題「恋する人形」3
 一護と弓親が隊舎に着くと既に宴会は始まっていた。
「あ〜あ、主役ほっぽって・・・」
と呆れたように溜め息を吐く弓親。
「俺は構いませんよ、お待たせしたのでしょうから」
と柔らかく言うと中へと入っていった一護。
「遅かったな」
「申し訳ありません。卯ノ花様に承諾を得ておりました」
「ああ、そうかよ・・・」
少しムッとした剣八。
何でもかんでも卯ノ花、卯ノ花・・・。
「更木様?いかがされましたか?」
は、として、
「なんでもねえ、お前の歓迎会だ、遠慮しねえで飲めよ」
「はい、ですが初めてな物で御見苦しい事になるかも知れませんので、お酒は控えさせて・・・」
「何言ってやがんでぇ!宴会で酒飲まねえなんて聞いたことねえぜ!」
と出来あがっている一角が割り込んで来た。
「飲まないとは言っておりませんよ、斑目様。酔いが回り始めたら止めると言っているのです」
「つまんねえヤツだなぁ、今まで楽しいって思ったコトあんのか?」
「・・・ありませんよ。俺は・・・、ただの・・・」
そこまで言うと俯いてしまった一護。慌てて弓親が、
「ほ、ほらほら!一護君、そんな暗くならないで!今から楽しめば良いんだよ!ね!」
と盛り上げる。
「そうですね、それに俺は今が楽しいですよ」
と言い杯を手に取ると、横から剣八が酒を注いだ。
「おら、飲めよ」
「ありがとうございます」
く・・と一口飲む。
「っは・・・、喉が熱い・・・」
と呟いて残りを飲む。
「ホントに初めて飲むんだな・・・」
「はい、でも嫌な味ではないんですね」
とほんのりと紅くなった顔で言った。
「いっちー!次はあたしのお酒飲んで〜!」
「はい、草鹿様」
と杯を差し出す。注がれたそれを飲み干す一護。次は、
「次は俺だな」
と一角。
「はい、斑目様」
と飲んでいく。
「次は僕ね」
と弓親。
「ありがとうございます」

酒を飲みながら、ツマミを食べていると、
「おい、一護!お前何か出来ねえのか?」
と一角が話しかけて来た。
「何かとは?」
首を傾げる一護。
「芸だよ、踊りとかよ」
と今にも自分が踊りだしそうな一角。
「はあ・・・、歌と踊りなら・・・多分・・・」
「おっ!いいじゃねえか!やって見せろよ!」
「はぁ、では綾瀬川様、御一緒して下さいますか?」
「僕で良いのかい?どんなの踊るの?」
「えと、俺が歌います。それに合わせて誘導いたしますので簡単かと・・・」
「分かった、じゃ、行こうか」
「はい」
と二人で前に出て、お辞儀をする。

向かい合い一護が歌い出し、手を差し出して互いにくるくると回り踊り出す。最初はワルツの様に、次第にタンゴに似たリズムで踊る二人。
手を取り合い、背中合わせになったり、離れて弓親の手拍子でタンゴの様に踊る一護。激しい動きの中でも一護の歌声がぶれる事は無かった。

軽やかな足取りと美しい歌声に全員が聞き惚れ、見惚れた。
何よりも、歌う一護の表情に惹かれた。
憂いを帯びながらも凛々しく、着ている死覇装がまるで翼の様に広がり、動きに合わせて身体に纏わりつく。
同じく踊っている弓親も美しかった。
弓親の手を取り、背を預け互いを抱くように腕を絡めたりと、一護と弓親の身体が触れる度に何故が剣八は胸がもやもやとした。
理由は分からなかったが、もしこれが一護一人だけが踊っていたならどうだろう?きっと見惚れていただけだったろう。
(分かんねぇな・・・、じゃ考えても無駄だな)

歌い終わると同時に踊りも終わり、軽くお辞儀して席へと戻る一護と弓親。
「すげぇな!一護!誰に習ったんだよ!卯ノ花隊長か?」
と一角が聞けば、ピクリ、と反応する剣八。
「いいえ、実は初めてなんですよ。ただ見ていただけなのを思い出しながら」
失敗しなくて良かったと息を吐く一護。
「ホントか〜?」
「嘘は吐きませんよ」
「いっちー!すっごい綺麗だったよ!」
と抱き付いてきたやちるの頭を撫でながら、
「ありがとうございます、草鹿様」
「いっちー、あたしのこと呼び捨てで良いよ?」
「そんな!畏れ多いことを・・・。俺如きが口に出来る事ではございません」
「ぶう!いっちーのバカ!」
「怒られてしまいました・・・」
「気にすんな、ほれ、もっと飲めよ」
と剣八が酒を勧める。
「ありがとうございます」
く、くー、と飲み干す一護。
「ふん、随分サマになって来たじゃねえか」
「そうですか?あ、草鹿様・・・」
ふと見るとやちるが眠っていた。
「お風邪をひいてしまいます、お部屋に・・・」
「後で俺が連れていく」
そう言われても一護はやちるを優しく抱きあげ、剣八の隣に座るとやちるに膝枕を提供した。
さらさらと髪を撫でる手付きも優しくやちるの寝顔も安らかだ。

もうすぐ日付が変わろうかと言う時間になって、
「もうそろそろお開きにした方が・・・?」
「なんでだよ」
くいっと杯を空ける剣八。
「明日のお仕事に差し支えが出るのではないですか?」
くちゅん!とやちるがクシャミをした。
「・・・ち。しょうがねえ、お前ら!ここらでお開きだ!」
「へい!」
「あ、御待ちを・・・」
「今度は何だよ」
「これを・・・、二日酔いのお薬です」
「要らねえよ、俺は寝るぜ」
「そうですか・・・、おやすみなさいませ」
とやちるを渡した。
「綾瀬川様、お薬を」
「ありがと、僕は頂くよ。卯ノ花隊長が怖いからね」
と笑って言えば、
「卯ノ花様は怖くないですよ?」
と返された。それは君にだけだよ。と言いかけて何とか飲み込んだ弓親。
白湯で薬を飲んだ弓親と飲まなかった他の隊士たち。
「大丈夫でしょうか?皆様随分と飲んでいらっしゃったのに・・・」
「まぁ、ほっときなよ。一護君も飲まなきゃ」
「そうですね」
とさらさらと粉薬を上手に飲む一護。

「ではまた明日。よろしくお願いいたします」
と言う一護に、
「ああ、送っていくよ」
と弓親が提案した。
「そんな・・・」
「卯ノ花隊長も心配してるだろうから早く行こう」
と腕を引いて行く。

四番隊までの道すがら話をする二人。
「今夜は楽しかったです」
「僕もだよ、一護君歌上手いよね」
「そうですか?初めて言われました」
そうこうしているうちに四番隊に着いた。
「じゃ、また明日ね」
「はい、ありがとうございました。お気を付けてお帰り下さいね」
「ありがと、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
隊舎に入り、部屋に行く途中で卯ノ花隊長に呼び止められた。
「一護」
「あ、卯ノ花様」
「大丈夫でしたか?今帰ったのですね」
「はい、とても楽しかったです!でもお薬は綾瀬川様しか飲んで下さらなかったのですが・・・」
「良いのですよ・・・。送ってくださったのも彼ですか?」
「はい、明日は早めに行こうと思います」
「では早く休まないといけませんね。おやすみなさい一護」
「おやすみなさいませ、卯ノ花様」
と部屋に帰りすぐに眠った一護だった。


第4話へと続く




10/06/04作 歓迎会の様子でした。
一護が歌ってる歌は最近気に入ったサ/ン/ホ/ラの「終/端/の/王/と〜」です。スゴイ好きな歌です。書いて良いのか?
さて、次は宴会の次の日です。

06/05加筆修正しました。



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