題「恋する人形」26
 何も知らない一護が皆に連れられて遊郭にやって来た。
綺麗な遊女が集まり、酒や御馳走が出され、宴会が始まっていく。
「はぁ〜!綺麗な女性がたくさん居ますねぇ」
初めて見る煌びやかな世界に目を奪われる一護。
「お前も飲めよ!」
「あ!はい!」
勧められる酒を飲み、食べ、宴会は続いて行った。

「さ〜て!今夜のメインイベントだ!一護!お前も気に入った女選べよ?」
「は?」
「お前なぁ、ここは遊廓だぜ?遊女と寝るのは当たり前だろ?」
と隊士達は各々気に入った遊女を伴い部屋を出て行った。
「あの、えっと・・・」
周りを見ていると剣八も他の遊女を連れて出て行った。
「あ・・」
一護は何とも言えない気持ちになったが言えることなど何も無かった。
「・・どうするの?一護君」
と残っていた弓親が声を掛けた。
「あ、えと・・・、ん?」
ふと奥に居る遊女の顔色が悪いのに気付いた一護。
「では、あの方を・・・」
と指差した。
「そう、じゃ、また明日ね」
と弓親は帰って行った。

「あの、お部屋は?」
「こちらです」
と一護を案内する遊女。
部屋に着くとすぐに着物を脱いでいく。襦袢姿になった所で一護が止めた。
「そこまでで良いですよ。そのまま寝て下さい」
「お客さん?何を言って・・・」
「具合の悪い方に無体を強いる事は俺には出来ません。熱も随分あるようですし・・・」
「馬鹿にしてござんすか?そんなことで仕事を休んでいたら遊女など勤まりんせん」
「馬鹿になどしておりません。それでも俺には無理なこと。俺は貴女を抱く事は出来ません」
いつも肌身離さず持っている救急箱から卯ノ花隊長特製の薬を差し出す一護。
「これを飲んで今日はお休みになって下さいませ。あんな痛いだけの行為を無理になさる事はありません」
「痛いだけ・・・?」
何を言っているのか分からなかったが一護の言葉に甘える事にした遊女。体の具合が悪いのは当たっているのだ。
粉薬と水を差し出す一護の耳に聞きなれた名前が聞こえて来た。
『更木、様!あ!ああ!』
ビクン!と反応してしまう。まさにこの部屋の隣で剣八と遊女が交わっていた。
「更木様・・・」

ああ・・・、やはり更木様も女性を抱くのだ。それが当たり前の事なのだ。自分がおかしいのだ。

そう思いながら心を静める一護。
薬を飲んだ遊女はすぐに眠りに落ちた。一護は氷水と手拭いを2枚頼んだ。
ちゃぷちゃぷと手拭いを絞り、額に乗せる。遊女の看病をしている間中、隣の部屋の物音も声も全て筒抜けだった。

『更木様、更木様!』
と聞こえる女の声に抱かれているのが自分だったらと考えてしまい、気付いてしまった。

これは恋と呼ばれるものだと言う事に・・・。だけど意味など無い感情だと思った。
気付かなければ良かった。
だって、更木様は女性がお好きなのだから・・・。この気持ちを告げることは出来ないのだ。

あの夜、罰として自分を犯した剣八の、この身が焼かれるのではないかと思うほどの熱を感じる事が出来たのだ。それで良いではないか・・・。
一晩中遊女の看病をしながら起きていた一護は、隣の部屋から聞こえる声に耳を塞いだ。
耐えきれなくなり、寝室から出ると膝に顔を埋め、耳を塞いで声も立てずに泣いた。

うっかりそのまま寝てしまっていた一護が目を覚ますともう朝になっていた。
「あ、仕事に行かなきゃ・・・」
まだ眠っている遊女の傍に薬と書き置きを残して部屋を出た一護。
丁度隣りの剣八も出て来た所だった。
「あ・・・、更木様・・・。おはようございます」
「おう・・・」
剣八の腕には遊女が絡んでいた。
「お、先に失礼します」
見ていられなくて足早に店を出る一護。

「眩し・・・」
朝日に目を細めて歩いていると自分の体から白粉の匂いがした。
「やだな。お風呂に入る時間は・・・。朝食を抜いたら・・・」
と歩く速度を速めた。
「おい、一護。どうせそこまで一緒だろ」
いつの間にか後ろに居た剣八に声を掛けられた。
「更木様・・・そうですね」
と答え一緒に歩いた。特に話す事など無かった。以前なら一緒に歩くだけでも嬉しかったのに・・・。今は苦しかった。

更木様、その腕で女性を抱かれるのですね・・・。貴方の腕に抱かれる女性が羨ましい。
俺はただの部下で、男・・・。
貴方が俺を抱くことは無い。
俺が女だったら?
そこまで考えて、馬鹿な思考に至ったのに気付き、振り払った。

「無意味・・・」
ぽつりと呟いた一護に、
「何か言ったか?」
と剣八が聞いた。
「いいえ、何も・・・」
四番隊の前まで来ると、
「俺は着替えて来ますのでここで・・・。失礼します」
「ああ・・・」
隊舎に入る一護の後ろ姿を見ながら剣八は、
(あいつでも女を抱くのか・・・)
と考えた。
「想像出来ねえな・・・」
どっちかつうと・・・。とそこまで考えて夢の中の一護を思い出してしまった。
「くそ・・・。女抱いても意味ねえじゃねえか」
まるで一護の代わりに遊女を抱いた様だ。
「ああもう!面倒クセえ事は考えんのヤメだ!やめ!」
剣八も髪を整えるために隊舎に帰った。

シャワーを浴びながら一護はぼんやりと考えた。
(朝ご飯、どうしよう?作る暇も無いし、食欲もない・・・)
シャワーを浴び終えると冷蔵庫の中を見た。りんごが一個あったのでそれを食べて朝食とした一護。
新しい死覇装に着替えると出勤した。

「おはようございます」
「おはよう、一護君」
まだ弓親しか居なかった。
「昨日は眠れたかい?」
「・・・少しは・・・」
「そう・・・(そうは見えないけど)、昨日はどうだった?」
「はぁ、熱があった様なので休んで頂きまして看病をしていました」
「それだけ?何もしてないの?」
「なにも・・・。したい事などありませんでしたから・・・」
「そう」
「書類片付けますね」
全てを遮断するように書類整理に勤しむ一護。
昼休み近くなり、稽古をしている隊士の怪我を診てからも書類整理に熱中する一護。
文字を追っていれば何も考えなくてすむから・・・。

昼休みになると数人の隊士が騒ぎながら何かをしていた。
「おう、一護!お前も見るか?」
「何ですか?」
「映画だよ映画!」
「はぁ・・・」
DVDがデッキにセットされた。
そこに映し出されたのは裸の女と男だった。
「ぁ・・・」
淡々と進んでいく内容は一護には理解しがたい物だった。

何故?あの女性は押し倒されているのだろう?何か悪い事をしたのだろうか?

あの行為は罰の為ではないのか?

疑問ばかりが増えて行く。
そのうち弓親と一角が帰って来た。
「何見て・・・!」
「おう、おう。男が寄るとこうなるか〜」
「あ、斑目様、綾瀬川様・・・」
「一護君、何か楽しいかい・・・?」
「いえ、特には」
「そう・・・」
そのうちポツリと零した一護の言葉に反応する弓親。
「あの女性は何故あの様なコトになっているのでしょうか?何か悪いことでもしたのですか?」
「は・・?」
「あの様な痛いだけの行為を強いられるなんて、何をしたんでしょう?」
「一護君・・・?」
何を言っているのか?
「外の空気を吸ってきます・・・」
「うん・・・」

更木様も、あの様に女性を抱くのだろうか?優しく?痛くは無いのだろうか?

罰として抱いたのは、俺だけだろうか?

あの激しい、嵐の様な行為は自分だけだと思うと一護は自分の中に仄暗い喜びが芽生えたことに気付いた。

やちるにも、弓親にも、一角にも、女にもしないのだと・・・。

「なんて・・・醜い・・・!」
気付いた瞬間、奈落に落ちた。



第27話へ続く



11/06/19作 見てるのはエロDVDです。
書き換えるかも知れないです。


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