題「恋する人形」14 | |
剣八とやちるが出勤した後、一護は店屋物の食器を洗って外に出しておいた。 そして昨日自分が使った蒲団を干し、敷布を洗った。ついでなので剣八とやちるの分の敷布と洗濯物も洗って干した。 物干し場は敷布と3人分の洗濯物で壮観だった。 「さて、後は掃除をしましょうか」 殆んど使われていない台所を掃除して使えるようにした。何があるのか見てみるとお茶の葉以外は何もない。例外は酒だった。 「しょうがないですね。買いに行きましょう」 と財布を持って出掛ける旨を剣八に告げに隊舎に向かった。 「あ、いっちーだ!」 「あん?なんか用か」 「はい、あの少し買い物に出かけて来たいのでお知らせに・・・」 「あたしも行く!」 「ああ、丁度良い、一緒に行って来い、やちる」 「わーい!早く行こ!いっちー!」 「はい、草鹿様」 二人連れだって買い物に行く。 市場。 「何買うの?」 「えっと、まずは調味料ですね。その後は調理器具なども欲しいですから見て回りましょう」 「うん!」 一護は、塩、砂糖、醤油、味噌などこれから使っていく調味料を買い揃え、米を注文して一旦荷物を置きに帰った。 「重くはなかったですか?草鹿様」 「大丈夫だよ!次は何?」 「お鍋やフライパンなどですか、少し重いですよ」 「そう言うのだったら探したらおうちに有ると思うよ。後で探そうよ!」 「そうですか。では後は食材を買い求めましょうか。草鹿様は何が食べたいですか?」 「ん〜、いっちーが作るものなら何でも美味しい!迷っちゃうな〜」 「では、ハンバーグなど如何でしょう?美味しいそうですよ」 「いっちーも食べたことないの?」 「はい、それとお味噌汁と新じゃがの煮物はどうでしょう」 「美味しそう!それ作って!」 「はい」 二人で材料を買い、家に着くと食器や調理器具を一緒に探して、やちるは仕事に戻った。 「ありましたね、良かった」 新品同然の器具、包丁も使ったことが無いようだ。 「ああ、掃除がまだでした」 一護は玄関から何から掃除して綺麗にした。 さすがに二人の部屋には勝手に入れないので、後で了承を得てから掃除しようと決めた。 廊下を水拭きし、窓も綺麗に拭いた。何やら玄関が寂しいと感じたので卯ノ花隊長から花を分けてもらい、玄関で埃を被っていた花瓶に生けた。 「綺麗・・・」 花を置いただけで明るくなった玄関に芳しい花の香りも漂っていた。 乾いた洗濯物を取り込み畳むと居間に置いておく。 「さあ、夕飯の用意に取りかかりましょう」 お米を研いで炊飯器にセットし、おかずを作っていった。 トントントントン、くつくつ、くつくつ、と心地良い音と空腹を刺激する匂い。 「あ〜、美味そうな匂いッすね〜」 「一護君かな?」 「だろうなぁ」 後はハンバーグを焼くだけだ。 「たっだいま!いっちー!」 「おかえりなさいませ、草鹿様、更木様、お疲れ様でございます」 「おう」 「もうすぐご夕飯が出来ますので、お待ちくださいね」 と台所に消える一護。玄関の花に気付く剣八。 「こんな物あったのか?」 「花瓶?卯ノ花さんが前にくれたよ」 「ふうん。どうせ埃だらけだったろうによ、マメな奴」 と言いながらも、花一つで変わる雰囲気に驚きもした。 私服に着替える二人。 ちゃぶ台の前でソワソワしているやちる。 「なんだ?珍しいな」 「うん、まだかな〜?」 パタパタと廊下を歩く音が聞こえるとサッと障子を開けるやちる。 「わ!びっくりしました。お待たせしました。先にお芋とお味噌汁を持ってきました」 「ああ」 卓袱台を拭き、それぞれの箸を置いていく。 「これどうしたの?」 「今日買ったんですよ。お二人とも割り箸しか使ってない様なので。気に入っていただけると嬉しいです」 やちるのピンクの箸にはウサギの絵が描かれていた。剣八の箸は青で、トンボの柄だった。 「いっちーのは?」 「俺のはこれですよ」 とオレンジ色で猫の柄だった。 「可愛い〜!ありがとね、いっちー」 「いえ、さあ、並べますよ」 と中央に新じゃがの煮物を置き、味噌汁を配る。 そして台所から焼き立てのハンバーグとご飯を運んで来た一護。 「それがハンバーグ?美味しそう!」 「お口に合うと良いのですが・・・。さ、どうぞ」 「わ〜い!いただきまーす!」 「いただきます」 無言で箸を付ける剣八。 「んん!美味しい!剣ちゃん美味しいね!」 「ああ・・・」 「良かった!お腹いっぱい食べて下さいね!」 と言えば剣八もやちるも何も残さず食べきった。 「まさかお味噌汁もご飯もなくなるとは思いませんでした」 洗い物をしながら傍を離れようとしないやちるに話しかける。 「だぁって、すっごく美味しかったんだもん!またハンバーグ作ってね、いっちー!」 「はい、喜んで」 明日の朝食用に米を仕込んでおき、おかずは何が良いかなぁ、と考える一護。 「いっちー、一緒にお風呂入ろー」 「あ、はい。すぐ用意致します」 着替えを持って風呂場に行った。 一緒にお風呂に入り湯船に浸かる。 「いっちーのおっぱい綺麗だねぇ」 「そうですか?他の人のを見たことがないので判断致しかねます」 「そうなの?」 「はい」 風呂から上がるとやちるの髪を乾かしてやり、着替えさせる。自分の髪も乾かすと、 「あ、更木様より先に入ってしまいました!」 「良いじゃん、剣ちゃん何にも云わないよ」 「ですが、一介の隊士の後の湯を」 「何くっちゃべってんだ?上がったんなら早く出ろ」 「は〜い!ほら行こうよ、いっちー」 脱衣所から出た一護と鉢合わせした剣八。 いつもの白い肌とは違い、薄く色づいている頬や生乾きの髪に思わず見惚れた。 「あの・・・?」 こてん、と首を傾げて問う一護に、ハッと我に帰る。 「いや、俺も入るから早く出ろ・・・」 「すいません、お先に入らせていただきました」 「構わねえよ別に。気にすんな」 「はい・・・」 「湯冷めすんなよ」 「はい、失礼します」 「ね?怒らなかったでしょ?」 「はい。でも甘えてばかりもいけませんね」 と明日は剣八に先に入ってもらおうと決めた一護だった。 二日目。 翌朝、朝食の用意をする一護。 鮭の塩焼きに大根おろしを添えたもの。出汁巻き玉子に大根とその葉っぱの味噌汁。ほうれん草の御浸しを付けて出来上がり。 「さ、二人を起こしましょう」 剣八の部屋に行く。 「更木様、更木様。朝です、起きて下さい。朝食が出来ましたよ」 「むう〜・・・」 「入りますよ?更木様?」 特注の蒲団にくるまって寝る剣八が居た。 「更木様、おはようございます」 ゆさゆさと揺り動かして起こす。 「う・・?一護?」 「おはようございます。早く起きて下さいませ、ご飯が冷めてしまいます」 「お、おお」 むくりと起きると居間へ向かう剣八。向こうからやちると一護が歩いてきた。 「まだねむいよ〜」 「ご飯を食べたら目が覚めます。さ、どうぞ」 ちゃぶ台の上には今まで見た事のない風景があった。 豪華と言う訳ではない食卓だが、何故か温かくなる。 「いっちー、あたしお野菜嫌いー・・・」 「おや、好き嫌いはいけませんよ?ちゃんと食べて下さいね?」 「う〜」 何言ってんだ?好き嫌いなんか無いだろう?訝しげにやちるを見る剣八。 「草鹿様、今日のほうれん草はゴマ和えです。草鹿様の分は特別に砂糖醤油で味付けしましたから、美味しいと思いますよ」 「ん〜。食べてみる」 ぱくっ!と大きな口で食べるやちる。 「あ、美味しい・・・」 「良かった。ちゃんと食べられましたね、草鹿様」 良い子、良い子、と頭を撫でる一護。嬉しそうに、擽ったそうに笑うやちる。 ああ、なるほどな。と得心がいった剣八。 「甘やかすな・・・」 「あ、すいません」 食事が済み、食後のお茶を淹れる一護。 「一護、茶」 「どうぞ」 良いタイミングで出されるお茶は味も良かった。 「もうお時間ですよ」 「は〜い」 「おう、いってくらぁ」 「いってきま〜す!」 「行ってらっしゃいませ」 玄関まで二人を見送る一護だった。 第15話へ続く 10/11/16作 洗濯は洗濯機があるので楽でした。因みに剣八の褌とかも洗って干しましたよ一護。さあ、次は? |
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