題「嫉妬する子猫」
最近剣八から煙草の匂いがする。一護はあんまり好きな匂いじゃなくてヤダなぁと思っていた。
煙草の匂いのする手で身体を触られるのは嫌で仕方なかった。
(なんで最近煙草吸うのかな?)
良く思い出せば、する時としない時がある一護は一週間かけて確かめてみた。
一週間のうち三日程煙草の匂いをさせている。そう言う日は京楽隊長が飲みに誘っているのをよく見る。
(ヤダな・・・)
今日も誘いに来た。いつもの様に連れ立つ剣八。一護はどこで飲むのか気になって二人の後をコッソリ尾行した。

二人が入っていったのは、遊郭だった。

でも、純粋に酒を飲んでいるんだろうと自分に言い聞かせて隊舎へと戻った一護。

夜になり、剣八が帰って来た。
「お帰りなさい、隊長」
「おう、一護は?」
「さぁ?寝てるみたいですよ」
「ふうん」
「隊長、控えた方が良いのでは?」
「しょうがねぇだろ、最近討伐がなくて有り余ってんだ。壊しちまうだろ」
「分かりますが、傷付きますよ」
「だからバレねぇ様に煙管ふかしてんだよ」
そう言うと剣八は一護の部屋へと向かった。

一護は眠っていた。その隣りに寝る剣八。
「んん、んにゃ?」
「起こしたか、今日は寝るのか?」
言いながら剣八は裾を割って手を滑り込ませた。
「んあっ」
鼻を掠める煙管の匂いに混じって白粉の匂いを嗅ぎ取った一護は身体を震わせた。
「いにゃあ」
と一鳴きして身体を離した。
「一護?」
「にゃあぁ、にゃあぁ、にゃあぁ」
と鳴きながら蒲団から逃げようとしたが剣八に捕まった。
「どうした一護?」
震えながら剣八の身体の匂いを嗅いだ。
「あぁ、煙管の匂いが嫌なのかよ」
したり顔で言うと一護を抱いて風呂まで連れて行った。
風呂場に着くまで抱かれていた一護はわなわなと唇を震わせていた。

「どうしたよ?一護」
風呂に入っても口を開かない一護に湯船の中で問い掛ける剣八。
それでも口を開こうとはしない一護。尻尾でぱちゃぱちゃお湯を叩いては剣八の顔を覗いている。
「そんな可愛いことすんなよ、喰っちまうぞ?」
カジカジと耳を甘噛みしてきた。
「みっ!ぁん!」
ぱしゃん!
と思わず強くお湯を叩いてしまった。項から顎へと唇を這わせ、吸い付き歯を立てた。
「あぅん、やぁあ・・・」
「一護、一護、堪んねえな・・・」
ちゅっちゅっと音を立て背中にもキスを落としていった。ぴくっぴくっと震える一護。
剣八の手が胸を這いまわる。
「は、あ、なあん・・・」
くに、と軽く摘んでは捻った。一護は身を捩って声を上げた。
「いにゃあん」
「くく、今日はここでやるか?」
既にとろんとした目をしている一護の中心へと手を伸ばす。
「ひう・・・!」
「もうその気か、可愛い身体だな、一護」
するすると撫で上げては握ったり、双球を揉んだりして一護を追い上げていった。
「あ、ああん、なぁあん」
尻尾と共に腰も揺れ出したのを見計らって、指で解していった。
「ん、ん、はふん、んあっ!」
指が三本入って十分解れた所で指を抜き取り、向かい合わせで抱き合うと自身を宛がった。
「ん、あ、ああぁん!」
一気に奥まで貫かれて、一護は思わず目の前の剣八の肩に噛みついた。
「ん、ん、ふっ、くうぅ・・・」
ふ、と血の味が口に広がったのが分かった。そこで自分が剣八を傷付けたと自覚した。
「あ、にゃあうん・・・」
耳をぺたんこに寝かせて傷口を舐めてきた。
「気にすんな、お前からの印だ」
いい子いい子と頭を撫でてくれた。それだけで一護は剣八が遊郭に入っていったのを忘れてもいいと思った。
愛されてると感じた。明日から煙草の匂いも許せるかもしれない。
「一護、動くぜ」
「あう・・・」
剣八が一護の腰を持ち上げて、抜けるギリギリまで抜くと奥まで突きあげた。
「ああッ!あっ!んああっ!んんっ!んんんっ!はああん!」
「くっ!一護、爪が痛えよ、おら!」
「んああんッ!はあっ!はあっ!いにゃあ・・・、ああう・・・」
ひくひくともうすぐ訪れる絶頂に震える一護の中心を握り込み上下に扱いた。
「あっ!なあぁんっ!あぁんっ!あぁんっ!ああっ!あーーっ!」
きゅうぅと中の剣八を締め付け先に果てた一護。一拍遅れて一護の中に注ぎ込む剣八。
「あ、なぁあん・・・」
湯船の中での行為でのぼせてしまった一護。くてんくてんになって倒れ掛かってきた。
「おい一護、もう無理か・・・」
しゅるりと右腕に何かが巻き付いた。
「ん?」
ソコにはオレンジ色の尻尾が巻き付いていた。
「くっくっ、ホントに可愛いなぁ、お前はよ・・・」

気が付くと一護は蒲団に寝かされていた。剣八の腕の中で寝ていたようだ。
すりすりと擦り付いて、剣八の匂いを嗅いでまた眠りに落ちた。

次の日は煙草の匂いはしなくて昨日より激しかった。何度か気絶しては起こされた。
それでも優しくはしてくれているみたいで時折、
「みあう!」
と痛みに声を上げてしまうと、
「悪い、加減間違えたな」
と力を抑えてくれる。
はふはふと息を荒くしていると、これで終わりだと解放を促してくれた。素直に従った一護はそのまま気絶した。

翌朝、起きると腰が痛くて起き上がる事も儘ならなかった。
「あう〜」
「まだ起きれねえか?一護」
「にゃあう・・・」
さすさすと自分の腰をさすっていると、少しだけバツの悪そうな顔をした剣八の頬を舐めた。
「一護?」
肩口に顔を擦り付け甘えると蒲団に潜った一護は眠ってしまった。
「今日は寝てろ・・・」
ポンポンと蒲団の上から撫でてくれた。

夜、一護が起きると剣八は居なくて出かけていると言われた。一護は着替えると散歩に出掛けた。
自分の身体から剣八の匂いがしているから、別に寂しいとは感じなかったので少し遠出した。
道に迷ってしまい、花街のある所まで来てしまっていた一護。

ちりん、と鈴の音が耳に届いた。ふと見上げると、ある店から襦袢だけを身に着けた剣八が窓から見えた。
「あ、・・・・」
隣りには当たり前というか遊女も居た。とても綺麗な女(ひと)だと思った。一護はふらふらとその店に入っていた。
当然呼び止められ、騒動になり掛けた。一護もどうして自分がここに入ってしまったのかも覚えていない。
困っている所へ、知った声が聞こえた。京楽隊長だ。
「あれぇ?一護君じゃないの?」
「にゃあ」
「どしたの?こんな所で?」
聞かれた一護も首を傾げる。店の人間が見たままを耳打ちした。
「おいで、僕のトコでお茶でも飲んで落ち着いてから帰れば良いよ」
「ふに・・・」
申し訳なさそうに耳を倒して付いていったが、二階の先程の部屋の前で足が止まった。
「一護君?」
京楽が問い掛けるが返事は返って来なかった。
その部屋の襖に手を掛け、少しだけ開け中を覗いた。そこで見たものは剣八と遊女の交わりだった。
驚愕と絶望に見開かれる目。

―なんで?どうして?どうして俺じゃないの?そこに居るのは俺だけじゃないの?

襖を閉め、2、3歩後退ると、目を見開いたまま唇を噛んだ。尖った犬歯が薄い皮膚を破いた。ゆっくり首を振った。

―嘘だったの?可愛いって言ったのも?愛されてなんかいなかった?全部俺の独り善がりだったの?

―やっぱり女の人が良いの?俺は邪魔・・・だった?ごめんね?無理させて・・・。ごめんなさい・・・。

「一護君・・・?」
その声にビクンと反応した一護は顔を上げた。そこにはいつもの、いや、それ以上の笑顔が乗っていた。
何か感じ取った京楽だったが、剣八を誘っているのは自分なので何も言えなかった。
その場を足早に去る一護は、最後に京楽に向かって、口の前に人差し指を持っていった。
「内緒ってことかい?」
こくん、と頷く一護。苦笑するしかない京楽。
「分かったよ・・・」
と言うと、困ったような泣きそうな顔で笑った一護。そこから出ていくと隊舎へと帰った。
「ん〜、僕にも責任はあるけど、剣八さん大変だね・・・」

ふらふらと隊舎に戻った一護は、先程まで寝ていた剣八の部屋へ戻った。
蒲団はまだ敷かれていたので、倒れ込む様に寝転んだ。
部屋には剣八の匂いが籠っていた。あんなにも恋しかった匂いなのに今は嗅ぎたくもなかった。それどころか徐々にイライラが募ってきた一護は、知らぬ間に蒲団をビリビリに破いていた。
目の端に映った隊長羽織りに、死覇装に剣八の匂いがする物すべてに爪を立て引き裂いた。
「一護君?居るのかい?ご飯食べる?」
弓親が入ってきた。
「なっ!何してるの!一護君!」
ビクリと揺れた肩から怒りが急速に冷めていった。
「あ・・・、にゃ、にゃあう・・・」
その様子に弓親は、ああ、バレたな。と分かった。
「怒って無いよ、ご飯どうする?食べてないだろう?」
一護は少し考えてからふるふると首を横に振った。
「そう、じゃあ部屋に帰って寝る?」
あくまで優しい声で話し掛ける弓親。こくんと頷くと部屋まで付いて来てくれた。
蒲団を敷いてくれた後は、
「おやすみ、一護君」
と言って帰っていった。一人残された一護は、どうやって剣八から離れようか考えていた。
此処には居れないだろうし、明日狛村隊長に相談してみよう。何とかなるかも知れない。

一護が眠った頃剣八が帰ってきた。自分の部屋の惨状に弓親を呼んで説明を求めた。
「なんだ、こりゃ?」
「一護君がやったんですよ」
「何でだよ」
「猫は嫉妬深いですからね、大方、白粉の匂いのするのが気に要らなかったんじゃないんですか?」
掃除はご自分で。と彼にしては棘のある言い方でその場から消えていった。
「はぁん?しっと?白粉の匂い?訳分からん・・・」
剣八はのしのしと一護の部屋へと向かった。襖を開けると、すう、すう、と眠る一護が居た。
その寝顔をじーっと見ていると視線を感じたのか一護が目を覚ました。
「おっ・・・」
その目には何の感情も見られなかった。暫くは見つめ合っていたものの、剣八の方が痺れを切らして問い掛けた。
「なんだ?なにか言いたいのか?」
一護は目を伏せ、蒲団に潜り込んだ。
「おい・・・」
答えになってないと、蒲団から引きずり出せば、怯えたような目でこちらを見てくる。
「なんなんだよ、お前・・・」
沈んだ目をして、
「みあぁ・・・、みあぁ・・・」
と鳴き始めた。
―ごめんね、ごめんね・・・
「おい、一護・・・」
剣八が近付く度に身体からは白粉の匂いがして絶えず吐き気が込み上げた。一護の顔色の悪さを見て剣八も、
「まあ良い、ちゃんと寝とけよ」
と言い、一護も、
「みぃ・・・」
と答えた。
答えが解った。煙草は白粉の匂いを消すために、吸っていたのだ・・・。だから、煙草の匂いがしていた日は・・・。

遊女を抱いていたのだ。

それを何も知らずに抱かれて善がって、なんて滑稽なんだろう?そんなに気を使わなくても良かったのに・・・。
もう居なくなるから安心して?早く俺からも剣八の匂いが無くなるといい・・・。

翌日、朝から様子が違う一護に怪訝な顔をする剣八。
「おい一護、どっかワリいのか?」
と聞かれ、ふるふると首を横に振る一護。
「そうか?いつもと違うぞ、お前」
そう言われても、特に気分が悪いわけでもないのでまた首を振る。
「そうかよ」
こくん、と頷く一護を何やら痛みに耐えるように見る弓親。

朝飯、昼飯と済んで一護は、散歩に出掛けた。
なるべく剣八の傍から離れたかった。苦しくて苦しくて泣いてしまうかも知れなかったから・・・。


第2話へ続く




09/03/27作 第79作目です。子猫で浮気ネタは初めてかも?
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