題「月食」4
 朝になり目が覚めた一護が見たものは、いつもの様に隣で眠る剣八の顔だった。
だがその頭には黒く光る狐の耳が生えていた。
「け、剣八?」
ピクク!と揺れる耳と共に目を開けた剣八。
「おう・・・、朝か・・・?」
「う、うん、朝だけども・・・、あの耳、が・・・」
「ああ?」
剣八が身体を起こすと蒲団の中からするり、と立派な尻尾が出てきた。
「おお、生えたか」
「生えたかって、そんな軽く・・・」
「そんな事より、朝飯は?」
「あ!そうだ!早く作らなきゃ!」
ぱたぱたと慌ただしく着替えて台所へと消えた一護だった。
「ふうん・・・こうなんのか・・・」
一人になった剣八が鏡を覗き、一人悦に入っていた。それは隠しようもなく、左右に揺れる尻尾に出ていたけれど。

「朝ご飯出来たよー!」
と声を掛けると、人型に戻った子供たちが居間に現れた。
「おはよー、かか様!」
「かか様、おはようございます」
「かか様おはよ」
「おはよう、ちゃんと起きれたな」
と剣八の姿がまだないのに気付いた一護。
「とと様来てないな、呼んでくるからちょっと待ってて」
「は〜い」×3

「剣八?入るよ」
寝室に入ると、むっすりとした顔の剣八が蒲団の上で座っていた。
「ど、どうしたの?」
「・・・尻尾がでかくて褌が締めらんねえ」
「ああ・・・、だから言ったのに。どうする?今日はそのままで居る?」
「そうだな、慣れるだろ」
「じゃ、早く居間に行こ、子供達待ってるよ」
「おお」
一護が蒲団を畳んでそこに置いた。
「なんだ、今日は干すのか」
「うん、いいお天気だから」
と二人連れだって居間に行った。
「おはよう!とと様!あ!お耳とお尻尾だ!」
「ホントだ!わあ!あたしとお揃いの色ね!」
「そうだな、一護、飯」
「はあい」
朝食の後、着替えて隊舎に行き、隊首会に出た剣八。
隊士たちは皆、ああ、やっぱ我慢出来なかったんだなと自分達の賭けがパァになった事を朝一から知った。

 隊首会に出ると、剣八の他に京楽も耳と尻尾が生えていた。
「なんでぇ、お前もかよ」
「そういう君こそ・・・、でもまあねぇ、あんな可愛い奥さんが隣に居たんじゃ我慢出来ないよ」
「まあな」
そんな二人には総隊長から拳骨付きの説教が待っていた。
「お主らは!その姿が元に戻るまで書類仕事じゃ!馬鹿モンが!」
「ちっ!面倒クセぇ・・・」
「ま!いいじゃない、ずっと近くに居られるんだし」
と惚気る京楽の尻尾は派手に左右に揺れており、その頭に総隊長の杖が振りおろされた。
「痛〜・・・」
「あほ」

 隊舎に戻ると弓親と一角にその旨を伝えると、
「分かりました。でもやっぱり京楽隊長も、そうなったんですね」
と言われた。
午前中は真面目に仕事をしたが、やはり飽きた。隊首室を出て、庭を見ると、一護が蒲団を干しながら、洗濯物を干していた。
「一護」
「あ、剣八、なあに?」
「こっち来い」
と縁側に座って一護を呼んだ。
「どうかしたの?お腹空いた?」
とチョコンと隣に座ると剣八が一護に自分の尻尾を巻き付けた。
「剣八・・・?」
隣を見上げると、
「こうしてろ・・・」
と言われた。
「・・・もう、子供達と遊んでやってよ」
干してある蒲団の所から、3人がこちらを見ていた。
「しゃぁねえな。おら!こっち来い!」
と呼ぶと満面の笑顔で駆け寄って来た。
「その代わり、お前はここな・・・」
と一護は剣八の膝の上に抱かれた。
「もう・・・、欲張り・・・」
「おう」
尻尾で子供達と遊んでやりながら、腕の中の一護の天骨の匂いを嗅いだ。

 お昼の時間になり、家族でご飯を食べると十六夜が赤い髪飾りを付け、遊びに出掛けた。
縁側では朔が幾望に読み書きを教えていた。弓親が、
「隊長、すいませんが隊長印が要る書類が出てきたんで、お願いします」
と言いに来た。
「ああ」
のそりと立ちあがると隊首室に行く剣八。一護は干している蒲団を家の中に取り込み、洗濯物も乾いていたので取り込んだ。
縁側で二人の息子を見ながら、丁寧に畳んでいった。
「ただいま〜、かか様、白にぃ来たよ!」
と十六夜が帰るなり教えた。顔を上げると白と朝月が居た。
「にぃに、朝月も、どうしたの?」
「いや、よ。その、暇だから、酒の肴でも買いに行こうと思って、一護が暇なら一緒に行こうと思ってよ・・・」
と視線を泳がせながら、言う白に、
「いいよ、俺もこれから夕飯のお買いものに行くところだったんだ。一緒に行こ?」
「お、おう!」
「十六夜、朝月とお留守番お願いな」
「はあい!」

 二人で市場に行く。
「今日は何にしようかな?お魚は昨日食べたし・・・」
「お前、いつも買い物してんのか?」
「そうだよ、どうして?」
「いや、俺はしたことねえし」
「ああ、お手伝いさんが居るじゃない」
「まあな・・・」
「今日はお鍋にしようっと!お野菜も取れるし!煮込んだお野菜なら幾望も食べてくれるし!」
と魚屋で鱈の切り身と牡蠣とホタテの貝柱を買い求めた。
「ハイ!一護ちゃん!今日はお鍋かい?」
「うん!」
「いつもえらいなあ、このエビはおまけだよ!子供らに喰わせておやり!」
「わあ!いつもありがとう!」
その様子を後ろで見ている白。
「え〜と、次は八百屋さんね」
「ん」
そこでは、白菜、菊菜、白ネギ、三つ葉を買った。
「はいよ!いつもありがとね!一護ちゃん!今日はお鍋みたいだけど三つ葉は何にするんだい?」
「えっとね、剣八のお酒の肴に使うの」
「へえ、いい奥さんになったねぇ」
「えへへ、ありがとう」
次は肉屋に寄り、鶏肉を買い、米屋に寄ると米を注文して終わった。
「さ、帰ろう、にぃに」
「おお、どれか持つぞ」
「そう?じゃあこれお願いしようかな」
と一番軽い魚を持ってもらった。
「ん」

 隊舎に着くと、荷物を台所に置くと一服するためにお茶を淹れた一護。
「はい、にぃに」
「お。さんきゅ」
「疲れた?」
「いいや、いい気分転換になった」
「良かった」
と二人でお茶を飲んでいると、
「おう、帰ったか」
「剣八、お仕事は?」
「済んだ・・・」
とゴキゴキと首を鳴らした。
そんな様子をくすくす笑いながら見ている一護。
「おう、赤ん坊はどうだ?」
「あ?ああ、順調だよ・・」
「ふうん、良かったじゃねえか、お前んとこは金にゃ困んねえんだから5、6人産んで丁度良いんじゃねえのか」
「おい、産むの俺じゃねえか、大体、あれ、痛いんだぞ!」
「ねえ?」
と一護は同意した。
「でも生まれると嬉しいよね」
「・・・まあな。妊娠したら産むさ」
「かか様〜、今日のご飯なあに〜?」
「今日はお鍋だよ」
「わ〜い!」
「さ!準備しなきゃ!にぃにこっち来て?」
「ん?おお」
一護に付いて台所に行くと、割烹着を渡された。一護はエプロンを着けている。
「じゃ、肴を作るね、手伝って?」
「お、おう」
「この、ホタテをね、一個八つくらいに切って、こうやってイチョウ切りみたいに」
「こ、こうか?」
少々危なっかしい手付きでホタテを切っていく白。
「うんそう。それを器に入れて、それから、お醤油とお酒を大さじ一杯くらいと合わせて擦りおろしたわさびを混ぜるの」
「ふんふん」
「で、サッと湯通しして水にさらした三つ葉をざく切りにしたやつとさっきのわさび醤油と混ぜて、出来あがり!」
「こんだけ?」
「そうだよ、こないだ乱菊さんに教えてもらったんだ」
「へえ・・・」
「味見してみて?」
「ん、あむ・・・」
「どう?」
「美味い」
「良かった!」
「おい一護、京楽が迎えに来てんぞ!」
「え、あ!はーい!にぃに、これ持って帰って?」
「え?いいのかよ」
「まだあるし!にぃにが初めて作ったんだもの!旦那様に食べてもらって?」
「う、ん」
ほんのり赤くなった白。その肴を蓋付きの器に入れてもらって持って帰った。
「やあ、一護君こんにちは」
「こんにちは、京楽さん」
「おや、白それなあに?」
「べ、別に!後でいいだろ!」
「いいけど、朝月帰るよ〜」
「はあい!またね、いっちゃん!朔!幾望!」
「またね〜!」
と京楽夫妻は帰っていった。

「おい、一護飯は?」
「うん、もうすぐだよ」
と台所に戻ると出汁の入った土鍋と具材を居間へと運んだ。
卓の上にはガスコンロがあり、鍋が火にかけられ具材を入れていき食べごろになると、各々が好きに食べていった。
「あ、エビだ〜!も〜らい!」
「あ!ホントだ!」
「ちゃんとお野菜も食べてよ」
「は〜い!」
子供達は今日もお腹がパンパンになるまで食べて。お風呂に入り、すやすやと眠ってしまった。
「のんきだな、子供はよ・・・」
「いいじゃない」
片付ける一護に、
「今日は酒はねえのか?」
「あるよ、ちょっと待ってね」
と言いながら片付けを終わらせる一護だった。


第5話へ続く




09/11/25作 お料理に初挑戦の白でした。



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