題「小さな隊長」
定期報告で瀞霊廷にやって来た一護。一番隊で報告を済ませ十一番隊へ向かおうとした時呼び止められた。
「黒崎殿、お待ちを」
「はい?」
「総隊長がお呼びです」
嫌な予感がする・・・。前にも呼び出されて猫になった剣八のお守りを言いつけられた。
「すいません、俺急いで十一番隊に行かないといけないんで・・・」
「丁度良かった、その十一番隊の更木隊長の事なんです」
「はあ?」
「とにかく、来て下さい!」
歩きながら一護は、
「それは、剣八が被害者なんですか?加害者なんですか?」
「被害者ですね、着きました」
「あ、ハイ」
「黒崎殿をお連れしました」
「うむ、入ってくれ」
中に入ると、一角と弓親が居た。ボロボロだ・・・。何があったんだ?
「あ、一護君・・・」
「よお、一護・・・」
目に見えて憔悴しきっている・・・。
「何があったんだ、お前ら?」
「これみろ・・・」
指を指されて見たものは、子供?誰かに似てる?
「黒崎 一護、その童はの、更木なんじゃ」
「はあ?何言ってんだ?じいちゃん」
あまりの事に敬語を忘れた。
だってそこに居たのは10歳くらいの男の子。どうやら鬼道を掛けられて動けないようだ。
敵意の籠った目で周りを見ている。当然俺も・・・。
「取りあえず鬼道、解いて貰えますか」
「危ないよ、一護君。更木隊長なんだから霊力は強いよ?」
「でしょうね、でも子供にずっとこんな格好させられないですよ」
鬼道を解かれた剣八は、暫く手を動かしていたが突如、目の前の一護に襲いかかった。
が、逆にその手を取られて、押さえ付けられた。
「離せ!くそっ!」
「くそじゃねえ、いきなりご挨拶だな?ガキ」
「殺らなきゃ殺られるだろうが!」
「一から教えなきゃ駄目だな、いいか?ココじゃ、そんな事には、ならない、絶対にだ!分かったか?分かったら返事!」
一護は怒っていると分からせる為に霊圧と声を荒げた。子供の剣八よりは格段に強い。
「・・・おう」
素直になった剣八から手を離して立たせると、一護は膝をついた。
「あ〜あ〜、こんなに汚れて、ん?なんだお前指怪我してんぞ」
「ああ、暴れた時に出来たんだと思うよ・・・」
自分も怪我をしている弓親が言った。
「ふーん、見せてみろ」
「触んな、こんなモン舐めてりゃ治んだよ!」
言われて一護はその指を口に含んだ。柔らかい舌で包みこんでチュッと吸い上げた。
「血はほとんど出てねえな、ん?なんだよ」
「お前こそ・・・、何してんだよ?」
「舐めときゃ治んだろ?お前が言ったんじゃねえか」
二の句が継げない剣八。
「他に痛い所とかは?無えか?」
頷く剣八。
「俺は黒崎一護だ、お前は?」
「名前聞いてんのか?だったらねえよ、そんな大層なもん・・・」
「そうか、それじゃあ、呼ぶ時に不便だな・・・」
「あ?」
「お前が今まで居たとこは何て言うんだ?」
「更木・・・」
「じゃあ、姓は更木、名は剣八、な!」
「剣八・・・?」
「ああ、お前は知らないだろうけど、ここに居る人たちはみんなお前より強い、お前強くなりたいか?」
訝る様に頷く剣八に、
「剣八って言うのは、代々もっとも強い死神の名前とされてるんだ。強くなりたきゃ頂点取れよ」
「面白れえ、気に入ったぜ」
ぽんぽんと頭を撫でてやり、総隊長にどうしたのか聞く。

「実はの、三日程前に怪しい薬を飲まされたみたいでな・・・」
「十二番隊ですね・・・」
「察しが良いの・・・、記憶もそこまで遡っておるらしい」
「で、俺に何しろってんですか?今度は子守りですか」
「おい、一護!いつまでここに居るんだ?つまんねえから、外行こうぜ」
自分から視線が外され分からない話をされているのが気に入らないらしく邪魔をして来る。
一護が剣八の顔を両手で包んで目を合わせると低い声で、
「今、大人の話してるから、大人しくな・・・」
「・・・分かった」
「いい子だ」
一護は胡坐をかくと向かい合わせに剣八を抱いて、話を聞きながら髪を梳いたり、背中を撫でていた。
そんな一護の腕の中でウトウトしだした剣八。この三日の間、極度の緊張の中に居たのだから無理もない・・・。
「で、解毒剤とかは?」
「ないそうじゃ、急いで作るか、効き目が切れるのを待つかしか無いんじゃ、今の所」
「そうですか・・・」
無意識に、身体を前後に揺らす一護。妹達にしてたように身体が動く。
「大人しいの・・・」
「は?」
「更木じゃよ・・・この3日暴れ倒しておったからのう」
一護は腕の中の剣八を見るとすう、すうと寝息を立てていた。
「どうせ俺に子守りさせるんでしょ?」
「まあの、お主以外に懐く者がいたら良いんじゃが・・・」
「いいですよ、どうせ現世も休みに入ってるし、どうにかなるんじゃないですか?」
「おお、ありがたい、スマンの黒崎一護」
「山本のじいちゃんが謝る事じゃないでしょ?起きろ、剣八」
「んん・・・?」
「お前腹減ってるか?」
「別に・・・」
「じゃあ、風呂入ろうぜ、お前どろどろじゃねえか」
「風呂?一護もか?」
「ああ、背中洗ってやるよ」
「他の奴が来ないなら入ってやる」
「別に良いけど、弓親風呂沸いてるか?」
「ああ、うん、沸いてるけど」
「じゃあ、決まりな。出たらメシ喰おうぜ」
「着替え無えぞ」
「じゃあ、俺の死覇装の上で良いんじゃねえか?そんなに長くねえし・・いけんだろ」
「ふうん・・・」

十一番隊の風呂場で待つように言って着替えを準備する。
「えーと?俺の死覇装と剣八の分と、こんなモンか」
風呂場に行くと、扉の前で立っていた。
「先に入ってりゃ良かったのに」
「うるせえ・・・」
「ほら、入るぞ、服脱げよ」
一護は、バサバサと死覇装を脱いでいった。
「何だよ?脱がなきゃ入れねえぞ?」
「お、おう」
「脱いだらソコのカゴに置いとけ」
カララと扉を開けると剣八もすぐ入ってきた。
「先に髪洗ってやるよ」
「は?」
ブラシで剣八の髪を丁寧に優しく梳かしてやった。
「ホラ、お湯掛けんぞ」
ザパッとお湯を掛け、シャンプーを泡立てて髪を洗ってやる。
「目に入ると染みるからな、しっかり閉じとけよ」
「う、おう・・・」
「良し、泡落とすのにお湯掛けるからな」
キレイに泡が無くなるまでお湯を掛けてやった。
「次は、身体洗うぞ、背中出せ、っとその前に髪の毛、髪留めで留めるか」
ささっと髪を纏め上げる一護。
「すっきりしただろ?さっ、洗うぞー」
剣八の小さくなった背中を洗う一護。
「キズだらけだな・・・」
「あんなトコで暮らしてんだ、当たり前だろ」
「そうか・・・」
一護は自分の髪を洗い、身体を洗う。
「何してんだ?湯船に浸かれよ?」
「入った事ねえ・・・」
「ああ、じゃあちょっと待ってろ」
急いで泡を落とすと、剣八の傍まで行った。
「ここで掛け湯をしてから、湯船に入って温もるんだ」
ざぱざぱとお湯を掛け、自分から先に湯船に入る一護。
「ふーん・・・」
真似をして掛け湯をする剣八。
「あちっ!熱いぞ一護!」
「それに慣らすのに掛け湯をすんの、ほれ来いよ」
「うー、あちいー」
「ほら、肩が冷えるぞ」
ぱしゃぱしゃと湯を掛けてやる。
「深い」
「そうか?じゃ、こっち来いよ」
とその膝に抱いてやる。いつも剣八にしてもらっている事だ。
「ううっわ」
「大丈夫だろ?」
「お、おう・・・」
「百数えたら出るぞ」
「そんなに数えらんねえよ」
「俺の後から言えば良いじゃねえか。ほれ、い〜ち・・・」

「・・・九十九、ひゃ〜く!」
「・・・ひゃ〜く・・・」
「のぼせたか?」
「あつい・・・」
「んじゃ出るか」
二人で脱衣所で着替える。
「ん、丈も丁度良いな、良かった良かった」
一護も髪を乾かす。それをじっと見ている剣八。
「なんだよ?」
「それ、なんだ?」
肩のあたりを指差して聞いてきた。見てみると歯型が付いていた。
「あ!いや何でもねえ、何でもねえ。気にすんな」
素早く着替える一護。
前の報告日の夜に付けられた剣八の歯型だ。赤くなって剣八の髪留めを外して髪の水気を絞る。
「お前は髪が長いから、良く乾かさないとな」
ごまかす様に髪を乾かしてやる。黙ってされるがままの剣八。
(気に入らねえ・・・)と思った。
水気が取れるとドライヤーで乾かし始めた。
「な、なんだそれ!」
「ん、ドライヤー。髪の毛乾かすモンだよ」
温風で髪を乾かす一護。
「気持ち良いだろ?」
「悪くはねえ・・・」
「意地っぱり」
くすくす笑いながら乾かし、ブラシで整える。
「お前の髪は綺麗で良いなぁ、真っすぐでさ、俺も黒髪になりたかったな」
「お前はその頭で良い、その色が良い」
「んん?あんがと」
「ほんとだぞ!」
「ああ、嬉しいよ。さ、落ち着いたら飯喰おう」
「おう」
隊首室に行くと皆が揃っていた。
「丁度いいや、みんなの自己紹介聞いとこうか。皆ここの仲間だ、お前を傷付ける人は一人も居ない」
「ふーん・・・」
「弓親、悪いけど、皆に自己紹介してもらえるか?俺、昼飯作って来るわ」
「うん、いいよ・・・」
「じゃあな、剣八、すぐ戻るからこの人の言う事ちゃんと聞くんだぞ?」
「・・・わーったよ」
台所へ消えた一護。弓親が話しかける。
「え〜っと、剣八・・・君だよね、僕は弓親、よろしくね」
それぞれ自己紹介していった。
「たまに、隊長って呼んじゃうかもしれないけど気にしないでね?」
「ああ・・・、一護は?」
「すぐ来るよ、ああほら」
「お待ちどうさま!オムライス作ったぞー!」
3つの皿を持って一護が戻ってきた。
何で3つ?と思っていると、
「たっだいまーいっちー!今日のお昼何ー?」
「オムライスだよ、お帰り、やちる」
「わーい!あたし大好き!」
「早く手ぇ洗って来い、冷めちまう」
「うん!」
「おい、一護今の誰だ?」
「ん?ああやちるって言ってここの副隊長だ、俺より強いぞ」
「見えねえな」
「洗って来たよー、いっちーこの子が剣ちゃん?」
「そう、仲良くな」
「うん、あたしやちる、よろしくね」
「おう」
「さっ、食おう」
「いただきまーす」
ケチャップで名前の書かれたそれを見ているだけの剣八。
「どうした剣八?」
「何書いてあるんだ?これ」
「お前の名前だよ、け ん ぱ ち」
「俺の名前・・・」
呟いて静かに食べ始めた。黙々と食べる剣八に一護が、
「美味いか?剣八」
「ん、甘え」
「そうか・・・」
一護はいつものセリフにふわっと笑った。
「ご馳走様ー、いっちー美味しかったよ!」
「お粗末様、ありがと、やちる口の端にケチャップ付いてんぞ」
「えっ、取って取って」
「はいはい」
お湯で濡らした手拭いで拭ってやった。
「ありがとー、いっちー遊んでくるね!」
「はいよー、たまには仕事しろよ〜」
「はーい」
「喰った・・・」
「ん、剣八食べ終わったらご馳走様って言えよ」
「何でだよ」
「作ってくれた人への感謝だよ、覚えとけ」
むーとした顔だったが小さな、一護にしか聞こえない声で、
「ごちそうさま」
と言った。一護は剣八の頭を撫でながら、
「お粗末様でした。ああほら、お前もケチャップ付いてんぞ」
クイっと親指で拭うとその指を舐めた。
「!」
「夕飯まで何にもねえし遊んでろよ」
「どこで?」
「どこででも?ここで寛ぐも良いし、外に散歩行くのも自由だよ」
洗い物を運ぶ一護。
「ふうん・・・」

洗い物を済ませ戻ってくるとまだ居た剣八に、
「何だ?どこにも行かないのか?」
と聞いた。
「別に行きたいとこねぇ」
「じゃあ、縁側で昼寝でもしてろよ、一角稽古つけてくれ」
「お?おお」
訝しげに二人のやりとりを見ている剣八。二人が道場へ行くと何をしているのか見に行った。
ガァンッ!と木刀がぶつかり合う音が響いていた。
ガッ!ガガンッ!と繰り返しぶつかる木刀を握っているのは一護と一角。
二人とも楽しそうに見えた。
「おっとぉ!脇が甘いぜ!一護!」
「そっちこそ!足元がお留守だぜ」
ガギィン!と二つの木刀が折れたのでお開きとなった。
「ぷはーっ!お前だんだん強くなってくな」
「弱くはなれねえよ、その為にここに来てんだからよ」
「半分は、あの人の為だろ?」
「うっせえ・・・」
耳まで赤く染めている。そんな一護にイラついた剣八が、
「一護!」
「ん?あれ、来たのか剣八」
「来いよ!」
「は?」
「いいから来い!」
「引っ張るな、引っ張るな。じゃな一角」
「おー」
ありゃ完全にヤキモチ焼いてんな・・・。俺、目ぇ付けられなきゃいいけど・・・。

「どこ行くんだよ?剣八」
「・・・」
「剣八?」
縁側に連れて来られた。
「なんだ?昼寝か?」
「ん」
「ん?」
「ん!」
両手を突き出して抱きあげろと言っているのか?一護が屈むと、ギュッとしがみ付いてきた。
「なんだ?どうした、剣八?」
「一護は俺のだ・・・」
「は?」
「だから、誰にもやらねえ、俺には一護しか居ねえんだ・・・」
「剣八・・・」
一護は縁側に腰掛けると、
「剣八、これから仲間を作れば良いじゃねえか」
「要らねえ!一護だけで良い!」
しがみ付く腕に力を込めてきた。
「一護だけだ・・・、初めから優しかったのは・・・!人として俺を扱った!」
「ここの人たちもそうだろ?」
「違う!ここの奴らは、変なモノ見るみたいに見てきやがった!だから・・・」
「だから、ぶっ飛ばしたのか?ずいぶん乱暴だな」
「知らねぇ!一護は誰にもやらねえ!この肩に跡付けた奴にだってやらねえ!」
いや、お前だよ。とは言えない一護。
その隙に死覇装の袷を開き、うっすら残る跡に噛みつく剣八。
「痛え!離せ!」
剣八が離すと血が滲んできた。
「あ〜あ、この馬鹿、血が出たじゃねえか」
手拭いで拭こうとすると、そこを舐め始めた剣八。
「んん!熱っ!やめ・・・」
「はぁ、やめねえ、気持ち良いか?」
「痛いよ、やめろ」
「じゃあ、どうしたらお前は俺のになるんだよ!」
「俺は、もうお前のなんだけどな・・・」
「は・・・?」
眉間にこれでもかと皺を寄せる剣八の顔を両手で包むとチュッとキスをした。
「い、一護?」
「目ぇ、閉じろよ・・・」
囁くように低く掠れた声で言った。
「ん・・・」
一護は、剣八の上唇と下唇に啄む様に口付けた。ペロと舐めると、
「剣八、少し口開けろ・・・」
「こうか・・・?」
「もう少し小さく・・・」
「ん?」
「そう・・・」
するりと舌を入れる一護。
「んん!」
びくっとする剣八の舌を絡めて軽く吸っては甘噛みした。
いつも大人の剣八にされていることだった。それを思い出しながら舌を絡め合い、互いの唾液を交換する。
「ん、ふう、んく」
ちゅっと吸い、離れる一護。
「気持ち良かったか?剣八」
「あ、ああ・・・」
「俺も気持ち良いよ」
剣八の飲み込み切れなかった唾液の筋を舐める一護。
「ひ?」
「ああ、ごめん。これはな特別な人にしかしないんだ」
「特別?じゃあ、俺は一護の特別か!」
「ああ、だから安心しろよ」
ポンポンと頭を撫でた。
「おう・・・」

夕飯も終わり、一汗掻いたのでまた風呂に入った一護。
「おーい、剣八、もう寝るぞ」
「どこでだ?」
「ここで、俺と」
一護の部屋には一つの蒲団と二つの枕があった。
「・・・・・・」
「なんだよ、どうした?」
「別に・・・・」
「ほら、来いよ」
掛け蒲団を持ち上げ床に誘う。
入って来る剣八、風邪を引かない様に肩まで蒲団を掛けてやる。
「おやすみ、剣八」
「・・・おやすみ・・・一護」
一護は剣八の背中をずっと撫でていた。
それは無意識だったが、剣八には初めての事であまりの気持ち良さにすぐ寝てしまった。
一護も子供特有の高い体温に眠気を誘われて眠りに落ちていった。

翌朝、剣八は状況判断に少し時間がかかった。
何故?自分は一護に抱かれて寝ていたのか?
何故?自分はこんな窮屈な物を着ているのか?
もぞ、と動くと、
「こら、ちゃんと寝ろ剣八・・・」
とぎゅっと抱き付く一護がそこに居た。

「おい・・・、おい!一護!」
「はっ!なんだ!あ?元に戻ってる・・・」
「あん?何言ってやがる?おい、なんでこんな窮屈なモン着てんだ俺は?」
「それ、俺の死覇装だよ、お前の持ってくるから待ってろ」

剣八の死覇装を持って帰ってきた一護は、昨日の事を話した。
「・・・マジかよ・・・?」
「マジ。まぁ、すぐ戻れて良かったな」
「まあな・・・」
一護の腕の中が居心地良かったのは内緒にしとこう。

この後、他の隊長達に、
「剣八さんの子供のころってかーわいいねー」
「うん、可愛かったぞ、更木」
「貴公にもあのような頃があったのだな」
「でもって一護君にべったりだったねぇ」
とからかわれ破壊神、降臨。

すぐさま、十二番隊に報復に行ったのは言うまでもない。




おまけへ続く



09/02/18作 第63作目です。なんか消化不良気味です。でもちょっと書いてみたかった。






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