・」
「何を言うんだい。君のどこに非があるのか、逆に問うてみたい。君は誇り高く、何より春水を愛してくれているじゃないか。
『京楽家の』、『次男』、『護廷の隊長』なんて肩書ではなく、『春水』と言う一人の男を愛している。私達にはそれで充分なんだよ」
「あ、ありがとう・・。俺も嬉しい・・・。また家族が増えた・・・」
「私も白君のような妹が出来て嬉しいよ」
「あら、白さんはわたくしの妹でしてよ?」
「やきもちかい?」
「お餅は嫌いじゃありませんわ」
「いもうとって・・・俺、男だぞ・・・?もち・・・?」
「まあいいじゃない。君は僕の奥さんであの子達のかか様なんだからさ」
「ん〜、そうか?」
庭から朝月が白を呼んだ。
「かか様〜ぁ!木の上のアケビが採れないの〜!手伝って〜!」
「あん?しょうがねえな・・・」
腰を上げ、庭に出る。
「どれだよ?」
「あそこなの。途中まで行けたんだけど・・・」
「お前ら木登りくらい身に付けとけよ・・・」
その場にしゃがみ込むと足袋と内掛けを脱ぎ、朝月に預ける。
「ちょ、白?」
「ちょっと待ってろ」
ひょいひょいと天辺近くまで登っていく白に歓声を送る子供達と、
「あああ!やめなさい!危ないから!白ぉ〜!」
「うっせえな!ウル!落とすから受け取れよ!」
「はい!」
口を開け、食べ頃になっているアケビを千切っては下のウルに渡す。
「こんくらいか〜?」
「ありがとー!かか様!」
「ったく!」
登る時と同じくひょいひょいと下りてくる白。
「すごいですわね!白さんたら、鮮やかでしたわ!」
「義姉さんてば・・・」
「ねえ、お、姉さんも食べる?」
朝月が話しかけると、
「まあ、お姉さんだなんて言われたの何年ぶりかしら?伯母さんにあたるのですからおばさんで良いのですよ?」
「そうなの?とと様?」
「うん、そうなるよねぇ。本人が良いって言ってるし良いんじゃないかな」
縁側に座って足の裏の汚れを払う白の所へ侍女がお湯の入った桶を持ってきた。
「な、なんだ?」
「御み足が汚れておりますので・・・」
「自分でやる!」
「ですが・・・」
「良いよ、僕がやるから」
袖を捲り、しゃがみ込む京楽。
「春水様御自ら・・・!」
「良いんだよ、さ、足貸して白」
「ん」
透き通る様な白い足の汚れを落とす京楽。
「さ!綺麗になったよ!」
と足を拭いてやり、足袋を履かせる。
「ん・・・さんきゅ」
いつもの事なので何とも思わない子供達が二人の周りに集まり、採れたアケビを縁側に広げる。
「ねえ、早く食べようよ」
「そうだねぇ、兄貴、義姉さんも」
「ああ」
「はいはい」
「夕月は初めて食うんだよな」
「はいです。美味しいですか?」
「甘くて美味いけどな、種が多いんだよな〜」
とろっとした実を指で掬い、夕月の口に運ぶ。
「あむ・・・!ちゅ!」
「美味いか?」
「甘いです!なんかプチプチしたのがあるです」
「それが種だ、食べるなよ。プッて吐き出せ」
「む、む、っぷ!」
種を吐き出した夕月の口に次を運ぶ。
「なあ、さっき気付いたんだけどよ。あの木って桑だよな?」
「ええ、そうですよ」
「僕が子供の時からあるんだよ〜」
「ふうん・・・」
「白、桑の実好きなのかい?」
「ん?ああ、木いちごも好きだけどな。よく毛皮が真っ黒になるまで食ってたな」
「そうなの。もう季節は過ぎちゃったけど、この実がなる頃にまた来ようね?」
「ん・・・実も好きだけどな花も好きなんだ・・・」
「花?見たこと無いけどなぁ」
「ふふ、地味だからな。卯ノ花さんに教えてもらったんだけどよ、花って花ことばってあるんだってな」
「ああ、あるねぇ。薔薇とか有名だよね」
「ん・・・、桑の花言葉はな・・・」
「うん」
「『共に死のう』・・・だってよ」
「おや、怖いね」
「そうか?俺達みたいで良いじゃねえか。それによ、どっちも置いていく事も置いてかれる事もねえっていいじゃねえか。今度白哉に苗木でも贈るかな」
「・・・なんで朽木君な訳?」
「あいつは番いに先立たれてるんだろ・・・?」
「うん・・・」
「生まれ変わった番いがまた白哉のトコに来るかも知れねえじゃん!だったら今度はよ、今度こそはさ・・・」
「うん、そうだね。今度一緒に苗木を見に行こうか」
「うん」
京楽の肩に凭れる白と甘えさせる京楽。そんな二人を目を細め見つめる兄夫婦が居た。


第5話へ続く





10/11/08作 本家とのやり取りでした!
次〜、次〜・・・!四番隊にお礼を持って行く白にしよう!

10/11/26 ちょこっと加筆修正


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