題「鬼事」4
 護廷では、朔と十六夜が行動に出ていた。情報は集められるだけ集めた。食糧もかき集めた。
後は、誰にもバレないように出掛けるだけだ。

 剣八は、あれから碌に眠っていなかった。眠れば夢に一護が出てきては恋しさが募っていった。
まさか自分がこんな事になるとは、一護と出会う前の己を思い返しては呆れていた。
寝ていない身体では、討伐は何とか出来ても、書類は駄目だ。文字が揺れて読めやしない。
身体に喝を入れるために強い酒でごまかしてはいるがもうそろそろ限界だろう。
夜になれば、否応なしに襲いかかってくる睡魔と戦う。時折、幻聴が聞こえてきた。
『剣八?そんな強いお酒飲んじゃ駄目だよ?』
『眠いの?一緒に寝よ?お唄歌ってあげるから』
その度に、辺りを見回すが誰も居なかった。
「一護・・・」
呼び掛けても返事は返らない。

 子供達は、弓親におにぎりを作ってくれと頼んでいた。
「おにぎり?どっか行くのかい?」
「うん、いっちゃんとね、クローバー探しに行くの・・・」
「クローバー?」
「四つ葉のクローバーは、見つかり難いってかか様が言ってたから、見つけたいなって・・・」
「そうなの、お昼食べに戻るの疲れるでしょ?」
「うん、まぁいいけど、おにぎりだけでいいのかい?」
「うん、だって弓親達忙しいでしょ?とと様も、大変そうだし・・・」
「良いよ、おにぎりくらい」
「ありがとう!弓親!」
おにぎりを作ってもらい、瀞霊廷から出る。訝しがる者は居なかった。

「良かった、第一関門突破だね」
「うん、見つからなくて良かった」
「かか様のお山ってどの方角なの?」
「えッとね、こっち!」
十六夜が指差した方角に意識を集中すると、微かだか一護の霊圧を感じた。
「・・・なんだか弱くなってない?かか様のチカラ」
「・・・いっちゃんもそう思う?・・・急ごう、嫌な予感がする」
「うん!」
なるべく早足で山の奥へと向かうが、大人の剣八達でさえ一護を見つけるのに二週間近くかかったのだ。子供の足では、倍以上はかかるだろう。それでも懸命に歩いた。歩いて歩いて、草鞋が食いこんで血が滲んだ。
「朔にぃ、ちょっと休も?」
「ん、そうだね、いっちゃん大丈夫?」
「平気!朔にぃは?」
「僕も平気だよ、お昼食べよっか?」
朝からずっと歩きづめで何も食べていなかった二人。
「うん、喉も渇いたし・・・」
お昼に、弓親に作ってもらった、おにぎりを食べた。中におかかや、鮭、昆布など入れてくれていた。
「美味しいね、いっちゃん」
「うん、早くかか様と帰って、かか様のおにぎりも食べたい」
「そうだね、とと様とやち姉と一緒にね」
一服して、傷の手当をして、また歩き出す。
ふう、ふう、と息があがってきた。陽もだいぶ傾いてきた。
「く、暗くなってきたね、どこで寝るの?」
「ん・・・、野犬が危ないから、木の上が安全だと思うんだけど・・・、いっちゃん・・・」
「大丈夫よ!縄かなんかで括れば落ちやしないわ!」
「うん、じゃあここら辺で大きな木の上で寝よう」
「うん」

 その頃、護廷では。
「おい、うちのガキ共どこ行った?」
「え?帰ってないんですか?」
「ああ・・・」
「なんか、クローバーを見つけるって言って、僕におにぎり作れってお願いに来ましたけど・・・」
「クローバー?」
「ええ、四つ葉のクローバーを探すって」
「遅すぎやしねぇか?」
「ですよね・・・。ちょっと待って下さいね」
弓親が、霊圧探知で二人を捜す。護廷にはいない事が分かった。
「隊長、二人共、護廷にいません!」
「何・・・?どこ行きやがった・・・?」
「えっと、あっちの方角にって、ああ!」
「なんだ」
「あっちの方角って一護君の・・・」
「まさかあいつら・・・」
「恐らくは、間違いないでしょうね、いっちゃんこの間から色々聞いてきましたから・・・」
まさかこんな事になるとは思わなかった弓親は唇を噛んだ。
「弓親、一角呼んで来い」
「はい!」

「隊長!チビ共が山に入ったってマジっすか!」
呼ばれた一角も驚いている。
「ああ、アイツ等、テメエらだけで一護を取り戻そうとしてやがる・・・」
自分は諦めて、何もしなかったというのに・・・。横っ面を殴られた様だ。だが、これで迷いは無くなった。
「一角、弓親、これから一護を奪いに行く。お前らついて来い」
「はい!」
「はい!」

 山では、白が何かの異変に気付いた。
(何だ?山に誰か入ってきたか?)
横たわる一護を舐めながらも耳を動かした。
「一護、ちょっと出掛けてくる、ちゃんと寝てろよ?」
「うん・・・」
一護の霊圧は日に日に弱くなっていた。白にはどうにも出来なかった・・・。
くそっ!どうすりゃいいんだよ!やっと!やっと会えたのに・・・。

 一人になった一護は、ぽつりと呟いた。
「最後に一目だけでも会いたいなぁ・・・」
剣八に、朔に、十六夜に、やちるに、皆に・・・。
俺が死んだら白兄はまた一人ぼっちになっちゃうなぁ・・・。それは嫌だなぁ・・・、皆で暮らせないかなぁ・・・。
「ケホッ、ケホッ、ん・・・」
一護は白が作った、藁の寝床で寝返りを打った。

 朔と十六夜は身を寄せ合って、木の上で眠った。朔は十六夜を気遣って時折起きては、抱き寄せた。
「ん、寒・・・」
十六夜が耳を震わせ寝言を言った。

 朝日が昇って、二人を照らして起こした。
「んん、眩し・・・!」
「ん〜、もう朝?」
「うん、ご飯食べよ?」
「うん」
朔と十六夜は、リュックから干し肉やソーセージを出して、腹ごしらえして、また歩き出した。
「がんばろ、いっちゃん、きっともうすぐかか様に会えるよ」
「うん、かか様をとと様の所に戻さなきゃ!」
うんしょ、うんしょ、と歩く兄妹。だが昨日の疲労が癒えていないのか、昨日よりも足取りは重い。
「いっちゃん、お休みする?」
「そうしよっか」
その場に座ると、ふう、ふう、と息を整えた。
「とと様、怒ってるかなぁ・・・」
「どうしたの?朔にぃ」
「ん、書き置きくらいはした方が良かったかなって」
「あー、でもかか様を連れて帰ったら褒めてくれるわよ!さすが俺の子だって」
「そうだね、もう行く?」
「うん」
また、歩き出す。こうしている間も一護のチカラは弱っている。
かか様、待っててね!

 その様子を藪の中から見ていた白。
(あいつらか?山に入って来たのは・・・、しかし良い度胸だな、ガキだけで一護を奪いに来るなんざ・・・)
白は、自分が半年かそこらで親元を離れた事を思い出していた。
(俺は、一護の子供を同じ目に遭わせてる・・・、くそ!)
「きゃあ!」
「いっちゃん!大丈夫!」
十六夜がよろけて、転んでしまった。
「だ、大丈夫、痛〜、血が出ちゃった」
ペロペロと傷を舐めて、癒そうとする十六夜に朔が、
「駄目だよ、絆創膏貼るから、足出して!」
擦り剥けた膝に軟膏を塗って絆創膏を貼る朔。
「ありがと、朔にぃ」
「もうちょっと休も?足痛いでしょ?」
「でも、かか様の所に早く行かなきゃ・・・」
「かか様も大事だけど、いっちゃんも大事なの!」
「う・・、じゃあちょっとだけね?」
木の根元に座って背を預けると、疲れも相まって眠ってしまった二人。
数時間後、何かが走って近付く音で目が覚めた二人。
「あっ、寝ちゃってた!」
「何か来るね・・・」
隠れようとした二人の前に現れたのは・・・。
「朔!十六夜!てめえら何してやがる!」

「「とと様!!」」
全速力で走ってきた剣八一行だった。
「ガキが、こんな所まで来やがって!」
子供達は、その剣幕と安堵感から大粒の涙を流しながら、剣八の袴に縋って大泣きし始めた。
「わぁあん!とと様ぁ〜!」
「あぁあん!うわぁあん!とと様ぁ〜!怖かったよぅ〜!」
「わぁ〜ん!あぁあん!ごめんなさい、ごめんなさい〜!でも、かか様取り返したかったの〜!」
「ああ、ああ、分かってるよ。こっからは、俺が行くからお前らは家で待ってろ。いいな?」
「かか様も?帰ってくる?」
「ああ、絶対連れ戻す!安心しろ、弓親、こいつ等連れて先に帰れ」
「はい、隊長・・・」
「ああ?」
「ご武運を・・・!」
「おう」
「とと様、頑張って!」
「とと様、頑張ってください!」
「さ、朔君、いっちゃん、おいで」
弓親に抱きあげられる二人は、すぐに眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。緊張もあった筈だ。
背中の寝息を聞きながら、弓親は瞬歩で護廷に戻った。すぐに四番隊に引き渡し、清潔なベッドに寝かせ、十六夜の足の傷も治療した。起きた時、卯ノ花にしこたま怒られた二人。

「行くぞ、一角」
「はい」
(あの野郎・・・、ガキなら一護の傍に置いても良いが、アイツは駄目だ・・・。俺から一護を奪う・・・、それだけは許さない・・・)

 ガサガサと藪の中から白が姿を現した。
「よう、探したぜ?人の女房拐しやがって。覚悟出来てんだろうなぁ・・・」
ぐぐっと身体が大きくなったと思ったら人型になった白。
「うるせぇよ、どうせガキが動かなきゃ何もしようとしなかったんだろうがよ?腰抜けが」
「手前!」
気色ばむ一角を制する剣八。
「ああ、そうだ、アイツの手を離しちまったのは俺だからな・・・、俺にゃあ血の繋がった家族なんていやしなかったからな・・・、あいつの家族なら仕方ねぇなんて俺らしくもねえ事考えちまったのさ・・・」
「それで正解じゃねえか、なんでお前はここにいる!」
「でもよ、今はあいつにゃガキが居るんだよ、俺のガキでもあるがな、正真正銘血の繋がった子供だ」
「だからって一護は返さねえぞ・・・!それに今は・・・!今あいつは動けねえんだ・・・!」
「どういうこった?」
「メシ喰えなくなって、チカラがどんどん弱くなってる!」
「馬鹿が!早く会わせろ!」
「誰が会わせるか!俺から一護を奪う奴は許さねえ!一護は俺のだ!俺だけの一護だ!」
「今は違う・・・、俺の女房で朔と十六夜の母親だ、ガキから親を奪う権利はてめえに無ぇ・・・」
「くそが!」
「行くぞ、一角」
「ハイ」
一護の巣穴に急ぐ剣八と一角。

 見つけた。中を覗くと力無く横たわる金色の狐が居た。
「一護!」
中に入って、身体に触る。温かい。脈もある。ホッとする剣八。
「一護、一護、起きろ!」
瞼を震わせながら目を開ける一護。数回瞬くと、目の前の男に気付いた。
「クゥ・・・」
一声鳴いた。
「そうだ、俺だ、しっかりしろ、すぐ瀞霊廷で治療してやる」
外に連れ出すと、身を捩って剣八の腕から逃げると草むらで横になった。息が上がっている。
「一護・・・、一角、先に帰って卯ノ花を待機させてろ・・・」
「あ、はい」
一角がその場から居なくなると剣八は、一護の後ろ脚に口付けた。
「!?」
「一護、俺のとこに戻れ、頼むから・・もう俺から離れるな。俺一人じゃどうしようもねぇんだよ、帰って来い、一護」
口付けを繰り返しながら希う剣八。足先から、尻尾の先まで繰り返し口付け、その長い鼻の顔にも口付けを降らせた。
一護は人型になると裸だった。
「いいの・・・?俺は2度も剣八を裏切ったんだよ?許されるハズないよ・・・。戻れないよ・・・」
「お前は裏切っちゃいねぇ!俺が・・、お前の手ぇ離しちまったんだ・・・帰って来てくれ一護・・・」
「剣八・・・」
「お前が居なきゃ俺は渇いちまう・・・、もう俺を渇かすな。お前が居なきゃ、俺は砂になっちまう!」
剣八はそこまで言うと、一護に口付けた。深く深く、今までの渇きを癒すかの様に・・・。
「ん、んう、ふ、ぁ、ん、剣八、剣八・・・」
「一護、一護・・・」
剣八は羽織りを下に敷き、そこへ一護を寝かせた。一護の首筋に顔を埋め、吸い付き跡を付けた。
ちりり、とした痛みに声をあげる一護。
「あう、剣八・・・」
剣八の首に腕を絡ませる一護。
「ああ、剣八、逢いたかった、最後に一目だけでも逢いたかったの・・・」
「最後じゃねぇ、これからずっと一緒だ・・・」
「でも、俺病気かもしれない・・・」
「関係ねぇ!なら俺がお前を喰ってやる!約束したろうが!」
「ホントに?嘘じゃない?」
「ああ、髪の毛一本残さず喰ってやる・・・、俺の血肉になれ、ずっと一緒だ・・・」
「ああ、ああ、嬉しい、嬉しい、剣八、愛してる・・・」
「俺もだ・・・」
口付けを下まで繰り返し、胸の飾りを口に含み、舌で転がし、歯で甘噛みしてはもう片方を摘まみあげた。
「はあん!剣八ぃ・・・」
剣八は自分の指を舐め、唾液で濡らすと一護の蕾に宛がった。
「ん、ふあ!」
「久し振りだとキツイな・・・」
「あう、ああ、ん」
くちゅくちゅとゆっくりではあるが解していった。指が三本まで入った所で抜き取ると、猛る自身を宛がう剣八。
「あ・・・。熱い、剣八の・・・」
「行くぞ、一護・・・」
「ん、きて・・・」
ぐっ!と腰を押し進める剣八。
「ん、あーー!あ、ああ、熱い、熱い・・・、剣八あつい・・・」
がくがく震えながらしがみ付く一護。
弱った一護を慮ってゆっくりとした抽挿だったが焦れた一護が、
「剣八、もっと、奥に、来て?いつもみたいに・・・!」
「一護!」
剣八は一護の腰を掴むと強く打ちこんでいった。
「あっ!あっ!いいっ!剣八!気持ち良いよぅ!あぁんっ!あっ!ああっ!もうイク!んあ!ああっあー!」
一護がイクとその締め付けで剣八も中へ注ぎ込んだ。
「んあぁ・・・、あつぅい・・・」
ひくっ、ひくっ、と身体をひくつかせ余韻に浸る一護。
「一護、身体洗うぞ。水場かなんかないのか?」
「あ・・・、川が・・・ある、よ」
「案内しろ」
一護を抱き上げて、川へと移動する二人を見つめる白が居た・・・。


第5話へ続く




09/04/03作 子供達の大冒険。そしてようやく逢えました!この後白はどうするのか?



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