題「別離」前篇
 剣八との同棲が始まって一護は周りから見ても幸せそうだった。
夕飯の買い出しも時々二人で行ったりしているのも知っている。
そんな二人を卯ノ花をはじめとした協会のメンバーや弓親、一角などが温かく見守っていた。
副隊長の会議がある日などはやちるを迎えに行く一護も見られた。
「やちる様、お迎えに上がりました」
「いっちー!おやつは?」
たたたっと駆け寄り甘えるやちる。
「はい、ご用意しています。少し給湯室をお借りしても?」
「良いわよ。あたしも何か手伝おっか?」
「では、お茶をお願いしてよろしいですか?」
「オッケ!」
一護と乱菊が給湯室へ入る。
「今日は何作ってくれたのよ?」
「栗を沢山頂きましたので、マロンケーキ、ですかね?」
正方形のスポンジケーキの様な物を15等分の小さな正方形に切っていく一護。
その上にたっぷりのマロンクリームを絞って行き、マロングラッセを飾り付けた。
「うわ・・・!おいしそー!」
「3つ、余りますね。後、クリームも・・・」
少し考えて、
「卯ノ花様と浮竹様にも食べてもらいましょうか」
と言うと、
「あんた、更木隊長のは?」
「更木様には他のお菓子をご用意しておりますので、大丈夫ですよ」
「相変らずラッブラブね〜」
「?」
きょとん、と小首を傾げる一護。
「ま、良いわ。お茶も入った事だし、おやつにしましょ」
「はい」
全員にケーキと紅茶が配られた。
「おお〜!」
皆が美味しい美味しいと食べてくれた。一護の膝の上をゲットしているやちるが、
「いっちーの分はぁ?」
と訊いて来た。
「俺のは結構です。勇音様、清音様、残っている分を卯ノ花様と浮竹様にお届け願えますか?」
「もう一つ余ってるじゃないの」
「小椿様にもお渡しください」
と微笑む一護。
「え〜、いっちーも食べようよぉ〜。このケーキすっごく美味しいよ〜」
「良いのですよ。やちる様や皆様の美味しいと仰って下さるお顔が何よりのごちそうです。それに」
こっそりやちるに耳打ちする。
「この後剣八様とご一緒するのです。やちる様の分もございますよ」
「ほんと!」
「はい」
「なによぉー、内緒話?」
「いえ、そんな」
「なぁなぁ一護!このクリーム超美味えんだけど、どうやって作ったんだ?」
「えっと、マロンペーストと生クリームを混ぜてみました」
「それでかぁ!生地にも栗入ってるよな〜」
「はい、そちらもペーストと砕いた物を入れました。お口に合って良かったです」
と和やかにお茶の時間は過ぎて行った。

「やだ、やちるったら寝ちゃってる」
一護の膝の上でやちるが寝てしまっていた。
「本当ですね。では俺はこれで」
荷物を持ち、やちるを抱っこすると隊舎に帰って行った。
「もう本当の親子みたいよね〜」
「ですね。あのやちるちゃんが更木隊長以外にあんなにも無防備になるなんて、びっくりです!」
「だよなぁ。あんな草鹿副隊長見たことねえな」
と元・十一番隊の恋次や射場が頷いている。
「ずっと続くと良いわね」
「ですね」

その後、十一番隊舎に戻った一護とやちるは剣八と一緒に栗ようかんを食べていた。

そんなある日、一護が一人で一番隊に呼び出された。
なんだろう?と行ってみると先客が居た。
「あ、こんにちは。狛村様、御機嫌麗しゅう」
「うむ。お主も息災であるようだな。今日はどうしたのだ?」
「はい、呼び出されましたので馳せ参じました」
「そうか。儂も元柳斎殿に呼ばれたのでな」
「そうなのですか」
と話していると元柳斎が入って来た。
「ふむ。二人とも揃っている様じゃの。感心感心」
「あの、今日はどういったご用件でしょうか?」
「うむ、お主と言うよりは更木じゃがの」
「剣・・、更木様にですか?」
「うむ、やはり隊長格ともなると、妻を娶り子を生してこそが幸せじゃろう。ほれ、其処に居る狛村にも言うておるんじゃがの、首を縦に振らん」
「・・・は、ぁ・・・」
「元柳斎殿・・・。こればかりは儂には無理で・・・」
「ぺいッ!いつまでそんな事を言うておるか!お主ももう隊長じゃろう!」
「ですが・・・」
「其処での一護。お主と更木が恋仲であることは知っておる。あ奴に言うた所で聞きよらんからの。お主から説得して・・・」
「それは・・・俺にあの方と別れろ、と言う事ですか?」
きっぱりと聞いてくる。
「む、まぁ、その方がお互いに幸せじゃろう?心配するでない。更木には良い娘を紹介するでの。勿論お主にもじゃ」
そんな話を聞かされ、一護の顔から一切の表情が抜け落ちた。
一護が人形であった事を知っているのはそう居ない。協会のメンバーに十一番隊の面々ぐらいだ。

一護にはその根の深い劣等感がある。そんなことを言われると反論など出来なくて、悪い方向へと考えが進んでいく。
それは(あたか)も坂道を転がり落ちる石の様に・・・。

ああ・・・やっぱり俺が人形だったから、本物の人間じゃないから・・・。

だんだん俯いて行く一護。
次に顔を上げた時、一護は笑っていた。
(大丈夫、笑える。俺はまだ笑う事が出来る)
「了承致しました。ですが俺から言っても無理だと思うのです」
「まあの・・・」
「其処で一つお願いがあるのです」
「なんじゃ?言うてみぃ」
「記憶置換が欲しいのです。更木様に効くぐらい強い物を・・・。俺の事を忘れてしまえば、楽に行くと思いますから・・・」
「なるほどな。ではお主には・・・」
「俺には女性も記憶置換も必要ありません。一時の気の迷いであれ、若気の至りであれ、あの方に愛された事を誇りにしたいのです」
「相分かった。装置の方は出来次第お主に渡す故、後はお主の気の済む様にすればよい」
「有り難う存じます。それでは俺はこれで・・・」
と席を立ち、帰る一護。
「一護!待て!」
その後を追う狛村。早く帰りたかった。剣八の顔が見たかった。急ぐ一護の後ろから肩を掴まれた。
「待て!お主はそれで良いのか?お主の想いは、どうなるのだ?」
「狛村様・・・。良いのです、あの方が幸せになるのなら、あの方が幸せであるのならそれでいいのです」
「一護・・・」
「失礼致します」
その足で十一番隊の隊首室へと向かう一護。

隊首室にはいつもの通りに剣八がいた。
「おう、ドコ行ってた」
「少し、遠出の散歩に・・・」
「ふぅん」
剣八の前まで歩み寄ると、
「剣八様・・・」
と声を掛けた。剣八は就業時間にも関わらず名前で呼ばれた違和感を感じながらも一護を見上げた。
「剣八様・・・今、少しよろしいでしょうか・・・」
「あ?ああ・・・」
何がだ?とは思ったが諾と答えた。すると一護は剣八の膝に座り、胸にしな垂れ掛かると抱き付いた。
「おい・・・?」
「相済みません。少しの間、こうして居てもよろしいですか・・・?」
「ああ・・・」
何かあったのだろうと好きにさせ、髪を梳いてやった。周りの者も見て見ぬふりをした。
大きな手の温かさに目を閉じると一筋の涙が零れたが剣八は気付かなかった。
暫く後、剣八から離れると終業後、家に帰った一護だった。

家に着き、部屋に入るとそれまで抑えていた感情が溢れ出し、ガクガクと足が震え膝から崩れ落ちた。

剣八様!剣八様!ああ・・・、やはり俺はここに居ては駄目・・・。貴方を愛した。それが罪なのですね・・・。

涙が溢れ、両手で顔を覆っても指の間から溢れて腕を伝い、袖と袴を濡らしていった。
「ふ・・・っ!うっ!ううっ!うあっ!ああぁああ!」
止めようとしても止まらなかった。次第に横隔膜が痙攣し、嗚咽が止まらなくなった。

なんて、なんて醜い存在だろう?土を捏ねて人の形に焼かれた物が意思と人の血肉を持ち動く、人のフリをした物。

「化け物・・・」
こんな化け物が居たら剣八様が幸せになれない!居なくならなきゃ、居なくならなきゃ!そうだ・・・俺が消えれば良いんだ・・・。

一頻り泣いて、落ち着いてから夕食の準備を始めた。二人が帰ってくる頃にはいつもの一護を演じた。

その日から、身の回りの物を少しずつ片付けて行く一護。誰にもバレない様に、気付かれないように・・・。
いつもに増して仕事に打ち込む一護だが剣八とやちるとの時間も大切にした。
ある日やちるの髪型が変わっていた。
「可愛いですね、副隊長。どうしたんです?それ」
「えへへ〜!いっちーがね、朝してくれたの!良いでしょ〜!」
片側だけ編み込みされ、いつもより女の子らしい。
「良かったですねぇ。その一護君はどこに居るんです?」
「ん〜、何か用事が出来たとかで出掛けたよ!」
「そうなんですか」
その頃一護は総隊長に呼ばれていた。

「失礼致します」
「うむ。今日お主を呼んだのは他でもない。頼まれた物が出来たのでな」
「はい・・・」
渡されたのは記憶置換。これで剣八から一護の記憶を消す事が出来る。
「・・・ありがとうございます。お手数をお掛けしました」
きゅっ、とそれを両手で包みこむ様に握り込んだ。大切に、大切に・・・。
礼を言い、隊舎に戻ると空になった仕事机の引き出しにそっと手紙を入れると静かに閉じた。
その後はいつもの様に過ごした。
剣八とお弁当を食べ、やちる達を交えおやつを食べ、夕食は剣八とやちるのリクエストで埋め尽くした。

そして夜になれば褥を共にした。
「ん、ふぁ、っん!」
深い口付けの後、意を決した一護が、
「あ、あの、剣八様・・・!」
「うん?」
「きょ、今日は、俺が・・・!」
「あん?」
「ですから、今日は俺が致します・・・!」
きゅっ!と剣八の中心を握り込む一護。
「ッ!なんだ、いきなり?」
「い、いきなりでは、ありません。いつも俺ばかりして頂いて・・・!」
「俺が好きでやってんだ。気にすんじゃねえよ」
「それでも・・・!お、俺も、やってみたいのです。け、剣八様の・・・」
自分の股ぐらから必死な顔で言い募る一護を見て根負けする剣八。
「あ〜・・・じゃあ、やってみな。無理すんなよ」
「は、はい!では・・」
ぺろりと先端を舐める一護。
「ん・・・ふ・・・」
毎晩自分がされている事を必死で思い出し反復する。
自分の唾液と剣八の先走りで、ピチャピチャと淫らな音が響いている。
チュッと先端を吸い上げれば剣八の腰がびくりと揺れ、上から、
「クッ、う・・・」
と押し殺した声が聞こえた。
(え・・・?)
少し驚いて顔を上げた一護が見た物は、苦しそうに眉間に皺を寄せた剣八の顔だった。
「あ・・・」
その表情を見た一護の下肢に甘い疼きが走った。
「・・・止まってんなよ・・・」
「あ、はい・・!」
丹念に舌を這わせ、出来るだけ奥まで咥え込んだ。
「ん、う、ふぅ!」
「も!離せ・・・!」
余裕のない剣八の声に一護は先端に舌を捻じ込み、吸い上げた。
「くう!この・・・!」
次の瞬間一護の口内に熱い飛沫が迸った。
「んぐ!ん〜!ん、ん、んく・・・っ!」
「何飲んでんだ!」
一護の喉から聞こえた音に驚き、肩を掴んで顔を上げさせる。
「ッ!!」
紅潮した頬に己の吐き出した白濁が散った一護の顔は壮絶な色気があった。
紅い唇に残った残滓を舐め取った一護が、
「剣八様も毎晩されている事ではありませんか。俺ばかりが気持ち良いのは不公平です」
「馬鹿が!」
一護を押し倒し、その紅い唇にむしゃぶりつき、口内に残った己の残滓を全て舐め取る様に舌で蹂躙する剣八。
「くふぅん!ん、あ!はッ!はあ・・・」
「煽りやがって・・・手加減しねえぞ」
「どうぞ・・・ご存分に・・・」
にこりと嫣然と微笑み、剣八の首に腕を絡める一護。

「ふっ・・!あっ!ああっ!ん・・・はあっ!」
「は・・・っ!すげえな、お前ん中トロトロに蕩けてんぜ・・?」
ぐちゅ!と奥を突けば、何度となく放った白濁が溢れてくる。
「んあっ!あ、ああ・・・!剣八様ぁ・・・んあぁ」
後ろから穿たれ、蒲団に突っ伏した一護の腰が揺らめき、もっと、と誘っているかのようだ。
「誘ってんのか?」
ずるる・・・と引き抜いていく。
「ん、んあ、やッ!まだ・・・!」
抜ける際で勢いよく奥まで突いた。
「ああっ!剣八様!剣、八様!ああっ!ああっ!もっと・・・!」
「ッ!?」
今こいつはなんて言った?
一護の身体を反転させ、正面から抱く。
「んああ!あ、あ・・・、剣八様ぁ・・・、もっと・・・もっときて・・・!」
涙を零し自分を求める一護の足が剣八の腰に巻き付いて、もっと奥へ、奥へと飲み込もうとしている。
「お前・・・ッ!」
「んあッ!あ!あ!剣八様ッ!けん!ぱちさま!ああう!ンッ!ンッ!」
口付け合いながら深く繋がりあう。
「くふう!ンッンーー!」
「クッ!」
どくりと何度目なのか分からない熱の塊が最奥に注がれた。
「あ、あ・・・は、あ、はぁ、はぁ・・・」
ずるり、と抜こうとした剣八。
「や、いや・・・」
「あ?」
「ぬかないでぇ・・・!」
「!?」
剣八に抱き付くと、
「いかないで・・・」
と震える声で懇願した。
「お前置いて、俺がどこに行こうってんだ・・・!」
再び力を取り戻した自身を深く埋めて行く剣八。
「あ、あー・・・!あ、はっ!んああ!」
ギリギリと剣八の背に爪を立て、跡を残す一護。剣八も一護に跡を残していく。
「おら・・・!これで終いだ・・・!お前も出るモンねえだろ!」
「ひああぁッ!やあぁああ!あ、あ、あ・・・!」
ぴゅくぴゅくと剣八の言った通り、薄くなった精を吐き出した一護。その一瞬前に腹の奥で剣八の熱を感じ、幸福に打ち震えた。
「中から溢れてやがる・・・」
「あ・・・!みないで・・・!ん!」
腹筋に少し力が入る度に中から剣八の放った白濁が溢れ出て来た。
「ん・・・あつい・・・」
下腹部を擦ると中にたくさん出されたのが分かった。
「いつまでそうしてんだ。風呂に入るぞ」
一護を抱き上げ。風呂に連れて行く剣八。

風呂の中でも一護はいつになく積極的だった。
剣八の髪を洗いたがったり、背中を流したり、湯船でもキスを強請った。
「なんでぇ、どうした?今日はいつもより積極的だなぁ?」
望むままに口付けの雨を降らせる剣八。
「そうでしょうか?ただ何となく・・・何となく体が疼くのです・・・」
「ま、俺としちゃ楽しめたがよ」
ちゅ、と啼いて少し腫れた眦に口付ける剣八の薄い唇が気持ち良い。
「ん・・・、俺も、気持ち良かったです・・・」
「言う様になったじゃねえか」
湯から出るといつもの通りに二人で部屋に帰る。
「ほれ、明日つーか今日も仕事だろ。ちゃんと寝ろよ」
「そうですね・・・」
蒲団に入った剣八を見てから蒲団の下に隠し持っていた記憶置換を握り締める一護。
「剣八様・・・」
「あん?」

ボフンッ!

「な・・!なに、しやが・・・」
そのまま眠ってしまった剣八にきちんと蒲団を掛け、
「さようなら、剣八様。目が覚めたらもう貴方は、俺を忘れています。今まで、お傍に置いてくださってありがとうございました」
眠る剣八の唇に口付けると、そっと部屋から出た一護は用意していた少しの荷物を持って護廷から消えた。


中編へ続く



11/10/05作 長くなったので前中後篇になりました。






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