題「かごめ、かごめ」中編
 あの夜から、剣八はしばしば一護の部屋へ行き、一護を抱き締めて眠る。
最初に訳を聞いたら、
「別に・・・、手頃な抱き枕が見つかんなくてな・・・」
と言われた。俺は抱き枕か?ただ、交わる事はなかった。

 数週間後、一護は自分の身体の異変に気付いた。
月のモノが来ないのだ。おかしい・・・、まさか!
四番隊に行って、卯ノ花隊長に相談する一護。
「どうされました?一護君」
「あの、月のモノが来なくて・・・、その、もしかしてって・・・」
「心当たりがあるのですか・・・」
「まさかとは思うんですが・・・、一つだけ」
「分かりました・・・、これを」
「これは?」
「妊娠判定薬です。ここに尿を掛けて陰性か陽性かでみます」
「分かりました・・・」
厠へ行く一護。
5分と待たず、陽性反応が出た。
「あの、コレって?」
「妊娠しているということです・・・」
正直、最初に浮かんだ言葉は嬉しいだった。が次の瞬間、巨大な不安に襲われた。
良い顔をされなかったら?要らないと言われたら・・・!
「どうしよう、どうしよう・・・!卯ノ花さん!こわい!怖い!」
ガクガク震える一護の肩を抱く卯ノ花隊長。
「一護君?恋人ではないのですか?」
ふるふると首を横に振る。
「違うと、思う。一度きりだったし・・・、いきなりだった・・・」
「では強姦ではないですか!」
「わ、分かんない・・・。俺、あいつが好きだったし、どうしたら・・・!」
「一護君、聞きますが、貴女は産むおつもりですか?」
「はい。アイツが要らないって言っても。言われたら、死神辞めて外で産みます・・・」
「どうして・・・」
「だって、もうここに居るんだ。もう生きてる・・・。殺せない」
「そうですか・・・、では相手は?」
「言えません・・・。ただ、家の当てはあるから・・・」
「一護君・・・」
「色々、お世話になりました。すごく助かりました」
「まだ、辞めると決まった訳ではないでしょう?とにかく相手の方と話をして下さい」
「はい」
「では、診察を」
診察の結果。
妊娠1ヶ月だった。

十一番隊へ戻る途中に酒に酔った死神が数人一護に絡んできた。
「おお?コイツ、十一番隊の奴じゃねえか?」
「ああ、何でも席官やら、隊長に可愛がられてるって言う奴だろ?」
「ケケ!鬼道も出来ねえ、剣だけの癖に生意気だよなあ?」
「なんだよ?あんたら」
「あんたらか。お偉いこった!喧嘩しか出来ねえ隊のくせによ!」
「んだと!」
「ああ?違うのかよ?まあ?隊長からして更木出の隊だからなあ」
「それが何の関係がある!みんな剣八の事尊敬してんだ!テメエらに!何にも知らねえ奴らに言われるこっちゃねえ!」
「こいつ!新人のくせに生意気言いやがって!」
拳が降ってきた。
「ぐっ!」
「はっ!喧嘩上等の隊士のくせに弱いもんだな!」
男の膝蹴りが一護の腹に入った。
「ぐはっ!」
腹を押さえ、男どもを睨む一護。しかし、
「グフッ!」
口を押さえて血を吐いた。流石にやばいと思ったのか逃げる男たち。
「う、ぐは!あ、こども・・・」
薄れる意識に中で一護はまだ見ぬ赤ん坊の心配だけをしていた。

「・・・ん・・」
「目が、覚めましたか?一護君」
「あ、卯ノ花隊長。俺、なんで?」
「・・・道で血を吐いて倒れていたそうです・・・」
「あ、・・・あ!卯ノ花隊長!こ、こどもは?」
卯ノ花は悲痛な顔で首を横に振った。
「あ、ああ・・・、ああ・・・、そんな・・・」
嬉しかった、嬉しかったのに!
「どうしますか?この事を更木隊長に言いますか?」
「いいえ、何も言わないで下さい・・・」
「一護君!貴女は流産したのですよ!」
「分かってます・・・。だから余計に言わないで・・・」
「まさか、相手と言うのは・・・」
「・・・」
「そうなのですね・・・」
「言えません・・・」
「分かりました・・・、ただ、今の貴女は心身共に傷が深いです。暫くは死神の仕事から離れて療養した方がよいでしょう」
「そうですか・・・」
「コレを・・・」
小さな箱を渡された。中には銀色の指輪が入っていた。
「コレは?」
「霊圧抑制装置です。無駄な霊力を押さえる事で傷が癒えるのを早めます」
「ありがとうございます・・・」

一護は休職届を持って隊舎へ帰った。
「失礼します。黒崎です・・・」
「入れ」
「隊長。これを受理していただきたいんですが・・・」
「何だこれは・・・」
差し出された休職届に目をやり一護を見る。
「理由は中に書いてあります・・・」
ビッと封を開け中を見ると、卯ノ花隊長の直筆に診断書があり、暫くの療養が必要な怪我をしたと書いてあった。
「いつ怪我なんかした?」
「今日です・・・」
「そうは見えねえな・・・」
「内側ですから・・・」
「内側?」
「内臓です・・・」
「ふうん・・・、で、いつまで休むんだ」
「さあ?治るまでじゃないでしょうか。深いらしいですから・・・」
投げやりな言い様に、
「なんだそりゃ?まあいい。休めよ」
「ありがとうございます・・・。っ!」
「おい?」
「大、丈夫ですから・・・」
酷い顔色で部屋へと帰った。
「どこが大丈夫なんだよ・・・」
後で卯ノ花にでも聞きに行こうと思った剣八だった。

一護は部屋で荷造りをしていた。と言っても着るものだけだから軽い物だ。
「ふう・・・」
夜、風呂に入り、剣八の部屋に行った一護。
「剣八、入って良いか?」
「あ?ああ・・・」
あの日から一護は二人きりの時は剣八と呼ぶようになった。
「なんだよ・・・、急に・・・」
「うん、あのさ、今日寝ないか?」
「良いけどよ・・・」
そう言うと一護が口付けてきた。
「何してる?」
「そういう意味で寝たいんだ・・・」
「一護・・・」
一護は性急に剣八を求めたが違和感を感じた剣八はされるがまま、放っておいた。
そして一護が剣八に中心に手を這わすが、何の反応も返って来なかった。
「なんで・・・?」
それを口に含み、ねっとりとした愛撫を施してもピクリともしなかった。
「やっぱ、俺じゃ駄目か・・・。なぁ剣八、なんで俺を・・・。抱いたんだ?」
「・・・分からねえ・・・」
「なんだそりゃ?ひでえ男だな・・・」
「そうだな・・・」
「なあ、遊びだって言ってくれよ。お前なんか好きじゃない、勘違いするなって」
「一護?」
じゃないと、哀しすぎる・・・。
「なあ・・・、頼むよ・・・」
「アソビダ・・・。」
「ありがとう、そうだ、これお前が付けてくれないか?」
「指輪?」
「いや、霊圧制御装置だ・・・。傷治すのを早めるんだってさ・・・」
「ふうん・・・、手ぇ出せよ」
一護は左手を差し出した。剣八は何も聞かず薬指にはめた。
「サンキュ・・・。おやすみ、自分の部屋に帰るよ」
「そうかよ・・・」

翌朝、一護の姿は隊舎から消えていた。
「おい、一護は?」
「え?居ないんですか?」
「ああ、四番隊か?」
「ですかね?部屋見てきますね」
弓親が一護の部屋に行くと、中は蛻のからだった。
「隊長!一護君の荷物がありません!」
「んだと?・・・四番隊に行ってくる」
「はあ」

四番隊。
「卯ノ花は居るか?」
「あら、更木隊長、おはようございます」
にっこりと笑っているが、いつにない迫力を感じた。
「一護が来てねえか?」
「いいえ?ああ、お話があります。こちらへ・・・」
「あん?」
「更木隊長、貴方は彼女の事をどう思っているのですか?」
「な!んでお前知って!」
「私は、最初から知っていました。今回の事は貴方にも責任があるのです」
「責任?なんだよそりゃ」
「一護君を妊娠させておいて!」
「は?妊娠?一護が?」
「・・・何も聞いてないのですか?」
「聞いてねえよ・・・。どういうこった?」
「彼女は妊娠していました・・・。貴方の子だとは一言も言わなかったですが・・・」
「で?なんであいつは出ていったんだ?」
「・・・これは言えません。御本人から聞いてください・・・」
「おい!じゃあ一護はどこに行ったんだ!」
「貴方に分からないのなら、私も分かりません・・・。ただ流魂街ではあると言えます。外で家のあてがあると言っていましたから」
「ちっ!」
「一護君は産むつもりでしたよ・・・。貴方が要らないと言っても・・・」
「そうかよ・・・」
その日から、剣八は流魂街を歩いて一護を探しまわった。だが他の死神達は容易に見つけていたが一護から口止めされていた。傷ついた身体には、やちるや剣八の様な巨大な霊圧はそれだけで、攻撃となるからだ。
訪れる者も極端に霊圧を下げていた。
「しかし、お主が女子であったとはな・・・。まるで気付かなんだ」
今日は狛村隊長が見舞いに来ていた。
「すいません、何か騙してたみたいで・・」
「良い、何か理由があるのだろう」
「みんなは元気ですか?」
「うむ、更木が何やら必死にお主を探しておる。草鹿も会いたがっておる」
「そうですか・・・。俺も皆と会いたいです」
「そうか・・・。どれ、もう暇乞いでもするか」
「お構いもしませんで・・・」
「いや、ゆっくり療養せよ」
「あ、そうだ。すいません、これをやちるに渡してくれますか?」
「うん?菓子か?」
「はい、現世のお菓子でクッキーです。それと手紙を・・・」
「分かった、必ず届けよう」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる一護に、
「よい、気にするな、ではな」
「はい」

十一番隊。
「草鹿はおるか?」
「あ、狛むーだ・・・。どうしたの?」
「コレをな。渡してくれと頼まれた」
「?、あ、お菓子だ。誰から?」
「黒崎だ」
「いっちーから!どこ?どこに居るの?いっちー!」
「悪いが口止めされておる」
「何でぇ?あたし達嫌いになったの?」
「いいや、黒崎も会いたがっておったよ。ただな、今のあ奴の身体にはお主や更木の霊圧は毒なのだ・・・。自分の霊圧すら毒になると制御装置で抑えているのだから」
「そうなんだ・・・、あ、お手紙・・・」
「確かに渡したぞ」
「ありがとう、狛ムー!」
手紙の内容は、
早く会いたいよ。風邪を引かない様に。自分は大丈夫だから。治ればすぐ会える。と書かれてあった。
「剣ちゃあん!」
「んだよ?」
「いっちーからのお手紙ー!」
「見せろ!」
何も言わずに出て行ってごめんなさい。早く治したい。また十一番隊で働けるか心配だけど俺の心配はしないで。探さないで良いよ。
「誰が持ってきた?」
「えっとね、狛むー。でも行っちゃダメだよ!剣ちゃん!」
「何でだよ!」
「あたし達の霊圧がいっちーには毒なんだって」
「あん?」
「いっちーの霊圧も毒になるって抑えてるんだって」
「それでか・・・」
「ねえ、剣ちゃん、あたし達もお手紙書こう!狛ムーに渡してもらおう?」
「そうだな・・・」
二人はそれぞれ手紙を書いて、狛村に渡したが、
「儂は今から討伐だ、卯ノ花に頼んでくれ。すまん」
と言われ卯ノ花隊長に言うと
「それなら、今日は乱菊さんが行くと言っていたのでお渡ししますね」
「ワリィな・・・」
「更木隊長、貴方は彼女を愛しているので?」
顔を顰める剣八。
「正直・・・。分からねえんだ、なんであんな事しちまったのか・・・。ただよ。手元に置いときたかったがな・・・」
「そうですか・・・。彼女は貴方を愛しているようですが?」
「なんで・・・だよ?あんなひでえ事したんだぞ?」
「ですが、貴方が好きだと言っていましたよ」
「そんな、俺は・・・」
「早く、見つけてあげて下さい」
「霊圧が毒になるんだろ」
「抑えれば宜しいのです。偶然にもうちに制御装置が後一つありますが?」
「卯ノ花?」
「ご入り用ですか?」
「当たり前だ!」
「ではうちの隊へ・・・」


後半へ続く





09/06/12作 ようやく自分の気持に気付く剣八。





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