題「恋する人形」15 | |
二人を見送った後、片付けと掃除を始めようとした一護だったが、着物の裾や袖が長すぎて邪魔だと思った。 「これなら、現世で買った洋服の方が動きやすそうですねぇ」 と呟くと洋服に着替えた。 昨日と同じように掃除、洗濯を済ませていく。 その様子を隊首室の窓から見ていたやちると剣八。 「いっちーが新しいお洋服着てる〜。あたしも着ようかなぁ」 「お前は仕事中だろが」 「ちぇ〜」 「ん・・・胸が不安定ですね・・・」 勝手が違う身体で何やら気持ち悪い。仕方が無いので四番隊の卯ノ花隊長の所へ相談しに行った。 「すいません、お邪魔いたします」 「まぁ、一護ではないですか。どうかしたのですか?」 「はい、あの、我が儘で恐縮なのですが・・・」 「なんです?」 「この胸、何とかならないでしょうか?ふわふわ動いて走ると痛いのです」 「あら、下着を着けていないのですね。洋服を着るならこのブラジャーを着けないと不便ですわよ」 「ぶらじゃー・・・」 「一護、上着を脱ぎなさい」 「はい」 あっさりと脱ぐ一護。 「これはこうやって乳房を支えてくれる下着なのですよ」 と丁寧に教えて着けてやった。 「どうです?」 「あ、楽になりました。腕も動かしやすい」 グルグルと腕を回す一護。 「良かったですわ。いつまでその身体か分かりませんから、あと数枚持っていると良いですね。それから下も・・・」」 と新しい物を3セットほど出してくれた。 「ああ、そうですわ。着物も男物だと色々不便ではないですか?私のお古で良ければ貰ってくれませんか?」 「よ、よろしいのですか?そこまでしていただいて・・・」 「良いのですよ。貴方は私の子供の様なもの。時には甘えなさい」 「ありがとうございます。卯ノ花様」 深々と礼をする一護に目を細める卯ノ花隊長。 「良いのですよ。更木隊長との暮らしには慣れましたか?」 「はい。あの方はお優しいですから大丈夫です」 「それは、良かった事」 紙袋に包まれた下着と数着の着物などを持って帰っていく一護。 「あ、お昼にお弁当でも届けましょうか・・・」 とカフェエプロンを着け、仕度する。 「ん〜と、草鹿様がお野菜好きじゃないから、少し多めにして、余ったご飯でおむすびを作りましょう」 お重を出して、おむすびをたくさん詰めて行く。おかずには、玉子焼き、剣八が気に入ったと言っていたきんぴら、豚肉でニンジンや玉ねぎ、エノキを巻いて生姜醤油で焼いたもの。ピーマンのお浸し、インゲンの胡麻和えなど所狭しと詰めて完成。 作り終わった頃、丁度昼休みとなっていた。 お重を風呂敷で包み、隊首室へと向かう一護。 「更木様、草鹿様、いらっしゃいますか?」 「わーい!いっちーが来てくれたー!」 と飛びついて来たやちる。 「わっ!危ないですよ、草鹿様!」 お重を持ってよろけた拍子にシャツからチラッとおへそが見えた。 「ごめ〜ん。お弁当持ってきてくれたの!?」 「はい。もうお済みですか?」 「ううん!まだ!剣ちゃーん!いっちーがお弁当持ってきてくれたー!」 「聞こえてんよ。わざわざありがとよ」 「い、いいえ!ご厄介になっているのですから!これくらい!」 目の前で手をぶんぶん振っている一護。 「まぁいい、入れ。いつまでそこにつっ立ってる気だ?」 「あ、申し訳ありません。お邪魔ですね」 中に入ると剣八とやちるが来客用のソファーに移動してきたので一護もそこにお弁当を置いた。 「あ、お茶を淹れて参ります」 給湯室へ消える一護。 「いいっすね隊長、まるで愛妻弁当みたいっすよ」 「うるせえよ、一角」 「お待たせしました。斑目様も綾瀬川様もいかがですか?」 5人分のお茶を淹れ持ってきた一護。 「いや、俺らは・・・」 何故かやちるが威嚇するように睨んでいる。 「いっちー!つるりんもゆみちーも食堂に行くんだって!」 早く早くと引っ張っている。 「お茶が零れてしまいます。ではこのお茶だけでも」 と二人に湯飲みを渡す。 「お、おう・・・」 「ありがと」 ソファーとテーブルの所に行き、弁当を広げる一護。 「美味しそうだけどお野菜多いね」 「草鹿様はお野菜が苦手だとおっしゃっていたので少し多い目にしてみました」 「え〜・・・」 「ちゃんと食べて下さいね?」 「はぁい・・・いただきま〜す」 「いただきます」 弁当を食べて行く3人を微笑ましそうに見ている一角と弓親。 「おにぎり美味しい!」 「お、きんぴらか・・・」 やちるがピーマンのお浸しを見つけ顔を顰める。 「草鹿様?好き嫌いはダメですよ」 「だぁって、苦いんだもん!」 ぷくっ!と頬を膨らませるやちるに少し驚くが後の一護の行動によって納得する一角達。 「大丈夫ですよ。今朝も食べれたでしょう?さ、鼻を摘まんで」 やちるの鼻を摘まんで口を開けさせると、一口分だけピーマンを入れる。 目を瞑って口をもぐもぐさせてから飲み込んだ。 「ん!食べたよ!いっちー」 あ〜ん、と口の中を見せるやちる。 「はい、ちょっとずつで良いですので食べれる様になってくださいね」 やちるの頭を今朝と同じ様に撫でてやる。 その光景に一角も弓親も、 (ああ、副隊長も甘えたいんだ) と納得した。 昼食も終わり、食後のお茶を啜りながら、 「今日の夕飯は何がよろしいですか?」 と夕飯のリクエストを聞いた。 「ん〜とね、何が良いかな〜?剣ちゃんは?」 「ああ?何でもいい」 「なんでも・・・、ではお鍋はいかかですか?水炊きだとお野菜も摂れますよ」 「それがいい!お荷物重くなるから剣ちゃんもお買いもの行こうよ!」 「あ〜良いけどよ。飯遅くなんぞ?」 定時に終わってから買い物だといつもよりは遅くなるだろう。 「いいよ!待つもん!やったぁ!3人でお買いもの!」 「ではご飯は先に仕込んだ方が良いですね。一度帰られますか?そのまま行きますか?」 「羽織が邪魔くせえからな、一旦帰って着替える」 「ではその様に・・・。草鹿様、これからお時間ありますか?」 「うん!まだ休憩〜。なに?」 「いえ、この間言っていたアップルパイをご一緒に作ろうかと思いまして・・・」 「作ろう!わーい!楽しみ〜!」 「副隊長に出来のンのかよ」 「うるっさい!パチンコ玉!」 「誰がパチンコ玉だ!コラァ!」 「べ〜ッだ!行こ!いっちー、早くしないと休憩終わっちゃうよ!」 「はい、ではおうちの方へ」 「レッツゴー!」 「ひゃっ!」 一護はやちるに抱えられ、私邸に連れて行かれた。 「副隊長は随分一護君に懐いてますね」 「珍しいよな。隊長、一護って家でも笑わないんすか?」 「ああ。いつもと同じだ」 「何か理由でもあるんスかね?」 「知らねえよ、そのうち笑うだろうさ」 剣八は立ちあがると昼寝をするために縁側へ出た。 「隊長が気を許してるっていうのも珍しいよね・・・」 「そういやぁ・・・。もしかして、そう、なのか?」 「多分・・・、一護君もそうでしょ」 「だよなぁ」 剣八邸の台所。 「実はもう中身のリンゴのフィリングは出来てるんです。後は生地に並べて焼くだけなんですよ」 「ほえ〜、コレの事?いっちー。良い匂いだねえ」 「シナモンというスパイスです。さ、この型にパイ生地を敷いてっと」 パイ生地を敷いた型にリンゴを入れて均していく。 「ここから草鹿様に手伝って頂きます」 「何?何するの」 目をキラキラと輝かせている。 「この生地でリンゴを覆って行くんです。格子模様になる様に・・・」 細く切ったパイ生地を編み込む様に並べて行く。途中からやちるにやってもらう。 「こうでいいの?」 「はい。余った生地で飾りを作りましょう」 そう言うと生地を纏めて伸ばし、飾りを作る。 「わぁ、いっちー器用だねぇ」 「ありがとうございます、草鹿様もお上手ですよ」 葉っぱの形に切りだした生地を並べ、パイの縁を固めて、卵黄を塗っていく。 「なんで二つ作ってるの?」 「もう一つは卯ノ花様への贈り物です。この間のタルト・タタンは差し上げられなかったので」 「あ!そうか」 オーブンで30分ほど焼いて出来上がった。 「わあ〜!綺麗!美味しそう!いいにお〜い!」 「アイスクリームはどうされますか?隊舎で付けますか?」 「うん!熱熱だから溶けちゃう!」 「そうですね」 ふたりでアップルパイを持って隊舎に戻った。 「出来たよ〜!」 「早いね」 「いっちーが準備してたんだよ!」 剣八の前に出来たてのパイを置く。 「他の方は・・・」 「ほっとけよ、いない方がワリィんだし」 一角が言うので4つに切り分け、横にアイスを添えた。紅茶を淹れると一護は、 「では俺はこれを卯ノ花様に届けて参ります」 「おう、気を付けろよ」 「はい」 四番隊に向かう一護。 四番隊で一護を迎えた卯ノ花がアップルパイを受け取り、一緒にお茶をと誘った。 「まあ!とても美味しいですわよ、一護」 「ありがとうございます!喜んでいただけて嬉しいです!」 頬を赤らめる一護を見て、全身で喜んでいるのにその顔に笑顔が出ない事が卯ノ花は少し悲しかった。 あんなにも美しかったこの子の笑顔が・・・。それを捨ててまで人間になって更木隊長の傍に居たいのですね・・・。 「それでは俺はこれで・・・、夕飯の支度や洗濯物を取り込まないといけませんから」 「あら、つい遅くまで引き止めてしまいましたね。またいらっしゃい一護、楽しかったですわ」 「はい、では失礼します」 と帰っていった。 「親離れ、かしら。寂しいものですわね」 と呟いて紅茶を飲みほした卯ノ花。 家に帰ると、米を研ぎ、仕込んでおく。それから洗濯物を取り込み、綺麗に畳んでいく。 剣八の物、やちるの物、一護の物を分けて、居間に置いておけば帰って来た二人は自分の部屋に持って帰る。 そうこうしているうちに二人が帰って来た。 「ただいま〜!いっちー」 「帰ったぞ」 「おかえりなさいませ、お疲れ様でした」 「おう、着替える、買い物の用意しろよ」 「はい、俺も着替えますね」 と部屋に戻り、卯ノ花に貰った着物に着替え二人を待った。 「いっちー!綺麗!どうしたの?それ」 「今日卯ノ花様にいただいたんですよ。男物だと不便だろうと」 「良かったね、いっちー」 「はい」 「おう、行くぞ」 3人連れだって夕飯の買い出しに出かけて行った。 第16話へ続く 10/11/18作 3人の生活です。嬉し恥ずかしの新婚気分ですな。 次は買い物と乱菊さんちょろっと出ます。 |
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