題「馴れ初め」17
 白の結婚式の2日前、雀部が十一番隊隊舎にやって来て剣八と一護にこう言った。
「白さんの結婚式なんですが、是非ともお二方のお子様に手伝っていただきたい事があるのですが・・・」
「手伝ってほしい事?なぁに?」
「まずは朔君に結婚指輪を運んでもらいたいのと、十六夜ちゃんには白さんのウェデイングドレスのヴェールを持って欲しいのです」
「なんでうちのガキなんだよ」
剣八が疑問を口にする。
「出席されるお子様の中で一番関係が深いのが一つと、きっと白さんも喜ばれると思いまして」
「俺は良いよ!でも朔も十六夜も何かやるんなら俺も何かやりたい!」
「何かと言われましても・・・」
「やりたいったらやりたいの!」
「はぁ、ではエスコート役をお願い出来ますか?」
「エスコートって何やるの?」
「花嫁を神父の前まで腕を組んで歩くんです」
「やる!ねえ、いいよね?剣八!」
「ああ、別に構わねえよ」
「じゃあ、俺にぃにに教えてくるね!雀部さん!ありがとう!」
大喜びで白の所へ行く一護。

「にぃに!ちょっといい?」
「なんだ?息せき切ってよ?」
「あのねあのね!にぃにの結婚式でね、朔が指輪を運んでね、十六夜がにぃにのドレスのヴェールを持つんだって!それでね、俺はにぃにのエスコート役なの!」
「えすこーと?なんだそれ?」
「なんかね、にぃにを神父さんの前まで連れていくお役目だって!」
「へえ!」
「嬉しいな!俺もにぃにに何か出来るんだ!」
「ありがとうな、一護」
優しい笑顔で礼を言う白。
「ううん!楽しみだね、俺頑張るからね!」
そう言うと帰った一護。

 隊舎に戻ると一護は子供達を呼んだ。
「朔!十六夜!おいで」
「なあに?かか様?」
「あのな、今度の結婚式で雀部さんがな、お前たちにお仕事頼みたいんだって」
「「お仕事?」」
「うん、朔は結婚指輪を運ぶ役、十六夜はヴェールを持って歩く役なんだけど・・・」
「うわあ!素敵!あたしやりたい!」
「僕もです!白にぃ喜んでくれるかなぁ」
「勿論!かか様もエスコートするんだよ?」
「「エスコート?」」
「花嫁さんを神父さんの前まで連れて行くんだって」
「すごいです!かか様!」
「ホント!すごい!」
「えへへ、嬉しいな。俺もお前達が喜んでくれて嬉しいんだ」

 3人で雀部の所へ行き、大まかな流れを聞いた。
「そうですね、まず一護君と十六夜ちゃんは白さんと一緒に入場です、腕を組んでバージンロードを歩いていただきます。十六夜ちゃんは、ヴェールを持って一緒に祭壇の前まで歩いて下さい。その後はお席に戻っていただきます。
そして朔君は誓いの言葉の後にある指輪の交換の時に指輪をお二人の所まで運んで下さい。それを神父さんに渡してお席に戻って下さい」
と説明を受けた。
「「は、はい!」」
「少し練習してみますか?私相手ですが」
「そうする。にぃにの晴れ舞台だもの、成功させたい」
「僕らも!」
4人で会場になっている一番隊の道場に行くと何人かが忙しく働いていた。浮竹と白哉の姿もあった。
「やあ!一護君たちじゃあないか!どうしたんだい?」
「えっとね、にぃにのエスコートの練習とヴェールを持って歩く練習と指輪を運ぶ練習しに来たの」
「ああそうか、なるほど、それは重要だ。偉いなあ」
えへへ、と3人で同じ様に照れ笑いをした。
「ああ、そうだ。浮竹隊長宜しければお付き合い願えますか?」
「うん?俺が何をするんだ?」
「白さんの役をして頂きいんです。私は神父の役をしますので、丁度良いと申しますか、隊長羽織をヴェールに見立てて練習すると感じが掴めるのではないかと」
「構わんよ。俺で良いのなら、よろしくな」
「ありがと!浮竹さん!」
「「ありがと!うっきー隊長!」」
浮竹を巻き込んでの練習は2〜3回繰り返された。
「もう大丈夫だと思います。後は本番ですな。成功をお祈りします」
「ありがとう、雀部さん!」


 そして、結婚式当日。
一護は、子供達を着替えさせ、自分は剣八から贈られた着物に身を包み、ヒスイで出来た髪飾りで髪を少し結った。
「よし!用意出来たな!」
「はい!かか様、綺麗です!」
「ホント!きっと白にぃと同じくらい綺麗だわ!」
「ありがと、とと様に見せに行こう」
「「は〜い!」」
剣八は一応、紋付袴に身を包んでいたが窮屈そうだった。髪も下ろして後ろで束ねていた。
「やっぱ、こうゆう格好ってのは慣れねえな・・・」
「似合ってますよ?隊長。一護君も惚れ直すんじゃないですか?」
「阿呆か」
「とと様ー!見て見て!着替えたよー!」
「おう、ちゃんとしてんな、かか様は?」
「すぐ来ます、ほら!」
「早いな、お前ら。あ、剣八どう?似合ってる?」
水色の着物と薄い藤色の帯を締め、琥珀の帯留め、髪にはヒスイの髪飾りで着飾った一護が聞いてきた。
「ああ、美人だぜ、一護」
「あう、ありがと・・・」
「あー!かか様ってば顔真っ赤ー!」
「ほんとだ!」
「からかうな!」
きゃー!とはしゃぐ子供達。
「剣八も、格好いい、よ・・・」
ともじもじしながら言うと、
「そうかよ、まぁ、ハレの日だからな」
「うん、ありがと」
「いっちー、用意できたー!」
「やちる!あ、その髪留めしてくれるんだ」
「うん!いっちーからのプレゼントだもん!」
「嬉しいな、ありがとう、やちる」
「いいよ!早く行こうよ」
「うん、剣八」
「ああ」

 会場に着くと結構集まっていた。
「あー!一護ー!こっちよ!白が待ってるわよ!」
と乱菊が大声で教えてくれた。
「はーい!ありがとー!じゃあ、行ってくるね剣八」
「ああ、俺ぁ座って待ってるからよ」
「うん」

 花嫁の控え室。
「にぃに?入るよ」
「一護!」
ほっと安心したように息を吐き、抱きついてきた。
「どうしたの。にぃに?緊張してるの?」
「かも知んねぇ・・・。春水は?来てるのか?」
「会ってないの?」
「式の前に会うもんじゃねぇって言われて朝会っただけだ・・・」
朝月を抱きながら言う。
「俺も見てないけど、みんな集まってるし京楽さんも着替えてるんじゃないかなぁ」
「そうか・・・」
「にぃに、綺麗だね。お姫様みたいだ・・・」
純白のウェデイングドレスに身を包み、ヴェールを被った白。控え目ながら化粧も施してもらっている。
手にしたブーケをもじもじと弄りながら、
「そ、そうか?でもやっぱちょっと苦しいな」
とようやく笑った。
「ふふ、今日だけだよ。こんなに綺麗なにぃにを見たら京楽さんすごく喜ぶと思うな」
「あ、ああ・・・」
コンコンとノックされ、
「お時間です」
と雀部が呼びに来てくれた。
「さ、行こ!にぃに!」
「ああ」

 会場には参列者が全員集まり、花嫁の登場を今か今かと待っていた。
白いタキシードを着た京楽が入場して祭壇の前で白を待つ。
音楽が流れ、扉が開くと新婦である白と介添え人の一護、そしてヴェールを持つ十六夜が居た。
「白・・・!」
京楽が感嘆の声をあげた。
ゆっくりと一護と腕を組み、バージンロードを歩く白。参列者は溜め息と共に見つめている。
祭壇の前まで来ると白を京楽へと渡す一護。十六夜と共に席へと戻る。
席では、剣八と幾望と朝月が待っていた。
「次は朔だね」
「ああ」
「かかたま、綺麗・・・!」
ローズピンクのふわふわのドレスを着た朝月が嬉しそうに言った。
「ああ、ちゃんと見とけよ?」
「あい!」
「おいで、幾望」
「あう」
神父役を仰せつかったのは雀部だった。誓いの言葉を読み上げていく。
「汝、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を別つまで互いを愛し、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
「ち、誓います・・・」
「では、指輪の交換を・・・」
朔が箱に入った指輪を祭壇の雀部の所まで持って行き渡すと席へと戻った。
「御苦労さま」
「はい」
京楽から白へ指輪を、次に白から京楽へと指輪を交換した。
神父が二人の手を重ね、
「これからのお二人に祝福があらん事を祈って、ここに二人を夫婦とみなします。お幸せに」
京楽が白のヴェールを上げ、誓いのキスをした。
「一護・・・」
突然隣りの剣八が一護を呼んだ。
「ん・・・?」
顔をあげると、ちゅ、と触れるだけの口付けをされた。
「誓いだ・・・」
ぼそりと呟いた剣八に一護は、
「う、あ、はい・・・」
と顔を真っ赤にした。

 腕を組んで二人が退場してゆく。皆が祝福の拍手で送り出す。
会場の入口の所で、二人が先に外で待っていた参列者へとお目見えすると白がその手に持ったブーケを空高く放った。
メンバーのみんなが、きゃあきゃあと誰が取れるかはしゃいでいた。
「次はお色直しだね白、楽しみだな」
と京楽が囁いた。
「ん・・・」
女性メンバーに連れて行かれた白はまずは朝月とお揃いのローズピンクのドレスを着せられた。
会場はすぐに模様替えを済ませ、花嫁の登場とともに食事が運ばれた。
キャンドルサービスを済ませると、朝月を膝に乗せた白と記念撮影が始まった。
一護も子供達も撮影に参加した。
「楽しそうで安心したよ」
「浮竹、大丈夫かい?無理がたたって無いか?」
「大丈夫だよ、幸せにな。奥方を泣かせるなよ?」
「泣かせないよ・・・」
「京楽、末永く幸せにな・・・」
「朽木君、ありがとう。二人ともこんな立派な式をありがとう」
「ふ、お前がそんなに神妙になるとはな・・・。おや、また着替えるようだぞ」
「ほんとだ、何回するのかな?」
「知らんのか、お前?」
「うん、お楽しみだってみんなに内緒にされてんだよね〜」
にこにこと笑いながら花嫁を見送る京楽。

 次に登場した白は目の覚めるような青いドレスを身に纏っていた。全体的にほっそりとしたシルエットでシンプルなものだった。
「ほお、美しいな。白い髪に映えてる」
「あげないよ」
「馬鹿言ってないで傍に行って来い」
促され、白の傍へと行く京楽。

「白」
「春水、これ、どうだ?」
「うん、とても綺麗だ。君の髪によく映えてるよ」
「京楽隊長、鼻の下伸びてますよ」
「んふふ、仕方ないよ〜、こんなに綺麗な白が目の前に居るんだもの〜」
デレデレと笑っているが撮影が始まると顔を引き締める。
一通り終わると次のドレス。次は真っ赤なドレスだ、
「白・・・!ああ、なんて美しいんだ・・・」
「ん・・・」
こちらは薄い布が何枚も重ねられている。また撮影が始まった。幾分疲れているようだ。

 次は振袖だった。京楽がこの日の為にと特注で作らせたものだ。
「にぃに、綺麗!」
「そうか・・・」
朱色の地に、雲の上の天女や空を舞う天女などが描かれていた。
一護とツーショットで撮られた後は皆と撮り、また着替えた。

 今度は、鮮やかなオレンジ色のドレスだった。
青いドレスと同じ形でシンプルなデザインだった。
「はあ、何でも似合うねぇ、白は」
ニコニコと喜ぶ京楽。
「嬉しいか・・・?」
「うん、とてもね。白は?」
「嬉しいけど、疲れた・・・」
「そうかい」
なでなでと、頭を撫でて慰める。
「もうこれで終わりですよ。さ、写真撮りましょ!」
みんなも楽しそうだ。自然と笑顔になる白に顔がほころぶ京楽。

 撮影も終わり、控え室に戻ると一護と乱菊が着替えを手伝ってくれた。
コルセットを脱ぐと、
「ぷはあっ!苦しかった!あ〜、楽んなったぜ」
「もう、この子は・・・!」
「にぃに、着物着なきゃ風邪引いちゃうよ」
「ん〜」
ここに来た時に来ていた着物に着替えると、
「あんがとな、今日は」
と乱菊と一護に礼を言った。
「良いわよ別に。ちゃんと幸せになんなさいよ?」
「ああ・・・」
「良かったね、にぃに」
「ああ」

 控え室を出ると京楽が待っていた。
「白!遅いよ。早く帰ろう、朝月がお腹空かせてるよ」
「分かったよ」
「ああ、一護君も松本君も、本当にありがとう」
「いえ!どうってことありませんよ。早く帰って家族サービスして下さいな」
「あはは、じゃ、お言葉に甘えるね」
白と朝月を連れて帰っていった。
「良かった・・・、にぃにが幸せになってくれて・・・!」
「一護、きっとあんたのおかげよ。いい子ね」
「一護、帰んぞ・・・」
「あ、剣八、じゃあね乱菊さん。またね」
「バーイ」
あてられるわねぇ・・・。一人ごちる乱菊。

 京楽邸。
式では何も食べられなかった白が食事を済ませ、朝月にお乳をあげるとおむつを替え寝かしつけた。
朝月も疲れていたのか、すぐに眠った。
「白・・・、お風呂入ろうか・・・」
「うん・・・」
二人で一緒にお風呂に入る。
身体を洗い、二人で湯船に浸かり温まる。
「ふう・・・、疲れたぁ・・・」
「ふふ、でも綺麗だったよ、白・・・」
「ぁ・・ん」
耳元で囁く京楽。
「もう出ようか・・・?」
「うん・・・」
薄っすらと耳まで赤くなった白の身体を拭いてやり、髪を乾かすと、
「さ・・・、先にお蒲団に入っておいで・・・」
「ん・・・」
大人しく蒲団で待つ白。


 十一番隊隊舎。
「はあ、綺麗だったなあ、にぃに」
「そうだな・・・」
既に風呂に入っている二人。子供達は乱菊が気を使って預かっている。弓親から頼まれたのだ。
「一護、もうあがるぞ・・・」
掠れた剣八の声にぞくり、とした物を感じた一護。
「うん・・・」
一緒に寝室に入ると、水差しが置かれていた。
「弓親かな?」
「だろうな・・・」
気の付く事だ・・・。恐らくいつもより多い目に結界が張られていることだろう。
これで思う存分一護を鳴かせられると内心ほくそ笑む剣八だった。


二組の夫婦の初夜が始まる。


第18話へ続く




09/05/08作 突っ込みどころ満載の結婚式でしょうが笑って見逃して下さい。
お次は、京楽さんと白の初夜と、剣八と一護の初夜?ですよ。

09/05/09加筆しました。


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