題「恋する人形」12
 一護は何度も何度も本を読み返し、作り方を頭に叩き込んだ。
朝早く起き、ケーキを焼く一護。
「えっと?リンゴをキャラメリゼして・・・荒熱を取り型に並べていくと・・・」
綺麗に型に並べ終わると次は生地を作り始めた。
卵白をしっかり泡立てメレンゲを作り、篩った粉をさっくりと混ぜていく。そこにリンゴとカラメルが合わさったシロップを混ぜ、リンゴが入った型に流し込みオーブンで焼いていく。

甘い香りが辺りに漂い始め、タイマーが鳴った。

チーン!

オーブンから取り出し、ケーキ生地に竹串を刺し中まで火が通っているか確かめ、通っていたのでそのままで冷ます。完全に冷めたのを確認すると型から抜いた。
「で、出来た!あとは味だけ・・・。ぶっつけ本番でいきましょう!」
大きな皿にケーキを置き、乾燥しない様に蓋を被せたソレを冷蔵庫に入れ、蓋にメモを張り出勤した。

十一番隊。
「おはようございます」
「おっす!いつも早いな一護」
「そうですか?」
「ああそうだ、今日は隊首会で二人とも居ねえから」
「え?草鹿様もですか?」
「ああ、副隊長同士の会議みたいなモンもあるからな」
「そうなんですか」
書類を粗方片付け、隊士の怪我の様子を見ていてもまだ来ない二人。
「一番隊に行ってみましょうか・・・」
執務室の一角、弓親に出掛ける旨を伝える。
「どこ行くの?」
「草鹿様のところへ、ちょっと・・・」
「待ってりゃ帰ってくんだろ?」
「はい、でも・・・」
新しいお菓子を作ったから早く食べてもらいたい。とは言えない。
「ま、一番隊の誰かに聞きゃあ教えてくれんだろ」
「では行ってまいります」
途中四番隊の台所により、冷蔵庫からケーキを取り出し持って行く一護。

一番隊。
廊下を歩いていた隊士を呼びとめる。
「あの、すいません」
「はい?」
「卒爾ながらお訊き致します。副隊長様の会議室はどちらでしょうか?」
「あ、と・・・、そこの角を右に曲がって2つ目の部屋です・・・」
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしてその部屋に向かう一護。

コンコンコン。

扉をノックすると中から開けられた。
「こんにちは!一護!ひさしぶりね〜!」
「あ、松本様お久しぶりです。お忙しい所申し訳ありません、草鹿様はおいでですか?」
「あたしになんか用?いっちー!」
ピョン!と乱菊の肩に乗るやちる。
「はい、あのですね・・・」
言いあぐねていると目敏く一護の持つ物に気付いたやちる。
「ねえ!何持ってるの?いっちー」
「あの、これを食べて頂こうかと思いまして・・・。今朝作ったのですが・・・」
「なに?なに?」
「タルト・タタン風リンゴケーキです」
「美味しそう!食べる!みんなで食べよ〜!」
「いいわね〜!お茶の用意しなきゃ!」
中では雀部が難しい顔をしていた。
「すいません、会議中でしたのに・・・」
「いいのよ〜!どうせ大した議題なんか無いんだし!」
お茶を用意している乱菊が言う。
「いっちー、早く見せて!ケーキ!」
「あ、はい。初めて作った物ですから、美味しくないかもしれません・・・」
コトリとテーブルの上に置くと銀色の蓋を取った。皆が覗きこむ。
「でも綺麗ね〜!どこかで売ってるって言われてもおかしく無いですよ!」
一分の隙間もなく並べられているキャラメリゼされたリンゴが香ばしくも甘い香りを漂わせている。
「味見してねえのかよ?」
恋次が聞く。
「あ、はい。時間が無くて・・・・」
「食えば分かんだろ?俺は甘いモン好きじゃねえけどな」
「あっそ!じゃ修兵は食べないのね〜」
「食いますよ!」
「13等分って難しくない?」
「ネムネムが切れば大丈夫だよ!」
「一護を入れて14等分でしょ!」
ティーポットを持って来た乱菊が言う。
「あ、俺は・・・」
「ネム!14等分よ!間違えないようにね」
「はい。では切ってまいります・・・」
と乱菊と入れ違いに給湯室に向かうネム。

数分後・・・。
きっかり14等分されたケーキが小皿に入って運ばれてきた。
それぞれに行きわたると、
「ちっせ・・・」
恋次が呟く。
「男のくせにみみっちい事言うんじゃないの!」
と乱菊にお盆で殴られていた。
「さ、食べましょ!すっごく美味しそうよ!一護」
「恐れ入ります」
「いったっだっきま〜す!」
一護の膝の上に陣取ったやちるが食べる。
「ん!」
「お・・・!」
「おいしい!」
「ほんと!美味しいわよ、一護!あんたホントに初めて作ったの?」
「本を見ながらですけど・・・」
「へえ〜」
みな美味しい、美味しいと食べてくれた。
「もうない〜・・・」
「草鹿様、よろしければ俺のをどうぞ」
「いいの!?ありがと!いっちー」
パクパクと平らげるやちる。
「あんたって良いお嫁さんになるわ〜」
と乱菊に言われ、
「俺は男ですから嫁ぐのは無理と思われますが?」
「あんたねぇ・・・。ま!いいわ!男は胃袋で恋するって言うから料理が美味いと有利よ!一護!」
暗に剣八の事を言われていると気付き、俯く一護。膝に座っているやちるだけがその頬が薄桃色に染まっているのを見た。
「いっちーはね〜、お料理も上手だけどヴァイオリンも弾けるんだよ!すごいでしょ!」
「あ、聞いたことありますよ!卯ノ花隊長も上手だって褒めてました!」
勇音が言うと乱菊が、
「二人ともずるいわよ〜。あたしも聞きたいわ、一護、今日はヴァイオリン持ってきてないの?」
聞きたいと強請って来た。
「ここには・・・」
「ここには無いってことは隊舎にはあるの?いっちー」
「は・・い」
「やちる、持ってきてよ!」
「うん!分かった!」
「あ!ちょっと!」
止める間もなく飛び出すやちる。
「あああ・・・」
「なあ〜によ〜。そんなにあたし達に聞かれるの嫌なの?」
「そ、そいうわけでは・・・。まだ未熟なものですので・・・ただ弾けるだけですよ?」
「いいわよ!他の楽器は弾けるの?」
「多分、楽器全般は・・・」
「へえ!修兵!あんた一護にギター教えてもらいなさいよ!」
「なんで・・・」

次の瞬間、後ろの扉が開いた。やちるがもう帰って来たのかと振り向くと剣八が立っていた。
「・・・うちの看護士になにやってんだ・・・?」
「更木様!」
「あ、更木隊長!隊首会は終わったんですか!」
「今な・・・」
剣八を見る一護の眼が優しさを帯びた事に気付く女性陣。
「あー!剣ちゃんだぁ!剣ちゃんもいっちーのヴァイオリン聞きに来たの?」
「あん?そんな話しになってんのか?」
「はい、不可抗力と申しますか・・・」
唇を突き出してそっぽを向く一護。上目使いに剣八を見上げる。
「剣ちゃんも久し振りに聞きたいよねぇ!」
「ああ、そうだな。何か弾けよ」
ポン、と一護の頭を撫でる剣八。
「更木様まで・・・。なんでもよろしんですね?」
「あー」
「早く早く!」
やちるからヴァイオリンを受け取ると弓に松脂を塗り、構える一護。

呼吸を整え、音を紡ぐ。
「あ、この曲!」
「しっ!」
一護は歓迎会の時に歌い、踊った曲を弾き始めた。
「いっちー、お歌も歌って!」
リクエストに答え、歌う一護。
他の隊長までが集まり、聞き惚れている。
朗々と歌い、ヴァイオリンを弾く一護を見つめる剣八。そこにはいつもの様な猛々しさはなかった。

曲が終わった瞬間、周りから拍手が沸いた。
「すっごーい!超上手いじゃないですかぁ!」
「いいわぁ!聞き惚れちゃったわよ!」
こんなにも褒められるなんて初めての一護はなんと言ってよいか分からなかった。
「あ、いえ、その・・・!」
「一護・・・」
と優しく声を掛けられる。
「卯ノ花様!」
ホッとし顔をする一護。
「どうしました?応えなければいけませんよ?」
「あ、でも!どうしたらいいか分かりません!こんな、こんな俺に・・・!」
「・・・一護、貴方の演奏は聞く人の心に直接響く様ですわね」
「・・・よく分かりません・・・」
そんな一護の様子に女性陣も男性陣もキュン!とした。
「・・・いい加減帰るぞ」
「は〜い!」
「あ、はい!それでは!皆さま失礼致します!」
のしのしと大股で歩く剣八の後を追いかける一護。
それを機に各隊長達も帰っていく。

「いっちー、もっとお菓子食べた〜い!」
「そうですか?ではまだまだリンゴもあることですし、今度は一緒にアップルパイを作りませんか?」
「あたしでも作れるの?」
「はい、俺でも作れますよ。出来たてのアップルパイにバニラアイスを添えていただきましょう。更木様は甘いものはお好きですか?」
「・・・俺はなんでも食う。納豆以外はな」
「なっとう・・・?ではアップルパイは大丈夫ですね!」
そんな話をしながら隊舎まで歩いていった。

後に残された面々は女性死神メンバーだった。
「可愛いわぁ〜、一護ってば」
「もっと聴きたかったですね」
「うんうん!」
「ねえ、可愛い一護をもっと可愛くしちゃわない!?」
「な、何する気ですか・・・?」
「んふふ〜!それは内緒よ!ネム!」
「はい」
こしょこしょと内緒話をする二人を見て一護に合掌する他の面々が居た。

昼休み、お弁当を食べ終わり散歩に出た一護。
「いっちご!」
「あ、松本様・・・」
道端で乱菊に呼びとめられた。
「今朝は急にごめんなさいね。でもとっても綺麗だったわ」
「あ、ありがとうございます」
「良いのよぅ!あ、そ〜だ!これあげるわ!飴なんだけどね、疲れた時にでも舐めてちょうだい」
ころん、と赤い飴が一護の手の平に乗せられた。
「可愛いですね。いただきます」
「はいどおぞ!あたし仕事あるから!じゃっね〜!」
「あ、はい」
そのまま飴を袂に入れ隊舎に帰る一護。
「っしゃ!計画第一段、成功!明日が楽しみだわ!」
と物陰でガッツポーズを決める乱菊が居た。

隊舎に戻り、午後の仕事の取りかかる一護。
書類が多く、また書き込みも多かったので大分疲れて来た一護。日頃の疲れも相まってか生欠伸ばかり出る。
「疲れてんのか?一護」
向かいの一角に言われる。
「そうかも知れません・・ん、ふあ・・・」
「お前さっきから欠伸ばっか出てんじゃねえか」
「ふ、すいません」
確か昼に乱菊に飴を貰ったのを思い出した一護。袂を探り取り出すと、包みを開け口に放り込んだ。
「ん・・甘・・」
コロコロと飴を転がしながら書類を片していると、急に一護が机に突っ伏した。
「あん?おい、一護、寝てんのか?」
「・・・・・・」
「みたいだね、そっとしてあげよう」
「そうだな。隊長が帰ってきたら起こしゃいいな」
とそのままにされた。

「おう!帰ったぞ!」
「たっだいま〜!」
「おかえりなさいませ!隊長!」
「あん?一護のヤツ寝てんのか?」
ギシッと隊首席の椅子に腰かける剣八。一護を起こす弓親と一角。
「起きなよ、一護君」
「おーい、隊長帰ってんぞ!一護!」
「う・・・、んん?あ、れ?おれ・・・」
「あ、起きたかい?さっき急に寝ちゃったみたいだよ」
「そうなのですか・・・」
「起きたんならこの書類書いてくれ。お前の分だ」
と一角が書類を渡そうと向かいから腕を伸ばしている。ソレを受け取ろうと立ち上がり腕を伸ばす一護。
おかしい・・・。いつもならすぐ届くのに?一角も気づいている。
そして、片手を机に付き、もう片方を伸ばしている一護の死覇装の袷が開き、肩から落ち、もろ肌が現れた。
「・・・は?」
「い!いいいいい一護!?お!お前!何だそれ!」
一角に指指された所を見ると形の良い乳房があった。
「・・・・・・え!ななななななんですか!?これ!」
ガバッと袷を開きまじまじと見ていると、
「いっちーにおっぱいがある!」
やちるが飛びついて来た。その反動で椅子に尻もちをつく一護。
「はあん?」
剣八が気の抜けた声を発した。
一護の膝を陣取ったやちるが、軽くパニックになっている一護のおっぱいに触れて来た。
「ちょ!草鹿様!」
「わぁ!ふわふわで気持ちいい〜!」
むにむに揉んできて桜色の乳首に触れた時、
「・・・・あッ!」
可憐な声を上げる一護に一角が鼻血を出した。その場に居た男が全員前屈みになっている。
「・・・お前!あり得ねえだろ!男でピ、ピンクの乳首で、その声って・・・!」
鼻を押さえ真っ赤になって言う一角。
「・・・・・楽しそうだなぁ・・・?一角」
その後ろから地を這う様な剣八の声にかたまる一角。
一護は慌てて袷を閉じ、
「すいません!失礼します!」
その場を後にし、四番隊の卯ノ花隊長の所へ向かった。


第13話へ続く




10/11/08作 さてこの後の展開は・・・?むふふv
作中でも出ましたが一護が焼いているケーキは「タルトタタン風リンゴのケーキ」でググると出ます。


ドール・ハウスへ戻る