題「恋する人形」28 | |
一護が目を覚ますとそこは明るい部屋だった。 「・・・あ」 「気が付きましたか!」 「あ・・、虎徹様・・・」 「すぐに卯ノ花隊長呼んできますね!」 と出ていった。 一護が身体を起こして周りを見ると、そこは四番隊の病室だった。 「俺は・・・?」 病室の戸が開き、卯ノ花隊長が入ってきた。 「目が覚めた様ですね。気分の方はどうです?」 「・・・卯ノ花様・・・俺は、なぜここに・・・?」 「覚えていないのですか・・・?貴方は土蔵に閉じ込められて、両手を怪我していたのですよ。衰弱が激しかったので入院させました」 「あ・・・!」 その言葉で思い出したのか、両手で自分の身体を守るように掻き抱いた一護。 「大丈夫ですよ。もう大丈夫です。もうしばらくお眠りなさい・・・」 卯ノ花隊長が一護を優しく抱きしめ、眼に手を当てると眠りに落ちた一護。 時間を遡り、一護が救出された頃。 「卯ノ花・・・、この中に結界張れるか」 蔵の中を示す。 「出来ますが・・・、なんの為です?」 「まだあいつらぁ、こいつが助けられたって知らねえんなら俺が奴らが来るのを待ってやるよ・・・。その為にゃぁ、この霊圧が邪魔だろうが」 「隊長!いつ来るか分かりませんよ!」 「来るように仕向けりゃ済む話だ、やれ。そう言う事ぁ得意だろう?弓親よ」 「・・・もう、しょうがないですね。今度何か奢って下さいよ?」 「ふん・・・。で、卯ノ花、お前はどうすんだ」 「御自分で始末を付けないと納まらないのでしょう?一つだけお約束して頂けるかしら?」 「なんだよ」 「決して相手を殺さないこと。これだけですわ」 「は?・・・ハッ!要するにテメェも腹に据え兼ねてるってことじゃねえか!」 「当たり前です。一護は私の子供の様なもの・・・。それを傷つけられて怒らぬ者など居ませんよ・・・?」 そう言い、蔵の内側に結界を張った卯ノ花。その内側に剣八が居る。 そのまま扉は閉められ、一同は各々の役目を全うするために奔走した。 卯ノ花隊長は一護の治療と入院の手続きを、弓親はそれとなく隊士達に噂を流した。 「やべぇんじゃねえのか・・・?」 「早い方がいい」 「じゃあ、今夜にでも・・・」 「そうだな」 「よし・・・」 夜になり、蔵の前に五つの影が動いている。 「おい、錠前がねえぞ・・・!」 「じゃあ、中に居ねえのか?」 ぎぎぎ、と扉を開け、提灯で中を照らす。 「よお・・・」 凶悪な笑みを湛えた剣八が斬魄刀を抱え、立て膝でそこに居た。 「ざ!更木隊長!」 「な、なんでここに・・・?」 のっそりと立ち上がる剣八。 「さぁてなぁ・・・。惚れた相手をあんな目に遭わされたんでな。ちぃっとばかし礼でもと思ってよ・・・!」 言い終わると同時に5人に斬りかかる。 「ぐわ!」 「げぇ・・・!」 「がはッ!」 「ちっ!二人外したか・・・」 「た、隊長・・・お、お許しを・・・!」 「す、すんません!すんません!」 無様に這いつくばり許しを乞う隊士を見下ろす剣八。血に塗れた刀を肩に担ぐと、 「・・・お前等ホントに十一番隊か?俺ぁ見たことねえんだがよ・・・?」 と無感情に言った。 「へ、へへ、今年入りまし・・・ぎゃああ!」 醜悪な笑みを浮かべる男の左肩に刀を突き立てる。 「んなこと聞いてねえよ・・・」 5人を半死半生にまで追いつめると四番隊に運ぶように一角と弓親に命令し帰ると言い踵を返した。 「隊長、一先ずは先にお風呂に入ってからですよ」 と弓親に言われた。 返り血を浴びた身体で見舞いに行くなと言う事か。 「ち、わあったよ」 その5人は四番隊へ運ばれた後、消息不明となり除隊扱いとなった。真相を知るは一人だけ・・・。 四番隊。 「おい、一護の部屋はどこだ?」 「あら、更木隊長。お疲れ様でした」 「ああ・・・」 あの5人が運び込まれた後で卯ノ花隊長は少し機嫌が良い様に見えた。 「何処に行かれるのです?」 「あ?一護の見舞いだ」 「それはまだ控えて下さいな」 「んでだよ」 「あの子はまだ落ち着いていませんし、急激な霊圧の変化に身体も少し弱っています。それに貴方があの子に何をしたのか、お忘れではございませんでしょう?」 にっこりと微笑みながら怒っている。 「関係ねぇ」 「・・・御自分の気持ちに自覚が無いうちは通しません」 「・・・自覚?そんなモン、とっくにしてる。俺ぁアイツに惚れてる」 「漸くご自分の気持ちを自覚したようですわね」 「そこ通せ」 「どうぞ・・・。一護はまだ眠っています。静かに願います」 「ああ・・・」 病室に入るとベッドに横たわる一護の横に立つ剣八。 眠っている一護の眉間には深く皺が刻まれていた。 「う、うう・・・」 時折魘されては身を捩っている。 「・・・一護・・・」 その頬に大きな手を添えると、安心したようにふ、と身体の緊張が解け、その体温に縋るように擦り寄った。 「ッ!」 「ん・・・」 一護の頭を一撫でして剣八は出ていった。 「あら、お帰りですか?」 外に居た卯ノ花隊長に声を掛けられた。 「ああ・・・魘されてたぜ」 「そうですか・・・。衝撃が強すぎたのでしょうね・・・」 「あの5人はどうした?」 「ああ!色々とお役に立って下さっていますわ。うちの後には十二番隊へと行かれる様ですわ」 「そうかよ・・・」 愚か者の哀れな末路。だが同情なぞ出来ようはずも無い。それだけの事をしたのだと言う事。 「次はアイツが起きてる時にでも来るぜ」 と帰って行った剣八。 翌日。 「う・・・や、だ・・・ハッ!」 嫌な汗を掻いている。起きて自分の手を見る。柔らかい、温かい体。 「・・・・・・」 「おはよう一護。起きてますか?」 「卯ノ花様・・・」 「気分はどうです?何か食べれますか?」 にっこりと優しい笑みを自分に向けてくれる卯ノ花の手を掴み、一護は口を開いた。 「卯ノ花様・・・お願いがあります」 「なんです?」 「・・・俺の身体を切り開いて、くれませんか?」 いきなりの事に一瞬言葉を失った卯ノ花。 「な、何を言っているのです?なんの為にそのような・・・!」 「卯ノ花様、俺は本当に人間の体になれたのでしょうか?」 と助けを求める様に縋りついた。 「一護?当たり前ではないですか!貴方は昨日血を流したでしょう!」 「アレは本当に血液ですか?赤い油では無いのですか?俺の体の中には歯車が詰まっているので無いのですか?」 「どうしたと言うのです?」 「だって!まだ俺は自分の中身を見たことがありません!この音は本当に心臓の鼓動ですか!?歯車の回転音ではないですか!?コチ、コチと夜になると頭の中に響くこの音は脈動ですか?俺には確かめる 「一護ッ!落ち着きなさい!貴方は人間です!私と同じ、血と肉を持って生きています!私を信じて下さい。そのような悲しい事を言わないでちょうだい・・・」 「卯ノ花様・・・それでも俺は怖いのです・・・。あの方に真実を知られるの怖い・・・!化け物と、気味悪いと遠ざけられるのが何よりも恐ろしいのです・・・」 ガクガクと震える一護を抱きしめる卯ノ花。 「大丈夫、大丈夫ですわ。貴方が好きになった人でしょう?信じなさい」 「卯ノ花様・・・」 「まだ、落ち着いていない様ですね。暫くは入院しておやすみなさい。そのうちにきっと更木隊長もお見舞いに来てくれますよ」 「申し訳ありません・・・取り乱してしまいました」 「いいえ、それだけ感情が豊かになったのだと言う証拠ですよ」 「そうだといいです」 処方された薬を飲んで落ち着いた一護。消灯になると自室に置いてあるヴァイオリンを取りに行った。重苦しく感じる部屋の暗さが怖くて仕方なかった。 「あった。久し振り・・・」 寝巻きのままで廊下を歩き、ふと外に行きたくなった一護。無機質な病室の暗闇より星の光がある外の方が幾らか楽に感じた。 そのまま闇夜の中を歩いて林の中でヴァイオリンを取り出した。 ヴァイオリンに弓を構え、深呼吸を繰り返す。そして心に溜まっていたモノを吐き出す様に音を紡いでいく一護。 最初はゆっくりと、次第に早く、激しく掻き鳴らす。 弦を押さえる指の動きが早くなり、それに合わせて体も揺れる。 最後の音を紡ぐと弓を弦から離した。 「ふぅっ!」 少し心が軽くなった様に感じる。 パンパンパン!と乾いた音が聞こえ、びっくりして振り向くとそこには白哉が立っていた。 「あ、朽木様・・・」 「久方振りであるな、一護。息災か?」 「え、あ、はい。朽木様もお変わり無いようで」 「うむ。それにしても散歩に出て良いものを聞いた」 「え?」 「兄のヴァイオリンだ。相変わらず心を奪われる」 「そ!そんな!俺の様なものに!勿体ないお言葉・・・!」 「謙遜するでない。過ぎた謙遜は時として嫌味になろうぞ」 「ですが・・・」 未だ自分に自信が持てない一護。 「草鹿が良く自慢をしている。一緒に暮らしていた頃の話をずっとしている。やれ、行ってらっしゃいとお帰りなさいと言ってくれるのが嬉しいと、やれ夕飯が楽しみだと、手作りの弁当など初めてで嬉しいだのと喧しいくらいだ・・・」 優しい目で言いながらも溜息を 「草鹿様が・・・?」 「ああ・・・、恐らくは更木も同じであろうな・・・。口には出さぬだけで感謝しておるだろうよ」 「あ、そんな・・・」 す・・・、と一護の眼を見て、 「だから、その様に己を卑下するものではない。草鹿も悲しむぞ」 「ッ!!あ、ありがとうございます・・・!」 胸の真ん中から何かが溢れる様な感じがした。 「一護!ここに居たのですね!」 「卯ノ花様」 「病室に居ないから心配しましたよ」 「あ、申し訳ありません。部屋が、暗くて怖かったもので・・・」 「外よりもですか?」 「ここは、星の光もございますし、他の生き物の気配もあるので、そんなには怖くないです。病室は・・・、何も無い感じがして・・・」 「そうですか・・・。怖い思いをさせてしまったのですね」 と悲しそうな顔をする卯ノ花に、 「いいえ!俺が弱いのがいけないのです!」 「それより早く帰った方が良いのではないか?」 と白哉に言われて四番隊へと戻った二人。 一護の病室の前に剣八とやちるが立っていた。一護を見るなりどこに行っていたのかと聞いて来た。 「一護!どこに行ってやがった!?」 「いっちー!良かった!元気になった?ヴァイオリン弾いてたの?」 「あ、はい。久し振りに弾きたくなったのもので・・・。それよりこんな時間にどうされたのです?お二人とも・・・」 「いっちー、いつ帰ってくるのか聞きに来たの。そしたら居ないって言われて・・・」 「まぁ、申し訳ありません。退院出来るかどうかは卯ノ花様にお聞きしないと分かりません。あ、どうぞ中に」 二人を中に招き、お茶を出した。 「いっちーお病気なんだからあたしがやったのに!」 「いえ、お客様ですから。お菓子もございますよ?」 と見舞いに貰ったお菓子を出してやる。 「・・・怪我は、どうなんだ?」 「もうほとんど治っているのですけれど・・・。まだ怖いんです」 「あの5人ならもう辞めたぜ」 「そうなのですか?俺の」 「違う。敵前逃亡だ。そんな奴ら十一番隊にゃいらねぇ」 「そうですか・・・」 「あ!ねえねえ!今度の討伐、いっちーも来たら良いよ!」 「え?」 「剣ちゃんやつるりん達が戦ってる姿まだ見たことないでしょ?」 「はい。ですが・・・」 「良いじゃねえか。その場で怪我が治せるなら手間ぁ省けるぜ」 と楽しそうに話す剣八に、 「そうですね、では退院したらご一緒させてください」 と約束した。 第29話へ続く 11/07/09作 入院一護。一週間ぐらいの入院のつもりです。 ヴァイオリンのストレス発散とびゃっくんとのお話で癒される一護でした。 弾いてる曲は「鳥/の/詩」です。「残酷な〜」も良いなと思ったんですけどこちらにしました。 |
|
ドール・ハウスへ戻る |