題「恋する人形」27
 弓親が卯ノ花隊長の元を訪れた。その理由は・・・。
「失礼します、卯ノ花隊長。ちょっとお話があるんですけど・・・」
「なんでしょう?綾瀬川五席」
「一護君の事なんですけど・・・。性教育ってなさいましたか?」
「いきなりですわね。一通りは・・・。あら?」
「どうかしましたか?」
「男女の身体の違いは教えましたが、そちら方面はまだかしら?」
「何か重大な勘違いをしてるんで教育の方お願い出来ますか?」
「何があったんです?」
と卯ノ花が聞けば弓親は肩を竦めて、
「あまり自慢出来る事でもないんですけど、うちの隊士が集まってそういうDVDを見てたんですよ。そこに一護君も居まして」
「あら・・・」
「それで、『何故あの女性はあの様な目に遭って居るんですか?』『アレは罰の為ではないのですか?』って言ってたんですよ」
「・・・罰、ですか?・・・気になる言葉ですわね・・・」
「ええ。最近良く寝てないみたいですし、何かあったのかも・・・」
と心配する弓親。
「そうですか。分かりました。お気づかいありがとうございます」
「では、お願いします」
とそこで別れ、自隊に帰って行った。

「ただいま」
「おう、ドコ行ってたんだよ、弓親」
「ん?ちょっとね〜。あれ?一護君は?」
「さっき出ていくってどっか行ったぜ」
ちら、と隊首机の方を見ると剣八は頭の後ろで手を組み、目を閉じていた。
「そう・・・」
(何か変わると良いんだけどね)
と小さく溜息を吐いた弓親だった。

その頃の一護は技局の結界の中に居た。
「待たせたな。頼まれてたモン出来てるぜ」
「ありがとうございます。阿近様。お手数をおかけしてしまって・・・」
「別に・・・。元々卯ノ花隊長から言われてたんだしな」
その手に持っているのは腕輪の様な物。
「新しい霊圧制御装置だ、着けてみな」
「はい」
左の手首にカチリ、と填めると溢れていた霊圧がぴたりと止まった。
「ふぅ!止まったな。この古い方はこっちで処分するからな」
とヒビが入ってしまった腕輪を粉々にしてしまった。
「ありがとうございます。お代は・・・?」
「あ?構わねえよ。卯ノ花隊長が出すって言ってたぞ」
「そうなのですか?では俺はこれで・・・」
「ああ、なんか不都合が出たら遠慮せずに言いに来いよ?」
「はい。では失礼いたします」
と暇乞いをする一護。

「おい、一護。道場に怪我人が居るぞ」
自隊に着くと余り良く知らない隊士に声を掛けられた。
「今すぐ行きます」
と道場に行く一護。後ろからその隊士も付いて来た。
「失礼します。怪我をされた方は・・?」
道場には4人ほどの隊士が居た。
「ああ、こいつだよ」
と座っている隊士を指差すので、そこまで行くと道場の扉が閉められ、鍵まで閉められた。
「え・・?」
と振り向くと後ろから羽交い締めにされた。
「うあ!な、何を!」
ガシャン!と救急箱が床に落ち、派手な音を響かせた。
「やっぱ男のくせに綺麗な顔してるよなぁ」
「はあ?」
男の腕から逃げようともがく一護。
「どうせ隊長のお手付きなんだろ?」
「おてつき?」
「おぼこい顔してやることやってる訳だ?なあ」
「ずっと一緒に暮らしてたんだ。隊長とヤッたのも1回や2回じゃねえんだろ?」
と下卑た笑いと共に死覇装の袷を開かれていく。

お手付き・・・。そう言う意味か。

愕然とした一護を床に押し倒すと一人が一護の手を一纏めにして抑え、一人が帯を解きに掛かった。
「お止めください!更木様とは何もございません!お止め・・・っ!」
「うっせえな。何かあろうが無かろうがどっちでも良いんだよ!大人しく足開けよ!」
「嫌だ!いや!」
バタバタ暴れる下肢から、袴が抜き取られた時、手首に痛みが走った。
「ッ!」
それで少し冷静になった一護が腕を押さえている男にこう言った。
「あ、あの・・・手首の腕輪を外してくれませんか・・・?骨に当たって痛いです・・・」
大人しくなった一護に油断した男達がその腕輪を外した。

次の瞬間、知らない霊圧に吹き飛ばされた。
「っぐあ!」
「何だ!テメェ!」
吹き飛ばされた中心を見ると袴を脱がされた一護がゆっくりと立ち上がっていた。
「ふう・・・」
「てめえ!」
襲いかかる男を軽く往なし、拳を叩きこんで気絶させた。
「俺を襲う理由に・・・、更木様を侮辱しましたね・・・?」
「そ、それがテメェに何か関係あんのかよ!」
もう一人、気絶させた。
「許せません・・・。許しません・・・。あの方を・・・、侮辱した」
残りの3人が一斉に襲いかかって来た。

隊首室。
「な!何だ!この霊圧は!誰のだ!」
「一体どこから!・・・うちの道場だよ!一角!」
「行くぞ・・・!」
一角、弓親、剣八が道場に向かう中、すぐそこに卯ノ花隊長が居た。
「卯ノ花隊長!どうしたんです!」
「そんな事より早く道場へ!」
と一緒に走る。
「卯ノ花隊長?この霊圧はまさか?」
「一護の物です!緊急時以外は制御装置を付けていなさいと言ってあります。何かがあったのでしょう」

4人が道場に着くと鍵が掛かっている扉を剣八が蹴り開けた。
「おい!なにがあった・・・!」
そこには半裸の状態で座り込んでいる一護と殴られて気絶している5人の隊士が居た。
「何があった!一護!」
剣八が声を荒げると、そちらに顔を向け静かな声で、
「・・・手籠めにされそうになりました」
と冷静に告げる一護に一角が、
「なんでそんなに落ち着いてんだよ!?」
と食ってかかる。
「・・・初めてでも・・ありませんから・・・」
「「「え”?」」」
「一護?何を言っているのです?」
「誰にやられた?教えろ」
低い声で剣八が話す様に促すが、口を噤んでしまった。
「一護、言え・・・!」
少し、弓親や一角の方に目をやるが何も言わない一護。
「おい・・・!いい加減に!」
霊圧を上げ、怒りを露わにする剣八を見て、観念したのか溜息を吐き、剣八の顔を見てこう言った。

「俺を最初に犯したのは・・・、貴方ではないですか、更木様・・・」

「なッ!」
卯ノ花が目を見開いている。
「貴方は酔っていらした。・・・覚えていらっしゃいませんでしょう?」
剣八を見上げる一護。
「だから、何もなかったと同じ事・・・」
「おい・・・」
ゆらりと立ち上がると袴を穿いて帯を締めていく。こちらを向くと悲しそうな目で、けれど顔には何の表情も無かった。
「・・・お忘れください。・・・俺も忘れます」
身だしなみを整え、救急箱を持って道場から出ていった。
「・・・どういう事か・・・詳しく説明して下さいますわね?更木隊長?」
にっこりと真っ黒な笑顔で笑う卯ノ花隊長が居た。
「あれが・・・現実?まさか、そんな馬鹿な・・・」
5人の隊士を四番隊へと運び込み、卯ノ花隊長は剣八を呼び出し話を聞いた。

「何があったと言うのです?事と次第によっては・・・」
「だから、夢だと思ってたんだよ・・・。あん時、俺ぁ連日飲み歩いててよ・・・」
と夢だと思っていた出来事を話し始めた。
「お前が悪い・・・、ですか・・・。なるほど、だから『罰の為の行為』と認識したのですね・・・」
「あ?」
「貴方のせいで一護は性行為を『悪い事をしたから、罰を与える為の行為』だと認識してしまったのです」
「な・・・。だがアイツぁ、遊廓で・・・」
「何もしていないそうです。遊女の方の体調が優れないのに気付いて休ませただけだと、綾瀬川五席に話しています」
「じゃあ、あいつは・・・」
俺の隣りの座敷で一晩中?
「くそ・・・っ!」
「まぁ今は貴方より、あの5人ですが・・・。一護が大事(おおごと)にしないで欲しいと言ってきました」
「何言ってんだ!あんな、輪姦しようとした奴らだぞ!」
「それでも下手に騒ぎ立てれば、一護に起きたことが広まります」
「う・・・」
卯ノ花隊長と剣八の話しあいで謹慎処分で済んだ下位隊士。
これで済めば良かったのに、逆恨みによって一護は事件に巻き込まれた・・・。

翌日、一護は卯ノ花隊長による性教育を受けた。
「と言う訳で、性行為というのは罰の為ではないのですよ」
「はあ。ですが、俺には意味の無い事ですね・・・」
「どういう事です?」
「俺は、同性である更木様が好きなのです・・・。でもあの方が俺を好くはずなど無いのです。あの方は女性がお好きですし・・・。それに同性を好きになるのはおかしい事なのでしょう?」
と聞いてくる。この感情を卯ノ花様に否定されたら、俺は・・・。
「別に不自然と言う事でもありませんよ、一護」
「・・・え?」
「人間だけではなく、自然界にも同性愛と言うのはあるのですよ」
「そんな・・・、だって、本には男女の恋愛しか・・・」
「もっと探せば同性の恋愛物もありますよ。動物も雄同士で(つが)うライオンや猫、雌同士で(つが)う小鳥など色々居るのですよ。彼らは一様にお互い愛し合っていますわ。発情期でもお互い以外は寄せないし、寄って行かないんです。雄猫の番いが子猫を育てた事例もありますよ」
「あ・・・、では、変では無いのですか?俺は・・・」
「はい。誰を好きになろうとおかしいと異常だと断じられる事などありません。犯罪に走るような事にならなければね」
「よかった・・・!俺は、あの方を好きで居ても良いのですね・・・」
安堵の余りポロポロと涙を流す一護。
「誰かを好きになると言うのは素晴らしい事なのですよ、一護」
「はい、はい・・・!」

数日後、朝に出勤したはずの一護の姿がどこにも無かった。
その事に一番先に違和感を感じたのはやちるであった。
「いっちーは?」
「うん?」
「なんで居ないの?」
「さっきまで居ただろ」
「さっきっていつ?」
そう言われればもう昼も過ぎている。嫌な予感がする。
「弓親、あの5人は・・・」
「もう、謹慎は解けて、ますね・・・」
「ちっ!」
ガタンと席を立つ剣八に続いてやちる、一角、弓親が出ていった。

時間を遡り、午前中。
庭に水を撒いていた一護が片付けをしていると後ろから殴られた。
「あぐッ!」
頭部に痛みを感じ、倒れると引きずられていった。
(だ・・れ・・・?)
赤く染まっている視界の端でいつかの隊士を捉えた。
「どこに連れてくんだ?」
「あそこの使われてない蔵があんだろ?そこに閉じ込めとけよ・・・」
「2〜3日ぐらい?」
「一週間でも良いんじゃねえの?」
「おいおい、さすがに死ぬんじゃね?」
「こいつが居なくなったって困るヤツ居ないだろ?」
「でも副隊長とか懐いてんぜ?」
「すぐ忘れんよ。子供なんだしよ」
「それもそうだな」
(ここ・・は・・・?)
ボロボロの薄汚れた蔵の前まで引きずられてきた。

ガチャガチャ、ガチン!ぎ、ぎぎぎ・・・。

中から冷たく湿った、カビ臭い空気が流れて来た。

(やだ・・・、暗い、そこは嫌だ・・・)

「ほらよ!今日からここがお前の部屋だぜ!」
中に放り込まれた一護。
「ぐ・・・う!」
ぎぎぎ、と閉められていく扉。
「あ・・・」
ガコン・・・!と閉じられ、真っ暗になった。
ざっざっざ、と去っていく足音。
「・・・嫌だ、嫌だ!出して!ここから・・・!ここから出してッ!」
扉の所まで這って行くと力の限りその扉を殴った。
分厚い石で出来た扉はびくともしない。叫びながら手加減などせず扉を殴る一護の拳は砕けた。それでも止めなかった。
「出して・・・ここから、出して下さい・・・誰か・・・!更木様・・・」

「いっちー!どこぉー!出て来てよぉー!」
「一護ぉ!出てこぉい!」
「一護君!出て来て!どこに居るんだい!」
「一護!不貞腐れてんじゃねえぞ!さっさと出て来い!」
「あ!あたしいっちーの伝令神機に掛けてみる!」
とやちるが一護に連絡を入れる。

トゥルルルル、トゥルルルル、・・・・・・

何度目かのコールで繋がった。
「・・・・・・・は・・い」
「いっちー!あたしだよ!やちる!今どこに居るの!」
『暗い・・・ところ、です』
「暗い所?場所分かる?」
『あ・・・蔵、古い・・・出して・・・』
「蔵?蔵だね!分かった!すぐ助けてあげるからね!待っててね!」
『ありが、とうござ・・・』
「蔵ぁ!?今そこに居るって言ったのか?」
「うん!出してって!古い蔵だって言ってた!」
「卯ノ花も呼んどけ!」
「はい!」

漸く見つけた蔵は十一番隊の一番外れにある一番古びた蔵だった。
「どけ・・・」
剣八が蔵の錠前を斬魄刀で斬り捨てた。
扉を開けると壁に寄りかかったまま、気絶している一護が居た。
「一護!」
剣八が駆け寄るが目を覚ます気配が無い。ふと視線を下げると赤黒く腫れあがっている両手が目に入った。
息を飲み、一瞬絶句した剣八。
「ッ!卯ノ花!!」
「はい、ここに」
すぐさまそこで一護の治療が行われ、そのまま入院となった。


第28話へ続く



11/07/04作 どんどんえらい事になってきました。一護が暗い所を嫌うのは人形だった時の事を思い出すからです。
さてあの5人にはどうなって貰いましょうかね・・・。
文中に出てくる動物の話は実話です。



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