題「四月の愚者〜吐いて良い嘘、悪い嘘〜」3 | |
夜、寝る前に日記を書く一護。今日あった出来事、会った人の名前、明日は何をするかを書いて眠った。 翌朝起きると、やはり記憶はリセットされ、卯ノ花隊長の事も思い出せなかった。 この事は瀞霊廷中に知らされ、一護と交流のあった者は驚きを隠せなかった。 「なんでこんな事になったのかしら?」 「一護君、可哀相に・・・」 など囁かれた。 今日は一護の元に恋次と、ルキアと、白哉が見舞いに訪れた。 案の定、誰も覚えていなかった。 「貴方達、誰ですか?」 で始まる会話。自己紹介をする3人。 「俺は阿散井恋次だ、恋次で良いぞ」 「私は朽木ルキアだ、私もルキアでよいぞ」 「ルキア・・・、綺麗な名前だね、古代ギリシャ語だったかラテン語だったかな、それで光を意味するんだって」 「へえ・・・」 「朽木白哉だ」 「そうですか、俺は黒崎一護です。よろしく、恋次、ルキア、白哉。白哉とルキアはそっくりだね、兄妹?」 「そうだ。しかし、何が貴様に起こったのだ?記憶喪失などと」 ルキアが心配そうに尋ねてきた。 「さあ、ただ・・、早く消えたいって思う、よ・・・」 「消えたい?」 「ん・・・、あの人に必要とされないのなら、ここに居る意味はないんだって・・・」 「あの人とは、更木隊長の事か?」 「誰?それ?」 「あ、いや」 そこへ、 「いっちー!遊びに来たよー!」 とやちるが飛び込んで来た。 「えーと、誰だっけ?」 「昨日遊ぶ約束したでしょ?日記に書いとくって言ってたよ」 「にっき・・・、ちょっと待ってね」 パラパラとめくり、 「ああ、ほんとだ。こんにちは、やちるちゃん。今日は何して遊ぶ?」 「んー、何にしよっかぁ?」 「ねぇ、やちるちゃんは更木隊長って知ってる?」 「知ってるよ!どうしたの?」 「ん、もしかしてこの記憶喪失?ってその人に関係あるのかも知れないって、言われて、あれ?」 「いっちー、泣かないで、どこか痛いの?」 「分からない、いきなり出てきた。うわ、止まんねえ」 ぼろぼろと滝の様に流れる涙。 「あたし、剣ちゃん連れてくる!」 「え?やちるちゃん?」 既にそこには居なかった。 「あ、ごめんな、急にこんな事になっちまって・・・」 ぐすっと泣きやむと、一護は笑った。無理に笑っているとすぐに分かった。 「じゃあ、我々は帰る。身体をいとえよ、一護」 「うん、ありがとう、ルキア、恋次、白哉」 3人を見送って、ぼんやりしていると廊下が騒がしくなった。 「剣ちゃんってば、早く!」 「うっせえな、ちゃんと来てんだろうが」 「いっちー、剣ちゃん連れて来たよ!」 「やちるちゃん、その人が更木隊長?」 「そうだよ!なんか思い出した!?」 期待の籠った瞳。 連れて来られたヒトを見つめる一護。ふと手が伸ばされ、頬を撫でられた。 「な、何ですか?」 少し驚く一護。 「こっちのセリフだ・・・、何泣いてやがる?そんなに俺は怖いか?」 「へ?あ、また・・・、なんで勝手に出るんだ?すいません、さっきからおかしいんです・・・、怖い訳じゃないですよ?」 「そうかよ・・・、で?なんで俺を呼んだ?」 「別に俺が呼んだわけではないですよ。ただ・・・」 「ただ?なんだよ」 「ただ、ある人に必要とされない自分は消え去りたいって言ったら、ある人って更木隊長かって聞かれたんで・・・」 「それは知ってる奴か・・・?」 「いえ?分かんないです・・・、正直、早く家に帰りたいです、ここは、苦しい・・・。知ってる人なんて、誰もいないのに・・・」 「そうかよ・・・、とにかく泣きやめよ」 「はい、すいません・・・」 こしこしと目を擦る一護。 「痩せたな、飯は食ってんのかよ?」 「え・・、まあ・・・」 「あんま食ってねえんだろ、動いてねえからだ。うちで稽古でもして腹空かせろ」 「へっ?あ、あの、稽古って?」 「剣だよ、さっさと着替えて来いよ」 そう言うと出て行く剣八。 とりあえず着替える一護。病室を出ると剣八が立っていた。 「あ、更木隊長。待っててくれたんですか?すいません」 「早く行くぞ」 「はあ」 「早く行こう!いっちー!」 剣八の肩の上からやちるが言う。 「危ないよ、やちるちゃん」 「危なくないよ、ここは特等席だもん」 「そうなんだ・・・」 喋っている内に十一番隊の道場に着いた。中に入ると中に居た全員が挨拶をした。 「あ!一護じゃねえか、記憶は戻ったのかよ?」 「いえ、すいません・・・」 俯き、申し訳なさそうに告げる一護。 「あ、そうかよ。で何しに来たんだ?今日は?」 「稽古つけてやれ、一角。腕が鈍ってるだろうからな」 「良いんすか?隊長」 「ああ、思いっきりやれよ・・・」 「はあ」 「あの、よろしくお願いします」 「お、おお・・・」 常と違う一護に戸惑いつつも相手になる一角。 木刀を取り、一角の前に出る一護。 「お願いします」 礼をし、構える一護。力が入り過ぎているのが良く分かった。チラと剣八を見やる一角。 静観している。やれという事か・・・。 「行くぞ」 「はい」 振り下ろされる一角の木刀を受ける一護。 「ぐっ!重!」 「どうしたよ!いつもはもっと元気だぜ!」 「そうですか!」 払いのけ、反撃に出るがかわされてしまった。 「動きが鈍くなってんぞ!一護!」 十数分これの繰り返しで、いい加減一護の腕が痺れてきた。 「くっ!」 一護の木刀が手から弾かれた所で試合終了を言い渡された。 「はあ、はあ、ありがとうございました」 「おお、こっちこそな」 一護は道場の縁側で涼んでいると、隣りに剣八が座ってきた。 「ほれ、水だ。飲め」 「あ、どうも」 水を飲んで、 「久し振りに運動してさっぱりしました。ありがとうございます」 「そうかよ、ちゃんと飯ぐらい食えよ」 「はい。あ・・・」 「なんだ?」 「迎えが来たんで帰りますね」 「迎え?誰も居ねえじゃねえか」 「斬月が来てるんで、さようなら、更木隊長」 剣八には誰も何も見えなかったが、何かに向かって喋る一護が居た。 「卯ノ花さんに頼まれたのか?斬月」 (いいや、もうそろそろ疲れる頃だと思ってな) 「そか、ありがと。じゃ、帰ろ」 安心しきった顔の一護を見てイライラする剣八。 (行くぞ・・・) 「うん」 帰って行く一護。 その日はいつもより食事が進んだ一護。 風呂に入り、眠る一護。だが深夜になると起き上がって歩きだした。 フラフラと歩きまわり、他の者の部屋に入っていく一護。 ソコは卯ノ花の部屋だった。 「なっ!一護君!何をしているんですか?」 「・・・違う人・・・、ここにも居ない・・・、何処に居るの?剣八・・・」 「一護君?」 「どこにも居ない・・・。どこに居るの・・・?」 「まさか、夢遊病まで発症したのでは・・・」 フラフラとまた他の者の部屋に入る一護。 「きゃぁっ!」 「うわあ!」 と言った短い悲鳴が聞こえてきた。皆、出て行った一護を見るために廊下に出た。 「あ、卯ノ花隊長!一護君どうしたんですか?」 「恐らく夢遊病を発症したのでしょう・・・。それほどまでに更木隊長を・・・」 部屋へ戻ると糸が切れた人形の様に倒れ込み眠る一護。 (一護・・・、私はどうすればいい?お前に何がしてやれる・・・?) 傍らに立つ具象化した斬月は優しく一護の髪を撫でてやった。 第4話へ続く 09/06/07作 夢遊病発症した一護と、初書き斬月さん。 |
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