題「看病」3
 温泉から帰って来て、すぐ自分の部屋に帰った。
部屋の隅で膝を抱えて震えた。
(イヤだ、気持ち悪い、嫌だ・・・!)
まだあの男の感触が中に残ってる気がして気持ちが悪かった。
「一護君、帰ってるの?」
「何・・・?」
「夕飯だけど」
「ごめん、食欲無いからここで寝てる・・・」
と顔も見せず返事した。
「そう、お腹空いたら台所にあるから、いつでも食べなよ?」
「ありがと・・・」
込み上げる吐き気は治まらない。一護は寝巻きに着替えると畳の上に仰向けになって目を閉じた。
(どうしよう、俺はもう汚れた・・・。アイツに触れても良いのかな?触れるだけなら許してもらえる?剣八、許してくれなくて良いから・・、お前を見るくらいなら許してくれるか?)
そんな事を考えているうちに眠ってしまった一護。

「ん・・・?」
ふと、背中が柔らかいのに気付いて目が覚めた一護。いつの間にか蒲団の中で寝かされていた。
「あれ?なんで、え?」
「うるせぇ・・・、黙って寝ろ・・・」
と横から声を掛けられ目を向けると剣八が隣りで寝ていた。
「なん、で・・・」
周りを見渡せばそこは剣八の部屋だった。
「あんなナリで寝やがって風邪でも引くつもりか?テメエは」
「ごめ、ん・・・」
謝りながらも剣八の匂いに安心している自分に気付く。
身体の力を抜いて眠る一護。

何時間経ったのだろう?剣八は唸り声で目が覚めた。
(なんだ?)
「う、うう・・・。ああ!いやだ、うああ!」
ガバッ!と一護が起き上がった。はぁ、はぁ、と息が荒れている。両手で顔を覆って呼吸を整えようとしていた。
「あ・・・、夢、か・・・、はぁ」
ぐっしょりと汗を掻いていた。隣りの剣八を見ると目を覚ました気配がなかったので一護は、髪を梳いて小さな声で、
「ごめん、な・・・」
と囁いて部屋から出ていった。

一護は寝汗を流す為に風呂場へと着替えを持って向かった。
身体を洗うと一護は水のシャワーをずっと頭から浴びていた。

余りにも長い間、シャー、シャー、とシャワーの音が響いていたので様子を見に行こうとした剣八だったが、キュッと音が止まり、カララと扉の開く音がしたので待っていた。

一護は身体と髪を乾かすと縁側に座って外を見ていた。膝を抱え、拳を噛んで何かをこらえているようだった。

「何してる・・・?」
剣八が声を掛けた。
「ひゃ!びっくりした。いや、嫌な寝汗掻いたから流して来たんだ。起こしたか?」
「さっき起きたとこだ・・・」
「そか、良かった。明日も四番隊に行って診てもらわなきゃな。早く寝ようぜ」
と蒲団に急かした。
「ああ・・・」
一緒の蒲団に入った時に触れ合った一護の身体の冷たさに驚いた剣八だった。

翌朝、いつものように剣八の髪を梳く一護。その手付きはいつもより丁寧だった。
「剣八、お前の髪って綺麗だよな。石鹸で洗ってるクセにさ」
とくすくす笑いながら何か頭の所でごそごそしている。
「? 何してんだ」
「まぁまぁ、・・・っと出来た!」
「あん?」
剣八が手で触ってみると、綺麗に編み込まれ、三つ編みにされていた。
「何だこりゃあ」
「ふふ!似合う、似合う!メシ、作ってくるな」
「何なんだ?ったく」
いつもはただ一つに束ねるだけなのに・・・。

「おはようございます、隊長。おや、綺麗にセットされてますね。一護君ですか?器用だなぁ」
と弓親が感心している。
「おーい、用意出来たぞ」
と呼ばれ、居間に行くと今朝は、出し巻き卵と焼き鮭と具だくさんの味噌汁だった。
「大根おろし付けた方が良かったか?」
「いいや、要らねえ」
「そか、じゃ食おうぜ」
3人での食事を始める。やちるが頻りに卵が美味しいと言うので一護が半分、分けてやった。
「良いの?ありがとう!いっちー大好き!」
「育ち盛りなんだから、たくさん喰えよ」
と言った一護こそ育ち盛りだろうに・・・。

「さ、剣八!四番隊に行こうぜ」
「ああ・・・」
昨日のおかしな様子はなりを潜めていた。
四番隊に着くと診察が始められた。
「どうですか?様子は」
「えと、俺昨日は用事で居なくて・・・。何か思い出したのか?剣八」
「いいや、相変わらずだな」
「そっか・・・」
悲しそうな顔で剣八の頭を撫でる一護。それを見る卯ノ花隊長も悲しそうだ。
「一護君?どうかしましたか?」
びくんっと過剰な反応を示す一護。
「え?別になにも?」
「そうですか・・・。では薬をもらって今日はお終いです」
「ありがとうございました」
薬を取りに行く一護。
「はい、今回の分です。早く良くなるといいですね」
「ありがとう」
財布の中身はすぐに無くなった。

帰り道、京楽隊長が前から歩いてきた。
「やっほー、剣八さんに一護君!どう?調子は?」
「・・・」
「あんまり変わんないみたいですよ」
「そっかー、残念だねぇ一護君も大変だ」
「別に・・・」
目を逸らす一護の様子に違和感を感じた京楽隊長。
「んじゃーね。お大事に」
「あ、ありがとうございます」

「なんだろうねぇ、隠し事かな?気になるなぁ」
と二人の後ろ姿を見ながら呟いた京楽隊長。一護の紹介した遊廓に話を聞きに行った。
「おや、京楽様どうされました?」
「ん〜、いやね。こないだ紹介した子はどうかなってさ」
「ああ、あの子ですか。良い子ですよ、影日向無く働いてくれて助かります。ずっと居て欲しいくらいですよ」
と朗らかに笑う店主。
「そう、なら良かった。また来るね〜」
と帰ろうとした時、
「ああ、でもそう言えば、良くない先輩に付いていったのを見ましたが・・・」
「うん?」
「良く男娼館に顔を出しては小遣い稼ぎをしてる子なんですがね。こっちに被害がないから何も言いませんがあの子に悪い事を吹き込んでなければ良いんですが・・・」
「その子って今日いるかな?」
「ええ、呼びますか?」
「頼むよ・・・」
嫌な予感がする。

「呼んで来ましたよ」
「ああ、ありがとう。ねぇ君、新入りの子と仲良くなったんだって?」
「新入り?ああ、何か親の薬買う金が無いって言うから、割りの良い仕事紹介しただけですよ」
「何のお仕事?」
「え・・・、売春・・・」
「やっぱり!どうりで様子がおかしいはずだ!そのお店の場所教えてくれるかな?」
「いいっすけど・・・」
場所を聞いた京楽は店主にも、その子にも口止めをした。

十一番隊隊舎。
「剣八、薬持って来たぞー」
盆に白湯と、薬を乗せ持って入ってきた一護。
「おう」
薬を飲む剣八を見ながら一護は心の中で懺悔する。
(ゴメンな・・・、お前を裏切って・・・。俺の事は思い出さなくてもいいよ。他の皆を思い出してくれ、生きててくれるなら俺は、それで良いから・・・)
「なんだよ、じーっと見てきやがって」
「ん、あ、何でもないよ。じゃ、俺は用事があるから出掛けるな」
「さっさと終わらせろよ」
「うん・・・。そうだな・・・」

一護は遊廓に行って仕事に精を出す。中の花魁達や禿達とも仲が良くなった。
「ねえ、貴方なんでそんなに必死になってお金稼ぐの?」
「大事な人が病気で薬が要るんですよ」
「だからって、他人でしょ?どうでもいいじゃない?」
「俺は、もう一度お袋を失くしてる・・・。同じ思いをするのは嫌なんです・・」
儚げに笑う一護。そこに店主が一護を呼んだ。
「あ、はーい」
「これ、今日の分の給金ね。お疲れ様」
「ありがとうございます。じゃ、お姉さん方、お先です」
「じゃーねー!」
そこを後にすると男娼館に向かった一護。

着替えて、化粧をして待っていると呼ばれた。
「今日は松の間だよ。上客だからね、失礼にない様にね」
と言われた。
「・・・失礼します・・・」
一護が頭を下げ、中に入ると襖が閉められた。驚いて顔を上げると京楽隊長が居た。心なしか険しい表情だ。
「一護君・・・」
「・・・何ですか?」
「何をしているのか分かってるのかい?」
「分かってます、でも金が要るんです!こうでもしないと俺にはとても・・・!」
「でも剣八さんが知ったらどうする?許してくれないかも、別れ話を出されたらどうするの?」
「それがあいつの出した答えなら受け入れます・・・。生きててくれるならそれで良いです。何より俺のせいなんだから・・・」
「一護君・・・」
それから京楽隊長は酒を飲んで帰った。胸騒ぎを感じながらも・・・・。


第4話へ続く




09/08/05作 京楽さんにバレちゃいました。


文章倉庫へ戻る