題「ORANGE・TAIL」2
 一護が暮らし始めて数週間が経っていた。

あの日からみんな俺のことをちゃんと一護って呼んでくれる様になった。
ココには敵はいないよって、やちるが何度も何度も俺の頭や身体を撫でて言ってくれた。
弓親はご飯をくれる。一角は遊んでくれる。やちるは時々どっかに行っちゃうけど遊んでくれる。
剣八は傍に居てくれる。何も言わないし、時々撫でてくれるだけだけどすごく安心する。だから俺は寝る時は剣八の蒲団に潜り込む。剣八は放り出す事もしないで寝かせてくれた。此処は俺の居場所なんだ・・・。

朝、ご飯がすんで毛づくろいを済ますと庭で遊ぶ。まだ狩りが上手に出来ない俺は色んな虫に挑戦する。今日は蝶だった。
ひらり、ひらり、と飛ぶ蝶を一生懸命追いかける。ひらり、ひらり、とかわされて中々捕れない。

一護が庭で遊んでやがる。今日は蝶を追いかけてんな。捕れんのかよ。それにしてもちっこい身体だな。
精一杯尻尾伸ばして、走りまわってやがる。
「おや、可愛いですね、今日はまた一段と尻尾が立ってますね」
庭を飛び跳ねる一護が、やっと蝶を捕まえた。てててて!と剣八の所まで来ると首を傾げて、褒めて?褒めて?と見上げてくる。羽のある獲物はこれが初めてなのだ。
「良くやった・・・」
と言って大きな手で撫でてやった。小さな一護の頭は剣八の手の平に全部納まってしまう。撫でられる度に右に、左に揺れてしまう。
それでも嬉しくて、尻尾はさっきよりピンッ!と立ってしまう。
「ウルウル、ゴロゴロ」
と喉を鳴らして目一杯嬉しいと教える。
「可愛いですね、最初はあんなにも威嚇してたのに」
「慣れたんだろ」
と剣八と弓親が話してるうちに一護が剣八の身体をよじ登っていた。
「ん?」
「あ」
一護は剣八の肩のあたりで止まって寝ていた。爪を器用に着物に引っ掛けて落ちないように丸くなって眠っていた。
「すぴー・・・、すぴー・・・」
「隊長、隊首会の時間ですけど・・・、どうします?」
「このままでも良いだろ。行ってくらぁ」
とそのまま一番隊に出掛けた。

肩に仔猫をくっ付けた剣八は当然目立つので、注目の的だった。
会議の途中で起きた一護が肩の上まで登り、伸びをすると毛繕いを始めた。
「んペ、んペ。ん?あ、狼の人だ。こんにちは」
「・・・、う、うむ」
「一護、みゃーみゃーうっせえぞ」
「ゴメンね、剣八」
と、ぺろりと頬を舐めて静かにしている一護。

会議が終わると、
「終わったぞ、一護」
「もうお喋りしても良いの?」
「もう良いぞ、一護」
「狼さん、あのね!」
「一護、儂は狛村という名だ」
「こまむら?」
こてん、と首を傾げる一護。
「あのね!こまさん!俺今日ね、蝶ちょ捕まえたんだよ!すっごく難しかったの!ひらひら逃げられていつも悔しかったの!」
「そうか、そうか。偉かったな、一護」
みゃぁ、みゃぁ、と鳴く仔猫と狛村隊長。何の話をしているのかみんな気になった。
「ねえ、何の話してるんだい?君たちだけずるいよ」
と京楽隊長が聞いてきた。
「んむ?今日一護がな、蝶を捕まえたと言っておる」
「ああ、さっきな、庭走りまわってやっと捕ってたぜ。羽のある獲物は初めてだからな。興奮してんだろ」
さっきから一護の尻尾は膨れて、剣八の頬をパサパサと叩いている。
「で、帰って良いか」
「帰るの?もうご飯?」
「食事かと聞いておるが?」
「あ?あー、そんな時間か?ま、帰ったら弓親が用意してんだろ」
「帰る!帰る!弓親、弓親!」
「腹が減っておるようだの。偉く喜んでおる」
「ふうん」

隊舎。
「お帰りなさい、隊長、一護君」
「弓親、ご飯!」
「飯だとよ」
「はいはい、時間だと思って用意しときましたよ」
と餌と水を置いてやる。ちゃむちゃむと食べる一護。お腹がいっぱいになると食べ終わるまで傍にいてくれた弓親にすり寄った。
「弓親、美味しかったよ。ありがと」

「ぴみゃぁ、ぴみゃぁ」
「ふふ、美味しかった?残さず食べてくれて嬉しいよ」
と優しく頭を撫でてくれた。
「やっと普通の仔猫ぐらいの大きさになってきたね、安心したよ」
って俺を抱いて顔を擦り付けてきたから、弓親の鼻の頭をペろって舐めたら、
「ふふ!くすぐったいよ、でもありがとう、嬉しいな」
って綺麗な顔で笑ってくれた。俺も嬉しくなって、
「みゃあー」
って鳴いて、てちてち手で顔を触ったらもっと笑ってくれた。
「仲良いな、お前ら」
「妬いてるの?一角」
「んな訳あるかよ、ほれ一護、毬貰って来たぞ。遊ぶか?」
「みゃあ!」
普通の毬より幾分小さいそれで一角は俺と遊んでくれた。庭で泥だらけになっても怒んないのは一角と剣八だけで、弓親はすごく怒る。
「折角の綺麗な毛並みが台無しじゃない!」
って一角も一緒に怒られる。折角一緒に遊んでくれたのに・・・。その内遊んでくれなくなるんじゃないかって思うと怖くてさびしい。その日も怒られて俺は弓親にお風呂に入れられた。やっぱりコレ怖い・・・。
「みゅあー・・・、ぴみゃあ、ぴみゃあぁ」
「そんな声出さないの!すぐ終わるでしょ?」
ジッとしてたらすぐ終わるけど怖いものは怖いよ?弓親。
「ハイ!お終い!綺麗になったよ」
ってドライヤーで俺の毛並みを乾かしてブラシを通してくれた。
「さ、隊長のトコ行っておいで」
俺はぴゃっ!と走って剣八のとこへ行った。
「おう、なんだまた洗われたのか?」
「みゅう〜」
俺は剣八の足の上に乗ると毛繕いをした。
「くっくっ、お前は風呂が嫌いみたいだなぁ」
「みゅ!」
ごそごそと剣八の懐に入って出て来なくなった。

夕飯になっても出ないので、剣八が酒の肴であるマグロの刺身を少しやると気に入ったようで漸く出てきた。
「みゃー、みゃー」
と次を強請る。
「ほれ、今度はホタテ喰ってみろ」
「あむ、む、む!」
「隊長、甘やかさないで下さいよ・・・、贅沢病になったらどうするんです?」
「一回こっきりでなるかよ」
俺はお腹一杯になったので、剣八の胡坐の中でうつらうつらしていた。
「なんでぇ、腹一杯になったら寝るのかよ」
って笑ってた気がするけど分かんないや。

気が付いたら俺は剣八の蒲団の中だったけど、剣八は居なかった。多分お風呂だ。
どすどす足音が近付いてきて部屋に入ってきた。
「っあ〜、さっぱりしたぜ」
って言いながら蒲団に入ってすぐに寝ちゃった。
剣八の身体はあったかくて好き。俺もまた眠くなってきて剣八の顔をざりざり舐めて眠っちゃった。

翌朝、やちるがいつものように起こしに来た。
「剣ちゃーん!非番だからって寝てばっかだと猫になっちゃうよー!」
スパーン!と小気味の良い音とともに障子が開けられた。
「ほらあ!起きて!いっちーもご飯食べなきゃだよ?」
と蒲団を剥ぐと、そこには裸の少年が眠っていた。
「だあれ?」
「ん〜・・・?あ、おはよー、やちる・・・」
「どうしてあたしの名前知ってるの?なんで剣ちゃんのお蒲団で寝てるの?」
「何言ってるの?いつも一緒にいるし、一緒に寝てるじゃない」
「うっせえな・・・、朝っぱらからよ・・・」
「おはよう!剣八!」
少年は裸のまま剣八に寄り添いその顔をぺろぺろと舐め始めた。
「だれだ?テメエ」
「一護だよ、今日はどうしたの二人とも?お腹すいちゃった、弓親、ご飯ちょうだい」
少年が部屋を出るとすぐ叫び声だの変な声が聞こえ始めた。

「弓親!見〜っけ!お腹空いたよ!ご飯ちょうだい?」
「え〜と?ちょっと待ってね・・・。その髪の色、目の色に首輪、もしかして一護君かな・・・?」
「そうだよ!ね〜、ね〜、ご飯はぁ?」
「そ、れより、その姿はどうしたの?」
「すがた?」
と漸く自分の身体を見る一護。
「あれ!毛が無い!人間みたいだ!何これ!剣八!剣八!」
剣八の部屋に戻ろうと振り向いた瞬間、ボスッと何かにぶつかった。
「うるせえよ、取り敢えずこれ着ろ。裸のままだと何言われるか分かんねえ」
「? 分かった・・・」
渡された襦袢に袖を通すと剣八が帯を締めてやった。
「取りあえず飯喰うぞ。それからだ」
「うん」
「あの、何あげたらいいんですか?」
「雑炊で良いだろ、箸は使えるとは思えねえしな」
「そうですね、すぐ作ります」
「おら、行くぞ一護」
「うん・・・」
いつも以上にくっ付く一護は居間に着いても剣八から離れなかった。


第3話へ続く





09/08/21作 仔猫一護はほんとにちっちゃいですよ。剣八の片方の手の平に乗ります。




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