題「菩提樹〜夫婦の愛〜」3
  翌朝。
「あ、白さん来てるね」
「ああ、ホント。看板出しとかなきゃね」
京楽の病室から漏れ出るピンクのハートに隊士たちは少々当てられながらも見守っていた。
「ん、ん!あッ!あ〜・・・っ!」
「く!」
はぁっ!はぁっ!と荒い息を整えながら、
「早く退院しやがれ・・・!お前居ないと蒲団が、冷たいんだよ!」
「ごめ〜んね、僕も早く帰りたいんだけどね〜」
お湯で搾ったタオルで白の身体を清めた後、自分の身体の処理をする。
「あのさ、白・・・」
「ん・・・?」
腕枕をされてウトウトしている白に昨日、兄に言われた事を話した。
「一度僕の実家に行かないかい?子供達も一緒に」
「は?」
「兄貴がさ、紹介しろって言って来たんだ」
「え、あの、だって・・・」
「大丈夫、ちゃんと認めてくれてるから・・・」
「だって、俺なんかが行っていいのかよ・・・」
「当たり前でしょう!僕の奥さんは君以外居ないんだから!」
「う・・・。お前がいいなら、行く・・・」
「良かった。退院したら行こうね」
「うん・・・」
看護の隊士が来る前にと帰っていく白。

「そんなに急がなくても誰も来ないんだけどね・・・」
と呟いていると卯ノ花がやって来た。
「白君はお帰りですか?」
「うん。ねぇ僕いつ退院出来るの?白が寂しがってるんだよね」
「そうですね、検査をして異常が無ければ今日にでも出れますよ」
「え、そうなの?早くない?」
「白さんを一人にしておけないでしょう?特別な治療を施したのですよ」
「そう、ありがとう卯ノ花さん」
「いえ、それより彼を本家に連れて行くのですか?」
「うん、兄貴がね、ちゃんと紹介しろってさ」
「あの方ならば、色眼鏡で見ることはないでしょう」
「奥さんも気に掛けてくれてるみたいでね」
「良かったこと・・・」
穏やかに笑いながら京楽の検査をするために診察室へと連れだって行った。

昼過ぎに子供を連れて見舞に来た白が土産にリンゴを持ってきた。
「やあ美味しそうだねぇ」
とニコニコ笑っていると白が、
「茶、入れてくる」
と席を立ちリンゴを一つ持っていった。
「かか様遅いね〜」
「見て来ましょうか?」
「大丈夫だよ、何かあっても卯ノ花さんも居るしね」
パタンと扉が閉まりそこに白が居た。
「ありがとう」
「ん・・・」
「おや・・・?」
「リ、リンゴ・・・剥いたから・・・」
「可愛い!ウサギさんだ!」
朝月が喜んでいる。
白は両手を着物に袖の中に隠している。そんな様子の白を見て、
「随分と元気の良いウサギだったみたいだね」
その手を取り、
「捕まえるのが大変だったでしょ?」
ちゅ、と絆創膏だらけの指先に口付けた。
「ん・・・!さっさと食えよ!」
「うん、いただきます」
しゃくしゃくと美味しそうに食べる京楽。
「とと様、あたしも〜」
「ん?はい、あ〜ん」
「ん!美味しい!」
「朝月、昨日ちゃんとご飯食べれたかい?」
「食べたわ、朝もちゃんと食べた!」
「・・・おかずはりんごでしたが・・・」
「へ・・?」
「・・!ウル!余計なことは言うな!」
白を見ると頬をリンゴの様に紅く染めていた。
「ありがとね、白」
「ふん!・・・夕方にまた来る・・・!」
そう言って帰る白。扉からそぅっと顔を出し辺りをきょろきょろ見回す。
「何やってるの?かか様」
「へ?い、いや、なんでもねえ」
「変なかか様」
その後ろ姿をくすくすと笑いながら見つめる京楽だった。

夕方に訪れた白が目にしたものは、きちんと片付けられたベッドとその脇にある椅子に座っている京楽だった
「もう退院出来るって〜」
と報告すると、
「早くないか?大丈夫なのか?ちゃんと治ってるのか?」
と矢継ぎ早に質問攻めにされた。
「そんな泣きそうな顔しないで。大丈夫だよ、卯ノ花さんが太鼓判押してくれたからね」
「そか、なら良いけど・・・」
夕月を抱きあげながら京楽が、
「さ、おうちに帰ろう」
「お、おう」
最小限の荷物を持って部屋を後にする二人。途中、廊下で卯ノ花に会った。
「こんにちは、白さん。京楽隊長はもう大丈夫ですからね、安心なさってくださいな」
「う、うん。ありがと・・・」
「夕月ちゃんもお元気そうで安心致しました。それでは」
と会釈をして去っていった。
「さ。白、帰ろう」
「ん」
二人で家路を急いだ。

屋敷で家族そろって夕飯を食べ、子供達が寝静まると白と京楽だけの時間となる。
「白・・・」
白の身体を抱き寄せる京楽。
「春水・・・!俺、怖かったんだからな!・・・あんたっ!あんたが死んだらどうしようって!ホントに怖かったんだからなっ!!」
一つの蒲団の上で身を寄せ合いながら心の内を吐露していく。
白の髪を撫でながら京楽も口を開く。
「僕も・・・、怖かったよ。ねぇ覚えてる白?君が出て行った時の事・・・。君を巣穴で見つけた時、どんなに呼んでも君は目を開けてくれなくて・・・、あんなに綺麗だった毛並みもバサバサになってしまって、抱き上げたら羽の様に軽くて・・・このまま砂の様に崩れて消えてしまうかと思ったよ?」
その時の事を思い出しているのか、ひどく悲しげな目で見つめられ白は胸が苦しくなった。
「あ・・・ごめん・・・」
「君は何も悪くないのに、こんな僕を愛してくれたのに、どうして護ってやれなかったんだろうって・・・。君が死んだらどうしよう、生きていけるのかなって怖くて怖くてどうしようもなかった・・・!」
「ごめ・・・ごめんなさい、もう、もう離れないから・・・っ!」
「ゴメンよ、あんな辛い思いを君にもさせてしまって・・・。君に誓うよ。君にだけ誓う。もうあんな思いはさせない。
僕は死なない、君を置いて独りにしないよ」
「お、俺も!俺も誓う!俺も春水から死んでも離れないから!!」
「ああ・・・白。愛してる、とても・・・!」
やっと家に帰って来れた。落ち着ける場所での愛の確認。
「白、白・・・」
幾度も呼ばれるその声に、
「ああ・・・春水・・・。もっと、もっと呼んで・・・。その声で、俺も呼ぶから・・・!春水!」
「白!ああ白、しろ・・・」
身体中に愛撫を施す京楽。
「あ、んん!ひげ、くすぐった・・・い・・・ひぁ!」
「すぐに善くなるよ・・・白・・」
「ああ・・・しゅんすい・・・」

はあ、はあ、と息も荒いまま京楽の胸に耳を押し付ける白。
「あのな春水・・・」
「うん?」
達したばかりで力の入らない腕で京楽の胸を撫でまわす。
「俺、ここ出て行った時な、お前の心臓になりたいって思ったんだ・・・」
「どうして・・・?」
「だってお前の身体の一部になったらさ・・・、離れることないじゃねえか。それに・・・」
「それに?」
「それにお前が・・・、喜んだり、悲しんだり、びっくりしたりするのさ、同じ様に感じられるんだろうなって・・・死ぬ時も一緒で最後まで離れないで良いんだって思ったんだ。けど・・・」
「・・・・・・」
「俺、お前の手、好きだ。大きくって優しくって、いつも俺の髪を撫でてくれる」
ん・・・、と京楽の指を口に含む白。
「は・・・、同じ身体になったら撫でてもらえねえなぁって考えたら可笑しかった」
すりすりと顔を擦り付ける白。
「そうだね、二つの身体に別れてるから愛し合えるんだよ。僕も君に触れて居たいもの」
「春水」
「ねぇ、明日なんだけど僕の実家に行ってくれるかい?もちろん子供達も」
「ん・・・ウルも・・・?」
「もちろん」
「行く・・・」
そう呟くと眠りについた白。


第4話へ続く





10/10/28作
次は京楽さんのご実家です。白の反応は?




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