題「ORANGE・TAIL」3
 雑炊が運ばれてきた。やや冷ましてあるのか、茶碗に入れると一護は普通に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
ふんふん、ふんふん、と食べれる匂いだと確信すると、そのまま犬食いしようとして弓親が怒った。
「こらっ!そんな食べ方しないの!」
「ぴゃっ!」
急いで剣八の後ろに隠れる一護。
「弓親、こわい・・・」
「お行儀の悪い食べ方するからだよ」
「だって、俺、他の食い方なんて知らないもん!弓親きらい!」
居間から逃げて剣八の部屋に籠る一護。

「嫌われちゃったね・・・」
と少なからず落ち込む弓親。
「しょうがねえだろ?つい昨日まで猫だったんだからよ。人間がどうやって食うかなんて知りゃしねえよ。これから教えて行きゃあ良いじゃねえか」
と落ち着いている剣八。
「そうですね・・・、この雑炊はどうしましょうか?」
「貸せ、どうせ俺の部屋に居るだろうから俺が食わせてくる」
「お願いします・・・」

部屋の一護はお腹の虫が盛大に鳴いているのに、部屋の隅っこで丸くなっていた。
「俺悪くないもん・・・」
「入んぞ一護」
部屋に入って中を見回すと隅っこでこちらを見ない一護が居た。
「ほれ、飯持って来てやったぞ、喰え」
「・・・いらない・・・また怒られるもん・・・」
「怒んねえよ」
「俺悪くないもん・・・」
「ああ、悪くねえよ。いい子だからここに来いよ」
ちらっと顔を上げると胡坐を掻いた剣八が太腿を叩いて呼んでいた。
のそのそと近付いて胡坐に納まると、
「なんで急に弓親怒ったの?俺そんなに悪いことしたの?」
眉尻を下げ、目を潤ませながら剣八を見上げて問うてきた。
「そうだなぁ、人間がやると悪い事だな。お前は知らなかった、弓親や俺達は知ってたってだけだ。これから覚えて行きゃあいいこった」
「うん、がんばる。俺の事、追い出さないよね?」
「しねえよ、そんなこと。ほれ喰わせてやるから喰えよ。腹減ってんだろ」
「うん!」
剣八は匙に掬って一護の口に雑炊を運んでやった。
「おいしい・・・、弓親に謝んなきゃ・・・、きらいって言っちゃった」
「そうだな、一護、匙持ってみろ」
「うん、こう?」
「そうだ、それで掬って口に入れてみろ」
「うん」
ちょっと掬って、ぱくり。と口に入れた。
「出来たじゃねえか。後はこれの繰り返しだ」
「うん!」
繰り返し、繰り返し、完食した一護。
「まだ慣れるまでは匙で良いがその内に箸で食えるようになれよ一護」
「はい!ありがとう剣八!大好き!」
ぎゅう!っと抱きついてきた。

剣八と一緒に空になった茶碗を持って弓親の所に行くと、
「弓親・・・。あの、ゴメンね?きらいって言って。嘘だからね!嫌いじゃないからね!」
「一護君・・・、うん、分かった。僕こそゴメンよ、急に怒ったりして」
「俺、俺、ちゃんと覚えるからね!だから色々教えてね?」
「うん、頑張ろうね」
「うん、弓親、大好きだよ」
とすりすりと顔を擦り付けた。

その日から弓親は一護の教育係りになった。
「着物はちゃんと着るんだよ、下帯は?付けたかい?」
「あれ嫌い〜」
「嫌いじゃ駄目なの、付けなさい」
「う〜」
「うなっても駄目だからね!」
毎日こんな感じだ。

一護がヒトになって一週間が経った。
一護は剣八と寝て、起きて、ご飯を食べては寝る。いつもの生活を送っていたが突然猫に戻った。
「どうしたんでしょうね・・・?」
「どうって、これが普通なんじゃねえの?」
「そうだけどさ・・・」
一角と弓親の視線の先には不貞腐れて縁側で寝る一護の姿だった。
「何やってんだ、こんなとこで」
「あ、隊長。いえ、一護君なんですけどね、やっぱりどこかに診せた方が良いんじゃないですか?」
「どこって何処だよ?」
「四番隊か、十二番隊になりますかね、やっぱり」
「あほか、十二番隊なんかに連れて行った日にゃ、ばらばらにされんのがオチだぞ」
「そうですけど・・・」
「大体なんて説明すんだよ?猫がヒトになりましたが、また猫に戻りましたってか?狛村にでも聞いて来い」
「はあ」
そう言うと剣八は縁側の一護の所に行くと頭を撫でてやった。
「うるる・・・、ごろごろ・・・」
と喉を鳴らした一護が、また姿を変えていった。
「うお・・・っと」
「剣八・・・」
ぺろぺろと顔を舐めてくる一護、柔らかいその舌が頬を、唇を舐めては、すり寄ってきた。
「剣八・・・?」
唇をぴちゃぴちゃと舐めてくる一護に止めろ、と言おうと口を開くと少し覗いた赤い舌に吸い付いてきた。
「ん・・・、ちゅ、ちゅ、ちゅう、ちゅう」
(この・・・!ガキ!)
力づくで引き離すと、物足りなさそうな顔をしてきた。
バサッと隊長羽織を被せると、
「一角!弓親!四番隊に行くぞ!付いて来い!」
「「はい!」」

四番隊。
「何ですか?更木隊長、急患ですか?」
「まあそんなモンだ。とりあえずこいつ診てくれや」
と羽織を取るとそこには裸の少年。
「彼は?何故裸なのですか?」
「こいつは一護だ・・・」
「一護、というとあのオレンジ色の仔猫ですか?」
「ああ・・・」
「しかし、私の目の前にいるのは人間ですが?」
「あの、一週間ほど前にこうなって・・・、また猫に戻ったんですけど、さっきまたこの姿になって・・・」
「はあ・・・」
「剣八、ここ嫌!お薬の匂いがする。早く帰ろ!」
「ちっと我慢しろ!お前の話してんだよ」
「いや!俺変じゃないもん!またヒトになれたもん!ずっと剣八のとこに居るの!」
「何もここに置いて行きゃしねえよ、お前が猫になったりヒトになったりするから相談に来てんだろうが」
「うう〜」
そんなことを喋っている内にまた一護が猫の姿に戻っていった。
「みゃ、みゅうぅ〜・・・」
「ほれ見ろ」
ばさっと羽織を羽織ると、一護が飛び付いた。カシカシとよじ登っていく一護。
「一度、狛村隊長に相談してみては?」
「じゃあ、今から行くぞ」
と出て行った。

七番隊。
「狛村!居るか!」
「隊長・・・」
「何用だ・・・更木」
「ちと聞きたい事が出来てな」
「なんだ・・・」
「コイツなんだがよ、ヒトになったり、猫に戻ったりすんだよ。何か原因分かるか?」
「一護が?」
「んみゅう〜・・・」
「まあ、もともと霊力が強い猫であったから、そういう事もあるのだろうな。詳しくは断言できんが、こ奴の霊力と貴公の霊力のバランスが崩れるとそうなるのではないか?四番隊には?」
「さっき行ったら、お前に聞けとよ」
「そうか、そうなると後は十二番隊しか残っておらんが・・・。あまり薦めたくはないな・・・」
「奇遇だな。俺もだよ・・・」
「しばらくは様子を見てはどうだ?」
「様子ねぇ・・・」
それから一か月は猫のままだった一護。色んなところに遊びに行っていた。

六番隊。
カリカリ、カリカリ、と扉を引っ掻く一護。
「お、来たな」
「みゃあう」
するん、と中に入ると白哉の机に飛び乗った。
「こ、こら!下りろ、一護!」
「んやぁう」
ぴょん!と白哉の膝の上に飛び乗ってしまえば誰も何も言わないのを学習した一護は白哉の書く書類をじーっと見ていた。
さらさらと字を書いては判を押す。それの繰り返しだった。
「みゃー、みゃー!」
「うん?なんだ・・・」
一護がたし!たし!と書類を叩いている。
「・・・判が押したいのか?」
「みゃあ!」
「お前には無理であろう?大人しくしておれ・・・」
「みゅ!みゅう〜」
一護は朱肉に肉球を付けると白哉の押した判の横にポン!と押してしまった。
「あー!てめ!書類になんちゅー事を!」
恋次のほっぺたにも押してやった。
「こんにゃろ!こっち来い!手ぇ拭いてやる!」
「みッ!みゃー!」
ガリッとひっ掻く一護に悪戦苦闘しながらも前脚をキレイに拭ってやった恋次だった。
その書類はそのまま提出されたが書き直しを命じられる事は無かった。
「ったく、この悪戯っ仔が、総隊長に大目玉食らったらお前のせいだったんだぞ」
「んみ〜」
「もう良い恋次。一護こちらへ」
「みゃっ!」
「そらこれをやろう、今私が気に入っている菓子だ・・・」
「た!隊長!待って!一護にゃ無理っす!」
「んみ?」
と差し出されたせんべいに齧りつく一護。
「・・・・・・」
徐々に尻尾が膨らんでいった。ぶわわわ。
「みぎゃー!にゃー!みゃー!」
「一護!こっち来い!水だ!飲め!」
「んみゅう!」
物凄い勢いで水を飲む一護に不思議そうな顔の白哉。
「気に入らなんだのか・・・」
と寂しげだ。
「隊長じゃないんですから、いきなり唐辛子せんべいはないでしょ・・・」
まだヒーヒー、泣いている一護に恋次が、
「ワリィな、隊長も悪気があったんじゃねえんだ。この人辛いもんが好きでよ」
「んみ〜?」
白哉に近付くと袴に飛びつく一護。その一護を抱き上げる白哉。
「すまぬ、まだ口は痛むか?」
と顔を寄せてきたのでその鼻をぺろっと舐めてやった。驚いた顔でこちらを見る白哉に首を傾げる一護。
「一護。もうそろそろ帰る時間じゃねえのか?」
「みゅう」
「ほら、隊長も離してやって下さい」
「・・・うむ」
六番隊を出て、一護は一番隊へと向かった、

一番隊。
「おお、悪戯っ仔が来よったな」
「んみー?」
とことこ総隊長の近くに行く一護。
「みゃー(長いおヒゲだぁ)」
チョイ、チョイチョイ!と手を出す一護。
「こりゃ、ほんに悪戯っ仔じゃのぅ。儂のひげは面白いか?」
「んにゃー」
仰向けになりながら、前足と後ろ足を使ってじゃれている一護。
「うにゃ!うにゃにゃ!」
一頻り髭で遊ぶと剣八の待つ十一番隊隊舎に帰って行った。

「んみゃーう」
「お帰り、一護君」
足を拭いてやる弓親。
「みゃうん」
すりっと顔を擦り寄せると隊首室へと向かった。
かりかり。
「開けてやれ」
「ハイ」
するん、と入ってくると一目散に剣八の所へと向かう。
「みゃあうん」
「今日は遅かったな、何か面白い事でもあったか」
「みい!」
「もう飯だ。食うぞ」
「みゃー」
夕飯を食べて一緒の蒲団で眠る。

朝、一護が起きると剣八はまだ寝ていた。部屋から出て、(一護が出て行ってもいいように少しだけ開いている)用を足して戻ってくると弓親が剣八を起こしているところだった。
「隊長!起きて下さい!もう朝です!これ以上遅れると隊首会に遅刻しますよ!」
「・・・うっせえな・・・」
「もう!あ、一護君・・・」
部屋に戻った一護が剣八の枕元でにゃー、にゃー鳴いても一緒だった。一護は剣八の顔を、ざーり、ざーりと舐めては、たし!たし!と顔を叩いた。それでも起きないので次第にイライラしてきた一護は渾身の力を込めた。
ドスン!という音と共に剣八の枕が吹き飛んだ。剣八は寸での所でかわしていたが、どうなっていたことか。
やっと起きた剣八に一護が、
「みゃあー」
とすり寄っていた。
「お前は俺を殺す気か、こいつの前じゃ寝過ごすのも出来ねえな」
と笑って撫でてきた。
「んみゅう」
カプッとその指をくわえるとチュッチュッと吸いだした一護。
「まだお乳が恋しいんですかね・・・」
「さあな、おらくすぐってぇから離せ・・・」
「んみゅう・・・」
指を離すと一護の身体がヒトに変わっていった。
「弓親、お前、四番隊行って卯ノ花連れて来い・・・、その後一緒に十二番隊に行く」
「分かりました」
「どうしたの?剣八」
「お前がまたヒトになってんだよ」
「あ、ほんとだ。・・・ずっとこのままだと良いのになぁ。そしたら剣八とずっとお話できるのに・・・」
「そうだな、取り敢えずお前の身体を調べるのに開発局に行くからな」
「怖いとこ?」
「そうかも知んねえな、このままってわけに行かねえだろ?」
「う、うん。我慢する・・・」
こうして、卯ノ花隊長と一緒に一護は剣八と十二番隊へと向かった。


第4話へ続く



09/08/21作 
なんやかんやで、まだエロに行きませんな。次くらいかな?




文章倉庫へ戻る