題「恋する人形」18 | |
翌朝 「更木様、おはようございます。起きられますか?」 「うう〜・・・」 「もう朝でございますよ。お仕事に遅れてしまいます。起きて下さいまし」 ゆさゆさと肩を揺さぶり起こす一護。 (あ、昨日こいつ・・・) のそりと起き上がるとガリガリと頭を掻いた。 「おはようございます、更木様」 「あぁ・・・、お前寝れたのか?」 「はい、睡眠は充分に取りました」 「そうかよ」 と言いながら欠伸をした。 「では草鹿様を起こしてまいります」 「おう」 やちるを起こしに部屋を出た一護。 「暑いな、今日も・・・」 外ではジワジワと蝉が鳴いている。 3人が居間に集まり昨日の残りで朝食となった。 「あ?なんだこの汁モンの具は?」 「冬瓜です。暑気払いに良いかと思いまして。熱くても冷たくても美味しいそうで作ってみました」 「スッゴイ美味しいよ!お魚もね骨も食べられるんだから!」 「分かった分かった。ちゃんと食ってるよ」 「冷たい麦茶も作っておきましたのでいつでも飲んでくださいね」 「わーい!ありがと!いっちー!」 「でも飲み過ぎては嫌ですよ。お腹を壊してしまいますからね?」 「はぁい!」 と食後のお茶に冷たい麦茶を飲みながら話をしていると剣八が、 「しかしうるせえな。どうにかなんねえのか、この蝉はよぉ」 とぼやいた。 「耳が馬鹿になりそうだぜ」 「仕方がありませんよ。これは蝉の求愛だそうですよ」 「は・・・?求愛だぁ?」 「はい。7年も土の中に居て外に出れば7日の命・・・。その間に自分の子孫を残さなければいけないんです。そのために必死に求愛をして雌を求めているんだそうです」 と庭の木を眺めながらそんな事を言う一護。 「彼らの『今』は・・・、何物にも代え難い瞬間なのでしょうね・・・」 とどこか悲しそうな顔で呟いた。 「一護・・・?」 「いっちー・・・」 「さ!もうそろそろお支度をなさらないと遅刻してしまいますよ?今日も天気が良い様なので蒲団を干してお掃除をしたいのですが、お二人のお部屋の掃除もしてもよろしいですか?」 「あ、ああ。構わねえよ・・・」 「あたしも良いよ。ありがとね、いっちー!」 そして二人が仕事に出掛けた後、食器を洗い、洗濯をして3人の蒲団を干した。 「今日も良いお天気ですね。服もお蒲団も良く乾くでしょうね」 それから剣八とやちるの部屋の掃除に取りかかった。 意外と言うか剣八の部屋はそれほど散らかってはいない。万年床を退ければ広い部屋の隅にある埃や屑籠のゴミくらいなものである。 部屋の窓を全開にして埃を払い、畳を固く絞った雑巾で拭き終了。 「次は草鹿様のお部屋ですね・・・」 やちるの部屋は、やはりと言おうかお菓子とその食べカスが多かった。 「あ、アリ・・・」 畳の上に落ちたクッキーにアリが集っていた。 それを摘まんで庭に放る一護。埃を払い、箒を掛けてから畳を拭き、終了した頃には昼食の時間になっていた。 「もうそろそろ洗濯物を取り込んで、蒲団を裏返しましょうか」 そんな様子を見ているのは剣八達4人。 「一護君って働き者ですよねぇ〜」 「だよな。早く元に戻ってくれねえと書類が溜まる一方だぜ」 「隊長!良いお嫁さん貰いましたね」 「うっせえ、アホが・・・」 素っ気なく言う剣八を微笑ましく見ていたが次の発言に驚く二人。 「しかし・・・人に褌洗ってもらうなぁ、恥ずかしいもんだなぁ・・・」 「は・・・?」 「はい・・・?」 今、なんと・・・? 「いっちーねぇ、剣ちゃんの褌もちゃんと洗ってくれるんだよ!」 「へ、へえ・・・」 「よかった、ですね」 (それ惚気〜〜!!) (隊長、顔弛んでますから!) 一人身の一角、弓親は心の中で突っ込むしかなかった。 そして一護は洗濯物を畳み終えるとお昼の用意を始めた。 「今日も暑いですし、そうめんとざるソバ、どちらが良いのでしょう・・・?」 ガサゴソと探してもソバは無く、そうめんが見つかったのでそうめんにした一護。 「そうめんと、天ぷらにしましょう!お野菜とエビと鶏と・・・」 ナス、しし唐、かぼちゃ、ミョウガ、エビ、鶏肉の天ぷらを揚げ、そうめんを湯掻いた。 冷水でヌメリを取り、氷水の入ったガラスの器にそうめんを入れ、居間に運んでやちるの伝令神機に連絡を入れるとすぐに二人で帰って来た。 「たっだいまー!いっちー!お昼何?なに?なに〜?」 「今日はそうめんと天ぷらですよ。先に手洗い、うがいを済ませて下さいな」 「はぁ〜い!」 「へえ、美味そうだな」 「ありがとうございます。薬味は何になさいますか?」 「あたし生姜〜!」 「俺もそれで良い」 「分かりました」 ねぎと摩り下ろした生姜でそうめんと天ぷらを食べる。 「ん?鶏肉か?」 「エビもある〜!」 「そうめんだけだと少ないと思いまして・・・。草鹿様、お野菜も食べて下さいね?」 「はーい!」 いつまで騙されてんだか・・・。 何も残らず昼食も済み、昼休みにやちるは卯ノ花隊長の所へ遊びに行った。 「いつもキレイに食べて下さって嬉しいです。夕飯は何にしましょうか・・・」 「さあて、やちるが帰ってきたら聞いてやれよ」 「更木様は何か食べたい物は無いのですか?」 「あぁ?別に・・・。お前の飯美味いしな・・・」 「ッ!!あ、ありがとうございます!!」 「どうした?顔赤いぞ・・・?」 「いえ!暑いだけです!」 「そうかい」 隊舎に戻る剣八を見送り、蒲団を家の中に取り込んだ一護。 四番隊では嬉しそうに報告するやちるに自分の判断が間違ってなかったと確信する卯ノ花隊長が居た。 「そう言えば・・・、今日は夏祭りの日でしたわね」 「あ!そうだね!いっちーと行きた〜い!」 「良いですわね。では一緒に浴衣を買いに行きましょうか?」 「うん!早く早く!」 「こんにちは。一護」 昼休みを利用して卯ノ花隊長がやちると一護の元に訪れた。 「卯ノ花様!こんにちは、どうかされましたか?」 「いえ、今日はお買い物に誘いに来たのですよ」 「お買い物、ですか?あ、暑いのでどうぞ中に。お茶を・・・」 と家に誘い、卯ノ花もやちるも付いていく。 コトリと冷たい麦茶が入ったコップを二人の前に差し出すと、 「お買い物とは、何を買いに行くのでしょうか?」 と聞いた。 「今日は夏祭りがあるのですよ。あなたの浴衣を買いに行こうと思いまして」 「浴衣、ですか」 「ええ、女性の体ですから女物になってしまいますが」 「草鹿様も夏祭りに行かれるのですか?」 「うん!剣ちゃんも行くよ!いっちーも一緒に行こうよ!ご飯もそこで食べてれば良いよ!」 「そうですね。お祭りには行った事がありませんから、楽しみです」 と頷き、3人で呉服屋へ向かった。 呉服屋。 「大きなお店ですね・・・」 「私が良く利用しているお店ですわ。さ、入りましょう」 中に入ると初めて見る店の商品に目を奪われる一護。 「一護、こちらへ」 「あ、はい!」 「時間が無いので出来あいの物になってしまいますが、どれが良いですか?」 たくさんの浴衣が並べられていた。 「どれと言われましても・・・」 黒い地の浴衣を身体に当てて、 「どうでしょうか?」 「黒は・・・、それより紺か藍はどうです?」 紺地に薄紫の朝顔の浴衣を当てられる。 「こちらの方は色が白くて肌もお綺麗ですからねぇ。こちらの白地の物などは如何です?」 と店の女将が持ってきた浴衣を当ててみる。 「いっちー、綺麗!」 「そうですわね。白地に赤い花が綺麗ですわ。これで髪を少し上げて項を出せば・・・」 すっ、と髪を上げる卯ノ花隊長。 「では、これにあの赤い帯と下駄を」 「黒の塗りでよろしいですか?」 「ええ、鼻緒は赤で」 「はい」 「一護、袖を通してみなさい」 「あ、はい」 袖を通し、軽く整え、姿見の前に立ち、帯を合わせてみる。 「素敵ですわ、一護」 「あ、ありがとうございます」 「この帯は柔らかい兵児帯ですから、こうやって結んで・・・」 簡単な帯の結び方を一護に教える卯ノ花。 「華やかでしょう?」 「はい・・・。あのこれ・・・」 「私からのプレゼントですわ。お古の着物ばかりでは嫌でしょう?」 「そんな!こんな高価な物を!」 「そう高くもないですよ。受け取ってくださいな、一護」 髪の結い方も教わり、呉服屋を出る3人。 「あの、ありがとうございます。卯ノ花様も草鹿様も・・・、こんな俺に、良くして下さって・・・!」 「言ったでしょう?貴方は私にとって子供の様なものだと。親が子に良くするのは当たり前の事なのですよ」 「ありがとうございます」 ぽろぽろと涙を流す一護。 「あぁ、また・・・。卯ノ花様、これはなんですか?時々目から水が出るのです・・・」 ずっ、と鼻を啜る一護が問い掛ける。 「胸が軋むと勝手に出てくるのです。でも今は、胸も軋んでいないのに・・・。嬉しいのに・・・」 溢れる気持ちと同じ様に流れる涙を一生懸命に手の甲で拭う一護。 「一護、これは涙と言うものです。人は必ず流す物です、心配は要りませんよ」 「人は必ず・・・。では、俺は変じゃないんですね?不良品ではないのですね?」 「違いますよ。安心なさい」 「良かった・・・」 「良かったね、いっちー」 「はい・・・」 「もう泣きやみなさい。目が腫れてしまいますよ?せっかく初めて浴衣を着るのでしょう?」 「は、はい・・・」 すんすん、と泣きやむ一護。 「ねーねー、いっちー。お祭りの時間ね、夜の7時なんだけどあたしと剣ちゃん先に行ってるから、ゆっくり来ると良いよ!」 「別々に行くのですか?」 「うん!待ち合わせの場所はね、神社の前にするから!いっちーの浴衣は剣ちゃんにはナイショね!」 「はあ・・・」 「だから、定時の5時になったらいっちーは四番隊の卯ノ花さんの所に行くの!そこから別々にするの!」 「それは良い考えですわ。今から貴方の部屋に浴衣を置いて行きましょう」 と卯ノ花も乗り気になった。 「はい」 久し振りの自分の部屋に帰ると浴衣や下駄を置いて十一番隊に帰った。 十一番隊では。 「今日はお祭りに行くから剣ちゃん浴衣着てね!墨染で蛇の絵のやつ!」 「あ?一護は知ってんのか」 「うん!7時に待ち合わせしてるから!定時になったら着替えに帰るからね!いっちーは四番隊に寄るって!」 「ふぅん。良いけどよ。飯はそこで食うのか」 「うん!屋台の!いっちーお祭りに行ったことないって楽しみにしてるよ!」 「へえ」 定時を迎えて一旦私邸に帰る二人。 「剣ちゃん!帯締めて〜」 「いい加減覚えろよ」 とぼやきながら、さっさと結んでやる。 「ありがとー!」 「おら、さっさと行くぞ」 「はーい!」 第19話へ続く 10/12/27作 冬なのに夏のネタ。今こっちにスイッチ入ってます。 |
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