題「恋する人形」21
 今日一護は朝からお菓子を作っている。昨日やちるに、
「明日は副隊長会議があるの!皆にいっちーが作ったお菓子を自慢したいから何か作ってくれる?」
とおねだりされた。
「俺の作る物でよろしいのですか?大したものは作れませんよ?」
「いいの!いっちーが作ってくれるのなら!絶対に美味しいってわかってるもん!」
と言いきられてしまい朝食の後からカップケーキを焼いている。

「ん〜と、後は冷めたら生クリームを搾ってっと・・・」
焼き色も綺麗なカップケーキが焼き上がり、飾り付けの生クリームを絞り、苺ジャムやブルーベリージャムのシロップを塗り、アラザンを振った。白いクリームに苺のシロップで薄く色づきとても美味しそうだった。
「出来た!今から行けば丁度良いでしょうか?」
バスケットに出来上がったカップケーキを丁寧に詰め、一番隊へ向かう一護。

一番隊、副隊長会議室。
「失礼します。草鹿様いらっしゃいますか?」
と扉をノックすると勢い良く開けられた。
「待ってたよ!いっちー!早く早く!みんな〜!いっちーがお菓子作って来てくれたよ〜!」
と報告すると、
「ほんと!楽しみだわ〜!で、何持ってきてくれたの?」
「あ、カップケーキを作りました。どうぞ」
と乱菊に差し出す。バスケットの蓋を開け中を覗く乱菊が、
「わぁ〜!すっごく美味しそうだわ!早くお茶にしましょ!」
「あ、お茶を淹れて来ますね」
と一護が給湯室へ行くと後ろを付いて行くやちる。
「いっちー待って!あたしも行く!」
「そうですか。危ないので火には近づかないでくださいね」
「うん!」
薬缶でお湯を沸かし、茶葉を用意する一護。ティーポットとカップを用意するとお湯を注いで温める。
温まったポットの湯を捨て、茶葉を入れると沸騰したお湯を注いで蒸らす。
一護の着物を握り締めながら、それをじっと見ているやちる。
「楽しいですか?草鹿様」
「うん!」
「一護!何か手伝う事ない?」
「あ、松本様。いえ特に・・・」
「あら、やちるってば可愛い事するのね〜」
「はい?」
と振り向く一護。
「やちるってば一護の着物掴んで離さないじゃないの。皺になってるわよ」
「あ、本当ですね」
「丁度良いわ!あんたに着せたい服があったのよ!」
「着せたい服・・ですか?」
と蒸らし時間が終わり、別のポットに注いで紅茶の濃さを均一にする。
「そ!似合うわよ〜。着てみない?」
「そうですね・・・。草鹿様はミルクはどうされますか?」
「いる!」
「ではご用意しますね」
と返事をするとミルクピッチャーを温めて牛乳を用意した。
「いっちー、お洋服着てみないの?」
「動きやす物なら良いと思いますが・・・」
「大丈夫よ!メイド服って言って家の用事する人が着る服だから!」
「メイド服・・・。いつかも言っておられた服ですね」
「だめかしら?」
「動きやすのなら着てみたいです」
「良かった!こっちに来て!着替えましょ!」
とティーポットにティ―コジャーを被せると隣りの部屋に連れて行かれた一護。
「おい、お茶は?」
連れて行かれる一護を見て声を掛けたが、
「ちょっと待ってなさい!」
と乱菊に怒られた恋次。

数分後、部屋から出て来た一護は、黒いロングスカートのヴィクトリアンのメイド服を着ていた。
黒いドレスに白いエプロンにヘッドドレス。白いストッキングに黒の皮靴。
首元まで襟で覆う姿は一護の清楚な雰囲気に良く合っていた。
「どう!似合うでしょ!」
「わあ!いっちー可愛い!
「ほんと!良くお似合いです!」
と褒められた一護。
「ありがとうございます。あ、紅茶を運びますね」
と給湯室に行くとトレイに乗せた紅茶を運んできた。
「お待たせしました。冷めてないと良いのですが・・・」
とカップに注いでいく。幸いティ―コジャーのおかげでそんなに冷めてはいなかった。
「どうぞ、お召し上がりください」
と紅茶と共に今朝焼いたカップケーキを出していく。
「わあ!可愛いですね!クリームに色が着いてる?」
「はい。苺ジャムやブルーベリージャムのシロップを付けています。中にはジャムも入っています」
「へえ〜、いただきま〜す!」
と皆がケーキを口にする。
「ん、ん〜!おいし〜い!」
「ホント!ふわふわでクリームとジャムの相性抜群ね!」
「お口に合って良かったです」
「良いわね〜、やちるも更木隊長も!毎日こんな美味しい手作りお菓子や手料理食べてるんですもの」
「そんな。居候させていただいてる身です。これくらいは・・・」
「いっちー!もっと食べて良い?」
とやちるが口を挟んだ。
「あ、はい。今日は多く作ってきましたから」
「わ〜い!」
と皆がおかわりしていく。

「おい、やちる」
と扉が開いて剣八が立っていた。
「あ!剣ちゃんだ!剣ちゃんもいっちーが作ったケーキ食べる?」
「ああ?」
「あ、更木様」
「い〜ちご?違うでしょ?さっき教えたじゃない、なんて言うのかしら?」
悪戯な笑みで言う乱菊。
「あ、え〜と・・・。お、お疲れ様です、御主人様・・・?」
剣八の前に立ち、ドレスの裾を摘まんでちょこんとお辞儀する一護。
ビシッと固まったのは剣八を含む男性陣。
何も返して来ない剣八に一護が声を掛ける。
「あ、あの?・・・やはりおかしいですか」
とエプロンとドレスを摘まんでみる。
「い・・や・・、何やってんだ?お前」
と辛うじてそれだけそれだけ搾りだした剣八。
「いえ、松本様が動きやすい服をと下さったんです。この服を着ている人はこう言うそうで」
間違ってますか?と首を傾げている。
「俺に聞くな」
「はあ・・・。あ、皆さまも如何でしょうか?ケーキを焼いたのです。お疲れではございませんか?」
と声を掛ければ、
「一護〜ぉ、もうケーキ無いわよ〜」
と乱菊がバスケットを逆さにして振っている。他の隊長達の残念そうな声が聞こえている。
「え?30個は焼いたんですが・・・」
「そんなのすぐ無くなるわよぅ!あんたの作るお菓子美味しいんだもの!」
「はぁ。嬉しいですけど」
「また何か作ってよ〜?」
「喜んで」
と言っていると、
「もういいか?帰るぞ」
と剣八が帰るぞと促す。
「あ、はい。草鹿様、今日のお昼ご飯は何が食べたいですか?」
とやちると手を繋ぎながら剣八の隣りを歩く。
「ん〜とね、ん〜とね!なにが良いかな!いっちーのご飯なんでも美味しいから迷っちゃう!」
「なんでも良いだろうがよ」
「いっちーは?何か食べたい物とかないの?」
「そうですねぇ。材料は今から買いに行くのですが何に致しましょうか。焼きそばなどは如何でしょう?」
「美味しそう!じゃあそれ食べたい!」
「畏まりました。ざら、ご主人様もよろしいですか?」
「ああ。つーかそれヤメロ」
「それとは?」
「ご主人様ってのだ。むず痒い、いつもの敬語でも尻の座りがおかしいのによ」
「申し訳ありません。では更木様、お昼は同じものでよろしいですか?」
「ああ」
そんな3人の後ろ姿を微笑ましく眺めている各隊長達。とりわけ卯ノ花隊長は嬉しそうだった。
十一番隊に着くと早速買い物に行く支度を始める一護。
「では行ってまいります」
「行ってらっしゃい!いっちー!」

お昼が近づき、もうすぐ昼休みも終わろうと言う時間になっても一護は帰って来なかった。
「どうしたのかな?いっちー。荷物が重くて動けないのかな〜?」
やちるが心配している。
「隊長、副隊長。お先に食べては?」
と弓親が食堂を勧めるも、
「やだ!いっちーのご飯食べるの!」
と拒むやちる。そんな話をしていると一角が隊首室に入って来てこう伝えた。
「隊長!一護のヤツ道で倒れて京楽隊長に担がれて帰ってきました!」
「ええっ!つるりん、いっちーは大丈夫なの?なんで倒れたの?」
「熱中症だとか言ってましたよ。このくそ暑いのに真っ黒な長袖の服着てっから・・・」
すぐさま外に出ると京楽の腕に抱かれてグッタリしている一護が居た。
「いっちー!」
「やッ!こんにちは、剣八さん」
「弓親、卯ノ花呼んどけ」
「はい!」
京楽に近づき、一護の顔を覗き込む剣八。
大汗を掻き、顔を赤くして荒い呼吸を繰り返す一護の意識はまだ浮上していない様だ。
「京楽、なんでこうなった・・・?」
「いやあ、さっき道端の木陰で座り込んでる一護君を見つけたんだよ。あ、食材は後で七緒ちゃんが持ってくるって言ってたよ。で、その時は意識はあったんだけど話を聞いてる途中でね・・・」
はい。と一護を渡す京楽。
「熱ぃ・・・」
「う・・・」
「剣ちゃん、いっちー大丈夫なの?」
すぐに服を脱がせて体を冷やした方が良いと分かるが、このメイド服とやらの脱がし方が皆目見当も付かない。
そうこうしているうちに卯ノ花隊長がやってきた。
「更木隊長、申し訳ありませんがそのまま一護を別邸の方へ連れて来てもらえますか?そこで処置をします」
「ああ」
家に連れて帰り、敷かれた蒲団に一護を寝かせると部屋を出て行く剣八。後は卯ノ花に任せよう。

「う・・・、あ・・?」
「眼が覚めましたか?一護」
「?・・・あ!卯ノ花様!どうしてここに!あの俺・・・」
「貴方は熱中症で倒れたのですよ。覚えていませんか?」
一護はいつもの寝巻きに着替えさせられており、頭や脇を冷やされていた。
「え、と・・・。お昼の買い物に出かけて、その帰りに気分が悪くなって・・・、京楽様に声を掛けられた所までは・・・」
「その後、京楽隊長が十一番隊の隊舎まで運んでくれたのですよ」
「そうなのですか。お礼をしなければいけませんね」
「そうですね。快復してからにしなさい。更木隊長もやちるちゃんも心配していましたよ。もうこの服は着なくても良いですわね」
とメイド服を指差した。
「俺のではないですから何とも。いつもの格好の方が動きやすかったです」
「そうですか。ではこれは松本副隊長にお返ししておきましょう。貴方は明日までゆっくり休んでいなさい。水分補給は細目にね」
「はい。ありがとうございます・・・」
そのまま眠ってしまった一護。
その日は結局食堂のご飯となった剣八とやちる。一護の食事はお粥と果物を食べさせた剣八。
心配で一護の部屋を何度も覗いてしまうやちる。深夜になると剣八も覗いていた。
翌日には元気になった一護。何故かその日一日真面目に仕事に追われる乱菊が居た。

第22話へ続く



11/05/07作  メイド服を着た一護。難しかった!もうそろそろ男の子に戻さないと物語りが進まないわ。


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