題「恋する人形」5 | |
道場に入った一護は呆然とした。 そこには怪我をしたまま木刀を握り、稽古と称したどつき合いが繰り広げられていたからだ。 ふぅ・・・と息を吐くと邪魔にならない様に入り口の辺りに座っていると剣八が現れた。 「おう、ちゃんとやってんな」 「お疲れ様です!更木隊長!」 と全員が挨拶をした。 「おう、一護ここで何やってんだ?」 「はい、怪我人が居るので治療の為にここに居ます」 と救急箱を撫でて、 「ですが皆さんの稽古が中々終わらなくて・・・、休憩に入ったらと思いまして」 そう締めくくった。 「ふうん・・・、おら!てめえら!もう酒も抜けただろ!終わりだ終わり!」 剣八が号令を掛けると稽古を終わらせる。怪我人の所へ行く一護。 「ちょっと失礼しますね?」 と髪に隠れた切り傷を見ていく。 「少し深く切っていますね・・・、染みるかも知れませんが・・・」 「こ、こんなモン傷のうちに入らねえよ!」 と暴れて治療させてくれない。 「暴れないで下さい、打ち身もあります」 と宥めるも聞かない隊士に一護が一つ溜息を吐くと無言で下顎に拳を叩きこんだ。 「んなっ!」 それを見ていた他の隊士が驚いていた。殴られた隊士は気絶したので一護はさっさと治療していった。 「テメェ!何しやがる!」 と怒鳴られ、 「? 治療です、いけませんか?」 「ち、治療って、お前殴ってんじゃねえか!」 「大人しくして下さらないからです。貴方がたの治療が俺の仕事ですので」 さくさくと治療を終え、他の隊士に向き直り、 「さ、他の方も、こちらへどうぞ」 と自分の前を指差すが誰も座らない。 「来ないのなら、こちらから行きます」 すっ、と立つと次の怪我人の前に行った。 「さ、手をお出しになってください」 「怪我なんかしてねえよ!」 「しているでしょう。ここに痣もあります。さ・・・」 「うるっせえな!良いっつってんだろ!大体!最前線じゃあこんなモンかすり傷なんだよ!」 「なら、その我慢は戦場に居る時に使ってください。ここは戦場ではありません・・・!」 少々語気が荒くなってきた一護。 「はっ!最弱部隊がいうじゃねえかよ!戦場にも出れねえくせに!」 その言葉にカチンと来た一護。 「・・・戦場に出た人達の怪我を治し、病気を治すのが四番隊の仕事です、それを悪く言わないでください・・・」 と睨みつける。 「なんだ?やんのか?良いぜ、来いよ」 と挑発するその隊士に向かい、下顎を掌で打ち上げ死覇装の袷を掴むと足払いを掛けひっくり返した。 「どうしました?最弱部隊の一人に投げられて・・・。具合でも悪いのですか?怪我が痛みますか?」 と冷ややかに言われた。 「ぐ・・・」 「ほら、万全な体調を保っていないと足元を掬われてしまうのですよ」 と優しい声で言うと治療を始めた。 「すごいですねー、一護君」 いつの間に来たのか弓親と一角が居た。 「飴と鞭の使い方が卯ノ花隊長そっくりですね。さすが可愛がられてるだけあるなぁ」 「怖ぇな」 ふ、とこちらに気付いた一護が、 「綾瀬川様、斑目様、お仕事はお済ですか?」 「うん、大体ね〜。もうお昼だからね、一護君副隊長と約束あったでしょ?」 「あ、はい。丁度この方で終わりです」 と包帯をするすると巻いていく一護。 「今日はお風呂に入ってもお湯には浸からないでくださいね、出た後は冷やしてください」 「お、おう」 「ではお先に失礼します。更木様」 「おう」 「いっちー!迎えに来たよ〜!」 「はい、草鹿様。これからどこに行かれるのですか?」 「えっとね〜、剣ちゃん達といつも行ってるとこだよ!」 「楽しみですね」 「早く行こ!」 と連れだって行く一護とやちる。 着いた所は共同で使われる食堂だった。 「ここだよ!」 「ここは?」 「ここはね〜、護廷の人達がたくさん使う所だよ!いっちー初めてなの?」 「はい、いつも隊舎で食べていました」 きょろきょろと中を見る一護。同じテーブルに着くと、 「何食べる?いっちー」 「何にしましょうか、草鹿様はいつもどのような物を食べているのですか?」 「えっとね〜、日替わりとか!嫌いな物ないんだよ!あたし」 「そうですか、えらいですね草鹿様は」 と頭を撫でる一護。 「えへへ〜」 と嬉しそうに笑うやちる。 二人で日替わり定食を頼み、食べていると声を掛けられた。 「やっちる!今日は一人?」 豊かな金髪の美しい女性が親しげにやちると話している。 「ううん!今日はね、いっちーとご飯なの!」 「いっちー?」 目の前に座る一護を示し、 「昨日からうちで働いてるいっちーだよ!」 「初めまして、一護と申します。以後お見知りおきを・・・」 と丁寧にお辞儀する。 「あら、ご丁寧に。あたしは松本乱菊って言うのよ、十番隊の副隊長やってんの」 よろしくね、とにっこり笑って手を差し出す乱菊。 「こちらこそ」 その手を握り返す一護。 「ねえ!あたしもここで食べて良いかしら?」 「良いよ〜!」 「俺も構いません」 一護がそう言うと乱菊はやちるの隣に座った。 「昨日からって今まではどこに居たの?」 「四番隊です。昨日から十一番隊の看護士をしています」 「ふう〜ん、そのうち書類仕事もさせられるわよ」 といたずらな笑みで言われた。 食事が終わり、帰る3人。 十番隊隊舎の前で乱菊と別れ、隊舎に帰るやちると一護。 「たっだいま〜!」 「ただいま帰りました」 「お帰り、楽しかったかい?」 「うん!乱ちゃんと一緒になっていっぱいお話したの!」 「はい、楽しかったです」 廊下を歩きながら弓親と話す一護。 ふと庭を見ると地面が濡れていた。 じっと空を見つめている一護に話掛ける弓親。 「何見てるの?」 「水が・・・。どうして空から水が落ちて来るんですか?」 「・・・へ?水?・・・ああ!雨のことだね」 「あめ・・・」 「え〜と、もしかして初めて見るの?」 「はい、不思議ですね」 不思議ですね・・・。と呟いて外を見つめる一護。 庭に面した縁側のガラス戸の内側から飽きることなく外を眺める一護。 針の様に細い雨が庭を濡らし、小さな川の様になっているのを興味津津で見ているとやちるが声を掛けた。 「何やってるの?いっちー」 「あ、草鹿様。いえ、外が面白くて、つい・・・」 「何かあるの?」 と外を見ても、雨が降っているだけでいつもの庭があるだけだった。 「?何にもないよ、いっちー」 「そうですか?たくさんの雨が集まって川が出来てたり、花や葉が色を増しているのも面白いと思うのですが・・・」 「あ、ホントだ!川があるねぇ!へえ〜!へえ〜!あれどこに行くのかなぁ」 「どこでしょうねぇ、見に行ってみましょうか?」 「うん!」 二人で外に出ると、一つの川を辿っていった。 「結構長いですね」 「わくわくするね」 弓親や一角は、何してんだ?と言う様に二人を眺めている。 「あっ!いっちー!もう一本と合わさったよ!」 「流れが早くなりましたね」 なおも辿ると大きな水たまりで行き止まりとなった。 「わぁ〜、みんなあそこに流れて行く・・・」 「なんだか海の様ですねぇ・・・」 指を入れて深さを確認したり遊んでいると上から声を掛けられた。 「何やってんだ、二人して」 「あ、剣ちゃん!あのね!あのね!雨で出来たちっちゃな川をね、どこまであるのかなって・・・くっしゃん!」 「分かったから風呂に入ってこい。お前ら傘もささねえで寒くねえのか」 「あまり感じませんでした。温かい雨でしたので」 「風邪引くぞ、一緒に入れ」 「はい、分かりました。草鹿様、ご一緒しましょう」 「うん!やったぁ!いっちーとおっ風呂!」 隊舎にある風呂場に行き、一緒に入浴する。 風呂からあがるとやちるはご機嫌だった。 一護に髪を洗ってもらった、背中を洗ってもらったと嬉しそうに剣八に報告していた。 定時の時間まで書類に目を通し、整理して時間になったので、 「ではお疲れ様です。また明日来ます」 と四番隊に帰っていく一護。 翌朝、一護は十一番隊に現れなかった。 第6話へ続く 10/07/10作 やや天然?な一護でした。 |
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