題「かごめ、かごめ」前編
 かごめ、かごめ ―

かごの中のとりは ―

いつ、いつ、でやる ―

よあけのばんに ―

つるとかめがすべった ―

うしろのしょうめん ―

だあれ・・・? ―

 俺は黒崎一護。最近死神になった。たった一つの秘密を抱えて・・・。それは女だという事。
秘密にしたのは、身の安全もあるけど、女だと言うだけで手加減されたり、負けた時の言い訳にされるのが嫌だったからだ。
だから学院時代から男で通した。
霊力ばかりでかくて、鬼道も上手くねえ。でも剣だけは強かったから必然的に十一番隊に配属された。

でも護廷に、十一番隊に入ってからは四番隊の卯ノ花隊長にだけは秘密を打ち明けた。誰にも言わないでくれと頼み込んで・・・。怪我した時や病気の時に騒ぎになるのは嫌だったから・・・。
流魂街に居る時は、腹が空くだけで邪魔だった霊力もここでは重宝する。戦って敵を倒せれば飢えなくて済むのだから・・・。
今日も討伐から帰れば、一角や、弓親が強くなったと誉めてくれた。確かにここに来た時の俺は斬魄刀を振りまわすだけの子供だった。それに比べれば強くはなっただろう。
「一角や弓親が稽古に付き合ってくれるからだよ」
「あったり前だろ!俺が直々に稽古をつけてやってんだ!強くなって当たり前だ!」
「一角、自分で言う事じゃないよ」
「あはは!でも一角らしいよ!」
と笑っていると隊長が帰ってきた。
「お疲れ様です!」
と一角が頭を下げる。弓親と俺も下げる。
「おう。一護今日もお前が一番虚を斬ったな。たまには俺の分も残しとけ」
「すいません、でも俺如きに斬られる虚じゃ楽しめませんよ?」
「言いやがる・・・。まあ確かにな」
ガシガシと頭を撫でられる。鼓動が速くなる。
「わあ、痛いですよ、隊長!」
「ったく、こんな女みてぇな細い腕であんな斬魄刀振りまわすんだからよ」
「褒めてんですか?貶してんですか?」
褒めてくれていると分かっている。ああ、俺は隊長が好きなんだと再確認してしまう。
「褒めてんだよ、卯ノ花が呼んでたぜ」
「あ、ハイ!行ってきます」
俺は急いで四番隊へ向かった。
「一護ってよく卯ノ花隊長に呼ばれてますけどなんですかね?」
「さあな、興味ねえよ」
「そうだよ、必要があれば自分から言ってくれるでしょ」
「そうだな」

四番隊。
「失礼します。黒崎です」
「いらっしゃい、一護君。怪我はしていませんか?」
「はい、大丈夫です。いつもすいません、迷惑掛けて・・・」
「迷惑などではありませんよ。さ、お風呂に入って来なさい」
俺はいつもここで風呂を借りている。任務の後や稽古の後、毎日だ。俺の我儘に嫌な顔せず許してくれる卯ノ花隊長に頭が上がらない。
「ふう、気持ち良い・・・」
苦しい胸の晒しを外して、湯に浸かる時間だけがリラックスできる時間だ。
「しっかし、無駄にでけえな・・・。もっと小さかったら楽だったのに」
俺は自分の豊満な胸に呟いた。だって寝る時も晒しを巻いていなければいけないのだ。
「ま、しゃあねえや、自分で言い出したんだからな」
風呂からあがり、着替えて髪を乾かしていると、外が騒がしかった。
「なんだ?」
髪を乾かしきると外に出て見るとうちの隊員だった。何やら四番隊の隊士に喧嘩を売っている。
「良くやるよ・・・」
小さく呟くと、
「おい、何やってんだよ。他隊ん迷惑になんだろ?」
「一護かよ、お前こそ此処で何やってんだよ?」
「卯ノ花隊長に呼ばれたんだよ。怪我治してもらってんだ、暴れんなよ」
「ケッ!誰も頼んでねえんだよ!こんな護廷で最弱のお荷物部隊に何ができんだ?」
俺は少しイラついた。俺が生きていた頃、親が医者をしていたのを覚えていたから。
「その最弱部隊が居なきゃ護廷が成り立たないのも事実だろうが!怪我が治ってんならさっさと帰れ!」
俺はそいつらのケツを蹴って外に放り出した。
「ったく!隊長はなんで何にも言わねえんだ?」
「ありがとうございます、一護君」
「あ、卯ノ花隊長。いえ、俺がいつもしてもらってる事に比べたら大したことじゃないですよ」
「一護君、貴女うちへ来ませんか?」
「え?でも、俺、鬼道も出来ないし剣しか取り柄が無いんです」
「そんなことはありませんよ。ただのかすり傷などの治療に鬼道は使いませんし、ああいう輩を追い払ってくれるだけでも大いに助かります。やはり十一番隊が宜しいですか?」
「そりゃ、居心地はいいですよ・・・、ある意味気楽ですし。虚を斬ってれば昔みたいに飢え無くて済む・・・」
それに隊長が居る・・・。
「・・・すいません、今の言葉は忘れて下さいな」
耳元で、
「お風呂にも、月のモノの時にもちゃんと来て下さいね」
「あ、はい。ありがとうございます!」
嬉しくて涙が出た。

隊舎に帰ると隊長が呼んでいると隊首室に呼ばれた。なんかしたっけ?
「黒崎です」
「入れ」
「失礼します」
扉を開けた途端に強大な霊圧が圧し掛かってきた。何とか踏ん張って隊首席を見れば隊長がこちらを見ていた。
「ふうん・・・、倒れねえな・・・」
「な、何ですか?俺なんかしましたか」
「四番隊で自分の隊の隊士を叱りつけたんだってな・・・」
「・・・ああ、暴れてたんで。それが?」
「お前、そこで四番隊の肩持ったんだってな」
一角が言う。
「はあ?何の事です?」
「彼らはそう言ってたけど」
と弓親。
なるほど・・・。新人に良いように言われて頭に来たのか、それとも普段から可愛がられている一護への嫉妬か・・・。
「肩を持つ、持たないじゃないと思いますけど。いつも怪我を治してもらっておいての暴言の数々に一言言って蹴り出しただけです」
「ほお」
「隊長、俺も聞きたい事があります。宜しいですか?」
「なんだ」
「どうして彼らは四番隊を軽く見るんですか?戦いに於いて自分たちより弱いからですか?」
「だろうな・・・」
「何故隊長は何も言わないんですか?いつ戦場に行くかも分からない俺達の怪我を文句も言わないで診てくれているんですよ!?それが仕事だからですか?だったら仕事で怪我をして帰って来て治してくれる人が居なかったらどうするんですか!病気になって戦う前に死んだらどうするんですか!」
「一護、お前隊長に向って・・・」
「すいません・・・、でも命は一つしかないから・・・。此処のみんなはどうせ死ぬなら派手に喧嘩でって言うのは分かってますが、それとこれは違う気がして・・・。つまらない怪我が元で病気になって戦場に出れなくなって後悔するのは彼らだから・・・」
仲間がそんなになるのは嫌だと呟いた。
「そうかよ、だとよ、聞いてたか!」
先程の隊士たちが入ってきた。
「あ・・・」
バツの悪そうな顔をしている。
「あの・・・、さっきはすいませんでした!新人のくせに生意気言って」
「いや、俺らも暴れすぎたし・・・」
「いいって事にしようぜ」
「良いんですか?」
「ああ」
「はい!」
「ったく!つまんねえ喧嘩に巻きこむんじゃねえよ。俺ぁ飲みに行ってくるぜ」
「行ってらっしゃいませ、隊長」
一護が見送った。

一護の部屋は一人部屋だ。卯ノ花隊長と総隊長の口添えでそうなったが隊士達は知らない。
夜中に寝ていると突然、何者かに圧し掛かられた。
「誰だ!てめえ!」
「ああ?自分の隊長にてめえとはなんだ」
「隊長?う!酒くさ!どうでもいいですけど重いです!退いてください!」
「うるせえな、耳元でよ」
やっと退いた剣八が、
「おい、一護、お前酒は飲めんのか?」
「え、さあ飲んだこと無いんで」
「じゃあ、俺んとこ行くぞ。男のくせに飲んだ事がねえなんて、飲んどけ!」
「はあ・・・」
強引に剣八の部屋へと連れて行かれる。

「おら、飲め」
「いただきます」
杯に注がれた酒をクイッと飲む一護。
「げほ!何ですかコレ!熱!」
「くく!強かったか?俺はいつもこんぐらいの強さのしか飲まねえんだよ」
「はあ・・・」
「で、なんで酒飲んだことねえんだ?」
「ああ、金無かったし、そんなもんより食う方が大事だっただけですよ・・・」
「ふうん・・・」
「どうぞ・・・」
「おう」
「それに、こんなもので酔ったって現実が変わる訳じゃ、ないですしね・・・」
自嘲気味に笑って手酌で酒を注ぎ、飲んだ。
「確かにな・・・」
「俺はこんなだから・・・、腹ばっかり空かせてたんですよ・・・、だから木の根っことか泥水啜って生き延びてました。特に何があるわけでもなかったんですけど、何でか死んじゃ駄目だってずっと思ってたんです。変ですかね?俺って」
「別に・・・」
それは剣八も同じことだった・・・。目的もなく更木で生きてきた。そして現在の自分がある訳だが。
「俺にはまだ酒の味は分かりません・・・」
儚げに笑った一護。こんな顔は初めて見る。いつも眉間にしわを寄せて、けれど明るく笑っているのが一護の印象だ。
「おい・・・、何だよ、その顔は・・・」
「は?顔・・・?」
「いつもみたく笑えよ。それともこっちがお前か?」
「隊長、なに言って・・・!」
グイッと寝巻きを掴んでこちらを向かせた。
「イタ!」
その拍子に胸元が大きく開いた。
「お前・・・」
「あっ!は、離して下さい!」
「女?」
「・・・・」
「なんで黙ってた・・・」
「言いたくなかっただけです・・・」
「理由は?」
「言いたくないです!」
「てめえ!隊長命令だ!言え!」
「・・・・・・」
何故かイライラが募っていく剣八。一護を組み敷いて腰紐を解いていく。両手を一纏めにして頭上で握りしめた。
「なっ!やめて下さい!隊長!」
「剣八だ・・・」
「は・・・?」
「名前で呼べよ・・・。一護・・・」
胸の晒しを自分の斬魄刀で切り裂いた。
「うあ!いやだ!隊長!」
ギリッと乳房を掴んだ。
「痛い!や、やめ・・・」
「名前・・・」
「け、剣八・・・」
「それでいい・・・」
「んむ・・・」
突然の口付けに驚く一護だったが、意外にも優しいものだった。
「ん、ふう、んん・・・」
ひくん!と揺れる身体に、
「初めてかよ・・・」
「・・・・・・」
見慣れた筈の男の中のオスに恐怖する一護に答える余裕などなかった。
「一護・・・、わりい。もう止まれそうにねえ・・・」
「ひっ!いや!いやだ!誰か!」
剣八が好きだった・・・。でもこんなのは・・・、あんまりだ・・・。
暴れてみても力の差は歴然で、どうにもならなかった・・・。
「うう・・、う、あ!いや・・・」
思いのほかに優しい手付きで愛撫を施してくる剣八に一護の思考は蕩けていった。
気付けば、繰り返し剣八を呼んでいた。
「剣八、剣八・・・」
「一護、入れるぜ・・・」
どうせ何を言おうと止まらないくせに・・・。
無言のままの一護の中に自身を入れる剣八。
「ああっ!痛い!嫌だ!や!やめて・・・」
「くっ!きついな・・・」
「もう、いやだ・・・!離し、て!」
「無理だ・・・、一護、一護、全部入っちまったよ・・・」
「ひぃっ!やだぁ!」
「動く、ぞ」
「早、く!終わらせ、て!」
ガクガク震えて懇願する一護は普通の女より儚く見えた。
グチュグチュと音が響く度、我が身を呪う一護。愛液に混じって鮮血が流れていた。
「う、くう!」
「ひ!いや!熱い!な、何?これ・・・」
「お前の中で出したんだよ・・・」
「なんて事・・・!ぎっ!」
ズルッと中から抜くと、
「風呂に行くぞ・・・」
「嫌だ、離れろ!俺に近付くな!」
「そのままじゃ気持ちワリィだろ、腰も立たねえだろうが」
「ぐう・・・」
傷付いた獣のように睨んでくる一護が愛しく思った。剣八は敷布を替えると一護を抱えて風呂に向かった。

風呂に入って湯を掛けられると傷に染みた。
「・・!」
それでも声はあげなかった。身体を全て洗う剣八。一護は剣八を一度も見なかった。
「・・・湯に浸かるぞ」
抱き上げられて、湯船に浸かる。
「!」
やはり染みた。
カタカタと震える一護に何も言えない剣八。自分でもどうしてあんな事をしたのか分からなかった。
「上がるぞ・・・」
「・・・・・・・」
脱衣所に行くと一護はのろのろと着替えて自分の部屋へと帰って行った。
明日からどんな顔をするのだろうか?

部屋に帰った一護は泣いた。何悪かったのか?不用意に男の部屋などに行ったからか?自分が女だからか?相手より弱いからか?
酷い、ひどい、と泣いても時間は戻ってはくれない。今晩だけ泣こう。明日、いつも通りに振る舞えるように・・・。

翌朝、剣八は一護を無意識に探していた。初めてならば相当に辛いはずだ。何より合意では無かったのだから・・・。
「おはようございます!」
「おお!一護!いつも元気だなぁ、てめえは!」
「おはよう、一護君。朝ご飯は食べたのかい?」
「ハイ!おはようございます!隊長!」
「お・おお」
正直、拍子抜けした。いつもと変わりなかった、いや、いつもより明るいか?
「おっはよう!いっちー!」
「おはよう!やちる!今日の仕事はなんですか?」
「あー、書類片付けだってよ。討伐はねえよ」
「なんだ、つまんねえの」
「お前な・・・」
「早く、やっちゃいましょう。どうせたまりまくってんでしょ?」
「まあな」
剣八の中でまたイライラが募ってきた。他の男と楽しげに話す一護を見るのが堪らなく不愉快だ。
なんだ?これは?
「隊長!ちゃんと仕事してくださいよ!」
「うるせえ・・・」
一護に話しかけられ、どぎまぎしてしまう。
「隊長?なんか変なもんでも食ったんすか?」
と一角が訪ねる。
「ちげえよ、隊首会に行ってくる」
「はい」
「行ってらっしゃい、隊長」
一護が声を掛ける。
なんだ、くそ!俺だけが気にしてるのかよ!
初めての感情に戸惑う剣八。


中編へ続く




09/06/12作 第97作目です。はい、剣ちゃんが鬼畜です。ゴメンよぉ、白雪さん。白雪さんのにょた一護は剣八にセクハラされるという明るいお話だったんですが・・・。何故かこうなってしまいました。
09/06/24加筆しました。
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