題「新しい家族」3
 何やら最近白がピリピリしている。感情を荒げる訳ではないのだが、傍に居ると分かるので京楽は何かと心配だ。
「かか様ぁ、機嫌悪いの?」
と朝月に聞かれ、
「別に?何もねえけど・・?」
と答えている白。
だが、京楽が仕事から帰ると途端に眉間にしわが寄っている。
「ど、どうしたの?白。気分でも悪いの?」
「別に・・・、早く風呂に行って来い・・・」
と急かす様に追い立てる。
 
何だろうね?と思いながらも言われた通りにする京楽だった。
「ふう〜、いいお湯だった、上がったよ白」
と横に行くと、クン、と鼻を鳴らしてから、
「ん、メシ食えよ、腹減ってんだろ」
といつもの白に戻る。
食事が済み、一頻り家族団欒を味わうと夜の早い朝月は早々に寝てしまう。そうなれば夫婦の時間。
妊娠中の白の為にも励む京楽。

 いつもの様に存分に愛し合い、満足げな白と京楽。
二人で入っている風呂で何気に聞いてみた。
「ねえ白?なんだか最近すごくピリピリしてるけど、気分でも悪かったりするのかい?」
「・・・そんなんじゃねえよ。ただ、なんとなく・・・その、匂いが・・・」
「匂い?僕今、香水とか付けてないよ?」
鼻の良い白の為に極力人工の匂いは遠ざけている。
「う〜、なんでもねえ!寝る!」
「白?」
風呂から上がり、蒲団に入る。寝てしまうと白は京楽に擦り寄って離さない。
「ん〜、何なんだろうね?卯ノ花さんに聞いてみようかな」
と白の背中をポンポン撫でながら自分も眠りに入った。

 翌日。
「あ!そうだ、白。今日は帰るの遅くなるからね。戸締りだけはきちんとね」
「何で、遅くなんだよ?」
「うーん、飲みに誘われちゃってね、随分断ってるから、一回顔出しとこうと思ってね。なるべく早く切り上げるから」
「・・・ん。わかった・・・」
「お土産は何が良い?」
「いらん、早く行けよ」
「はあい、行ってきます」
「とと様、いってらっしゃい!」
「行ってきます、朝月、白」

 お昼頃。
一護がやって来た。
「にぃに、こんにちはー」
「一護、どうした?」
「うん、あのね。こないだ子供達が採って来た木苺と山ブドウね、ジャムとジュースにしたから持ってきたの!」
「へえ、お前器用だなぁ」
「えへへ、色々教えてもらってるんだ。それににぃにはたくさん食べて、元気な赤ちゃん産んでもらわないとね!」
「まあな。・・・あのよぉ、一護。聞きてぇ事あんだけどよ・・・」
「なあに?」
「俺、最近イライラするんだけど、理由がよく分かんねえんだ・・・」
「うん」
「春水が帰ってきたらホッとするんだけど、匂いが・・気になるんだ」
「匂い・・・」
「なんか、甘いんだか、なんだか良く分かんねえ匂い。それが春水からするとすげぇやだ」
「ふふふ!」
「おかしいか・・?」
「ううん!にぃには京楽さんが大好きなんだねぇ。安心しちゃった」
「はん?」
「あとね、イライラはしょうがないよ。妊娠してる時は良くあるんだって」
「朝月の時はなかったぞ?」
「多分、緊張とかもあったんじゃないかな?」
「ふうん?」
「今は京楽さんに甘えられるから、大丈夫だよ!頼りになる旦那様なんでしょ?」
「う・・まあな・・・」
「良かった、あ、そう言えば今日は京楽さんも飲み会でしょ」
「ああ、一護んトコもか?」
「うん、なんだか断れないんだって。隊長格同士で飲むんだって言ってたよ。つまんねえって」
くすくす笑って一護が言う。
「へえ、じゃあまた一緒に飯でも食うか?」
「あ、良いね!今度はうちに来る?」
「そうだな、歩くのも良いか」
「京楽さんにはお手紙書いとけば良いよね」
とさらさらと置手紙を書く一護。
「さ、行こう。朝月もおいで」
「はーい!」
一護と一緒に十一番隊へと向かう白だった。

「にぃには何が食べたい?」
「んー、なんでも?何が良いんだ?」
「いっぱいいるし、お鍋でもいい?」
「ああ」
ゆっくり歩きながら話し、買い物もついでにしていった。
「水炊きにしようっと。これならお肉もお野菜もたくさん食べれるもんねぇ」
「あ!一護、豆腐買ってくれよ!」
「うん、にぃにお豆腐好きなの?」
「最近な、気持ち悪い時とか春水がなんかしてくれた」
「へえ〜、じゃあ、二日酔いの時はにぃにの出番だねぇ」
「ああ大根の雑炊か。まあ滅多にならねえみたいだけどな」
「それはそれで助かるよね」
「まあな」
買い物も終わり、隊舎で準備する一護。
白は縁側で、遊んでいる子供達を見ていた。
「おう、白じゃねえか。何してんだ?」
「剣八か、なんか今日は春水が飲んでくるって言うから、一護達と一緒に食う事になったんだよ」
「へえ、まあそんな遅くなるとは思わねえけどよ。京楽が迎えに来るまで居んのか?食ったら帰んのか?」
「ん〜、遅くまで居てもなぁ、食って休んだら帰る」
「じゃあ、弓親辺りに家まで送らせる」
「要らねえよ、ガキじゃねえんだ」
「・・・ガキじゃねえならなおさらだ。腹にも居るし朝月も居んだろうが」
声を低くして剣八が言う。
「お前らに何かあったら一護が泣くんだよ」
と白の頭にポンと大きな手を乗せた。
「分かったよ・・・」
渋々と言った様に了承したが、なんだか嬉しかった白。

 一護達との夕飯も終わり、食休みが終わってから弓親に送ってもらった白と朝月。
家の前まで来ると、
「じゃあ僕はここで。京楽隊長が帰ってくるまで気を付けてね」
「分かってるよ」
「ばいばーい!弓親!」
「ばいばい、あーちゃん」
二人が家に入るのを見届けると帰っていく弓親。

「ただいま」
「おかえり!弓親、にぃには大丈夫だった?」
「うん、ちゃんと家に入るまで見届けたよ」
「ありがとう、弓親」
「どういたしまして。隊長は?」
「まだ。少し遅くなるかも・・・」
少し心配そうな一護。
「大丈夫だよ、あの二人なら適当に切りあげて帰ってくるよ」
「うん、だよね!」
その一時間後に剣八が帰って来た。
「帰ったぞ」
「お帰り!剣八!」
「おう、ガキは?」
「もう寝たよ、剣八明日もお仕事だよね?早く寝ないと」
「これぐれぇなんでもねえよ、ほれ蒲団行くぞ」
一護を担いで連れていく剣八。
「もう!あ、ねえねえ、京楽さんは?ちゃんと帰った?」
「あ?知らねえ。なんかじじいの話に付き合わされてたみてえだが」
「ふうん、早く帰れると良いのにね」
「なんだ、兄貴が心配か」
「うん、ちょっと不安定みたいだから・・・」
「ふ〜ん・・・取りあえずお前はこっちに集中しろ」
と一護を押し倒す剣八。後はいつもの如く・・・。

 京楽邸。
「とと様遅いね、かか様」
「そうだな、朝月もう寝る時間だろ?」
「でも、かか様一人になっちゃう・・・」
目をしょぼしょぼさせながら頑張る朝月に、
「大丈夫だよ、朝月は家に居るじゃねえか、ほら、風邪引く前に蒲団に入って寝ろ」
「はあい・・、おやすみなさいかか様・・・」
朝月を部屋まで送ると自分も寝室へ行き、着替えて蒲団の中へ入る白。
冷たい蒲団。一人で寝るのは久し振りだ。なんだか広すぎて落ち着かない。ゴロゴロと寝がえりを打つが眠れない。

 ボーン、ボーン。

と時計が鳴った。見てみると0時を指していた。少しイラついて来た白。その時、玄関が騒がしくなった。
「帰ってきたか?あの馬鹿」
と言いつつも少し安心した白。すぐに玄関に行くと複数の声が聞こえた。

「もう!ちゃんとして下さい!隊長!」
「大丈夫?七緒」
「あと少しですから。隊長!白さんが心配しますよ!」
「珍しく飲まされてたもんねぇ」
「乱菊さんものんびりしないで下さい!こんな深夜に妊婦である白さんが何かあったらどうするんですか!」
「あはは〜、ごめ〜んね、七緒ちゃ〜ん」
七緒と乱菊に左右から支えられて、帰ってくる京楽。

ガララ・・・。

「何、やってんだ?春水・・・」
「あ〜、しろ〜!ただいまぁ〜」
へらへらと笑いながら女に囲まれている―。違うと、そんなんじゃないと分かっていても白の怒りは凄まじい。
青白い炎が揺らめいている錯覚が女二人には見えた。
「おい・・・、重いだろ?もうそこで良いぞ・・・」
「え?でも白さん大丈夫・・・」
「帰っていいぞ・・・」
「七緒・・・!じゃあね白!おやすみなさい!」
乱菊が危機を感じて七緒を連れて消えた。
「えへへ〜遅くなってごめんね?白」
「・・・」
白はくるりと踵を返すと家の中へと入っていった。
「あ、あれ?白?」
「来るな、そこで寝ろ」
それだけ言い捨てると戸を閉めようとした。
だが閉まる前に京楽が戸を掴んで止めた。
「怒ってるの・・・?」
「別に・・・」
「じゃあ、なんで?」
「うるさい。臭い!近寄るな!」
綺麗な鼻にしわを寄せ、全身で拒絶した。
「白?」
「離れろ!」
「白」
「知らん!」
暴れ出そうとした白を抱きあげて、寝室へと向かう京楽だった。


第4話へ続く





10/04/02作  妊婦さんに良くある情緒不安定気味な白。 さて次はどうなるのか!




きつねのおうちへ戻る