題「月食」
 お祭りの翌々日の朝、子供たちの部屋から叫び声が聞こえた。

「ギャアアア!!」

 一護が急いで見に行くと朔と十六夜が狐の姿になっていた。
「きゅうぅん・・・!」
黒銀の毛皮の十六夜が弱々しく鳴いた。
「ああ、大丈夫だよ、十六夜、朔。今日が皆既月食だからそうなっただけだから。明日には元通りだよ」
と言って二人を抱き寄せた。
「きゅう、きゅう」
「くうん、くうん」
と鼻を擦り付けてくる。
「あ、幾望もだ、一緒に居る?」
と聞けば、十六夜は布団の中に潜り込んで出て来なくなった。
「ふう・・。見られたくないんだね・・・。ご飯は持ってきてあげるから待っててね」
と言い置き部屋を出た一護。朔は十六夜の横に居てあげた。
『しょうがないよ、月食が終わるまで待ってよ?いっちゃん』
『う〜、こんな格好じゃ狛むーに会えないじゃない!』
『どうして?』
『見られたくないの!』
ばしばし!と尻尾で畳を叩きながら怒る十六夜。
『ふ〜ん、なんだか大変だね』

 朝ごはんは食べやすいようにとおにぎりにしてやった一護。朔と幾望はパクパク食べているのに十六夜はもそもそ・・と食べ元気がなかった。
「十六夜、ショックなのは分かるけどさ・・・」
「・・・くう・・・」
「おう一護、入るぞ」
「剣八」
「ガキどもが狐になったんだろ?見せろ」
片手に幾望を抱いて剣八が入ってきた。
「へえ、綺麗な毛並みじゃねえか、十六夜、朔。黒銀に栗色か」
ガシガシと十六夜の頭を撫でてやると幾分機嫌が良くなった十六夜。
「狐になっても美人は美人ってこったな」
「そうだね、あのさ剣八、俺も今日は狐の格好で居ようと思うんだ」
「あん?なんでだよ」
「その方が子供達も落ち着くかと思って」
「あ〜・・、そうだな、そうしろ。夜には人型に戻れよ」
「分かってるよ、今晩が本番だからね・・・」
と暗にセックスはしないよ。と言ってくる一護。
「あ〜そうだったな・・・」
知るか、そんなもん。と思っていることは黙っている剣八。護廷では剣八と京楽が我慢出来るか否かの賭けが始まっていた。


 狐の姿になって3人の子供達の傍について居てやる一護。幾望は小さすぎて良く分かっていないが、朔と十六夜は戸惑っている。
『ねえ、かか様、なんでこんな姿になっちゃうの?』
『ごめんな・・。俺が狐だからだよ』
とぺろぺろ毛並みを舐めてなだめてやった。
『違うの、そういう意味じゃなくて、どうしてお月さまが欠けると人の姿じゃなくなるの?』
『俺も詳しくないんだ、にぃになら詳しいかもしれないけど」
『ふうん、かか様にも分かんないことあるのね』
『たくさんあるよ』
そのうち一護の脚に間で昼寝を始めた子供達。
「おう、様子はどうだ?」
「剣八、うん、大分落ち着いてきたよ」
「そうかよ・・・」
「どうかした?」
「いや、早く人型のお前が見てぇよ。その姿見てるとお前が居なくなった時の事思い出しちまう・・・」
「ごめんね・・・、今日だけだから・・・」
一護は剣八の頬をぺろりと舐めた。
「くすぐってえよ、ああ、忘れてた。狛村が来てんぜ」
「狛村さんが?分かった。十六夜、起きて、十六夜」
「くう?」
『狛村さんが来てくれたって、どうする?会う?』
『や!この格好見られたくないもん!』
『でもせっかく来てくれたのに?狛村さんは気にしないよ?』
『でも・・・。ん、ちょっとだけなら・・・』
と一護と一緒に縁側で待っていた狛村に会いに行った十六夜。
「なんなんだ?」
『うきゅ〜!』
とじゃれついてくる幾望をあやしながら呟く剣八だった。

「お待たせしました」
「いや、儂こそ急に来てすまんな。十六夜が来んのでな、何か病かと思うてな。月の影響か・・・」
「ええ、今日が月食だから」
母の後ろから顔を覗かせるに留まっている十六夜。
「元気なら良い、安心したぞ十六夜。おぬしの毛皮は美しいな、黒銀か。珍しい」
『そうなの?』
「うむ、白の様な白銀も珍しいがな、とても美しいぞ十六夜」
と大きな手で頭を撫でてくれた。
『あ、ありがとう!狛むー!あたし、嫌われたらどうしようって心配だったの!良かったぁ』
「嫌いになどならんよ、さ、これをやろう。今日来たら食べようと思っていた菓子だ、朔と幾望と一緒にお食べ」
『ありがとう!狛むー、明日には行くからね!』
と機嫌を良くした十六夜だった。

部屋に戻ると剣八が、
「おう、何だったんだ?狛村の野郎は?」
「うん、十六夜の心配してくれて見に来てくれたの。良く遊んでくれてるから」
「へえ・・・、で、その菓子は見舞いか?」
「うん、朔と幾望と一緒にって」
それは久里屋の黄身時雨だった。子供達は美味しい美味しいと喜んでいる。

 白と京楽の場合。
「あ〜、良いなあ朝月ってば、かか様のおひざの上だ」
「あほか、てめえ」
白の膝の上には丸くなって昼寝をする朝月がいた。時折ピクピクと耳を動かす様が可愛らしい。
「朔君より明るい色なんだね」
「あ〜、俺の白いのが混じってんだろ」
「うふふ・・・」
「んだよ、気持ちわりい」
「ん〜いやぁね、嬉しいなって思っちゃってね」
「うるせえ、一護んとこ行ってくる」
「はあい、行ってらっしゃい」
胸に朝月を抱いて一護の元へと訪れた。
「一護居るか?ガキの様子はどうだ?」
子供部屋からするりと出てきた一護。
「なんだよ、お前までその格好してんのか?」
「にぃに、うん子供達が落ち着くようにって」
「効き目あったのか?」
「うん。あ、座って座って!座布団持ってくるからね!」
と部屋に戻ると人型になり着物に着替えて白達を持て成した。
座布団を出し、お茶とお茶菓子を出した。
「ありがとよ」
「ううん!にぃにこそ、赤ちゃんの具合はどう?」
「順調だってよ」
と膝の上の朝月を撫でながら話していた。
「くうん?」
「あ、十六夜、朝月が来てるよ」
パタパタ尻尾を振って近寄ってくる十六夜。
「んん〜・・・」
と起きだした朝月。
『あ。いっちゃん。いっちゃんも狐になったのね』
『うん、あ〜あ、早く明日にならないかなぁ。そしたら元の姿なのに』
『そうね』
そのうち、朔と幾望も出てきて、子供達は縁側でじゃれあいながら遊んでいた。

夕飯の時刻になって京楽が迎えに来たので、白と朝月は帰って行った。
「またね、にぃに」
「おう」

一護は剣八と子供達とご飯を食べ、家族みんなでお風呂に入った。


第2話へ続く





09/09/13作 第115作目です。さてお次は夜の様子です。



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