題「四月の愚者〜吐いて良い嘘、悪い嘘〜
 三月も末、現世では何やらエイプリルフールとか言う遊びがあると一角達が騒いでいた。
何でもその日だけは一つだけ嘘を吐いてもいいとか言ってやがった。そのうち、
「ねぇ、隊長。今度四月一日に一護のヤツ呼びましょうよ」
と一角が言いだした。
「呼び出してどうすんだよ」
何となくあいつで遊ぶんだろうとは思った。
「隊長に別れを切り出されたらどんな顔するか、見たくないですか?」
「悪趣味だよ、一角」
と弓親に言われていたが、
「だってよ、いっつもあいつからじゃねえかよ」
「あれは、隊長の事を思って考え抜いた結果だよ」
「それでも俺は不公平だと思うね、どうっすか?隊長。すぐにでも嘘だって言えばいいじゃないですか」

確かにとは思う。いつも勘違いや、一人で悩んだ結果とは言え別れを切り出されんのは俺だ。そん時の俺はどんな顔してんだ?もし言われたら一護はどんな顔をする?
見たくなった。そう思っちまったら止まらなくなった。

「ちゃんと、その日に呼び出しとけよ」
そう言った。

 4月1日。何故か一角達に呼び出された。何か用でもあんのかな?報告日でもないけどアッチへ向かった。

瀞霊廷に着くと最初に恋次に会った。
「おう、一護じゃねえか。何やってんだ?報告日じゃねえだろ?」
「ああ、一角達に呼ばれたんだ、なんか用でもあんのかな?」
「ふーん、あ、お前玉蹴り出来んだろ?昼休み一緒にやろうぜ」
「良いけど・・・、お前本当サッカー好きな」
「面白いじゃねえか」
「まあな、じゃ、また後でな」
「おう」

恋次と別れて十一番隊へと向かった俺は、隊首室に入った。
「おう、呼ばれたぜ。何か用か?一角」
「・・・用があんのは俺だ、一護」
剣八が声を掛けてきた。
「剣八、何?用って」
ともすれば弛んでしまいそうな頬を必死で引き締める。週末より3日も早く剣八に逢えて正直嬉しい。
でも次の瞬間聞こえたのは、耳を引き千切りたくなるような言葉だった・・・。
「別れるか」


― 突然、剣八に告げられた。
「別れるか」
の一言。
言われた俺は一瞬固まって、
「あ、うん。分かった」
と答えた。周りの顔なんか目に入らなかった。剣八はいつもと変わらない。

いつから、考えてたんだろう?迷惑掛けてたのかな?他に好きな人でも出来たのかな?なら身を引かなくちゃ・・・。

俺はお前が好きだから、幸せになってほしいから・・・。

「用ってそんだけ?じゃあ俺約束あるから恋次んとこ行くわ。斬月ここに置いてくな」
なるべく顔に出さないように、声が震えない様にそう言って隊舎を後にした。
後ろで誰かが笑っている気がした。

六番隊。
「恋次、ちょっと早いけど良いか?」
「あ?良いけどよ・・・、お前顔色悪いぞ」
「そうか?ちょっと座らせてくれ・・・」
近くのソファに腰掛け溜め息を吐く一護。

「・・・あと十分くらいで昼休みだからよ。飯でも食おうぜ」
「ああ・・・」
その後ずっと黙ったままの一護。

「おい一護、待たせたな、食堂行こうぜ」
「うん・・・」
二人で食堂に行き、昼飯を決める。
「お前何食うんだ?」
「なんでも・・・。ああ、この鮭定食でいいや・・・量少ないし・・・」
「一護?」
「なに?」
「いや、何でもない・・・(更木隊長となんかあったな・・・)」

メシを食って中庭で恋次達とサッカーで盛り上がる。
誰が一番長く、リフティング出来るか競争になった。
「おお!一護さんすげぇ!」
「へっへーん!現役の学生を舐めんなよ?ほれ恋次!次お前な」
とボールを渡す。
「うをっと!」
恋次の方へボールを蹴ると胸板で受けてリフティングを始めた。
「とっと、よっ、ほっ」
「はは、上手いな・・・」
一護は無意識に十一番隊隊舎の方へ顔を向けていた。
「っと、おい、一護?どうしたよ」
「え?」
「ボーっとしやがって、更木隊長と約束でもあんのか?」
「ないよ、もう・・無い・・・」
「ふ、ふうん、じゃあ晩飯どうする?奢ってやんぞ?」
「へ?良いのかよ」
「副官の給料舐めんなよ、どうする」
「大きく出たな、じゃあお言葉に甘えるぜ」
「おう、先に風呂入っちまおうぜ、理吉お前も入るか?」
「あ、ハイ!すぐ行きます」

3人で風呂に入った後、恋次に着替えを借りて町に出た。
「流魂街にも美味くて安い店あんだよ、そこに連れてってやる」
「おう」
連れて行かれた店はこじんまりした感じだったけど、落ち着いた雰囲気だった。
「ほれ、好きなもん頼めよ」
「あ、おう。何が良いかな?あ、肉じゃがだ、これの定食ってあるか?」
「おお、あんぞ」
「じゃあ、それで」
食事を済ませ、他愛無い話をしていると、乱菊さんがやってきた。
「あらー、一護じゃないの。珍しいわね、あんたがこんな所に居るなんて。喧嘩でもしたの?」
「誰とですか?」
「誰って・・・、一護お酒でも飲む?」
「へ?そうですね、たまには飲みたいですね・・・」
「そうよー!何があったか知らないけど、イヤな事があったんでしょ?飲んで騒いでパーッと忘れちゃいなさい!」
「イヤな事・・・、そうですよね」
と宴会が始まった。

酔いが回った頃、乱菊が一護に訊ねた。
「で、何があったのよ?」
「ああ、失恋ですよ、フラれたんです俺」
「え?」
恋次も驚いている。
「やっぱ初恋って実らないモンなんですね」
「一護?何言ってんの?」
どう反応していいか困惑する乱菊達。
「十一番隊の隊舎は戻り難いなぁ。恋次、今晩泊めてくんないか?」
「ああ、いいけどよ・・・、いいのか?一護」
恋次が聞いてくる。
「なにが?俺が頼んでるんだけど?」
「そうだな」
「じゃあ、斬月だけ取ってくるから、ちょっと待っててくれ」
「おう」
そう返すと瞬歩できえた一護。
「失恋てどういう事っすかね?」
「ん〜、まあ多分だけど、悪い悪戯に引っ掛かったのね・・・、気の毒に」
「はあ・・・」

十一番隊、隊首室。
「あれ?確かここに置いといた筈なのにな、俺の部屋かな」
一護は隊首室になかった斬月を探しに自分の部屋に行ったがそこにも無かった。
「後は、剣八の部屋か・・・、う〜んなるべく行きたくないな、さっきフラれたばっかなのに・・・」
ぶつぶつ呟きながら剣八の自室に行く。
静かに障子を開けると剣八が寝ていた。
「えっと・・・?あった」
やはりと言おうか斬月は剣八の部屋にあった。そっと部屋に入り斬月を手にすると出て行こうとする一護。
剣八が起きようとした時、一護が剣八の顔覗き込んで何事か呟いた。
「なんだ寝てんのか、剣八。そういや今日はエイプリルフールだな・・・、もうすぐ0時か・・・、剣八、好きだよ大好き・・・」
カチッと時計が0時を指した。
「今のウソ・・・、もう4月2日だな・・・、さよなら剣八、ゴメンな」
そう呟いて出て行った一護。朝になっても戻らなかった。

翌朝。
「おい、一護は?」
「あの、阿散井の所だそうです・・・」
弓親が答える。
「なんだ?あっちに泊まったのか」
「ハイ・・・」
「ふうん・・・」
それきり話題には上らなかった。

夕方にその知らせは届いた。
「一護が四番隊に運ばれました!」
「原因は?」
「あのサッカーをしていて、ボールが頭に当たったそうです」
「それだけ?」
「ハイ。ですが意識が戻らないそうです」
「隊長・・・」
「行きゃあいいんだろ・・・」
のそりと立ち上がり、四番隊へ向かう剣八。後に続く一角と弓親。

四番隊。
一護の病室に通される剣八達。
「半日近く意識が戻りません」
と卯ノ花隊長が告げた。恋次も申し訳なさそうにしている。
「おい、起きろ、一護」
薄っすらと目を開ける一護。
「起きたじゃねえか」
「一護君、具合はどうですか?どこか痛い所は?」
「・・・・・・・」
こちらを見たまま、言い難そうに、
「あの、どちら様ですか?ここはどこでしょうか?」
「一護君?」
「なんで俺の名前知ってんですか?あっ、もうこんな時間だ。家に帰らなきゃ」
「おい、一護」
「なんですか?誰ですか?貴方」
「悪ふざけはよせよ、腹いせか?」
「はあ?喧嘩売ってんですか?良い大人が」
「てめえ」
「・・・ココは病院です。倒れた貴方をこの方が連れて来てくれたんですよ」
と恋次を見せる。
「そうなのか、ありがとう。えーと・・・」
眉間のしわを深くして言い淀むので恋次が、
「阿散井だ、阿散井恋次」
「阿散井さん、そうかありがとう」
「いや・・・」
「もう一度検査をしましょうか、こちらへどうぞ」
「あ、はい。失礼します」
検査をしても異常は見つからなかった。


第2話へ続く




09/05/30作 第91作目です。記憶喪失ネタです。纏まるかな?ちょっと不安です。

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