題「馴れ初め」10
 翌朝京楽は、隣りでもぞもぞ動く白の髪がくすぐったくて目が覚めた。
「んん、どうしたの?白・・・」
「あっ・・・あの、その、お腹・・・」
お腹。と聞いてガバッと起き上がった。
「どうしたの!痛いのかい?」
「ち、違う・・・!あの・・・・」
要領を得ない白に痺れを切らし身体をこちらに向かせる。
「あ、ああ・・・。大きくなったんだね。良かったぁ・・・」
「変な事じゃないのか?普通なのか?大丈夫なのか?」
心配そうに聞いてくる白の顔が可愛くて、微笑みながら髪を梳き、
「あのね、僕らの赤ちゃんが元気に育ってる証拠なんだよ。安心して良いよ」
ちゅっと、額にキスをしてやると漸く安心したように抱き付いてくる。
「ん?朝の?」
「ん・・・、ちょうだい・・・」
「良いよ。もっと、大きくなるそうだからね、沢山しよう」
「ん・・・」
京楽にしては珍しく五回も頑張った。いつもは多くて三回なのに・・・。
「変なの・・・、いつもより多い・・・」
「そりゃあね、嬉しいからね」
「うれしい・・・」
「うん。さ、朝ごはん食べよう。起きる時気を付けてね」
「う、うん・・・」
起き上がると、ふらついた。
「重い・・・、ココに子供が居るんだ・・・」
お腹を撫でた。その手の上から京楽が手を重ね、
「うん、僕らの子供だね。僕と君の・・・」
至福の笑みを浮かべる京楽に何も言えない白。ただどきどきした。

「新しい着物ね、来月には出来るって。楽しみだねぇ」
「あ、うん」
食事を終え、白を膝に抱きながら髪を梳き話し掛ける。
「それでね、これ。早いけど髪飾り、先に渡しておくね。僕が居ない間これで遊んでおいで」
「うん」
「じゃあ、仕事行ってくるね、あんまり無茶しちゃ駄目だよ?」
「分かってるよ」
名残惜しそうに離れる京楽。髪飾りを握り締める白。


 隊首会。
最近ふらふらになりながら、遅刻すれすれでやってくる親友が心配になって浮竹が帰りがけ話しかけてきた。
「おい京楽、大丈夫か?最近おかしいぞ」
「ん〜、大丈夫だよ。平気平気!」
「本当か?仕事も熱心になったとか聞くし、昼飯時になると消えるとか」
「うん。まあね」
「そう言えば、昨日、綺麗な女性と歩いていたそうだな。誰なんだ?」
「んん〜?僕のいい人さ」
「なんだ、紹介してくれないのか?」
少しのからかいを含んだ浮竹の言葉に笑いながら、
「ゴメンね、今大事な時期なんだ。落ち着いたらね」
「それは楽しみだ」
「ふふっ」
その時はそれで終わった。

 お昼時。
「ただ〜いま!待ったかい?僕の白」
「うるさい、遅い、腹減った!」
「はいはい、今日はねえ、鶏のから揚げと高野豆腐と野菜の煮物にお味噌汁だよ!」
「からあげ・・・」
「油もの、駄目かな?」
「いや、いけると思うけど、食ったこと無いだけ・・・」
「そう、美味しいよ!さあ、食べよう」
「うん」
「気に入ったら僕のも食べていいからね」
「え?ありがと」
「ふふ、か〜わいいねえ。あ、そうだ。さっき一護君に会ったよ」
「どうだった?」
「うん!元気だねぇ、あの子は。もうお腹もすごい大きくなってたよ」
「へえ、元気ならいい。そうか」
「うん、いい子が生まれると良いねぇ」
「そうだな・・・」
「君もね。元気な子を産んでね」
「あ・・・、うん・・・」
望んでくれるんだ、こいつは。この命の存在を・・・。
思わずお腹に手をやると中で胎児が動いた。
「ひゃあ!」
「ど、どうしたの!」
「いや、う、動いたから、びっくりした・・・」
「えっ!ほんとかい。わぁ、僕も触りたいなぁ」
「俺はくすぐったかったぞ」
「そうなんだぁ・・・」
傍ににじり寄って来てお腹に手を当てる。誰か分かるのか、中で動く命。
「わあ、意外と力が強いんだねぇ。やあ、こんにちは。君のお父さんだよ」
ぽこん!と返される。
「へえ、分かるんだな・・・」
「すごいねぇ・・・、早く生まれておいで。たくさん愛してあげるよ」
ぽこん!
「ふふ!嬉しそうだ」
「ふん、飯冷めるぜ・・・」
「そうだ、いっぱい食べてね〜」
「ふん・・!」

 そんなこんなで一週間。
新しい着物が出来た。京楽が早く白に着せたくて急かしたのだ。
「京楽様、こんな無茶な注文はよして下さいね。こちらも相応の値段を頂くので言えませんが・・・」
「ごめん、ごめん。早く着た姿を見たくてさ」
「はあ・・、ご注文通り打ち掛けに致しましたので、楽には動けるかと」
「ありがと」

 屋敷に帰る。
「ただ〜いま、白!お土産あるよ!」
「土産?」
「そう!新しい着物だよ!早く見たくて急いでもらったんだ〜」
「馬鹿、ガキみてぇな事すんな・・・」
赤くなって言うが効かない。
「でも今はお昼を食べよう?帰って来る時に着て見せて?」
「ああ・・・」
一緒にお昼を食べ、仕事に戻る京楽。
白は着物を広げて見る。
「わあ、綺麗だなぁ・・・、あの飾り櫛も付けて迎えてやろう・・・」
ふふ、と柔らかく笑う白。

 夕方、玄関に誰か来た。自分以外は来ないと言っていたので、新しい着物に身を包み、新しい髪飾りを刺して迎えた。
ガララ、と扉を開けるとそこには知らない男が居た。自分と同じ白い髪、けれど長い髪の男・・・。
「誰だ?春水は?」
「あれ?帰ってないのかい?じゃあ、入れ違いかなぁ?待たせて貰ってもいいかな?」
「嫌だね!失せやがれ!そこの貴族野郎と一緒にな!」
浮竹の後ろにいた白哉を見てそう言った。
「僕も貴族だけど?」
「んだと?出て行け・・・、出て行けよ!お前ら貴族は俺達を面白半分で殺すんだ!俺らの父親は遊びで殺されたんだ!あいつ等!真っ黒な血を吐くとと様を見て笑ってやがった!出て行け!出て行けぇ!」
「何やってんの?浮竹・・・?」
「京楽」
「春水!早く!帰って来い!」
「ごめんね、遅くなって・・・」
「うるさい、コイツら消せ!」
「悪いけど、今日は帰ってくれるかな・・・」
「あ、ああ・・・」
白の肩を抱いて奥へと消える京楽。
「何だよ・・・、何だよ、アイツ等!」
「彼らは、僕の同僚で、白い髪の方は親友だよ・・・」
「うう・・・、くそ!くそ!貴族なんか嫌いだ!いなくなれ!」
「落ち着いて・・・、ここにおいで・・・」
白を膝に抱える京楽、大人しく抱かれる白。
「・・・一番に見せようと思ったのに・・・」
「着物かい・・・?うん、とてもよく似合ってるよ。可愛い白・・・」
「ふん・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
「あのよ、俺の、俺等の父親がさ・・・、毒饅頭で殺されたの、知ってんだろ?」
「うん」
「あれやったのが、貴族なんだ・・・。もし食うためだったら俺は一護やかか様の傍を離れなかったと思う。アイツ等・・・!真っ黒な血を吐いて苦しむとと様を見て笑ってた・・・!あんな奴ら畜生以下だ!だから俺は、そいつ等を同じ目に遭わせてやった。仕掛けた毒饅頭をそいつ等が食う奴と入れ替えた。全員血を吐いて死んだ・・・。俺は・・・」
「・・・・・・」
「笑えなかった・・・。同じ様に笑ってやろうと思ってたのに・・・、全然笑えなかったんだ・・・」
「うん、それでいいんだ・・・、笑ったらそいつ等と同じになってたところだよ・・・」
「でも、殺した・・・」
ぽつぽつと涙が流れていた白。
「泣いていいよ、白・・・」
「やだ・・・、弱く、なる・・・っ」
「ならないよ。いいんだよ・・・泣いて・・・、泣きなさい、強くなれるよ」
「うぁ!うああああぁ!わああぁあぁあん!」
「大丈夫だよ・・・。僕はここに居るから。僕は君が好きだよ・・・」
ぽんぽんと背中と叩きながらあやした。
「う、う、ひっく・・・、う・・・」
やがて泣き疲れたのか白が寝てしまった。
ピスピスと鼻を鳴らして、安心しきって京楽に身を預けていた。京楽はずっと髪を撫で、背中を撫で続けていた。

優しい目で白の寝顔を見続ける京楽が居た。

「ん・・・?」
「起きた?ご飯食べるかい?」
「あ、うん・・・」
その夜は大人しいままの白だった。
「お風呂入ろうか?」
「うん」

 脱衣所でゆっくりと脱がしていく京楽。
「や、早く脱がせよ・・・」
「うん・・・、でもね、綺麗だから・・・」
風呂の中でもいつもより優しくした。
「さ、お蒲団に入っておいで・・・」
「うん・・・」
先に蒲団に入って待つ白。寝室に京楽が入ってきた。


第11話へ続く




09/04/26作 白の過去と貴族嫌いの理由が判明しました。また長くなりそうです。気長にお付き合い下さい。


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