題「秋祭り」
 白の妊娠が判明してから一週間。お腹がやや膨らみ始めた頃、近くの神社でお祭りがあると京楽が教えた。
「おまつり?」
「そ!お祭り!秋祭りだよ、朝月は初めてだろう?君もそうかと思って・・・、気分が良かったら行かないかい?」
「でもこのおなかで大丈夫なのかよ?人とか多いんじゃねえの?」
とお腹をさすった。
「大丈夫だよ、僕が護ってあげるから!それにそこの奉納剣舞はとても素晴らしいんだ。君に見せたい」
「う・・・、一護も誘っても?」
「もちろん!朝月もその方が喜ぶよ、きっと!」
「そうだな、子供らで遊ぶよな。じゃあ一護に言ってくる」
「そこまで一緒に行こ?」
「ん?うん」

 家から一護のいる十一番隊のある護廷まで来ると京楽が、
「じゃ、僕はこっちだから。気を付けるんだよ」
「ああ、分かってる。行って来い」
「うん!行ってきます!」
にこにこ笑顔で八番隊へと向かった。

「おい、一護居るか?」
「やあ、白君。居るよ、中でちょっと待っててね。あ、と!縁側で座ってて」
と弓親が座布団を進めてくれた。
「ああ」
縁側で座って待っていると、割烹着姿の一護がやってきた。
「おはよう!どうしたの?にぃに」
「おう、あのな・・・」
とさっき京楽から言われたことを教えた。
「へえ〜お祭りかぁ。俺も行ったこと無いや。楽しそう!行きたい!子供達も連れて行きたい!」
「おう、なんだ朝から」
「あ、剣八!今日ね、神社でお祭りあるんだって!」
「へえ」
と言って近くに座る。
「ねえ俺行ってみたい!ダメ?子供達も一緒にさ!ね〜ね〜」
と甘える一護。満更でもない顔でそのままにさせる剣八。
(あぁ、確信犯か・・・)
と白は心の中で呟いた。コイツは一護のこんな顔がみたいんだな、と。
「良いじゃねえかよ、子供らは子供らで遊ばすか、乱菊に見てもらえばよ。恋人気分に浸れるぜ?」
と白が押してくる。
「あう、にぃにったら・・・」
ほんのり頬を染める一護。
「そうだな・・・、じゃあ浴衣でも買いに行くか」
「浴衣?夏のがあるじゃない」
「ばーか、ありゃ女物で夏用だろ、冷えちまうぞ。秋は知らねえうちに冷えるもんだ」
「ふうん・・・、にぃにも一緒に行こ!」
「え?良いのか?でもとりあえず春水に聞いてみるわ」
「あ、そっかぁ、にぃには京楽さんの奥さんだもんね!」
とニッコリ笑って言われた。
「じゃあ行けたらで良いから俺達と行こ!」
「おう!」
二人とも嬉しそうに尻尾を振っている。

 今から八番隊に行くというので一緒に行くと一護が付いてきた。
「もう十三夜だね、早く月食終わんないかな」
「んん?どうした」
「だって、剣八ってば尻尾ばっか触ってくるんだもん」
ともじもじしながら告げる。
「ああ、まあ良いじゃねえか、明日明後日の辛抱だ、明日は子供らも狐になるかもな」
「うん、気を付けなくちゃね」
仲良く話しながら歩く二人はすぐ八番隊に到着した。
「おい。春水居るか?」
「ああ、はい少々お待ちを」
と隊士が奥へと下がった。すぐに京楽が出てきた。
「どうしたの?やぁ一護君も元気そうだね」
「おはようございます!」
「おう、あのな、今日の祭りに着ていく浴衣をよ、一護達と買いに行くんだけど良いか?」
「達というと?剣八さんも居るの?」
「うん!剣八が秋は冷えるからって」
「ん〜お昼休みで良かったら僕も一緒に行きたいなぁ・・・」
「別に今からでも宜しいですよ」
と後ろから声が聞こえた。
「あ!七緒さんだ!」
「おはようございます、一護君に白君。楽しみになさっているのでしょう?待たせるのは可哀想です。それに今日は書類整理だけですし?隊長が居ても居なくても一緒ですよ、きっと」
「嬉しいやら悲しいやらだけど、嬉しいのが大きいな。ありがとう七緒ちゃん!」
何かあったら地獄蝶を飛ばしてね。と言い置いて一護達と十一番隊に向かった。

「で、一緒に行くってか」
「うん!いいでしょ?」
「構わねえよ。朔!十六夜!幾望!ちょっと来い!」
「なぁにぃ?とと様」
「これから浴衣買いに行くから付いて来い」
「浴衣?なんで?」
「今日ね、お祭りあるんだって!だからだよ」
「朝月も来る?」
「ああ、家に寄って連れてくる」
「じゃあ行くー」
とぞろぞろと、計8人で呉服屋まで歩いて行った。

「どうせ今晩だし、出来上がってるのでも良いよね?」
と一護が聞いてくる。
「ああ、良いんじゃねえの、時間ねぇだろ」
と笑い合う兄弟。
「どんなのにしようかなー?」
「これは?」
薄い紫に赤紫で葡萄の絵が描かれた浴衣を宛がう剣八。
「どう?」
「お前の金色の耳と尻尾に映えていいと思うぜ」
「じゃあ俺はこれ!剣八は?」
「あー、俺はこれで良いんじゃねえか」
裏地が真っ赤な黒い浴衣。黒の絹糸で流水の文様、赤い糸で紅葉が刺繍されていた。
「あ、カッコいいね。剣八に似合う!」
「そうかよ・・・」
と一護の頭を撫でる剣八。さて白達は?

「さてどんなのが良いかな?」
「なんでもいい」
選べ、と言っている。
「ふふ、じゃあね、これはどう?」
薄い水色に花の活けられた花籠に黒い線の蝶の柄。
「ふん?似合うか?」
「とても」
「じゃあこれ」
「うん、朝月はね、こっちの薄桃色の鉄線の花の柄が似合うと思うんだー」
「ああ、良いじゃねえか。朝月」
「はーい」
「これ、とと様が選んでくれたぞ、どうだ?」
「素敵!これにする!」
「春水のはどうする?」
「君が選んでくれるんじゃないの?」
と悪戯な笑みで聞いてきた。
「むぅ・・、じゃあコレ!」
利休鼠の粋な浴衣を差し出した。
「これ?似合うかい?」
「う、ああ」
「じゃあコレにする!ありがとう白!」
「うっせ・・・」

 さて、一護の息子たちは?
「どれにする?」
「んーと、んーと・・・」
「これは?」
明るい青に格子柄の浴衣。
「あ、カッコいいじゃん、朔にぃ」
「そう?じゃあコレ!」
「幾望は、これ」
と水色に赤い金魚の絵の浴衣を見せる。
「どう?」
「これー!」
と全員の分が決まった。これで夜を待つだけになった。

 午後七時。神楽囃子が聞こえ始め、子供達はそわそわし始めた。
「かか様ー!早く行こうよ!」
「はやく!はやく!」
「はいはい、今着替え終わったよ」
と新しい浴衣に身を包み、出てきた一護。
「似合うじゃねえか」
「ありがと、剣八もカッコいい」
「あたし達はー?」
「みんな似合ってるよ!」
5人で京楽邸まで行くと、白達も待っていた。
「朝月ーぃ!」
「あ、いっちゃん!」
「早く行こ!あたしお祭りなんて初めて!」
「あたしもよ!」
お互いの浴衣を褒め合って神社へと向かった。


第2話へ続く



09/09/07作 第114作目です。
ちょっと続きます。


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