題「馴れ初め」3
 白の横で項垂れながら再度、
「ごめんよ・・・」
と謝った京楽。その声に目が覚めた白。
「何に、謝ってんだ・・・?」
「起きたのかい、その、君の身体・・・」
「ふん、気にすんな・・・」
「でも、僕のせいだろう?あの時怒りに任せてひどくしちゃった・・・」
「どうせ、身体だけなんだろ・・・、気にする事でもねえじゃねえか・・・。俺も・・そのつもりだしよ・・・」
「君がそうだとしても、僕は違うよ・・・。君を想ってる」
「人間は嘘が好きだな。会ったばっかの人に化けた狐をか?」
自嘲の笑みを浮かべて顔を背ける。
「白君・・・、お願いだからそんな風に言わないでおくれ・・・。着物の事もごめんよ。新しいのを贈るから他の男から貰ったのを着ないでくれ」
「要らねえよ・・・、新しいのなんか・・・」
「白君・・・!」
「あれが良かったんだ・・・!初めて人から貰った。ガラにも無く浮かれちまった・・・!馬鹿みてえだ」
「ごめん、白君ごめんよ、同じ反物で作るから・・・!」
「同じ布でも、もう違うモンだろ?あんたは同じ顔なら俺じゃなくともいいのか?やっぱり身体があればいいんじゃねえか・・・」
「あぁ・・・っ!どうしたらいい?僕はどうしたら君に償える?」
「さあな・・・、俺にも分かんねえよ・・・」
「そんなに傷付くなんて・・・!僕はなんて浅はかな事を!」
「傷付いてねえ・・・」
「じゃあ、なんで泣いてるの・・・?」
京楽が優しく目元を拭った。
「泣いてねえ!見てんじゃねえよ!」
シーツに潜り込んで顔を隠してしまった。

「・・・・・・白君」
やけに下から聞こえる声に訝しんで顔を出すと京楽が土下座をしていた。
「な!何してんだ!あんた!あんた貴族とか言うやつだろ!」
「関係ないよ・・・、僕は君を傷付けた・・・。最低だ・・・」
いつも被ってる笠も脇に置き、ずっとそうしていた。
「いつまでそうしてんだよ・・・?」
「君が許してくれるまで」
「許すも何も、怒っちゃいねえよ・・・」
「でも傷付いたろ?」
「あー!もう!許すよ!許しゃいいんだろ!」
「ほんとかい?ほんとに許してくれる?」
「ああ・・・」
「ああ、良かった。これで君に愛を請える」
「な、何を!」
「ねえ、白君。こんなひどい男だけど君を愛しても良いかい?」
「やっ!」
「だめ?」
「だ、って分かんねえもん・・・。あ、愛されるってなんだ?俺はそんなの知らない・・・!」

早くに父を亡くし、母や弟の傍を離れてしまった自分。そんな記憶は遠すぎて分からない。

「良いよ、君は僕に愛されてくれれば、僕が愛するのを許してくれるかい?」
「好きにしろよ・・・!趣味ワリいな!」
顔を真っ赤にして涙目になる白。にっこり笑う京楽の顔を見て、
「その顔が悪りぃ・・・」
「えっ、ひどいなあ」
苦笑していると、
「そんな無防備に笑うから!そんな顔俺に向けるから!勘違いしそうになったんだ・・・。あ、愛されてるなんて」
「勘違いなんかじゃないさ、ちゃんと愛してるよ」
跪き、白の手を取り、その手の甲にキスをした。

 コンコンとドアがノックされた。
「入っても良いですか?京楽隊長」
「いいよ、白君も起きてるから」
卯ノ花が入ってきた。
「気分はどうですか?白君」
「分かんね・・、でも腹は痛くねえ・・・」
「そうですか、今日一晩鬼道で治療致します。明日には退院出来るように致します。安心なさって下さい」
「ん・・・」
「京楽隊長は外に出ていて下さいな」
「分かったよ」
笠の内から優しい目で白を見つめて出ていった。

 京楽は四番隊隊舎をぶらつくと声を掛けられた。
「京楽さん!久し振り!どうしたの?こんな所で?」
「一護君、こんにちは今日も元気だね。お腹の赤ちゃんはどう?」
「うん!順調だって!母子手帳も貰ったよ」
「そうかい、もう安定期には入った?」
「まだ。一か月ぐらいだから、後一週間かな?」
誇らしげにお腹を撫でる一護。
「そうかい、剣八さんは優しいかい?」
「うん!」
「・・・夜も・・・?」
「えっ!あの、う、うん・・・、優しいよ・・・」
「そうかい、僕も見習わなくちゃ、ね」
「?京楽さん優しいじゃない?」
「そうでもないさ・・・」
そうだ、優しかったらあんなつまらない嫉妬で彼を傷付けないですんだんだ・・・。
「またね、一護君」
「うん、またね!」

「隊長!こんな所にいたんですか!」
「七緒ちゃん・・・」
「・・・どうしたんです?元気ないですね」
「いや・・・、僕も修行が足りないなぁってね・・・」
「はあ・・・?」
「悪いけど今日はここに居させてくれるかい・・・?」
いつにない雰囲気に七緒は、
「わ、分かりました、今日だけですよ!」
と言って帰っていった。
「ふふ、優しい子で助かるよ・・・」


 深夜。
「京楽隊長、京楽隊長・・・」
控え目に呼ばれる声で目が覚めた京楽。
「ん、あ、卯ノ花さん、白君は?」
「もう大丈夫ですよ、今は眠っています」
「良かった・・・!」
「京楽隊長、もしかして彼のお腹の子は?」
「うん、僕の子だよ」
心なしか照れているようだ。
「そうですか・・・、一護君の時の経験からの助言です。これから、食欲とともに性欲も増して行きますが、安定期に入るまでは少し控えて下さい」
「また、危なくなるの?」
「ええ、一か月ごろが安定期に入ると思われますが、前例が一護君だけですので」
「ん・・・、分かったよ。大事な身体だからね」
「誰にも見つからない内が宜しいのでしたら、今からお屋敷に?」
「そうだね、結界も張っとくよ」
白の病室へ行くと、幾分顔色が良くなって健やかな寝息を立てていた。
「ねえ卯ノ花さん、この子の事誰にも言わないでほしいんだけど」
「・・・ええ、分かりました」
下手に刺激して暴れたら、お腹の子が危ない。
「ありがとう・・・」
京楽は羽織っていた女物の羽織で白を包むと、瞬歩で屋敷まで走った。

蒲団に白を横たえ、その隣りに座る京楽。
優しく髪を梳くと、気持ち良さそうに顔を擦り付けてくる。
「ふふ、可愛いね・・・」
一晩中、撫でていた京楽に目覚めた白が、
「何、やってんだ?あんた・・・」
「あんたじゃないよ?春水、京楽春水、名乗ったろ?」
「・・・、何やってんだ?京楽、さん」
「ん〜、下の名前で呼んでほしかったな」
「うっせえ、ここは?」
「僕の屋敷、ちゃんと結界張ってるから安心して?」
「ふうん」
「じゃ、僕は別の部屋で寝るから」
「あっ、まって・・・」
「ん?」
「ここで、いっしょ、に・・・」
「いいの?」
「ん・・・」
「じゃ、お言葉に甘えて、一緒に寝ようか」
白の蒲団の隣りで眠る京楽。
「なあ、さっきの着物どうした?」
「ああ、あれ、取り敢えず持って帰って来たけど?気になるかい?」
「ん、あれよ、一護に貰ったんだよ・・・。だから、その・・・」
「そうなのかい・・・」
「か、身体、売ってねえから・・・」
そう言うと潜りこんで寝てしまった白。
「可愛いねぇ・・、やっぱり」
その腕に白を抱き込んで京楽も眠った。


第4話に続く




09/04/09作 修羅場を乗り越えました。この後どうなりますか?



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