題「ホワイトデー」狛村編
 3月14日はホワイトデー。女の子にチョコレートを貰ったらお返しする日。

狛村は悩んでいた。
それは先月のバレンタインデーに十六夜からお菓子を貰ったのだ。プレーン味とチョコ味のカップケーキを貰った。
そのお返しに3月14日に何かプレゼントするらしい。と聞いたが何をあげて良いやら分からないのだ。

「ふうむ・・・、困った。誰ぞに相談するにしてもな・・・」
と呟きながら隊首会へと出向いた。

「以上じゃ。解散!」
隊首会が終わり、皆が出ていく時、狛村は京楽を呼びとめた。
「京楽よ、少し良いか?」
「ん〜?なんだい、狛村君?」
「いや貴公は、そのおなごの、なんだ、欲しがる物に詳しいか?」
「女の子の?なんでまた?ああ、なるほどね」
「な、なんだ?」
「う〜ん、その話は僕より女の人に聞いた方が良いと思うよ。ああほら、松本君とかさ」
「松本にか?ふうむ・・・。そうだな。その方が良かろう。すまんな、急に呼びとめてしまって」
「なあに構わないさ、僕も奥さんにお返ししなきゃなんだ〜」
「そうか」
そして十番隊へ向かう狛村。

「すまん、日番谷はおるか?」
「なんだ・・・?珍しいな狛村隊長」
「うむ、頼みがあってな。松本は今・・?」
「居ねえ。サボりだ!」
「そうか、では帰って来たら伝えて貰えるか?少し用に付き合って貰いたいのだが・・・」
「分かった。伝える。昼休みにでも来たら居る様にする」
「感謝する」
そのまま自隊へと帰った狛村だった。
「松本になんの用があったんだ?」

「たっだいま帰りました〜!隊長!」
「どこでサボってた?」
「いやだなぁ、サボってませんよぅ」
「まあいい、ああさっき狛村が来たぞ」
「狛村隊長がですか?」
「ああ、何でもお前に用があるそうだ。昼休みまでここで仕事しろ!」
「はあい」

昼休み、狛村がやって来た。
「松本はおるか?」
「いますよ〜。なんですか?あたしに用って?」
「ああ、その、おなごの欲しがる物が分からんでな。教えてもらえると助かるのだが・・・」
「ああ!良いですよ!どんなのが似合いそうな子なんですか?」
乱菊は十六夜の事だとすぐに感づいたが素知らぬ振りをして訊いてみた。
「ふむ、色は赤が似合うな。まだ子供故、長く使える物が良いのか、こう、食べる物が良いのか・・・」
「そうですねぇ・・・、あたしだったらアクセサリーとか貰うと嬉しいですけど?」
「あくせ・・・?」
「首飾りとかですよ。着物の帯どめとか、簪とか!」
「ふむ、簪と帯どめが良いかな」
この間着ていた可愛い着物を思い出す。
「じゃああたしが良く行く呉服屋に色々ありますから行きますか?」
「ああ、助かる」
今日中に渡してやりたい。と案内してもらった。

「ここですよ〜」
「ほお、中々立派な店だな」
「だから良い物が多いんですよ。狛村隊長、真心には真心で応えなきゃ男が廃りますよ!」
「むう、そうだな。精一杯選ばせてもらおう」
鷹揚に頷くと一緒に店に入った。
「飾り物のコーナーはこっちですよ」
「うむ」
煌びやかな飾り物がたくさんあって目移りしてしまう狛村。
「ううむ、こんなにも多い物なのだな」
「ですよ〜。シンプルな物が似合いそうですか?豪華な作りの物が似合いそうですか?」
「・・・儂から見れば・・・、シンプルな方が似合うと思うが」
「じゃあ、それを頭に置いて選んでいけば良いんじゃないですかね?あたしが言えるのはここまでですよ。後は狛村隊長が選ばなきゃ!」
「そうだな、足労を掛けたな松本。礼を言わねばならん」
「良いですよぉ!あ、お礼の代わりに事の顛末を聞かせて下さいよ!」
そう言って帰っていった乱菊だった。
「顛末なぁ、さてと、良く選ばなければな」
と真剣に吟味しだす狛村だった。

 その日の昼休みを大幅に超えて隊舎に帰って来た狛村の手には可愛らしい包みが乗っていた。
「鉄左衛門、今日は十六夜はもう来たのか?」
「や、まだですが・・・」
「そうか、なら良い」
隊首席の机の上の包みに気付いて、何も聞かない射場だった。
喜んでくれると良いのだがな。と思いながら書類に筆を走らせる狛村。

「狛むー、遊びに来たよー!」
と十六夜が顔を出した。
「おお、今日は遅かったのだな」
「うん、なんかとと様とかか様が微妙だったの、幾望が泣いちゃったから」
「微妙?」
「うん、なんか緊張してるみたいな?変よね?」
「そうだな・・・。縁側に行くか?」
「うん!」
席を立つ時、十六夜にバレない様に包みを袖に隠して縁側に出た。
「なんだか今日はみんなざわざわしてるわ。落ち着かない。でも狛むーはいつもと同じね、安心するわ」
と笑いかける十六夜。
「お茶です」
と隊士がお茶とお茶菓子を持って来た。
「じゃ、ごゆっくりどうぞ」
とすぐに下がった。
「いただきます。今日はね、朝月のトコも変だったって。朝月のとと様が朝からご機嫌だったって」
「ほう・・・では奥方から何か貰ったのだな、京楽も」
「なにかって?」
「ふむ、今日は3月14日だな」
「そうよ?それが?」
「丁度バレンタインから一ヶ月たった日でな、男がお返しを渡す日なのだそうだ」
「そうなの。ああ、それで皆ざわついたりそわそわしてたのね」
「うむ、それでな十六夜・・・」
「なあに?」
「これをお主にと・・・選んだのだが」
と袖から包みを取り出す。
「・・・え、・・え!あ、あたしに?!」
「そう言っておる」
少し困った顔になる狛村。
「そんな、でも、あの!」
「どうした?何か間違っておるのか?十六夜は儂にバレンタインに菓子をくれたであろう?ちゃんとチョコでもあったぞ?」
「でも、あたし、狛むーから、お返しがくるなんて思ってなかったし!」
真っ赤になって必死で言う。
「何故だ?」
「だって・・・、バレンタインだって言わなかったから・・・」
「儂も知らなんだ。だから周りに訊いた。そう言う行事があるとな」
「うん・・・」
「十六夜、儂は初めてだったぞ?あのように美味い菓子を口にしたのは」
「あう・・・」
恥ずかしくて耳をぺたんと倒してしまった十六夜。
「真心には真心で返せとも教わった。受け取っては貰えぬか?」
「ありがとう、狛むー・・・」
大きな手の中の包みを小さな手が受け取った。
「開けても良い?」
「もちろん」

カサカサとゆっくり、大切に開けていくと中から、簪と帯どめが出て来た。
「気に入ってもらえると良いのだが・・・、儂はそういう物を選んだことがないのでな・・・」
と困ったように頭を掻いた。
十六夜の白い手に乗った簪は赤いとんぼ玉が付いており、雲母で模様が描かれている。その先には細い鎖で繋がれた小さいとんぼ玉と鈴が付いていて、ちりちりと涼やかな音を奏でている。
帯どめは、真っ赤な椿の花を模った物だった。
「やはり、気に入らんか・・・?」
十六夜は贈り物を、きゅっと握り締めると狛村を見上げ満面の笑みで応えた。
「ううん!嬉しい!・・・どうしよう、こんなにキレイな物・・・。あたしに似合うかな・・・?」
「似合うとも、赤い色はお主の黒髪と白い肌によく映える」
「嬉しい、かか様に報告しなきゃ!」
嬉しさに尻尾が千切れんばかりに振られていた。
「喜んでもらえて儂も嬉しいぞ」
と優しく笑う狛村。

「あ、もう帰らなきゃ・・・」
「もうその様な時間か、引き留め過ぎたな」
「ううん!またね!狛むー!」
「ああ、またおいで」
狛村のホワイトデーは成功した。

後日、乱菊に喜んでもらえたとだけ告げた狛村だったが、十六夜からちゃんと聞いていた。
「良かったですね、狛村隊長」
とだけ返しておいた。





第2話へ続く




10/03/14作 第139作目です。狛むーと十六夜のホワイトデーでした!さてお次は?

言わずもがな、大人組です。





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