題「恋する人形」24
 一護が帰路に着きそれを見送った後、家に入った剣八とやちる。
「おら、お前もとっとと寝ちまえよ」
「は〜い。あ〜あ、いっちーと一緒に暮らせたら良いのになぁ〜」
「・・・アホか」
「ふ〜んだ。お休み、剣ちゃん」
「おう」
各々部屋に帰って蒲団に潜りこんで早々に眠りに就いた。

「ん・・・」
ごろりと寝返りを打つ剣八。
『更木様・・・』
とろりと潤んだ瞳で見つめてくる一護。
『一護・・・?』
『はい・・・』
『何してんだ・・・?ここで・・・』
『同じ蒲団に入ってする事は一つでは・・・ないのですか?』
着物を脱いでいく一護。
『更木様・・・』
全裸で剣八の前に跪き、首にしな垂れ掛かる一護。剣八の鼻を掠める一護の微かな体臭。
『きて・・・』
耳元で囁かれ押し倒した所で目が覚めた。
「一護・・・!っはぁ!あ?」
体を起こすと自分の部屋に一人で寝ていた。
「夢、だと・・・?なんであんな夢・・・」
ドッ、ドッ、ドッ!と心臓がうるさいくらいに脈打っている。更に自身に起きた変化に気付いた。
「・・・マジかよ、おい・・・」
剣八の中心は痛いほどに張り詰めていた。
「勘弁しろよ・・・」
はあ〜・・・、と大きな溜息を吐いた。そのままにしておくことも出来ず何年振りかで自慰をする剣八。

熱く滾る自身を握り込むと手筒で上下に扱く剣八。すぐに先走りが溢れだし濡れた音が響いた。
「ふっ、・・・っ!くぅ・・・」
歯を食いしばり、熱い吐息と共に漏れる声。ふと耳の奥で、
『更木様・・・』
と一護の声が聞こえた気がした瞬間に達してしまった。
「クッ・・・!」
荒い息を整え、吐き出した白濁を片付ける。
「マジかよ・・・。ったく、明日どんな顔してりゃ良いんだよ・・・」
吐き出したにも拘わらず、悶々と眠れない夜を過ごした剣八だった。

翌朝、寝不足ながら隊舎に行くと一護の姿を探してしまう自分が居た。
「何やってんだか・・・」
「剣ちゃん、どうかしたの?」
「どうもしねえよ」
そう言いながらも一護が出勤すれば落ち着かない自分が居るのに舌打ちしたい気分だった。

昼休みになり、やちるが、
「いっちー、昨日はありがとうね!もう元気になったよ!」
「良かったです。これからはお身体の具合が悪くなったらちゃんと教えてくださいね?」
「うん!いっちー、今日はうっきーの所でおやつ食べよ!」
「よろしいのですか?浮竹様の予定などは・・・」
「いつも暇だって言ってるから大丈夫だよ!」
早く早く!と手を引っ張って行く。
「あ〜あ、浮竹隊長のとこ、菓子が無くなるだろうな」
「だろうね・・・って!ちょっと一角・・・!」
「あん?・・・うわ」
剣八の顔がいつもより凶悪になっていた。
(こわ!どうしたんだ?隊長!?)
(あれじゃない?ヤキモチ?副隊長になのか、浮竹隊長になのか、難しいとこだね)
触らぬ神にたたりなしとばかりにそそくさとその場を離れた二人だった。

雨乾堂に遊びに行くとそこには浮竹と京楽が居た。
「うっきー!遊びに来たよ〜!あ、もじゃもじゃも居た!」
「おお!久し振りだなぁ!熱を出したそうだが大丈夫なのかい?」
「うん!いっちーが看病してくれたから!」
「もじゃもじゃは酷いなぁ」
「失礼します、浮竹様、京楽様」
「一護君はいつも礼儀正しいねぇ」

楽しく過ごしていると突然せき込む浮竹。段々咳が酷くなり吐血してしまった。
「げほっ!げほげほ!ゴボッ!」
「浮竹!」
「うっきー!」
「浮竹様!」
「大、丈、夫だ・・ごほッ!」
「とにかく横におなりよ、少しは楽だろう?」
「ああ、すまない、そうさせてもらうよ」
第三席の二人が四番隊まで卯ノ花隊長を呼びにいった。

「ゴホッ!ゲホ!ガハッ!」
口から溢れる血が蒲団を赤く染めていく。
「ああ!浮竹様!どうしよう、どうしよう・・・。俺は看護士なのに・・・!」
次の瞬間、一護は浮竹の口に溢れる血液を口で吸い取っていた。
「ッ!!」
ぢゅうッ!べっ!と横にあった手拭いと水の入った手桶にその血を吐き出した。
「一護君・・・・」
「いっちー・・・」
何度か繰り返し、溢れる血液が無くなると、
「浮竹様、うつ伏せになれますか?」
「あ、ああ・・・、なんとか・・・」
京楽が手伝い、浮竹の身体をうつ伏せにさせた。
「これじゃ苦しいんじゃないのかい?」
「いえ、再吐血で窒息しないようにです」
顔中を血で汚した一護が答える。
「その顔何とかした方が良いよ。せっかくの綺麗な顔が台無しだ」
と濡れた手拭いを差し出した。
「あ、ありがとうございます」

そのすぐ後に卯ノ花隊長が到着した。
「浮竹隊長、大丈夫ですか?」
「ああ、今は落ち着いてるよ」
と代わりに京楽が答える。
「一護、その顔はどうしたのです?」
「いえ、大したことではありません」
「一護君がね、浮竹の口に溢れた血を吸い出してくれたんだよ」
「まあ」
「何の躊躇も無くね。立派な子を育てたね、卯ノ花さん」
「そんな!俺は!」
「いいえ、私達でも中々出来ません。よく出来ましたね、一護」
と卯ノ花が一護の顔に残る血を拭ってやりながら労った。
「服も汚れてしまっていますわね。着替えてらっしゃい」
「はい。浮竹様、お大事になさってくださいませ」
「ああ、ありがとう、一護君・・・」

 やちるからその話を聞いた剣八や一角達は、
「すごいモンだなぁ。他人の口の血を吸い出すなんてよ」
「一護君は優しいならね」
と話していたが剣八の心の中には様々な感情が吹き荒れていた。
「隊長?どうかしたんスか?」
「あ?何もねえよ。また死に損ねたみてぇだな」
「口悪いっすねぇ」
(クソッ!なんだ?ムカムカしやがる・・・。何に対してだ?一護か、浮竹か・・・?)
「すいません、遅くなりました〜」
風呂に入り着替えた一護。
「おや、さっぱりしてきたんだね」
「はい、結構広範囲に血が付いていましたので・・・」
「その死覇装は?」
「ええ、どうしたらいいか・・・。捨てても良い物か、迷ってしまいまして」
「もう着れないだろう?捨てても良いと思うけど?」
「そうでしょうか?ではそうします」

この日から剣八は深夜まで酒を飲み歩くようになった。
理由の判別出来ないイライラ。ソレは何故か一護の顔を見ると強くなった。
一護が嫌いと言う訳ではない。その証拠に二人で話をしている時はイライラしないのだ。
だが、他の男と話しをしているのを見たり、その口が違う男の名前を紡ぐと瞬間的にイラッ!としてしまう。

数日後の隊首会にて。
浮竹の姿を見た剣八は、腹の底の方で嫌な疼きを感じて顔を顰めた。
「何で俺を睨むんだ?剣八」
「睨んでねえよ・・・」
だがその眼には仄暗い炎が燃えている様にも見えた浮竹。
(・・・アレは・・・、嫉妬、か?剣八がなぁ。でもなんで俺に・・・?)
思い当たるコトと言えば最近一護に助けてもらった事ぐらいだ。
(あ!それか!なるほど、うん、うん。一護君は気立てがいいし、可愛いからなぁ。ついに剣八にも春が来たかぁ)
などと暢気な事を考えていた。

その頃の隊舎。
「いっちー、お願いがあるんだけど・・・いい?」
「何でしょうか?草鹿様」
「あのね、この頃剣ちゃんの帰りが遅いの・・・」
「そうなのですか?」
「うん。でね、寂しいし、良く寝れないから、いっちーご本読んでくれる?」
「俺でよろしければ喜んで・・・。更木様が帰って来られたら・・・」
「泊っていけばいいよ!ね!」
「そうですか?ではお言葉に甘えさせていただきます」
そしてこの夜も飲みに行く剣八。
酒豪に分類される剣八は量を飲んでもあまり酔う事はない。度数の高い酒を立て続けに飲んで漸く酔う事が出来るのだ。

連日酒を飲み歩いている剣八に自覚は無かったが許容は限界まで来ていた。
そして今夜も強い酒を浴びるように飲んでいた。
「どしたの?剣八さん。付き合い悪くなったと思ったら今度は独りで飲んでるのかい?」
「うっせえな、勝手だろうが・・・」
興が殺がれた、今晩は帰るか・・・。
席を立つ剣八に京楽が話しかける。
「いやぁ、一護君って可愛いねぇ。浮竹の為に必死になっちゃってさぁ」
「ああ?」
「泣きそうな顔になったと思った途端に血を吸い出すんだもん。びっくりしたよ」
意外と大胆だねぇ。
「何が言いてぇんだ、てめえ?」
「別に?ふふ、君もそんな顔をするんだねぇ」
「けッ!訳分かんねえ事言ってんじゃねえぞ」
飲み代を払い帰っていく剣八。
「もしかして気付いてないのかな?遅い初恋だねぇ・・・」
と一人手酌で酒を飲む京楽だった。

玄関に入ると、中に灯りが灯っているのに気付いた。
「あん?やちるのヤツまだ寝てねぇのか?」
気にも留めないで自分の部屋の前に立つと向こうから寝間着姿の一護が歩いて来た。

夢か・・・?

「お・・・」
「あ、お帰りなさいませ、更木様」
「お、おお・・・」
久し振りに見る一護の寝間着姿だ。
「な、んで、ここに居る?」
「草鹿様にお願いされまして。一人じゃ寂しいと」
「そうかよ・・・」
バツが悪いのか顔を逸らし首の後ろを掻く剣八。
「更木様、最近お酒の量が増えている様ですが、どうかされましたか?」
「・・・・・・どうもしねえよ」
自分にも理由が良く分からない。

お前が。・・・そうだ、お前が他の男と・・・!

急に黙った剣八を覗き込むように見上げる一護。
「ッ!!」
「更木様?」
「お前が・・・」
お前が他の男の口を吸った・・・!!他の男と言葉を交わす!他の男の名前を口にするのが・・・!!
「・・・お前が悪い・・・!」
「は・・・?」
何をいきなり・・・。
そんな顔だ。剣八は一護の小さな顎を掴むと強引に口付けた。
「!!んん!ンッ!ふッ!ざらっ!!」
抗議しようと口を開けた瞬間に舌を滑り込ませ、口腔内を蹂躙する。
ドン!ドン!と胸を叩いていた手はもはや縋る様に剣八の着物を掴んでる。
「ッはぁ・・・!」
口付けを解くと一護は足から崩れていった。
「っは!はぁ!はぁ!・・・何を!突然!」
「腰でも抜けたか・・・」
ついっ、と頬を指で撫でる。
「ひッ!」
びくん!と大袈裟に思えるほど跳ねる身体。
「お前・・・、初めてか・・・?」
「・・・・・・・」
キッ!と睨みつける一護。涙の膜が張り、赤く染まった目元で睨まれても怖くも無い。むしろ剣八の中の雄を呼び起こすだけだ・・・。
剣八は一護の寝間着の袷を掴むと部屋に押し込んだ。そこには既に蒲団が敷かれてあった。一護の手によって・・・。
「へえ・・・、用意が良いな・・・?」
蒲団の上に一護を投げる。
「うあ!何をなさいます!更木様!」
無言で圧し掛かる剣八。
腕を突っ撥ねようと、身体を捩り逃げ出そうとしても、びくともしない。
「おやめ下さい!」
「うるせえよ・・・、少し黙れ・・・」
と再び口を塞いだ。
「う、ん・・・ん、ふ、ぁ」
先程よりも深く、時間を掛けて口付ける剣八。

怯え、逃げる舌を絡めて甘噛みして吸う。長い舌で上顎を舐めると、ふるりと一護の身体が震えた。
互いの唾液が行き来し、くちゅくちゅと濡れた音が部屋に響いた。
「ん、んふ・・・う、ん・・・」
酸欠になり頭がぼうっ、となった頃漸く解放された。
「ぁ、はぁ、はぁ・・・」
赤く充血し濡れた唇をぺろりと舐めてやる。
「ひあ!」
「一護、一護・・・」
呼ばれる度にひくん、と反応する身体。
「お、おやめ下さい、更木様・・・!」
「まだ余裕あんな・・・」
シュルッと帯を解くと一護の両手を一つに纏め頭上で握り込んだ。
「うあ!い、痛!」
顔を顰める一護の首筋に吸い付き、跡を付けていく。
まるで、自分のモノだと主張するように・・・。

ちゅっ、ちゅっ、と音をさせて吸い付いては甘く噛んでいく。
「ん、ん、あ!あぁ・・・」
「感じやすいな・・・」
熱い、酒気を含んだ吐息が耳に落とされる。
(ああ、酔っていらっしゃる・・・)
剣八の愛撫はどんどん下肢へと進んでいく。
「ひッ!あ、ああ!やめて・・・!」
剣八がごそごそと懐を探って小さな瓶を取り出した。
キュポッと栓を外すと中から粘度のある液体を掌に垂らすとまだ固く閉ざされている一護の蕾に塗り付けて行った。
「ひあ!な、何を!くう!」
ぐちぐちと指で性急に解していく。
「や、やだ・・・あ、ああう」
初めて異物を入れられる違和感に身を捩って逃げようとする一護。
「一護・・・」
ぐちゅ、と指を抜くと熱く滾っている自身を宛がった。
「あ、更木様・・・」
「一護・・・!」
ぐ・・・っ!と中に押し込んでいく。
「あ、ああぁあああ!」
ギチギチと悲鳴を上げるそこは異物を締め付けた。余りの痛みにボロボロと涙を零す一護。
「狭ぇ・・・一護、一護、一・・護・・・」
「ひく!う、うう・・・」
急に覆いかぶさっている剣八の身体が重くなった。
「・・・?」
不審に思い、覗きこんで見ると剣八は寝てしまっていた。
「あ・・・、どうしたら、痛!」
幸い切れていなかった。
「ふ!んく・・・」
ゆっくり自分の中から抜き取ると暫く呆然としていた一護。
「あ、後片付けしなきゃ・・・」
きっと覚えて無いだろうから・・・。夢だと思ってくれれば良い・・・。そう思いながら・・・。


第25話へ続く。



11/05/15作 勢い余って暴走してしまった剣八。因みに彼は何にも覚えてません。サイテー。




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