題「子狐の恋」6
「今日は、一番隊の書類だけだね」
「最近、少ないね」
「うん、減って来た。一護君が手助けしてくれるお陰だよ」
「ほんとに?えへへ嬉しいな」
「ちょっと多いから気を付けてね?」
ずしっと重い書類を渡された一護は、
「うん!頑張る・・・!」

 一番隊。
「十一番隊から書類を持ってきました」
「ハイ、御苦労さまです」
「あの、隊長さんに直接渡してって言われてるの、だから俺が渡す」
「では、こちらへどうぞ」
にこやかに案内してくれた。
「山本隊長、十一番隊から書類を届けに来てくれました」
「んむ?珍しいのう、誰じゃ」
「俺?一護って言うの、よろしくね、おじいちゃん」
「おっ、おじいちゃん?」
「ほっほっほ、可愛いのぅ、儂は山本元柳斎重國じゃ」
「ん〜、むずかしいねぇ」
「ほっほっ、おじいちゃんで良い」
「うん、分かった!ねえねえ、おじいちゃんは長生きしてるよね」
「んん?まあの」
「じゃあ、いろんな事知ってるよね?かか様言ってた、長く生きてる人は物知りだって」
「ふん?まあ知ってるかも知れんの。何か知りたい事でもあるのか?」
「う・・・ん、あのね、俺のかか様が死んだ後ね、腐って、虫が湧いたの、何で生き物は死ぬと腐るの?」
「ふうむ、難しいの・・・」
「おじいちゃんも分かんない?」
「お主は母が死んだ後、埋葬せなんだのか?」
「なにそれ?」
「死者を弔い、土に還すことじゃ」
「だって、かか様、大丈夫って言ってたもん・・・、すぐ良くなるからって、心配しないでって、だから寝てると思ったの」
「そうか・・・」
「でも、ずっと起きなくなったの、喋らなくなって、腐って、骨になったの。俺全部見てた・・・、動けなくて一緒に居たくて」
「ふむ・・・」
「剣八がかか様を斬った化け物を殺してくれるまで、ずっとかか様の骨と暮らしてたの、お礼が言いたくて初めて山を下りて、剣八にお礼を言って、それで終わりだと思ってた。すぐ山に帰って、同じ様にかか様の骨と暮らすんだと思ってたけど、剣八がココに居ても良いって言ってくれたの」
「・・・」
「それから、友達が出来たの、食べたこともないご馳走も食べたよ。お味噌汁美味しかった、鯛焼きって甘いんだね、お風呂も入ったよ。でもまだ字が書けないからお手伝いが出来ないの・・・」
「そうか・・・、いい子じゃな」
「そんなこと無い、迷惑掛けてるの知ってる。貴族と喧嘩したから十一番隊の人達悪く言われてるの・・・」
「ほう・・・、原因は?」
「俺がぶつかって、謝ったけど汚いから触るな、さぞかし馬鹿な親だろうって言われて頭に来たの」
「・・・」
「とと様もかか様も気高くて、優しかったのに、何にも知らないのにって」
「そうじゃな」
「俺はとと様みたいに、大事な人を護りたい。かか様や俺を護ってくれたみたいに!だから強くなりたい!」
「そうか、志があるのは良い事じゃ。先の問いじゃがな一護、死んで腐るのは動物だけではないぞ?植物もまた腐る」
「そうなの」
「植物は腐って土になり、動物は腐ってその養分になり、新しい植物の糧となる。その植物の葉なり、実なりを動物が食べる、
これの繰り返しじゃ」
「じゃあ、かか様も?」
「うむ、形は違えども何かの糧となり命の環を廻す手助けをしたと言えるな」
「いのちのわ・・・」
「じゃから、泣くでない一護・・・」
「え・・・?」
知らずに泣いていたのか、涙が伝っていた。しわしわの手が伸びてきて拭ってくれた。
「お主は、母の分まで長く生き、幸せになれば良い」
「うん、でも俺もう幸せだよ?剣八と居れる、皆と居れる、欲張りになっちゃダメだってかか様言ってた」
「そうじゃな、欲張りはいかんがな、一護は欲が少ないのぅ」
「そうかな?良く分かんないや」
話ている内にお昼になった。
「あっ、もうお昼だ、俺今日は白哉とお昼食べるんだった」
「ほう、あの朽木とか」
「今から誘うの!今日は何食べようかな?じゃあ、おじいちゃん色々教えてくれてありがとう!じゃあね」
「うむ、気をつけての」
「はぁい!」
「ほっほ、可愛らしいのぅ」
「そうですね・・・」

「ただいまー!弓親!」
「お帰り、一護君、遅かったね怒られた・・・?」
「ううん?色々教えてくれたよ?」
「そう、良かった」
「弓親、お昼は?」
「あー、まだ仕事終わってないんだよ、今日も一人で行ける?」
「うん!」
お金を渡す。
「ねえ、一護君、お菓子とかも食べていいんだよ?」
「お菓子?鯛焼きみたいな?」
「そうそう、他にもあるんだよ?」
「ふうん」
きゅるるる。
「あ」
「先にご飯だね」
「えへへ、弓親も頑張ってね」
「うん、ありがと」

 六番隊。
「びゃーくやー、居るー?」
「あ、一護だ、ホントに来たな」
「何の事だ、恋次・・・」
「いや、昨日の事なんすけど」
説明した。はぁと息を吐くと、隊首室から出た。
「ここだ、一護」
「あっ、白哉だ!ねぇ、白哉お昼まだ?一緒に食べない?」
「どこでだ・・・?」
「ご飯は食堂で食べるんでしょ?」
首を傾げる一護。
「私に、一緒に行けと?」
「いや?なら俺がここで食べるけど?」
「兄は・・・、私と食事するのが嫌ではないのか?」
「なんで?俺白哉好きだよ?好きな人とご飯食べるのがおかしいの?」
「好き?」
「うん!白哉も恋次も乱菊さんも好きだよ!」
「そうか・・・、ではすぐに兄の分も用意させよう」
「な、何を?」
「食事だ」
「食堂に行けば良いじゃない、美味しいよ?」
「しかしな・・・」
「お金無いの?俺弓親に貰ったよ?昨日のも少しあるから二人分・・・、うん、いけるよ」
「いや、金はあるから気にするな。私の様な者が行くと皆が緊張するであろう?」
「なんで?綺麗だから?」
「兄は・・・、良かろう今回だけは食堂で食す。恋次、私の分の食事はお前が食っておけ」
「は?ハイ、分かりました」
「あ、恋次居たの、またね」
「おー、またな」

 食堂。
「ねー、ねー、白哉は何食べるの?」
「む、何が美味いのか分からん。利用した事がないのでな」
「へー、俺と一緒だ、俺昨日は秋刀魚食べたよ、初めて食べたの。美味しかったよ」
「ほう、良かったな」
「うん、ここで初めて食べたのはね、えーと?ひがわりていしょくって弓親が言ってた」
「ならば、それにするか」
「じゃあ、俺も一緒のにする。自分で取りに行くんだって教えてくれたよ」
「ほう、面白いな」
「ねー」
にこにこ笑いながら、本日の日替わり定食を取りに行く二人。
当然ながら、静まり返っている食堂。
「おねえさん、今日の日替わり下さい!」
「あ、はい!」
「これなあに?」
「とんかつです、あと、ポテトサラダと、お味噌汁とお浸しにお漬物です」
「わあ、美味しそう、ね?白哉」
「ふむ、そうだな・・・」
二人分、無事に持って席に着く。
「いただきます」
「いただきます・・・」
「あらー、一護ってばほんとに朽木隊長誘ったのね、すごいわね」
「何が?友達とご飯食べるのがおかしいの?」
「!友達?」
「ねえねえ、乱菊さん、そんな事よりこれどうやって食べるの?」
「あら、とんかつは初めて?」
「うん、美味しそうね」
「それはね、このソースを付けて食べるのよ、辛いのが好きなら練辛子を混ぜてもいいわよ」
「ふうん、ありがと、乱菊さん!」
「どういたしまして、あたしもここで食べて良い?」
「うん、良いよ!ソース、ソース」
「これか?」
「かな?」
頭の上に疑問符が飛び交う二人。
「何やってんのよ?」
「あ、乱菊さん、ソースってどれ?」
「これよ、因みに練辛子はこれ」
とん、とん、と置いていく。
「ありがとう」
「む」
「早く食べなさい、冷めるわよ?」
「はぁい」
小皿にソースを入れ、とんかつに付け食べる一護。
「あひゅい!」
はふはふと食べるとこれまた満面の笑みで、
「美味しいねぇ」
と言った。目の前の白哉は辛子の付いたとんかつを食べていた。
「悪くはないな」
と言っていた。
「美味しくない?」
申し訳なさそうに聞いてくる一護。
「そうじゃないわよ、一護。まずかったら何も言わないで帰るわよ」
「じゃあ・・・、良かったぁ」
にこぉっと笑いかける一護が眩しかった。
「今日のお味噌汁も美味しい!」
「一護、あんた味噌汁好きねぇ」
「うん!大好き!」
ぱくぱく食事を続ける。
「一護、お弁当付いてるわよ?」
「ん?何?」
「ほっぺにご飯粒付いてるのよ」
ついっと取って食べてやった乱菊。
「? ありがと乱菊さん」
自分の分を食べ終わり、お茶を飲む一護。
「馳走になった・・・」
「終わった?白哉、あのねお願いがあるんだけど・・・、いい?」
「私に出来る事か?言ってみよ」
「うん、あのね俺強くなりたいの。弓親は霊力?が強いからなれるよって言ってくれるんだけど、どうしたらいいのか分かんないの・・・、それでね、白哉にどうしたら強くなれるか教えてもらおうかと思って、駄目?」
「別に構わんが・・・、耐えられるか?」
「うん、やってみる。もう大事なひとをなくすのはヤなんだ・・・、今度は、今度こそは護りたい」
真っ直ぐ見据えてくる一護。
「良かろう、基本だけだぞ」
「ありがとう!白哉!」
「何やってんだ?お前ら」
「あ!剣八だ、あのね今、白哉に強くなる基本を教わる約束したの!」
「はあん?」
「でね、でね、俺強くなったらでいいから、剣八と手合わせしたいな。それでね、それで・・・」
もじもじと言いあぐねていると、
「なんだよ、さっさと言え」
「あ、うん、あのね、一本取れたらで良いから、剣八の付けてる鈴一つ頂戴?」
「鈴ぅ?こんなんで良いのかよ」
「それがいいの」
「ふうん、いいぜ、一本取れたらな」
「やった!約束ね、絶対だよ?」
「分かった、分かった早く強くなりやがれ、俺は強い奴は好きだぜ」
「ホントに!絶対になる!」
「変わったガキだ・・・」
「あ、剣八、お弁当付いてる」
「あん・・・」
その頬に付いたご飯粒をぺろ・・・と舐め取った一護。固まる一同。
「どうかしたの?」
「いいや、なんでもねえ・・・」
食堂で剣八と別れて、六番隊で白哉の所で稽古をつけてもらう事になった。

「ただいま〜・・・」
「お帰り一護君、随分疲れてるみたいだね?」
「んー、白哉にお稽古つけてもらってるの・・・、すごく大変・・・」
「それは、きつそうだね」
「うん、でも頑張るの」
「夕飯は?」
「白哉と食べたから、お風呂入って寝るね」
「そう、お疲れ様」

一護が眠っていると遊廓から帰ってきた剣八が、一護の隣りに横になる。決まって身体を擦り付けてくる一護。
「ふ・・・、ん・・・」
こいつ・・・。
一護の身体の異変に気付いた。下肢が熱を持ち形を変えていた。剣八は悪戯心で手を這わせてみた。
「は、ん・・・、ぁ、や・・・」
もぞもぞと身じろぐ一護。
「ぁっ・・・」
びくっとした所で手を離す剣八、目を覚ます一護。
「あ、なに?いた・・・」
ふるふる震えて、下肢に手を伸ばすと熱くなっている。怖くなって風呂へ行く一護。

 寝巻きを脱いで裸になると、そこは立ち上がり、いつもより大きくなっていた。
「いや、何これ、怖い、腫れてる・・・、冷やさなきゃ・・・」
風呂場に入り、なるべく静かに水を掛けるが治まらない。
「怖いよぅ・・・、やっぱり病気なんだ・・・」
ガタガタ震えていると声を掛けられた。
「何やってる・・・?一護」
「ひっ!剣八・・・」
「こんな季節に水浴びか?風邪ひくぞ」
「な、なんでもないよ!何でもないから、こっちに来ないで!」
「あん?何でもない奴が真夜中に水浴びすんのかよ」
ずんずん近付く剣八。
「やっ、お願いだから、来ないで!」
膝を抱えて前を隠す一護。
「なんだ?腹が痛いのか?」
原因なんて分かっているくせに聞いてくる剣八。
「違う、けど、だめ!触んないで!」
「あんまでけぇ声出すと誰か起きてくんぞ?」
「あ・・!でも・・・」
「どっか痛いんなら見せてみろ」
恐る恐る抱いていた膝を離す一護、そこにはまだ自己主張をしている一護自身があった。
「さっき起きたら腫れてたの、剣八、俺病気なの?」
「なんだお前初めてか?病気じゃねえよ、安心しろ」
「で、でも痛いよ?」
「男は誰でもなるもんだ、抜かなきゃこのままだな、抜くか?」
「抜く?何を?」
「知らねえか、教えるから覚えろ、どうせ朝にはなるんだ」
「?朝?」
言ってるうちに一護の中心に手を伸ばす剣八。
「あ、だめ!や、や、はぁ・・・」
「こら、どうやるか覚えろよ・・・」
「あ、ん、やだ、剣八、変だよ、お腹が変・・・!」
は、は、と息を乱して自分に縋りつく一護を見て剣八も我慢の限界が近いなと思った。
「やぁんん!」
ぴゅくんっと白濁を吐き出した一護。
「剣八ぃ・・・」
「結構出たな・・・」
「あ、ごめんなさい、汚しちゃった・・・」
「あん?気にすんな、今度からは自分でやれよ?」
「い、今のを?」
「ああ、誰にも見られない様にな、見せるもんじゃねえし」
「でも、剣八には見られちゃったよ・・・」
耳を赤くして恥ずかしそうに言う一護。
ぬるま湯で洗ってやりながら、
「しょうがねえだろ?知らなかったんだしよ」
「そう、だよね」
それでも剣八の匂いを嗅げば身体が疼く自分はおかしいんだ・・・。剣八の迷惑になりたくない、嫌われたくない。
自分の想いは告げてはならないのだと固く封印した一護。
その日は大人しく眠った。

第7話へ続く




09/01/30作 おじいちゃんとのお話から、白哉とお昼ごはん。そして剣八とのムニャムニャ・・・。
次は、剣八との試合を書くつもりですが、また難しくなりそうです・・・。


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