題「恋する人形」23
 剣八の家を出てから一護は忙しく働いていた。
溜まった書類の重要な物から捌いていき、各隊に配りに行くのに走り回っていた。
その上で隊士達の怪我も診るので毎日クタクタだった。

そんなある日一護がふと、やちるの異変に気付いた。元気が無く、顔も少し赤い様だった。
「草鹿様?お加減でも悪いのですか?」
と声を掛けても、
「大丈夫だよ!そんな事ない!元気だよ!」
と笑顔で返された。
「そうですか?具合が悪かったら言って下さいね?」
「ありがと!いっちー!」
「一護!また出て来た!頼む!」
「あ、はい!」
と余りの忙しさに深く追求しなかった一護。
溜まっていた書類も減っていき、明日が非番となった一護が仕事を終え、やちるは?と見回せばやちるは何処にも居なかった。
「お帰りになったのかな?」
と深く考えずに部屋へ戻り、夕飯を作ると今日はゆっくり湯船に浸かろうと風呂に入った。

「ふう・・・、疲れた・・・。まさかあんなに溜まってるとは・・・」
コキコキと首を回し、疲れを取ると風呂から上がり身体を拭いていると誰かが部屋の戸を叩いていた。
「誰でしょう・・・?」
ドンドンドン!ドンドンドン!と強い力で叩かれていると思った次の瞬間、戸が開く音がした。
「一護!居るか!」
剣八だった。
「あ、は〜い。今出ますね」
と返事をした一護。

一護の部屋に訪れた剣八。
戸を叩いても返事が無かったので蹴り開け、声を掛けるとある部屋から声が聞こえたのでその扉を開いた。
「わ!驚いた。どうかなさいましたか?更木様」
そこには全裸の一護が立っていた。
「おま・・え、なんで、裸・・・」
「え?ああ、お風呂に入っていましたから」
と身体を隠す事も無く言う一護。雫が落ちる髪をタオルで拭く。肌も色付いてまだ湯気が立っていた。
ふと、剣八の腕の中のやちるに気付いた一護。
「草鹿様・・・?どうかされたのですか?」
「あ!ああ!こいつが熱出してぶっ倒れやがった。お前んトコ行くって聞かなくてよ」
「奥に俺のベッドがありますので、寝かせて頂けますか。すぐに着替えます」
「おお・・・」

やちるを一護のベッドに寝かせるとすぐに一護が出て来た。
「草鹿様、草鹿様、起きれますか?お水です、飲んでください」
「ふぇ・・・、いっちー・・・」
「はい、ここに居ます。どこか痛い所はございますか?」
「・・・あたま」
「喉は?」
「・・・・・・」
ふるふると首を横に振る。
「更木様、草鹿様は何かお食べになりましたか?」
「いや」
「卯ノ花様をお呼びしますので・・・」
「い、っちー・・・、いかないで・・」
小さな手で一護の寝巻きの袖を掴んで離さない。その手は驚くほど熱かった。
「草鹿様・・・」
「俺が行く」
「お願いします」
部屋を出て行った剣八が卯ノ花隊長を連れて戻ってきた。二人が見た物は優しい顔で子守唄を歌う一護だった。
「あ、更木様、卯ノ花様」
顔を上げた一護に声を掛けられ我に帰る。
「あ、一護、やちるちゃんの容体は?」
「はい、熱が高く、頭が痛いそうです。喉は痛いく無いと仰っていました。お食事を取っていない様なのでお薬はまだです」
「そうですか。では後は私が診ますから一護は髪をきちんと乾かしなさい」
「あ、はい。お願いします」
治療を卯ノ花隊長に任せ、髪を乾かす一護。
「どうですか・・・?」
「解熱剤の注射をしましたから、このまま寝かせてあげて下さい。明日には下がってるでしょう」
「良かった・・・」
「では私はこれで・・・」
「あ、ありがとうございます。おやすみなさいませ」
「ありがとよ」
「ふふ、失礼します」
と帰っていった卯ノ花。

残された二人。一護が剣八に問い掛けた。
「あの更木様、お食事はお済みですか?」
「あ?いや、まだ食ってねえ」
「よろしければご一緒に如何ですか?俺も今からなんです」
「ああ、良いのかよ」
「はい、一人の食事は味気ないですから。肉じゃがとお味噌汁ですがどうぞ」
「おお」
テーブルに食事を用意していく一護。

こと、こと、かちゃかちゃ、と音を立てないように静かに動いている。
「お待たせしました」
「ああ」
用意された肉じゃがと味噌汁を食べる剣八。
「ん、美味ぇな」
「ありがとうございます。まだありますのでどうぞ」
「ああ、お前こんなに作って一日で食えんのかよ?」
と剣八が問うほどの量だった。
「あ、いえ。クセになったのか、多く作ってしまって・・・」
と恥ずかしそうに言う一護。
「最近では朝昼夜と同じものを食べてるんですよ」
「はあん・・・。飯くれ」
「はい」

食事も済み、食後のお茶を飲みながらやちるを心配する一護。
「更木様は今日どうされるのですか?」
「あん?」
「ここはお客様用の寝具がないので・・・」
「お前はどうすんだ?」
「草鹿様のお隣りで寝させていただきます」
「お前が良いならここで起きてるが?」
「お仕事は・・・」
「そんなヤワな体してねえよ。気にすんな」
「はあ・・・」
食器を片づけるとベッドに入る一護。
「草鹿様・・・」
「ん・・・」
汗を拭ってやりながら額のタオルを替えてやる。
「申し訳ありません・・・。あの時俺がもう少し気にしていればここまでひどくならなかったのに」
「別にお前だけのせいじゃねえだろ。俺だってほったらかしにしてたんだ・・・」
「更木様・・・」
「さっさと寝ちまえよ」
「はい、では失礼して・・・」
隣りのやちるの背中を撫でながら目を閉じた一護が子守唄を口ずさみながらも眠った。
「ん、いっちー・・・」
寝言を言いながら一護に擦り寄るやちる。
「さっさと治しやがれ」
ベッドの横の椅子に座りながら二人の寝顔を眺めている剣八。時折、タオルを替えてやった。

翌朝。
一護は眼が覚めると椅子に座って寝ている剣八に少し驚いた。
二人を起こさないようにベッドを出ると台所で朝食を作り始めた。
「ん・・・」
眼を覚ました剣八は一護が居ないので部屋を見渡すと台所から音がしているので見に行った。
「一護」
「あ、おはようございます、更木様」
「おう、何作ってんだ?」
「草鹿様に玉子粥を作っています。もう少しお待ちくださいね」
「ああ・・・」
一護の後ろ姿を見続ける剣八。
玉子焼きと昨日の残りの肉じゃが、味噌汁を用意する一護。
「手伝うか?」
声を掛ける剣八。
「大丈夫です。出来た。草鹿様食べられるでしょうか?」
小さな土鍋とレンゲをお盆に乗せベッドまで戻る。
「草鹿様。おはようございます。起きれますか?」
「んん、いっちー?」
「はい。お水です、お飲み下さい」
「うん・・・」
水を飲み終わったやちるに、
「草鹿様、今朝は食欲の方はどうですか?食べれそうですか?」
「ん〜、うん。お腹空いたよ」
「良かったです。玉子粥です、どうぞ」
「いっちー、食べさせて〜」
「はい、熱いので気を付けてくださいね?」
ふー、ふー、と冷ましては口に入れてやった。
「おいしい・・・、優しい味だねぇ」
「ありがとうございます。食べられるだけ食べて下さいね」
「うん、もっと!」
ぱくぱくと土鍋の中身を平らげたやちる。
「お薬も飲んで下さいね」
と渡された薬を飲むと着替えさせられた。
「今日は一日お休み下さいね?」
「ここで?」
「どうしましょうか?更木様」
「あ?自分の部屋に帰れ。後は寝るだけだろうが」
「ぶー!剣ちゃんのイジワル」
「はッ!おい、一護朝飯冷めんぞ」
「ぁ、すいません!では草鹿様、もう少しここでお休みくださいね」
「うん!」
「お待たせしました、更木様。お先に食べて下さってもよろしかったですのに」
「一人で食う飯は味気ねえんだろ?」
と言われてしまい、照れくさそうにそっぽ向く剣八に、
「はい、ありがとうございます」
と礼を言って一緒に食べた。

食事が済み、着替えが済むとやちるを抱いて部屋を出る一護。
「あ、お仕事の間は隊首室の仮眠室でおやすみされた方が良いのでないですか?」
「あ?」
「お一人では心細いのではないでしょうか?」
「好きにしろよ。どうせお前が世話すんだろ?」
「はい!お任せ下さい!」
「ありがと、いっちー」
きゅ、と抱き付くやちるが可愛かった。

3人が一緒に出勤し、仮眠室に蒲団を敷いてやちるを寝かせると一角と弓親が、
「大丈夫っすか?珍しいですね」
「熱出したんだって?」
と覗きに来た。
「今は下がっております。大事をとってのおやすみですから」
「ふうん。お前、母親みたいだな」
「は?」
「言いえて妙だね」
「そうですか?さ、お静かにお願いします」
「へーい」
「おやすみなさいませ。草鹿様、何かあったらお呼び下さいませ」
「うん、おやすみ。いっちー」
「はい」
扉を閉めると席に座り、仕事を始める一護。

1時間ほど経った頃、襖が開いた。
「どうかされましたか?」
「おしっこ・・・」
「ああ、ご一緒に行きましょう」
と抱き上げて連れて行く。

「ほんとにお母さんみたいですね」
「ちょっと甘やかし気味だけどな」
「この場合お父さんは隊長かな?」
「・・・くっちゃっべってねえで仕事しろ」
「「は〜い」」

お昼休みには乱菊達が見舞いに来てくれた。
昼食のお粥も食べて薬を飲んで寝たやちるは夜には全快していた。剣八の家まで送ると抱き付いて来た。
「ありがとう!いっちー!だ〜いすき!」
「俺も草鹿様が好きですよ。まだまだ安静にして下さいね」
「は〜い!」
「では俺はこれで・・・。更木様もお疲れ様でございます。今日はゆっくりお休みくださいませ」
「おう、助かったぜ」
「これくらい何でもないことです。おやすみなさいませ」
と自分の部屋に帰っていった一護。


第24話へ続く



11/05/13作 熱を出したやちるの看病をする一護でした。一護の裸見ちゃった剣ちゃんは暫くもんもんとしてるでしょうな。
ちなみにやちるの熱は知恵熱みたいなもんです。



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