題「恋する人形」29
 卯ノ花によるカウンセリングや、仲の良い死神達の慰めなどによりどんどん回復していく一護。
剣八も見舞いには来るが顔を出し、二言、三言話すだけで帰る。曰く、
「長く居てもお前の負担になるだろうが」
との事。それでも一護は剣八の顔が見られるだけで嬉しかった。

一週間の入院を経て、復帰した。
「おっかえり〜!いっちー!」
「お帰り、一護君」
「おう!帰ったな!書類溜まってんぜ?」
と皆一様に明るく迎えてくれた。
「更木様、ご迷惑をおかけしました。今日より復帰させて頂きます」
と頭を下げれば、
「ああ、無理すんなよ」
とだけ返された。

昼休み。
「ねーねー、いっちーこの間お外でヴァイオリン弾いてたんでしょ?」
「え?あ、はい。久し振りに弾きたくなったものですから」
それが?と先を促す。
「びゃっくんが聴いたって言ってたよ。あたしも聴きたい!」
「構いませんよ。今日も持って来ていますから」
とヴァイオリンを持って縁側へと移った。
そこでこの間の曲を弾いてみせた。
曲の終り辺りで激しい指遣いにやちるが、
「ふわぁ〜!」
と感嘆の声を出していた。
やがて全てを弾き終わると周りから拍手が巻き起こった。
「ひゃ!」
「すごいすごい!いっちーカッコイイ!」
「良いねぇ、美しい曲だね」
といつも間に来ていたのか隊士達が集まっていた。もちろん剣八も。
拍手も何もしていなかったが、目を閉じて聴き入っていた様でまだ閉じている。
「また今度弾いてね〜!」
「あ・・はい。喜んで」

数日後、虚の討伐が組まれた。
剣八、やちる、一角、弓親ほか10名の隊士を引き連れての討伐。その10人の中に一護も含まれていた。
「行くぞ!野郎ども!更木隊の名に掛けて時化た喧嘩すんじゃねえぞ!」
一角が士気を上げていく。

虚が出たと言う場所へと到着するとそこには、巨大な虚が一体と無数の虚が暴れていた。
「ハッ!中々にデケェじゃねえか!頼むから一振り二振りでくたばんじゃねえぞッ!」
喜色を浮かべて虚に斬りかかる剣八達。
親玉であろう巨大虚は他の虚を楯にのらりくらりと逃げている。
隊士達も何人か怪我をしている。一護は弱い結界を張り、怪我人の治療を行う。
「更木様、楽しそうですね」
と戦う剣八に目を奪われる一護。

アレだけ居た虚も後数匹となり、一角と弓親がそれの相手をすると剣八が親玉を相手取る
虚の足を、腕を斬りつける剣八。同じ様に斬り付けられているのに怯むことなく、寧ろ楽しそうに向かって行く。
『くそッ!死神が、死神がアァァ!』
剣八に勝てない事を悟ると虚は、一番弱そうに見えた一護を捉えた。
次の瞬間、踏みこんだ剣八の前に引き出された一護。胸に激痛が走った。

虚に掴まり楯にされた一護。その胸に剣八の斬魄刀が突き刺さった。
「一・・護・・・!」
刀を通して手に伝わるのは一護の肉が引き裂かれる感触と刃に骨が当たる感触だった。
「かふっ!」
一度咳き込み、口の端から血を流す一護。
『ギャハハハハッ!自分の部下を刺した気分はどうだ?死神ィ!』
一護の身体に阻まれ、虚は致命傷を負わずに済んだ。だが一護は震える手で剣八の手を取ると自分に刺さった刀を虚に刺さるように深く刺し貫いた。
『こ、こいつ!ヒッ!ギャアアアアアァッ!』
耳障りな断末魔を残し塵となって消えた虚。

「一護!」
我に返った剣八が地面に一護を下ろし抱きかかえる。一角が刀を抜きながら弓親が弱いながらも鬼道で血止めをしていく。
みるみる赤く染まって行く剣八の羽織と地面。
「一護!」
「一護君!」
「いっちーッ!」
その場に居た全員が一護の名を呼んだ。
閉じていた瞼が小刻みに震えながら持ちあがり、周りを見渡す。
「あ・・・、けほッ!怪我人は・・・?」
「居るか!そんなモンお前だけだ!」
「よか・・・た、ざら、き、さまも・・・?」
「ねえよ!喋んな!今弓親が血止めしてる!」
喋る度に一護の口からは血が溢れていた。顔色は白を通り越し蒼くなっていた。
「ざ、ざらきさま、おれは・・あなた、がた・・・にだまっていたことが・・・」
「後で聞く!喋るな!卯ノ花はまだか!」
「隊長!意識が途切れたらヤバいです!何か話して!一護君!」
弓親が促す。
「おれは、ひとじゃない、んです・・・、ただの人形だった・・・」
「いちご?」
「器物は・・・百年経つと、付喪神(つくもがみ)になると・・・そして俺にも意思が出来た、そして・・・」
けほけほと血の混じった咳をしながら話す一護。
「卯ノ花!様に!見つけて頂いて・・・そこで、あなたと出会った・・・」
剣八の目を真っ直ぐ見据え話を続ける一護。
「あなたの霊圧は強烈で、俺を射抜いた。毎日怪我をして訪れる貴方にいつの間にか、心を奪われて、焦がれていました」
黙って聞いている剣八達。喋る度に泡立った血が口を伝い落ちる。
「ある日、魔法使いを名乗る男が俺を人にしてくれた、その代償に俺は笑顔を差し出した。笑わない俺を皆気味が悪いと遠ざけた。誰に言われてもいい・・・、でも、貴方には・・・更木様・・・貴方も、俺が気味がわるいですか・・・?」
「悪くねえよ・・・。元がなんだってお前はお前だろうが。さっさと怪我治して、うちの奴らの怪我治せ、お前が怪我してどうすんだよ・・・」
「ふ、ふ・・・よか・・た。ざらきさま、俺は、貴方が、貴方の事が・・・」
「剣八だ・・・」
「・・・は?」
「俺の名前だ。呼べ。じゃなきゃ聞かねえ」
「剣八、さま、俺は、貴方が好きです・・・」
「・・・俺もだよ。さっさと良くなりやがれ」
目を見開く一護。
「う、うれ、し・・・剣、八、さま・・・」
ゆっくりと剣八の顔に手を伸ばす一護の顔には笑顔が浮かんでいた。その手を掴む剣八。そして異変に気付く。
「・・・一護?おい!」
瞬きを繰り返す一護。
「どうした?目がおかしいのか?」
「・・・も、う、夜に、な・・たので、すか?」
「ああ?」
「こんな、に、暗いと、あなたの、顔が、見え、ない・・・もっと、見たい、のに・・・」
「一護・・・?」
「それに、さむい・・・、けん、ぱちさま、あった、か・・い・・・」
笑った顔のまま気を失っている一護。
「おい!起きろ!寝てんじゃねえよ!おい!」
一護の身体を強く揺さぶる剣八。
「隊長!」
「傷が開きます!」
「更木隊長、気を鎮めて下さい。後は私が何とか致します」
いつの間に来たのか、卯ノ花隊長がその場に居た。
「卯ノ花!遅えぞッ!」
怒鳴る剣八を無視して一護の治療を始め、その場で傷を塞いだ。

「血を流し過ぎています、急いで救護詰所へッ!」
自身の斬魄刀を解放し、その中に一護を納め護廷へと戻る卯ノ花隊長。
「帰るぞ!」
「はい!」
剣八の羽織は自身の血と虚の返り血と、一護の血によって深紅に染まっていた。


第30話へ続く



11/07/12作 虚に刺された一護。そして告白。この後どうなるのか!?



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