題「恋する人形」9 | |
現世から戻ると自室へ帰った一護。 ベッドの上に今日買った物を広げ、明日隊舎に持って行く物を纏めておく。 新しい洋服を眺めつつ、非番の日に袖を通そうとタグを外し洗濯カゴに入れた。 料理の本とカフェエプロンを交互に触り、本のページをめくっていく。 ペラ・・・、ペラ・・・、と中を眺め、 「あ、これ美味しそう・・・」 と呟いた。最近食事が楽しみの一つになっている一護は自分でも何か作ってみたいと思い始めていた。 「これだとパンだし俺でも作れるかも・・・」 などと言っているとドアがノックされた。 「はい、どなたでしょう?」 とドアを開けると卯ノ花隊長が立っていた。 「おかえりなさい一護。現世はどうでしたか?」 「卯ノ花様!はい、楽しかったです。あ、どうぞお入りください」 部屋に入ると卯ノ花隊長は一護がまだ義骸に入ったままなのに気付いた。 「一護、まだ義骸のままなのですか?」 「あ、忘れていました。これは脱いだ後どうすればいいのでしょう?」 「そうですね、技局に返すのが普通です」 「そうなのですか。では汗も掻いた事ですのでこのままお風呂に入って綺麗にしてお返ししますね」 「そうですか。あら?お料理の本ですね」 「あ、はい。俺も料理を作りたくなったもので買ってみました」 「そうですか。レシピを見ながらならきっと大丈夫ですよ」 と目を細めた卯ノ花隊長。 「あ、卯ノ花様これを・・・。お土産に買ったのですが・・・」 と小さな紙袋を手渡した。 「私にですか?まあ何でしょう?」 カサリと音を立て中から髪留めを取りだした。 「まあ・・!可愛らしい。これを私に?」 「はい、喜んで下さると嬉しいのですが・・・」 不安そうに見上げる一護に優しく微笑んで、 「ありがとう一護。とても嬉しいですわ。綺麗な花飾りですこと」 と言って紙袋にしまった。 「今日の夕飯はどうしますか?」 「あの、シャワーを済ませて技局に義骸を返してから、作ってみたいので買い物に行ってまいります」 「そうですか、頑張ってくださいな」 「はい!」 そう言って卯ノ花隊長は帰って行き、一護はシャワーを済ませ義骸を脱ぎ私服の着物に着替えて出掛けて行った。 最初に技局により義骸を返却すると食材を買う為に市場へ向かった。 「さて、何を作りましょうか・・・」 最初は簡単なのが良いか・・・。朝の分とお弁当も作ってみたいし・・・。と考えながら買い物を済ませて行く。 調理器具は簡易台所で借りることが出来るから、後は食器とお弁当箱・・・、どんなのが良いかな? 「あ、コレ良いな・・・」 と一護が目に止めたのは竹で編まれたバスケット型のお弁当箱。 「これならおむすびでもパンでも両方に使える」 とそれを買い求めた。 買い物を済ませ、夕食を作る一護。 まずは簡単な物からという事で野菜炒めを作った。それとご飯と味噌汁。ちゃんとレシピ通りに作れた。 味見をする。特に不味くはないが物足りない。 「まあいいか」 と食事を済ませた。 「朝はパンを食べよう。お弁当は・・と」 と考えていると何やら楽しかった。 翌朝、一護はトーストを焼いてそれにバターを塗り、ハムエッグとコーヒーの朝食を作った。 お弁当はおにぎりと玉子焼きにウィンナーとアスパラとキノコのベーコン巻と残り物の野菜炒めを入れて完成。 足りなければ外で買って食べれば良い。きちんと後片付けを終えるとエプロンを畳んで出勤の用意をする。 遅刻する事無く十一番隊へと出勤した一護。初めて作ったお弁当にわくわくしながら仕事を始めた。 「おはよう、一護君。あれ、今日はヴァイオリン置いて来たの?」 「おはようございます、綾瀬川様。はい、今日は荷物があったものですから」 「そうなんだ」 二人で執務室へと入る。 「おーす、昨日は楽しかったか?一護」 と既に居た一角が声を掛けて来た。 「はい、とても楽しかったです。あ、そうだ!お二人にお土産があるんです」 と袋から何やら取りだした。 「こちらが綾瀬川様。こちらが斑目様です。お気に召して下さったら嬉しいです」 「わ、ありがとう」 「ありがとよ」 中を見てみるとガラス玉で花をあしらったヘアピンが数本出て来た。 「わぁ!とても美しいね。ありがとう一護君」 一角のは朱色で描かれた鬼灯(ほおずき)の絵の湯飲みだった。 「へえ、渋いじゃねえか、あんがとよ。おい、隊長にはねえのか?」 「ありますよ?でもまだ居らっしゃらないので」 一護は二人が喜んでくれたのが嬉しかった。 「おっはよーう!いっちー!ゆみちー!つるりん!」 「おう」 「おはようございます、隊長、副隊長」 「おはようございます、隊長。そのあだ名止めろつってんだろ、ドちび!」 「おはようございます、更木様、草鹿様」 いつもの挨拶を済ませ昨日の土産を渡す一護。 「なんでぇこりゃ?」 「昨日現世で買いました。お土産です」 「ふうん・・・」 中を開けると酒徳利に杯が二枚入っていた。 トロリとした白磁器の酒器、杯は見込みに紫の線が描かれた物と紅い線が描かれた物だった。 「ほお、夫婦か?」 「?何ですか、それ?」 きょとんと首を傾げる一護。 「知らなきゃ良い。まぁ、また晩酌に付き合えよ一護」 「はい、その時は何かお作りしますね」 「ぶー!みんなばっかりずるいー!あたしには無いの〜?」 「副隊長、あんた昨日現世に行ったんでしょ?」 「それとこれとは別なのー!」 駄々をこねるやちるに包みを手渡す一護。 「もちろんございますよ。どうぞ」 「わーい!やったぁ!何かな?なにかな?」 びりびりと袋を破いて中から取り出す。 「わー!可愛い!首飾りだぁ!」 「昨日買ったお洋服に似合うと思いましたので買ってみました。いかがでしょう?」 「ありがとう!すっごい嬉しい!いっちー、大好きー!」 そうしていつもの仕事が始まった。 書類仕事を済ませ、怪我をした隊士の治療を済ませるともう昼食の時間になっていた。 「ふう!もうお昼ですね。早いなぁ」 「御苦労さま!お昼食べておいでよ、一護君」 「あ、はい。それでは失礼します」 隊首室の自分の机の上に置いてあったお弁当箱を縁側に持って行くとお茶を入れに行った。 戻ってくると縁側にはやちるがいた。 「草鹿様?どうかされましたか?」 「あ、いっちー。ううん、コレ誰のかなって」 と指差す先は自分のお弁当箱。 「それは俺のですよ。これから食べようかと思いまして」 「え、いっちーお料理出来たの!」 「初めてですよ。本を見ながらやっと出来ました。ご一緒しませんか?」 「良いの?」 「ええ、足りなければどこかに食べに行こうと思っていましたから」 「わーい!」 パカッとお弁当箱を開けると中を覗きこむやちる。 「わ〜!おいしそ〜!」 「おにぎりは4つなので2つずつしましょう。中の具はおかかと麦みそです」 少し大きめのいびつなおにぎりを頬張る二人。 「ん〜!おいっし〜い!」 「良かったです」 仲良く半分こする二人。 「何やってんだ、二人で」 「あ、剣ちゃん!これね、いっちーの手作りのお弁当なの!すっごく美味しいの!」 「へえ・・・」 「そんな、普通ですよ。あの、よろしかったらどうぞ・・・」 一つ残ったおにぎりと玉子焼きを差し出してみる。 無言のまま、二口でおにぎりを食べ、玉子焼きも残さず食べた。 「ふん、まあまあだな」 ぺろりと親指を舐めながら呟くと隊首室に戻った剣八。 「お口に合わなかったのでしょうか?」 「そうじゃないよ。美味しかったんだよ、剣ちゃん照れ屋さんだから」 「そうなのですか?なら嬉しいのですが・・・」 「でもいっちーおむすび一個しか食べれなかったねぇ」 「良いんですよ、美味しく食べていただけましたし」 お茶を啜ると、ほうっ、と息を吐いた。 「じゃあ!じゃあ!あたしと一緒にお菓子食べに行こ!」 「お菓子ですか?」 「うん!お弁当の御礼!」 「ありがとうございます。ご一緒いたしましょう」 弁当箱を片付けてやちると一緒に出掛ける一護。 「どこへ行かれるんですか?」 「うっきーのトコ!いつもお菓子い〜っぱいくれるの!」 「浮竹様の・・・。お身体が弱いとお聞きしましたが大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ!いつも元気だもん!」 「そうですか・・・」 「あ!あそこだよ!」 やちるが指差した先には池の上に立てられた庵があった。 「雨乾堂っていうんだよ!うっきー!」 遊びに来たよ〜!と元気良く中に入って行った。 「お邪魔いたします」 「おお、草鹿じゃないか!いつも元気だなぁ!お菓子食べるかい?」 「うん!今日はね、いっちーと食べに来たんだよ!」 「はっはっ!何人でも良いぞ!お菓子はたくさんあるからな!」 豪快に笑いながらも一護とやちるにお菓子とお茶を出すよう隊士に言う。 「いったっだきま〜す!」 「いただきます」 お菓子を食べながら楽しそうに話をするやちると浮竹を見て微笑ましいと思う一護。 「一護君は元四番隊なんだって?」 「はい、今は十一番隊専属の看護士です。お役に立てていると良いのですけれど」 「立ってるさ。卯ノ花隊長が言ってたぞ、十一番隊隊士の喧嘩が無くて助かるってな!」 ははは!と笑う浮竹に、 「もう〜、暴れるのは下っ端だけだもん!」 と頬を膨らますやちるが居た。 「草鹿様、もう昼休みが終わりますよ」 「じゃあ帰ろっか!またね!うっきー!」 「お暇いたします」 「ああ、またおいで」 そうして自隊に帰ってゆく二人だった。 第10話へ続く 10/11/06作 お料理に目覚めて来た一護。さて次は? |
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