題「四月の愚者〜吐いて良い嘘、悪い嘘〜
 夜、寝る前に日記を書く一護。今日あった出来事、会った人の名前、明日は何をするかを書いて眠った。

翌朝起きると、やはり記憶はリセットされ、卯ノ花隊長の事も思い出せなかった。
この事は瀞霊廷中に知らされ、一護と交流のあった者は驚きを隠せなかった。
「なんでこんな事になったのかしら?」
「一護君、可哀相に・・・」
など囁かれた。

 今日は一護の元に恋次と、ルキアと、白哉が見舞いに訪れた。
案の定、誰も覚えていなかった。
「貴方達、誰ですか?」
で始まる会話。自己紹介をする3人。
「俺は阿散井恋次だ、恋次で良いぞ」
「私は朽木ルキアだ、私もルキアでよいぞ」
「ルキア・・・、綺麗な名前だね、古代ギリシャ語だったかラテン語だったかな、それで光を意味するんだって」
「へえ・・・」
「朽木白哉だ」
「そうですか、俺は黒崎一護です。よろしく、恋次、ルキア、白哉。白哉とルキアはそっくりだね、兄妹?」
「そうだ。しかし、何が貴様に起こったのだ?記憶喪失などと」
ルキアが心配そうに尋ねてきた。
「さあ、ただ・・、早く消えたいって思う、よ・・・」
「消えたい?」
「ん・・・、あの人に必要とされないのなら、ここに居る意味はないんだって・・・」
「あの人とは、更木隊長の事か?」
「誰?それ?」
「あ、いや」
そこへ、
「いっちー!遊びに来たよー!」
とやちるが飛び込んで来た。
「えーと、誰だっけ?」
「昨日遊ぶ約束したでしょ?日記に書いとくって言ってたよ」
「にっき・・・、ちょっと待ってね」
パラパラとめくり、
「ああ、ほんとだ。こんにちは、やちるちゃん。今日は何して遊ぶ?」
「んー、何にしよっかぁ?」
「ねぇ、やちるちゃんは更木隊長って知ってる?」
「知ってるよ!どうしたの?」
「ん、もしかしてこの記憶喪失?ってその人に関係あるのかも知れないって、言われて、あれ?」
「いっちー、泣かないで、どこか痛いの?」
「分からない、いきなり出てきた。うわ、止まんねえ」
ぼろぼろと滝の様に流れる涙。
「あたし、剣ちゃん連れてくる!」
「え?やちるちゃん?」
既にそこには居なかった。
「あ、ごめんな、急にこんな事になっちまって・・・」
ぐすっと泣きやむと、一護は笑った。無理に笑っているとすぐに分かった。
「じゃあ、我々は帰る。身体をいとえよ、一護」
「うん、ありがとう、ルキア、恋次、白哉」
3人を見送って、ぼんやりしていると廊下が騒がしくなった。
「剣ちゃんってば、早く!」
「うっせえな、ちゃんと来てんだろうが」
「いっちー、剣ちゃん連れて来たよ!」
「やちるちゃん、その人が更木隊長?」
「そうだよ!なんか思い出した!?」
期待の籠った瞳。
連れて来られたヒトを見つめる一護。ふと手が伸ばされ、頬を撫でられた。
「な、何ですか?」
少し驚く一護。
「こっちのセリフだ・・・、何泣いてやがる?そんなに俺は怖いか?」
「へ?あ、また・・・、なんで勝手に出るんだ?すいません、さっきからおかしいんです・・・、怖い訳じゃないですよ?」
「そうかよ・・・、で?なんで俺を呼んだ?」
「別に俺が呼んだわけではないですよ。ただ・・・」
「ただ?なんだよ」
「ただ、ある人に必要とされない自分は消え去りたいって言ったら、ある人って更木隊長かって聞かれたんで・・・」
「それは知ってる奴か・・・?」
「いえ?分かんないです・・・、正直、早く家に帰りたいです、ここは、苦しい・・・。知ってる人なんて、誰もいないのに・・・」
「そうかよ・・・、とにかく泣きやめよ」
「はい、すいません・・・」
こしこしと目を擦る一護。
「痩せたな、飯は食ってんのかよ?」
「え・・、まあ・・・」
「あんま食ってねえんだろ、動いてねえからだ。うちで稽古でもして腹空かせろ」
「へっ?あ、あの、稽古って?」
「剣だよ、さっさと着替えて来いよ」
そう言うと出て行く剣八。
とりあえず着替える一護。病室を出ると剣八が立っていた。
「あ、更木隊長。待っててくれたんですか?すいません」
「早く行くぞ」
「はあ」
「早く行こう!いっちー!」
剣八の肩の上からやちるが言う。
「危ないよ、やちるちゃん」
「危なくないよ、ここは特等席だもん」
「そうなんだ・・・」
喋っている内に十一番隊の道場に着いた。中に入ると中に居た全員が挨拶をした。
「あ!一護じゃねえか、記憶は戻ったのかよ?」
「いえ、すいません・・・」
俯き、申し訳なさそうに告げる一護。
「あ、そうかよ。で何しに来たんだ?今日は?」
「稽古つけてやれ、一角。腕が鈍ってるだろうからな」
「良いんすか?隊長」
「ああ、思いっきりやれよ・・・」
「はあ」
「あの、よろしくお願いします」
「お、おお・・・」
常と違う一護に戸惑いつつも相手になる一角。

木刀を取り、一角の前に出る一護。
「お願いします」
礼をし、構える一護。力が入り過ぎているのが良く分かった。チラと剣八を見やる一角。
静観している。やれという事か・・・。
「行くぞ」
「はい」
振り下ろされる一角の木刀を受ける一護。
「ぐっ!重!」
「どうしたよ!いつもはもっと元気だぜ!」
「そうですか!」
払いのけ、反撃に出るがかわされてしまった。
「動きが鈍くなってんぞ!一護!」
十数分これの繰り返しで、いい加減一護の腕が痺れてきた。
「くっ!」
一護の木刀が手から弾かれた所で試合終了を言い渡された。
「はあ、はあ、ありがとうございました」
「おお、こっちこそな」
一護は道場の縁側で涼んでいると、隣りに剣八が座ってきた。
「ほれ、水だ。飲め」
「あ、どうも」
水を飲んで、
「久し振りに運動してさっぱりしました。ありがとうございます」
「そうかよ、ちゃんと飯ぐらい食えよ」
「はい。あ・・・」
「なんだ?」
「迎えが来たんで帰りますね」
「迎え?誰も居ねえじゃねえか」
「斬月が来てるんで、さようなら、更木隊長」
剣八には誰も何も見えなかったが、何かに向かって喋る一護が居た。
「卯ノ花さんに頼まれたのか?斬月」
(いいや、もうそろそろ疲れる頃だと思ってな)
「そか、ありがと。じゃ、帰ろ」
安心しきった顔の一護を見てイライラする剣八。
(行くぞ・・・)
「うん」
帰って行く一護。

その日はいつもより食事が進んだ一護。
風呂に入り、眠る一護。だが深夜になると起き上がって歩きだした。
フラフラと歩きまわり、他の者の部屋に入っていく一護。
ソコは卯ノ花の部屋だった。
「なっ!一護君!何をしているんですか?」
「・・・違う人・・・、ここにも居ない・・・、何処に居るの?剣八・・・」
「一護君?」
「どこにも居ない・・・。どこに居るの・・・?」
「まさか、夢遊病まで発症したのでは・・・」
フラフラとまた他の者の部屋に入る一護。
「きゃぁっ!」
「うわあ!」
と言った短い悲鳴が聞こえてきた。皆、出て行った一護を見るために廊下に出た。
「あ、卯ノ花隊長!一護君どうしたんですか?」
「恐らく夢遊病を発症したのでしょう・・・。それほどまでに更木隊長を・・・」
部屋へ戻ると糸が切れた人形の様に倒れ込み眠る一護。
(一護・・・、私はどうすればいい?お前に何がしてやれる・・・?)
傍らに立つ具象化した斬月は優しく一護の髪を撫でてやった。


第4話へ続く


09/06/07作 夢遊病発症した一護と、初書き斬月さん。

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