題「恋する人形」17
 やちるを送り出してから一護は洗濯を終え、全て干し終えた。
掃除をし、玄関の花を替えた。
「こう暑くては花もすぐに萎れてしまいますね」
と呟き、3時が近づくと洗濯物を取り込んだ。
夏の暑さと風ですっかり乾いた衣服を綺麗に畳み、庭に水を撒いてから約束したおやつを持って隊舎へ行く一護。

「お邪魔します。草鹿様、更木様、いらっしゃいますか?」
重箱を持って一護が現れた。
「いっちー!おやつ?おやつ持ってきてくれたの?」
「はい、ここにありますよ。冷たいお茶も持って参りました」
「わぁい!早く早く!剣ちゃんも早くぅ!」
「わぁったよ。喚くな、ただでさえ暑いんだ」
「綾瀬川様も、斑目様も、どうぞ」
「ありがとう」
「おお、サンキュー!」
応接セットに集まる4人に重箱から出されたモノは・・・。
「わぁ!キレーイ!これ食べれるのぉ?」
「もちろんですよ。こちらが梅酒のゼリーとこちらが錦玉羹です」
皿に出された梅酒のゼリーは中に梅の実が入っていた。光を受けてキラキラと輝いていた。
錦玉羹には、透き通った錦玉液に餡子玉と干しアンズと缶詰のミカンが入っており目にも鮮やかだった。
「こちらには黒蜜を掛けても美味しいそうですよ」
と錦玉羹を指して言った。
「冷たいうちにどうぞ」
「いったっだきまーす!」
「あ」
と一口で梅酒のゼリーを食べる剣八。プッと種を出すと次は錦玉羹に手を伸ばす。
「美味しいねぇ、キラキラ光って美しいし、冷たいお菓子って言うのがまた良いね」
「だよなぁ、汗が引いたぜ」
「美味しい美味しい!」
「良かった!喜んでもらえて俺も嬉しいです」
4つの錦玉羹を残し一護が席を立つ。気付いた剣八が声を掛けた。
「あ?どっか行くのか、一護?」
「あ、はい・・・、ちょっと十番隊まで・・・」
「ふぅん・・・」
「夕飯の時間までには戻ると思いますので・・・」
「ああ・・・」
部屋を出ていく一護。
「いっちー、大丈夫かなぁ・・・?」
「さぁな、自分で決めたんだろ。ほっとけよ」
「うん・・・」

十番隊に着くと隊首室に案内してもらった一護。
「失礼いたします」
「入れ・・・」
中に入ると隊長である日番谷が隊首席でぐったりしていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ・・・、暑さに弱くてな・・・。誰だ、お前」
「あ、俺は十一番隊の看護士をしている一護と言います。松本様は・・・いらっしゃいますか?」
「知らん・・・!仕事サボってどっか行きやがった!」
「そうですか、大変ですねぇ。あの、甘い物がお嫌いでなければこれを・・・」
「なんだ・・・?菓子か?」
「はい、まだ冷たいと思いますので、少しはマシになるのでは?」
「悪いな・・・遠慮なく貰う」
「どうぞ、そのために持って来たんですから。少し給湯室をお借りしますね」
とお茶を淹れに行った一護。

「お待たせしました」
その手には、涼しげなガラスの茶器に入った緑茶があった。
「悪いな・・・」
「いいえ」
お茶と錦玉羹を机に乗せると黒文字で一口大に切って口に運ぶ冬獅朗。
「ん、美味ぇな、何処で売ってたんだ?これ」
「いえあの、俺が作ったんです・・・」
「お前が?!」
「はい」
「ふうん、すげえな」
「いえ、とんでもない!意外と簡単なんです!」
慌てて手を振る一護。
冷たい緑茶を飲みながら話しをしていると乱菊が帰って来た。
「一護!?どうしたの?」
「お前に会いに来たんだと」
「こ、こんにちは・・・」
「一護・・・、その、もう大丈夫なの?」
「はい、昨日は、その、取り乱して申し訳ありませんでした・・・」
「な、なんであんたが謝んのよぅ!あたしが悪いのに!」
「でも、昨日の俺の態度は・・・」
「それだけ傷付けちゃったってことでしょう?本当にごめんなさいね」
「いいえ、俺が弱いだけです。すいません」
「一護〜」
「あの、お菓子を持ってきたので、よろしければ食べて頂けませんか?」
「コレ一護が作ったの?」
「はい、お口の合えば良いのですが」
「合うだろ、すげぇ美味ぇぞ、これ」
「隊長が褒めるなんてね。じゃ、ご相伴にあずかるわね」
氷の溶けた緑茶を飲みながら、錦玉羹を食べる乱菊。
「ん〜〜!美味しいわ〜!一護あんたって和菓子も作れるのね〜!」
「良かったです・・・、それでは俺はこれで・・・」
「あら、もう帰っちゃうの?もっとゆっくりしていきなさいよ〜」
「いえ、松本様もお仕事でしょうから。それに夕飯の用意もしなくてはいけなもので・・・」
「あ、そうよね。更木隊長とやちるのご飯用意しなきゃいけないものね」
「では・・・」
と帰っていく一護。
「おい、なんだ、お前あいつになんかしたのか?」
「ちょっと・・・」
「またか・・・。いい加減にしとけよな・・・」
「はあい・・・」
肩を竦めて返事をした乱菊だった。

一護が帰ってくる頃より少し時間を溯り・・・。
「やぁ、剣八さん居るかい?」
と京楽隊長が顔を覗かせた。
「あん?何か用かよ」
「うん、なぁんかさー、最近付き合い悪いじゃない?たまには飲みに行かないかい?」
クイッと杯を呷る真似をして剣八を飲みに誘う。
「あ〜。まぁたまには良いか・・・」
と承諾する剣八だった。

十一番隊。
「おう、一護丁度良い。今日は俺の晩飯いらねえぞ、京楽と飲みに行ってくるからよ」
隊舎の前を通りかかった所を剣八に声を掛けられた。
「そうなのですか。では今日は草鹿様と二人きりですね。お風呂はどうなさいますか?」
「こっちで入る。俺が帰るまで置いとくとかしなくていいぞ」
「分かりました。それでは」
と挨拶をして帰る一護。

「たっだいまー!いっちー!今日のご飯なにー?」
いつも通りの時間に帰って来たやちる。
「お帰りなさいませ、草鹿様。今日は豆鯵の南蛮漬けと冬瓜のスープですよ」
「美味しそう!早く食べよ!」
「はい」
食事を済ませ、一緒に風呂に入り、ゆったりとした時間を過ごす二人。

ボーン、ボーン、と時計が夜の9時になったのを教える。
「ねぇいっちー。剣ちゃん飲みに行ったら結構遅く帰ってくるからいっち―も先に休んだ方が良いよ〜?」
「ですが、帰って来られたら、もしかして何か軽く召しあがるかも知れませんから、帰りを待ちますね。草鹿様はもうおやすみください」
「は〜い」
やちるを部屋まで連れていき、寝付くまで傍に居て子守唄を歌ってあげた一護。暫くすると可愛らしい寝息が聞こえて来て、眠ったのだと分かった。

一護は静かに部屋を出て、居間で剣八が帰ってくるのを待っていた。
卓袱台の上には食器と、いつでも食べられるようにおかずを用意していた。
だが、剣八は中々帰ってくる気配がなかった。

後少し・・・。後少し・・・。と頑張っていた一護だったが、知らぬ間に眠ってしまっていた。

深夜も1時を過ぎ、漸く家路に着く事が出来た剣八。
「あ〜、うざかったぜ京楽の野郎・・・」
最近付き合いが悪いのは良い人でも出来たのか?だったら紹介してくれだの、最近大人しくなったねぇだの喧しい事この上ない。
「早く帰って寝てぇ・・・」
飲んだ分の金額はヤツに押し付けて来たからマシかもな。とほろ酔いの頭で考えながら家の前まで来た。
「ん?」
家から灯りが付いているのが分かった。

もう夜中の1時だぞ?消し忘れか?それとも・・・。

剣八は慌てて家の中に入った。
灯りが漏れている居間の障子を開けると、そこには卓袱台に突っ伏して寝てしまっている寝間着姿の一護が居た。

なんで・・・。

「おい、一護起きろ。か、風邪ひくだろうが・・・」
一護を起こしながらも卓袱台の上にある食事の用意に驚いた。
「まさか、ずっと待ってたってのか・・・?要らねえつったのに・・・」
肩を揺さぶって起こす。そのあまりの小ささに少し驚く。
「う、ん・・・。あ、おかえりなさいませ・・・更木様・・・」
「じゃねえよ・・・。飯は良いつっただろ・・・。何で寝てねぇ?」
「お帰りになったら軽く召しあがるかと、思いまして・・・。申し訳ありません・・・」
「いや・・・、俺も遅くなりすぎた・・・。これは朝飯に食うからよ」
「はい・・・、では、冷蔵庫に入れて来ます」
と片付け始めた一護。
「・・・俺も手伝う」
と比較的重いスープの鍋を持って台所へと一緒に行った。
「ありがとうございます」
「良いから、もう寝ろ・・・」
「はい、失礼します・・・」
部屋に帰った一護は、蒲団に入るとすぐに眠ってしまった。
「俺の帰りなんざ待ってんじゃねえよ・・・」
一人ごちた剣八も着替えてさっさと眠った。


第18話へ続く





10/12/11作 和菓子を作った一護と少し復活しつつある一護でした。
健気な一護に剣八はこれからどうなりますやら・・・。因みに自分の気持ちにはまったく気づいてませんよ、この人。

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